ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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#9 ”Deadly Deal”

 

 

 

 

 

 両手で新品(ピカピカ)のスマホを掲げ、

 

「よっしゃああああ!

 ――ほんっっっと! ありがとうございます!」

「いいのよ。元はといえば、私が壊しちゃったし、ね」

 

 守りたい。この微笑。

 

 そう、

 

 ”ねぐら”から最寄りの惑星『シェアフォート-(すりー)』へと移動した俺とカフカさんは、まずスマホを調達すべくスターピースモバイルショップに寄り、その後は食料の調達やカフカさんの見たがっていた洋服屋やアクセサリーショップなどを見て回った。

 

 そして現在、この大通りに面したキャフェのテラス席でお茶している。

 

 はい、これをデートと言わずなんという。

 

 幸せすぎる。生きていて良かった。

 

「ふふっ、まさか泣いて喜んでもらえるとは思わなかった」

「ずびばぜん。(びど)(やざ)じぐざでだ経験(げぇげぇ)があヴァりなぐ」

「もう、大げさよ」

 

 いつもの蜘蛛のコートとは違う、トレンチコートとキャスケット帽をかぶったカフカさんが新鮮すぎる。眼福極まりない。誰かストリートスナップとか撮ってないのかよ。言い値を払うぞ。

 

 カフカさんはコーヒーにミルクを垂らす。攪拌(かくはん)された白と黒の螺旋がまるでアリ地獄のようだ。

 

「――ただ、わかっていると思うけど、エリオの脚本にも影響があるかもしれないから。今後は連絡先を登録するのとかアカウントは気をつけた方がいいわ。特に、昔のお仲間とか」

「もちろんですよ! 俺は過去は振り返らない男ですから‼」

「ふふっ、奇遇ね。私も過去に興味はないの。興味があるのは、」

 

 スプーンを置き、一口すする。カップの淵に残るリップがなまめかしい。

 

「――未来(これから)だけ」

 

 た、たまらんち。

 

 至福の瞬間を咀嚼(そしゃく)しながら、俺は、

 

「あ、やっべ……」

「どうかしたの?」

「……すんません。もしかしたらさっきの携帯ショップに忘れ物したかも」

「そうなの? 戻る?」

「あ、いや大丈夫ッス! すぐ戻るんで、ちょっとカフカさんはここで待っててください!」

 

 言い置いて、返事も聞かずカフェを離れる。

 

 ――さて、ミッションスタートだ。

 

 目指す先は、さっきカフカさんと立ち寄ったアクセサリーショップ。ジュエリーなども扱っており、リーズナブルなものから高級志向まで幅広く取り揃えていた。

 

 そこで、店内をまわる間、カフカさんは気になったのか、何度か視線がそれに注がれていたのだ。

 

 ――紫水晶(アメジスト)のピアスに。

 

 カフオタの俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 スマホを失い。手持ちの現金生活を余儀なくされて、ギリギリでいつも生きていたが、スマホさえ復活すれば問題ない。てかやっぱあった方がいいわ。ありがとうカフカさん。待っててね、カフカさん。信用ポイント貯金を鬼チャージしてフルブッパしてやるわ。

 

 全速で駆けるとほどなくして、目的の店にたどり着く。

 入り口を蹴破る勢いで入店すると、目当ての品を買うべく店員を呼ぶ。

 

 

「こちらを――誕生日プレゼント用で」

 

 

 ガラスを突き破る勢いで指で示す俺の気迫に()されたのか、店員のおっさんは、

 

「か、かしこまりました。こちらの紫水晶(アメジスト)のピアスですね。お包みいたしますので、しょ、少々お待ちくださいませ」

 

 ガラスケース内からトレーに乗せて裏へと引っ込む。

 

 その間、俺はスマホを支払いに備えポチポチし、

 

「――ん? あれ、……え?」

 

 おかしい。

 

「なして? ぬんで?」

 

 ――俺の銀河銀行の口座にアクセスできねぇ。あ、なんかメッセージでた。

 

 

 

 『この度はお悔やみ申し上げます。

 こちらは故人の口座のため、現在ロックされております。

 所定の手続きをいたしますので、下記条件に合致する代理人が最寄りの銀河銀行支店までお越しくださいますようお願いいたします。

 

 

「はァッ!!!!!!!!!???????」

 

 店中にとどろくデカい声が出た。

 

 待て待て。ここまできてそりゃない。

 背中に冷や汗吹き出てきた。

 ライオンで入店してきて、子猫になっちゃった。

 

 念のため、ポケットをまさぐるが、

 糸くずしかでてこない。

 

 ――さ、さすがに手持ちが足りすぎる。

 

「…………なんて、ことだ。ひどいよぉ……あんまりだよぉ……」

 

 終わった。

 

 俺が何をしたって言うんだ。

 

 その場で力なく崩れ落ちる。

 

 カフカさんに誕生日を祝うと言っておきながらめちゃくちゃに遅刻し、

 おまけに誕プレも買えやしないときた。むしろ高いスマホを買ってもらう始末。

 

 なんて、なんてぇ、情けないヤツなんだ。

 

 俺って……ほんとバカ。あ、口調が立て続けにどっかの魔法少女みたいになっちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そこの君。どうかしたの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふいにそんな声がして。

 

 

 半分ゾンビのような顔をしていた自覚があるが、影が差したので見上げると、特注としか思えないような、つば広帽がまず目に入る。

 

 そして、

 

「⁉」

 

 デッ!――かい!

 

 見上げた視線を妨害するほど、凄まじく、豊かなお胸(ぼせい)をお持ちだった。てかほぼ、ブラ見えてるんだけど。黒レース凶悪すぎるて。

 

 

「もしも、何か困っているのなら、」

 

 

 うっお。しかもウルトラナイスバデーに加えて、お顔もめちゃくちゃお美しいお姉様だわ。問わなくても俺の姉勘がささやいている。これはS級お姉様です。

 

 てか、一目でわかった。身にまとう衣服も、香水も、佇まいも、どれもこれもが特注かそれに準ずる一級品揃いで、

 とてもじゃないが、そこら辺で気軽に売ってるようなモノじゃない。

 

 

「――力になれるかもしれないわ」

 

 

 神はいる。悔しいが。

 

 そう思ったし、妖艶(ようえん)な笑みでそんな言葉をかけられたら、すがる他なかった。

 

「あ、あの、ちょいと、ご相談なんですが、そのぅ」

 

 人差し指を突き合わせつつ、

 

「プレゼント、買いたくて。お金……貸してもらえませんか」

 

 不躾(ぶしつけ)極まりなく、ほぼ乞食(こじき)行為をする俺を、

 じっと見つめるお姉様。

 

 ……いや無理あるよな。

 

 金持ちそうだからって、すぐ金を貸してくれるわけない。むしろ金持ちほど、金を貸すときは慎重になるのが世の常だ。それは前世も今世も変わらない。

 

 なのに、

 

「――いいわ、払ってあげる。富は幸せのチケット。そして、価値を最大限に発揮できるのは、いつだってそれを望む人。同等の対価を支払ってくれれば、誰であろうと、その恩恵を与えてあげるのが、私の仕事なの——」

 

 

 ――あなた、運がいいわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます‼ ほんと助かりました。ありがとうございます‼」

 

 無事というべきか、迷うが、お姉様に立て替えていただいたピアスを抱きながら、

 土下座しかねないほど頭を低く下げて、感謝を示す。

 

「いいのよ。気にしないで」

「や、そういうわけにも……」

 

 ほぼ命を救ってもらったのと同義だ。この恩は返さなくてはいけない。

 

「あの、さっきの代価って、お金は工面したらすぐ返しま――」

「お金は大丈夫。それ以外で何か君は払えるモノがない?」

 

 え、そんなんもう、俺が差し出せるモノと言えば、

 

「か、カラダとか」

「…………」

 

 お姉様の顔が見れず、慌ててフォローする。

 

「いや、そのヤらしい意味じゃなくて! あの結構、荒事とかコキ使われんの慣れてんで! カラダ張るようなことならなんでもします!」

 

 ブラック耐性万歳と力強く言い切れば、

 

 こらえきれない様子でお姉様は笑い出す。

 

「――私に対して、いい胆力してるわ。とんだ”原石”だったかも。アナタ」

 

 ――これ。

 

 そう言って、手渡されたのは名刺だった。

 

 前世の名残で両手で受け取ってしまう。こういうのって身体に染みついているもんだなと思いつつ。

 

「あなたの連絡先ももらえる? 後日改めて、私の方から連絡するわ」

 

 おニューのスマホの連絡先を交換して、どうやら次の用事に向かわないといけないらしいお姉様を最敬礼でお見送りをして、

 

 ようやく俺はもらった名刺を確認する。

 

「ポーンショップヒスイ……の主人……ジェイド、さん、か」

 

 耳なじみのない単語にスマホで検索をかける。

 

「ポーンショップ。……質屋か……」

 

 まさか、本当に金貸しだったとは…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日はあの後、プレゼント携えて戻ったら、なんか寂しそうにカフカさんあたりを見回してたんだよな。

 

 そこに「お誕生日おめでとうございます!」って背後から差し出したら、

 目を丸くして言葉失ってたなぁ。

 

 そんで、プレゼント誰にも取られないように抱きながら、

 ようやく振り絞るようにして、

 

 

 ――あり、がとう。

 

 ――え、と。その。

 

 ――初めて、だから。プレゼント。もらうの。

 

 ――あり、がと。

 

 

 いやー傑作だった。

 あんなに言葉の出ないカフカさん今後見られるかわからんから、

 一生忘れないよう、目バキバキにして、心に焼き付けておいた。

 

 うんうん、あれだけ喜んでくれれば、ジェイドさんへのお礼クエストも気合いが入るというもんだ。

 何頼まれるかわかんねーけど、それはそれ。未来の俺が頑張る。

 

 まっこと良き日だった。

 なんか余韻で今日も良い日になる気がする。

 

 とはいえ、

 

「ふぁ~ぁ、ねみねみ……」

 

 あくびをかみ殺しながら、”ねぐら”のキッチンで、朝飯用に俺はフレンチトーストを作っていた。

 

 星穹列車時代から変わらず炊事に関しては俺がやっている。

 

 あの頃はメシマズの誰かさんのせいで消去法的に俺がやらざるを得なかったけど、こっちでは自ら志願しての結果だ。モチベが全く違う。カフカさんに美味しい物を食べて褒めてもらいたいかつ、しっかり栄養を取って今日も一日頑張ってほしいという一念が勝手に身体を動かすのである。

 

 生クリーム、牛乳、砂糖を混ぜた卵液に食パンをひたしておく。

 

 その間に、お湯を沸かし、かたわらで野菜をスライスししっかり水気を切る。そして、エリオの小皿にモンペッチのパックを開けて中身をぶちまける。

 

 湯が沸いたらポットにコーヒーをドリップ。

 

 十分パンに液が浸透したら、フライパンにバターを放り、溶かしてからパンを投入。

 

 焦げないよう細心の注意を払いつつ、両面に焼き目をしっかりつける。

 

 カフカさん用の皿に乗せたら、最後に追いバターをしてメープルシロップを回したら、

 

「ほい、完成」

 

 できたてほやほやの一式をトレーに乗せて、のっしのっしと廊下を歩く。

 作った自分がいうのもあれだが、甘くバターのコクのある匂いが食欲を刺激すること間違いなし。

 

 

 まだいつものように誰も来ていねーだろと思って勢いよく入室すると、

 

 

「――は?」

 

 

 おそらく予想してなかったのだろう、

 

 

 ――ビクン! と、

 

 ――驚いた様子で、こちらを振り返る――――

 

 

 ――黄金に輝く、夜空に(またた)く星のような()をして――

 

 

 ――灰色(アッシュ)の髪をした――

 

 

 

「――迷子か? ……おいおい、またなんで、()()()()()がこんなとこにいんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――どうみても小学生くらいの女の子がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゼインくん、スマホを買ってもらうの巻
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