ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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2. Episode of "A"
#8 ”Joyful Job”


 

 

 ――最初の願いはなんだったのか。

 

 父親はいわゆる新興宗教の教祖。母親は音楽教師。

 そして息子の()は作曲家であり、不幸なことに天賦(てんぷ)の才があった。

 

 幼少期よりその才を行使すれば、何もかもが手に入った。

 地位も名誉も富も権力も。

 

 ただ、そのホールのこけら落としのためのテーマ曲の作曲依頼を受けたことが全てのきっかけだった。

 

 たった一つの(つまず)き。

 

 いくら書いても、いつもなら容易く超えてしまう自分の中のハードルを超えられない。

 

 おかしい。

 

 彼は実家の自室にこもり、ひたすら作曲を続けた。

 

 だが、ダメだった。

 

 ……できないかもしれない。

 

 それはいまだかつて味わった事のない恐怖。

 

 何故だ。何故出来ない。何かがおかしい。絶対に。何故、何故何故。

 

 その時、彼の鋭敏な耳が何かを捉える。

 

 ――こあ様をまつる礼拝堂で、小さな子供二人が祈っていた。

 ――小学校に上がるか上がらないかくらいの姉と、まだ言葉のおぼつかないくらいの弟。

 

 ひざまずき、病気の母親のために健気に祈っているのだとわかった。

 

 彼は気づく。

 

 ――ああ、これか。

 

 ――うるさいから。

 ――集中できないのだと。

 

 特に幼児特有の声で姉の真似をしながら、意味の成していない奇音を発している弟。

 

 気づけば、その細い喉を全力で握り込んでいた。

 

 姉が金切り声を上げる。

 

 耳がつんざけるようで、この喉も絞めた。

 

 また違う叫び声がする。

 

 父親だ。母親もいる。こちらを指差しながら、何をしている、悪魔、悪魔だなどと喚いていた。

 

 うるさかった。とにかく。

 

 だから、音を発さなくなるまで、殴り続けて、

 

 ついでに祈ったのだ。

 

 ――静かにしてくれ。と。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 とても快適だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼――無響司教(むきょうしきょう)は鍵盤に向かっている。

 いくら黒鍵を白鍵を叩いても一つも鳴らない異形のピアノ。

 なのに、いつまでも叩き続けている。

 

 

 

 何か。

 

 

 

 何かが。視界の端に引っかかった。

 

 いつの間にか。自分のホールに人影がある。

 

 影は大股でステージに向かってくる。

 

 大きく口を開いている。

 

 口の動きで読み取る。

 

 理解してしまう。

 

 それがまた、実に(しゃく)(さわ)る。

 

 ああ、ウルサイ。

 

 

 ――静寂(しじま)の星『シィラン』。

 ――さすがに”音”がないのは不便すぎんだろ。

 

 

 とても五月蠅(うるさ)い。雑音(ノイズ)異音(ノイズ)奇音(ノイズ)

 その口を閉じろ。

 

 

 ――何を願ったのか知らねーけどよ。

 ――どーせ、ロクでもねーこと願ったんだろ?

 

 

 何故。

 

 

 ――うちのボスの脚本。

 ――なんかやけに俺の薄いなーって思ってたら、

 ――封筒開けてペラ紙に『今回はノリで頑張れ』と

 ――だけあったときの、俺の気持ちわかる?

 

 

 何故、黙らない。

 

 

 ――こっちは手話なんてわかるわけねぇのに、

 ――この星は手話しか通じねぇときた。

 ――で、文字も独自体系。

 ――どんっっっっっっだけ、

 ――俺が苦労したかわかる?

 

 

 ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウウウウウウウウウウウルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル縷々縷々縷々縷々笹笹笹笹笹笹笹笹笹笹笹災異いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

 

 

 ――そして……

 ――何より……カフカさんのお誕生日が昨日で……

 ――出発前に『かるーく片付けて帰ってくるんで、

 ――そしたら生誕祭しましょうね!』

 ――って約束したのに、

 ――今日になってもまだここにいる、

 ――俺の気持ち……考えたこと、ある?

 

 

 ()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーイ、みんな、おれ、ゼイン!

 運命を『視る』ことのできる

 不思議な黒猫エリオと、

 元殺し屋な超美人

 言霊遣(ことだまづか)いのカフカさんに、

 ある日出会ってしまってから

 俺の平凡な日常は一変!

 

 ”終焉”の運命から宇宙を救う(笑)ため、

 星核ハンターになっちまった!

 

 一歩間違えたら死にかねない

 危険なハンター業の日々でも、

 俺は決して諦めない!

 本当の愛を見つけ出すまで!

 

 爆働(ばくどう)ブラックワーカーズ!

 来週も絶対見てくれよな! ミロヨー。

 

 

 

 ――じゃねーわ。

 

 口ほどにもねぇわ。あの無響なんちゃら。

 

 てか口なかったかもしんない。

 

 とにかく”無音”が効き過ぎて、こっちの精神揺さぶってくるのだけ、ウザかったな。

 

 パルサーエッジのサビにしてやったったわ。

 まぁ光の剣なんでサビもクソもないけどね!

 

 目的のブツであった「こあ様」

 ――すなわち星核を詰めた、エリオとその知り合い謹製らしい制御箱『核函(かくかん)』を片手でポンポンとお手玉しながら廊下を歩く。

 

「ったく、あのボス猫。なんでこんなアブねぇもん回収しねーといけねーんだ」

 

 ようやっと我々のアジトでもある宇宙船、

 ――”ねぐら”に帰ってきたのだ。ボロボロの姿だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれから早くも約2ヶ月が経過している。

 

 プテルゲス-(ふぁいぶ)の俺たちにおける落着。

 

 そう、エリオからの「ゼイン逝ってヨシ!」宣告後の話だ。

 

 いやぁ普通あそこまでやるとは思わねーだろ。ガチすぎる海外ドッキリのレベルを遙かに凌駕していたぞ。

 

 エリオ曰く、即興劇(エチュード)とか言ってたけど。

 

 いきなり、初手で教会に火をつけろだもんな。

 いやいや呪われるだろ、

 なんちゅう罰当たりなって俺が躊躇(ちゅうちょ)してたら、

 既にカフカさんてば火を放ってらしたし。びっくりしたわぁ。

 

 んで、その後は、

 

 ――姫子くんとヴェルトくんが間もなくゼインを追ってここまでくる。

 ――そこで、ゼインはカフカくんに撃たれて死んだことにしよう。

 

 だもんな。エグいわー、あのニャンコ。

 

 ま、どうせ、

 シルヴァのアイデアも谷から落ちるとかだったから

 そんなに変わりないか!

 

 もうかなり火が回り始めてたから、

 俺もアドレナリン出まくってた。

 

 慌てて教会中を荒らしまくって、

 え、ちょっと火力強過ぎん?

 てか火つけるの早過ぎん? と思ったら、

 普通に酸欠になりかけてたわ。

 

 若干というか、かなり意識朦朧(いしきもうろう)としてたら、

 当然のようにすっ転んだ。

 

 そこに駆け寄ってきたカフカさんが、

 面白そうに俺に銃口向けて――、

 

 顔の数センチ横へ、「えいっ」て発砲した。

 

 さすがに一瞬で目バキバキになったわ。

 かわいい声だせば許してもらえるかと思ったらその通りだよ。

 

 そしてそのタイミングで姫子が現れた。

 

 数時間ぶりなだけなのになんか懐かしく感じたよね。

 

 おーいって手を伸ばした瞬間、

 

 カフカさんの言霊。

「――()()()()()()()()()()()」からの、

 

 ( ˘ω˘ ) スヤァ…してしまって、

 ”ねぐら”で目が覚めたときには、もうプテルゲスから離れていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上。

 

 いやー迫真の演技だったと思うね。あれはアカデミア主演男優賞狙えるわ。

 

 これで晴れて()()されました。ワテクシ。

 

 あれでまさか追ってくることはないだろうし、

 俺の部屋には姫子にそのうち見つかるよう手紙を残したし、

 別れのフレーズといえば俺にとってはアレしかないものを書いといたし、

 あとはヴェルトが支えてくれるから大丈夫だろ!

 

 グッバイ星穹列車、フォーエバー星穹列車。

 

 あーそれよりシルヴァには悪いことしちまったな。

 

 『星穹列車離脱プラン ~希望の未来へクライマックスジャンプ~』

 も、なかなかよくて気に入ってたんだが、結局エクストリームサヨナラバイバイで終わったからな。そして、スマホ破壊により事の顛末(てんまつ)の報告すらできていない。

 

 そういえば、でいうとスマホだよ。

 

 なんかなくなってすぐは不便極まりなかったけど、やはり慣れというのは恐ろしいもので、今ではすっかりデジタルデトックス出来てしまっている。

 

 ただネットとかにすぐにアクセスできんから、今のニュースとかよくわからん。

 

 とはいえ、人づての話でも、しばらく星穹列車の噂を聞かなかったので、あの後プテルゲスの次にどっかのドマイナー惑星でしんどい開拓してんのかなぁと思って若干気にかけていたが、最近また聞くようになったので、まぁなんとか切り抜けたんだろう。

 

 年頃の男女とマスコット兼ペット兼車掌一匹だ。

 お邪魔虫もいなくなり、そりゃ和気あいあいと楽しくやってるさ、ははっ。

 

 

 

 

 

 

 

 ――ブリーフィングルームに入るが、誰もいないので、とりあえず着席し卓上に突っ伏す。

 

「お”あ”~~~くっそ、し、しんでぇよぉ……」

 

 待遇改善を求めてストでもするか? あとは履歴書持ってスターピースカンパニーにでも行くか? 一応大手だし。

 

 ただまぁ職歴欄、大丈夫かなぁ。

 

 字面にすると故郷の孤児保護施設を経て、旅人やって、狩人(かりうど)やってるんだけど。デスクワーク希望してもいいかな。

 

 あと上司はカフカさんとはまた違った感じで色気しかないエロそうなお姉さんがいいなぁ。借金したら一生取り立てられそうな人。エレベーター乗るときとかにネクタイ引っ張りながら、

「これが大人のキスよ。……業務(シゴト)が終わったら、続きをしましょう」とか言って見送ってくれそうな人。ええやん。鼻血出たわ。

 

 あるいは、パルサーエッジで交通整理でもやるかぁ。なんか誘導棒っぽいし。

 

 いやーほんとここはブラック過ぎるだろ。黒猫だから、やっぱ過酷なのか? おっとブラックなジョークが過ぎたな。それだけ疲れてんのよ。誰か膝枕して。

 

 銀河中に散らばった星核の回収っつったって、俺とカフカさんの二人よ?

 頭おかしいだろ。最低でも今の組織体制、倍にしてくれ。

 

 しかァし、その漆黒のブラックのお仕事をなぜ辞めないのか? それはモチのロン――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ハーイ。ポチくん、た、だ、い、ま」

「‼ く、く、カフカすわぁん! お帰りなさいませ!!」

 

 耳元でささやかれ、全身ビクンビクンしてしまいました。このASMR早く発売して。じゃないと裸で風邪ひいちゃう俺。

 

 直立不動になり、敬礼する俺に、くすくすと笑いながら、

 

「いい子にしてた?」

「はァい‼ このポチこと、不肖ゼインも先ほど帰投いたしました。それまでは全力で業務に邁進(まいしん)しておりました!」

 

 そうして指差したるは、卓上に転がしてある『核函(かくかん)』。

 そこに、カフカさんもコートから取り出したもう一つの『核函(かくかん)』をその隣に置いた。

 

「これで二つ。お互いお手柄ね」

「はっ、ありがたき幸せです!」

 

 休めの姿勢を取りながら、胸を張って45度上を向き、イエスマムスタイルを取る。

 

「……やれやれ。何を見せられているのか」 

 

 気づけば、卓上にくるまり、『核函(かくかん)』をテシテシと叩いているエリオがいた。

 

「うるへーぞエリオ。俺とカフカさんの感動の再会シーンに水を差すな。しっしっ」

「いいのかな? そろそろ不満でも溜まってる頃かと思って聞きに来たんだけど」

「えーーー……、はいはいはいはいはいはいはい!」

 

 授業参観の小1ばりに挙手する。で勝手に回答しちゃう。

 

「全ッ然! 手が足りませェん!」

「それに脚も足りないわ」

「そーだそーだ! いわゆる猫の手も借りたいデース!」

 

 とにかく人手が足りなすぎる。猫に対してブリザードギャグも言いたくなる。てかおめーも働けよ。日がな引きこもって特製タイプライターで文字ばかり打ちやがって。現場の人は汗掻いてるんだよ!

 

 猫の癖に、嘆息しながら、

 

「じゃあ、というより、タイミングだ。

 やろうか、――採用(リクルート)活動」

 

 我らがボスは肉球を掲げるのだった。

 

「しゃいー! きたこれ」

 

 思いのほか物わかりのいいニャンコに対し、俺は腕を組むと採用文句を考える。

 

 

=====================

 ――アナタも星核ハンターになりませんか?

 仕事はしっかりとしたマニュアル(脚本)に従ってやるんですが、やりがいがあって凄く楽しいです。

 それと時には命を脅かされることもあるから体力はあった方がいいかも(笑)。

 職場も凄くアットホームで、休みも習得しやすい気がします。死ねばいつでも休めますね(暗黒微笑)。

 上司は黒猫で、基本的に人のことなめてるけど、固定なので配属の心配はいりません(鬼笑)

=====================

 

「無理だこれ。誰も来ないわ……」

 

 あとカフカさん目的で野郎が増えるのも困る。

 

「まぁゼインに考えてもらおうとは1ミクロンも考えてないよ」

「髪の毛以下かーい。じゃあ、なんだ。またお前が考えんのか?」

「当たり前だよ。ふたりの頑張りに応えないとね」

 

 ぽんと『核函(かくかん)』を叩く。

 

「な、……なんだ、急に出来る上司ムーブずるいぞ! カフカさんのいないとこでやれ!」

「はいはい。それじゃ、採用に関しても脚本が出来たら渡すから。明日またここに集合で。今回はお疲れ様。後は休むなり、好きに過ごすといい」

 

 言うだけ言うと、『核函(かくかん)』を器用に背中に乗せて、エリオは自室に戻っていった。

 

 後に残るは、俺とカフカさんだけなワケだけども、

 

 気のせいか先ほどからずっとカフカさんがニコニコしててこえぇ。

 

「ポチくん、」

「え、あ、――――」

 

 そうだった。まず生誕祭の件、謝らんとだ。もうシンプルにジャンピン土下座しよう。

 

「ほんとすんませんでした。お詫びできることならなんでもしま――」

「私と買い物行かない?」

「準備万端です」

 

 出来る大人の特徴である即レスだった。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「――スマホ、買ってあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 






パム「ううっ、列車の空気が最悪じゃ。ううっ、ゼイン……ううっ、わァーーーーん」


●毒電波放送局
パムはちゃんと遙かな歴史の中で今まで星穹列車で旅をしてきた乗客たち、全てのその思い出を胸に抱いているんだよね。最初は動物扱いしてきたアイツでも、ともに旅をする中で笑って泣いて怒ってな思い出がいっぱいできたよね。おやつに大好きなドーナツを作ってくれたり、車内の掃除や植物の水やり、忙しく駆け回っていて時々疲れ果てて居眠りしてしまうこともあって、そんなときにいつも毛布がかけられていて、いったい誰がかけてくれたんだろうと不思議に思っていたんだけど、いつからか急に、毛布がかけられなくなってしまったんだ。そしてたまにはアイツの部屋の掃除でもしてやろうかと思って、いつしかホコリのたまっていた部屋の中に見覚えのある毛布を見つけてしまうんだ。ほんとに思い出がいっぱいで、大きくて愛らしいお目々から感情があふれちゃうんだよね。かわいいね。



「げーっ、こんなすんのかよ……まっ、いいか。たまにはうちのボスに高級ちぇ~るでも買って帰ってやるかぁ。ニャーニャーニャーニャー喜ぶんだよなぁ」

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