転生者の黒歴史による魔改造と四龍の超機人 作:バーニングミニラ
リュウセイとリョウトを相手にした模擬戦から一ヶ月。
DTXチームとしては次期主力量産機のトライアルに向けたヒュッケバインMk-Ⅱの実働データの提出を終えると共に量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ用のテスラ・ドライブ搭載型フライトユニットも無事に完成した事で取り敢えずは一段落ついた所だ。
一方でSRXチームはというとリュウセイに続いて新たなメンバーを加えていた。
ライディース・V・ブランシュタイン。
ライもまた今日に至るまで俺の介入で少なからず人生が変わってしまった一人であり、そのミドルネームが示す通り今でもスペースコロニーの名門であるブランシュタイン家を出奔していなかった。
それでも何か思う所があるのかライは父親のマイヤーが総司令を務めるコロニー統合軍ではなく連邦軍に所属しており、SRXチームに召集される運命も変わる事は無かったらしい。
そしてゲームと違い健在であるヒュッケバイン008Rはそのままライの乗機としてSRXチームに引き継がれる事になった。
マオ・インダストリーとしては破格の出資とも言えるが、ブラックホールエンジンに精通している俺が同じ伊豆基地に所属している事も理由の一つなのだろう。
また現在開発中で将来はライが乗る事が想定されるR-2の機体コンセプトに沿った形で、ヒュッケバイン008Rは新たに改造が施される事が決まった。
ヒュッケバイン008Rランチャーカスタム。
拠点防衛用の機体として新たにチョバムアーマーで装甲が補強されると共に、手持ち武器の命中精度の低さをカバーする為に二基の「グラビトン・ランチャー」を肩部に固定。
機体重量の増加によって機動力は少なからず減少してしまったものの、切り札とも言える「ブラックホール・キャノン」に依らない高火力を確保する事に成功している。
要するにヒュッケバイン008RをR-2或いはシュッツバルト風に改造した機体であるが、より人体に近い動きを可能とするHフレームも相まって近接戦闘においてもランチャーカスタムは高水準な戦闘能力を維持していた。
ちなみにヒュッケバイン008Rのテストパイロットだったライとは俺がマオ・インダストリーへ一時的に出向していた時から面識があり、ランチャーカスタムへの改造を俺が請け負った事もあって自然と伊豆基地でも行動を共にする事が多くなっている。
リュウセイとも出会って早々の模擬戦では意地の悪い戦い方をしてしまったので悪い印象を持たれてないか心配だったが、いざ腹を割って話してみるとロボット好きの同志として今ではすっかり意気投合していた。
そこにリョウトも加わって何だかんだ男同士でチームの垣根を超えた良い関係を築けているように思う。
女性陣のユヅキとアヤの方も年が近い同性のパイロットという事もあってか、プライベートでも色々と親交を深めているようだった。
このように隊員同士の交流を重ねつつ、SRXチームとDTXチームの戦力の増強はそれなりに順調と言えるだろう。
尤もあくまで俺が開発した技術の試験を兼ねた実戦小隊であるDTXチームと違って、SRXチームはSRX計画というプロジェクトに基づいた小隊であり、その要となるRシリーズは未だその殆どが開発途中である。
本当なら俺の知識があればもう少しRシリーズの開発スピードも上がる筈なのだが、やはり今の時点で必要以上にイングラムの懐に入り込むのは躊躇われるというのが本音だ。
だからSRX計画そのものとは一定の距離を保ちながら俺は新たにDFRシリーズと名付けたPTの開発に着手しようとしていたものの、思いも寄らなかった命令がDTXチームに下される事になった。
「自分達がアイドネウス島にですか?」
伊豆基地指令室にて俺の目前には司令官であるレイカー・ランドルフ准将とその副官であるサカエ・タカナカ中佐が神妙な面持ちを浮かべて佇んでいる。
そしてレイカー司令から告げられた言葉を俺は思わずそのまま疑問として口に出していた。
「そうだ。それもビアン博士から直々に君とチームのメンバーをEOTI機関の本部に招待したいと打診があった」
後の戦いでリオンに対する牽制として連邦軍側でも小型化したテスラ・ドライブを開発した時からDC即ちEOTI機関から目を付けられる事は覚悟していたが、まさかこんな正面から堂々と接触を図って来ようとは……。
現状では連邦軍もEOTI機関に何処かきな臭さを感じ取っているものの、まだ叛乱の確証まで掴んでいる訳では無かった。
その糸口になるかと期待していたハンス・ヴィーパーも流石に決定的な証拠を残す程は無能でなかったようで、情報漏洩の罪で軍事裁判に掛けられている今も報復を恐れているのか口を割っていないらしい。
そうなると両者の関係がまだ完全に断絶されていない今なら、こうして向こう側からコンタクトを取ってくる可能性もあったという事だ。
「今回の対談の名目は有事に備えた技術共有の為となってはいるものの、それだけなら直接顔を合わせる必要はない。恐らくEOTI機関は君が有する知識を狙っているのだろう」
レイカー司令の言う通り確かにそれ以外の理由は考えられないのだが、些か腑に落ちない点が幾つかある。
俺の表立っての功績とされているのはDエクストラクターの開発とテスラ・ドライブの小型化、そしてブラックホールエンジンの設計に施されていた欠陥の解析だ。
その内テスラ・ドライブはそもそもテスラ・ライヒ研究所ひいてはEOTI機関でも小型化に成功しており、ブラックホールエンジンに関してもあのシュウ・シラカワがいる以上は特に俺の力を必要としない筈である。
だとすれば目的はDエクストラクターという事になるのだろうが、既に量産体制に入っているDエクストラクターの情報を得る為だけに開発者の俺をわざわざ狙う必要があるだろうか?
他に理由が考えられるとすれば……。
「黒龍機と白龍機に関して何か要求は?」
「DTXチームをアイドネウス島に招くという以外は特に何か条件は提示されていない」
前世の記憶にも存在しないアンノウンの出現に呼応するようにして顕現した黒龍機と白龍機。
俺の黒歴史においては超機人と設定していたもののLTR機関が特に接触して来ない辺り、オーダー・ファイルにもその存在は記されていないのだろう。
しかし明らかに異質な正体不明の機体ながらも搭乗者に選ばれた俺が人型機動兵器の開発の第一人者だった事もあってか、その解析も兼ねて軍は黒龍機と白龍機を実際に運用する事を決めたのだった。
純粋なロボット好きでもあるビアンなら四龍の超機人に興味を抱いている可能性も高いと思っていたのだが、どうやらその線も薄いらしい。
「言うまでもないがビアン博士の目的が何であれ、何かしらの危険が伴う可能性は考慮しておくべきだ。しかしそれと同時にその真意を探るまたとないチャンスでもある。その場合は護衛を含めて万全を期す為の準備は進めるが、この申し出を受けるかどうかの最終的な判断は君に任せよう」
「分かりました。少し考える時間を頂いてもよろしいですか?」
「勿論だ」
俺はレイカー司令とサカエ中佐に敬礼すると、一旦考えを纏める為に司令室を後にするのだった。
「という話が来てるんだが、俺達が取れる選択肢は3つ。一つ目はEOTI機関からの要求通り、俺達全員でアイドネウス島に向かう。二つ目は完全に突っ撥ねる。そして三つ目は多分あっち側の一番の目的である俺だけでアイドネウス島に行く」
「3は論外ね」
「……そう言うと思ったよ」
事の次第を説明する為にチームでブリーフィングを行っていたのだが、ユヅキの即答に俺は思わず嘆息する。
どうもユヅキは昔から俺の事を弟のように扱っている節があり、そんな関係は軍人となって一応は俺の方が上官となった今もあまり変わっていなかった。
前世の記憶がある身としては多少なり思う所はあるものの、恥ずかしながらユヅキの態度も理解できなくは無い。
精神性が年相応に引っ張られているのか今の人格形成に前世の経験がそのまま上乗せされているような感覚はあまり無く、どちらかと言えば第三者視点で人一人分の人生をドキュメント映画のような記録として有しているような感じだ。
更にはその記録をしっかりと理解出来るようになったのは早くても小学校の高学年辺りだった気がするので、それまでは普通の子供と殆ど変わらなかったように思う。
しかも当時は割とヤンチャな悪ガキだった自覚もあるので、幼馴染のユヅキからすればその頃のイメージが中々払拭出来ないのも無理はないだろう。
それに色々と自覚して行動を起こすようになってからは周囲から浮く事も多くなった身からすると、昔から変わらぬ関係でいられるユヅキは精神的にも有難い存在であった。
「でもどうしてEOTI機関はヨダカ准佐だけでなく僕達まで招くって言って来たんでしょうか?」
「私達を人質にとってヨダカに無理やり言う事を聞かせようとしてるとか?」
「どうだろうな?ただ正規の手続きを踏んでいる以上、何か事が起きれば絶対に足が付く。その点を踏まえると身の危険が及ぶ可能性はあまり高くないと俺は考えている」
しかし今回の件に限らずユヅキが言ったような方法で俺に何かを要求してくるような輩が現れないとは言い切れない。
一応は重要な軍事機密に関わる人間の親族として妹のミハヤと一緒に暮らしているユヅキの両親にはコネを使って情報部の人間を陰から護衛に付けて貰っているが、より万全な対策を練っておく必要があるように思えた。
「だとすればチームとして私達全員を勧誘しようとしてるのかしら?」
「そもそもEOTI機関は連邦に何の不満があるんだろう?まだ機密扱いとはいえビアン博士が警鐘を鳴らした異星人の脅威に対して、軍でも僕達やSRXチームのような準備を進めているのに……」
「まぁそれに関しては俺達が少々特殊なだけで、軍内でもエアロゲイターの情報はまだ機密扱いで全て開示されてる訳じゃないからな。そこら辺を生温く思ってるのかもしれないし、民間人に危機的状況である事を公表しない連邦もある意味では不誠実とも言える」
「でもいきなり宇宙人の話なんてされても、多くの人がパニックに陥って大きな混乱を生みかねないわ。私だって初めて知った時は全然信じられなかったもの」
「だから別にどっちが正しいとか間違ってるって話じゃない。けどEOT特別審議会の下部組織とはいえEOTI機関はあくまで科学者達によるメテオ3の調査団なのに対し、軍は絶対的に連邦に帰属する組織だ。内と外からでは見えているものが違うのかもしれないな」
俺の言葉を聞いたユヅキとリョウトはそれぞれ何か思う所がありそうだ。
あくまで前世の記憶による情報である為に二人に話す事は出来ないがEOT特別審議会は異星人と戦争しても勝ち目がないと既に見切りを付けており、地球を売り渡す事で自分達の保身を図ろうとしている。
それもまた状況次第では一つの政治的判断ではあるものの、いくらコミュニケーションが取れるとはいえ相手は異星人という未知の存在。
その価値観も本当の目的も分からぬまま侵略者に対して無条件降伏する事を、俺は無血の道を選んだと認める事は出来ない。
それでも徒に人の命を奪う戦争を起こそうとしているDCには加担出来ないという思いは変わらなかった。
だが元々はDCに対する牽制として早期に実現したテスラ・ドライブの実用化。
それが功を奏した事で今回の話に繋がったのだとしたら、ここでその糸を断ち切ってしまうのはより良い未来を掴む為の選択肢を潰してしまう事のようにも思える。
「……面倒事に巻き込んで悪いが、EOTI機関の真意を探る為にも俺は今回の話を受けようと思う。二人共、俺に付き合って貰えるか?」
その問いかけに間を置かずに頷いた二人を見て、俺も覚悟を決める。
そして可能性が低いとしながらも二人に万が一の事はあってはならぬよう、俺は万全を期す為の準備に取り掛かるのだった。