転生者の黒歴史による魔改造と四龍の超機人 作:バーニングミニラ
正確に言えばEOT特別審議会が連邦の上層部とそのまま直結している訳では無いが、審議委員会のメンバーの多くは連邦政府でも有力な議員が占めている。
その点で言えば現状では連邦そのものが地球を異星人に明け渡そうとしているのと殆ど変わりはなく、それを腐敗と断ずるビアンを否定する言葉は残念ながら見つからない。
そしてビアンの実直な性格をリョウトもユヅキも既に理解している為か、確たる証拠を提示される前でもビアンの言葉に偽りがない事を悟っているようだった。
「どう振る舞うつもりとは?」
「先も言った通り、私は連邦が異星人に地球を明け渡すのを黙って見過ごすつもりはない。その為に今もEOTI機関は独自に軍備を進め、手遅れとなる前に武力蜂起する事になるだろう。その時に腐った政府の傀儡として我々と対峙するか、それとも自らの信念に従い違う道を選択するか。それを考える為の猶予を与えようという話だ」
ユヅキが予想していた通り、やはりビアンの目的はDTXチームの勧誘だったらしい。
しかし考える猶予と言いながらも、全てを包み隠さず打ち明けた上でのビアンの誘い文句は受けた側に有無を言わさぬ程の力強さを有している。
他を圧倒するような存在感も相まってか既にこの場はビアンの支配下にあると言っても過言ではなく、ユヅキもリョウトも完全にその空気に呑まれてしまっていた。
かく言う俺もこうなる事態を予測して色々と事前にシミュレーションしていたにも拘らず、どんなに言葉で取り繕おうとビアンには通じない事が本能的に分かってしまう。
そんな状況でビアンを止める手立てがあるとすれば、それは……。
「……傲慢だな」
「なに?」
「アンタは人の持つ強さも弱さも何も見ちゃいない。そんな輩が地球の守護者を気取っているのが片腹痛いって言ってるんだ」
「言うではないか?ならば私をそう断ずる理由は何だ?」
「アンタの主張はなまじ正しい故に、もし事を起こせばアンタに付き従う人間の大半は本気で連邦を倒す為に戦うだろう。それに対して連邦の軍人だって例え真実を知ったとしても、責任感が強い人間ほど自分の責務を簡単に放棄する事は出来ない。そしてその先でアンタが見据えている二つの結末、そのどちらに天秤が傾いたとしても地球の未来を心から憂う人達の命を無駄にするだけだ」
「そこまで気付いていたとはな。しかしならばこそ理解できるであろう?例え地球全土の軍備が万全な形で増強できた所で、現状と変わらぬ心構えのままでは異星人という脅威を乗り越える事など出来はせぬ!人類が生き残る為には大いなる試練が必要なのだ!」
「その考えが傲慢そのものだと言っている!アンタが課す試練とやらで命を落とす人間が、どうしてその先の未来で地球を護る力になる可能性を信じられない!?結局アンタは大義を見るばかりで、犠牲となる命を数としてしか捉えていないんだ!どんな理由があっても命を軽んじる人間の事を俺は信用出来ない!」
上辺だけを取り繕うような言葉はビアンには通じない。
だから俺は前世の頃からビアン・ゾルダークという人間に対して抱いていた憤りのような思いをありのままにぶつける。
自分でも想像以上に言葉に感情が籠ってしまっているが、非難するような言葉を受けてもビアンの瞳は揺らぐことなく俺の事をただ真っ直ぐに見据えていた。
「その希望的推測に過ぎない可能性が君の言う人の強さか?では逆に弱さとは何を指している?」
「そもそも異星人の脅威から地球を守る為には人類同士で争っている余地はない筈だ。だがどんな大義名分があろうと、遺恨が全く残らない戦争なんて有りはしない。そしてアンタが言う通り俺は普通の人間だからこそ断言出来る。そんな心境で異星人と戦う事になったって、大半の人間は元々敵だった相手とは蟠りのせいで連携すら簡単には取れないだろう。ましてや戦争で仲間の命が失うような事があれば尚更な。少なくとも俺はここにいるユヅキやリョウトに何かあれば絶対に仇を許す事は出来ないし、それが精神的な弱さのせいだったとしても俺はその感情を否定するつもりはない」
復讐は何も生まない等と良く言うが、はっきり言って俺はそれを綺麗事だとしか思っていない。
個人による私刑を肯定する訳ではないものの、犯した罪に対する相応の報いは受けるべきというのが俺の考えだ。
しかし戦争では時にその業を善悪に拘らず呑み込まなければならない事もあり、だからこそ人としての倫理観が狂いかねない戦争を俺は決して肯定できなかった。
時には戦う必要もあると軍に志願して兵器開発にまで着手するという矛盾を抱える身とはいえ、やはり根本的な部分で俺はビアンの思想と相容れないのだろう。
それでも戦争を未然に防ぐ為に一縷の希望を抱いてビアンとの対談に挑んだ先で、その結末を促したのは意外な人物だった。
「──これ以上は意味がないのでは、ビアン総帥?」
これまでずっと沈黙を貫いてきたシュウ・シラカワ。
連邦とDCの戦争を防ぐという目的を除けば、ある意味ではビアン以上に警戒を払うべき存在である。
そしてシュウが徐ろに口を開いて発した言葉は、俺とビアンの決裂を示すものであった。
「犠牲を厭う精神性そのものを否定しなくとも、それが却って災いを招きかねないとなれば話は別です。今の話を聞いて貴方が完全なブラックホールエンジンの解析を成し遂げた理由にも合点がいきました。しかしそれが齎す可能性を貴方は理解していたのでは?」
「それは……」
「どういう意味だ、シラカワ博士?」
「彼が事前に見つけたブラックホールエンジンの欠陥、あれは明らかに人為的に施されたものでした。そこから異星人の意図を全て読み取る事は叶いませんが、一つ確かなのは地球の技術力を測る為の言わば試金石であったという事です。私の試算では欠陥を解消せぬままブラックホールエンジンの起動実験を行った場合、基地諸共テクネチウムは完全に消滅していた筈でした」
「アナタもそれに気付いていたというのか?」
「地球が異星人の技術を完全に解明する技術力を有すると判断されれば彼らの干渉を早めてしまう可能性があると、敢えて私はそれを見逃しました。言い訳するつもりはありませんが貴方の弟を含めた有望なスタッフの数人は、異星人の目に留まらぬ程度に救う手立ては用意していましたがね」
「……」
シュウの言葉にエルザムは押し黙る。
一歩間違えれば実の弟であるライが死んでいた可能性を聞いてもシュウを責める真似をしないのは、その言葉を信頼してのことか。
或いはシュウの選択もまた根本的な思想はこれからDCとコロニー統合軍が起こそうとしている戦争と変わらない事を誰よりも理解しているからかもしれない。
「さて、話を戻しましょうか?先ほどの反応を見るに、やはり貴方は私の言う可能性にも思い至っていたようですね。異星人がまだ本格的な行動を起こしていないのは結果論に過ぎません。にも拘らず自分は地球に危機を招きかねない行動を取っておきながら、例え地球を護る為であっても犠牲は見逃せないと理想論だけを吐く。私に言わせれば子供の戯言をほざくだけの人間と手を組む価値はないと思えるのですが?」
シュウに対して異を唱える言葉を俺は持たなかった。
綺麗事や理想論、それは百も承知で俺はブラックホールエンジンの事故を未然に防いだ。
かといってシュウの指摘もまた至極真っ当なものであら、そこを突かれれば俺に交渉の余地を見つける事は出来ない。
「シュウの言う通り、このまま話し合いを続けても無駄だろう。君達もヨダカと考えは変わらぬか?」
「ビアン博士、アナタの言う事が真実なら僕も連邦が正しいとは思えません。それでも戦争で世界を正そうとするアナタのやり方を僕は認める事は出来ない」
「……今の話を聞く限り、ヨダカの行動が危険を齎しかねなかったのも事実なんでしょう。だけど私は理不尽な人の死を嫌うヨダカの真摯な想いを知っている。だったらヨダカが私達の事をそう言ってくれたように、私は仲間としてヨダカの選択がより良い結果を生むよう支えたいと思います」
リョウトもユヅキも巻き込んでしまった形とはいえ、本当に俺は仲間に恵まれている。
転生者としての知識に頼った俺の選択が常に正しいとは限らぬ中で、それでも同じ志を持って隣を歩んでくれる仲間は何にも代え難い心の支えだ。
その関係がこれから先も絶対に変わらぬ保証がある訳でなくとも、少なくとも今は信頼を寄せてくれている二人の期待に何としても応えなければならなかった。
「ならば残念だが、君達の勧誘は諦めるとしよう。しかし我々の企みが明るみとなった以上、一体どうするつもりだ?今なら蜂起に先んじて、潰しに掛かる事も可能であろう?」
そして決別の果てにビアンは挑発めいた言葉を俺に向けるが、その声音は何処か楽し気でさえあった。
それこそ楽観視に過ぎないものの、俺の勘ではシュウは兎も角ビアンからは完全に見限られた訳でないように思う。
ビアンが真に欲しているのは地球を守護する剣であり、戦争を起こそうとしている本当の目的も連邦を打倒する事ではない。
連邦とDCどちらの陣営に拘らず戦争で勝利した方こそが剣たる資格を有すると、恐らく俺もその候補くらいには数えられているのだろう。
「俺だって特別審議会の連中が地球を売り渡そうとしているのを、みすみす見逃すつもりはない。それにあれだけ大見得切って啖呵を切ったんだ。グランゾンとヴァルシオンが人類同士の戦いで使われないよう手は尽くすさ」
これから俺がやろうとしている事に説得力を持たせる為にも、こちらの情報収集能力もそれなりである事は今一度知らしめておく必要がある。
そっちの切り札も把握しているという牽制も含めた俺の返答に、ビアンだけでなくシュウまでも僅かに表情を変化させた。
それに俺の意思に依らずとも造反の確証を持った連邦が本当に先制攻撃を仕掛ける可能性もある中で、敢えてビアンが挑発の言葉を口にしたのは既にその二機が完成しているからなのかもしれない。
いずれにせよ迂闊に藪をつつけば蛇が出る状況に変わりはなく、俺もまた連邦に働きかけるにしても慎重にならざるを得ないだろう。
こうしてビアンの説得という目的を果たせぬまま、俺達DTXチームは早々に帰路につく羽目になるのであった。
伊豆基地に帰還して早々、俺は事の次第をレイカー司令に報告していた。
ただしビアンが蜂起を明言した事は伏せており、ここ最近のEOTI機関の不穏な動きはEOT特別審議会に対する不信が理由だという事に留めている。
尤もEOT特別審議会に対する不信感は端からレイカー司令も抱いていたようで、そうなると今回の対談で得た物は残念ながら殆ど無きに等しい。
ただしビアンと実際に対面する事は想定外だったとはいえ、DCとの戦争を回避する道を模索するのは最初から俺の計画に含まれている。
そしてその為に打っていた布石は丁度このタイミングで回収される事になった。
「すまない、少しばかり遅れてしまったようだ」
自室に戻った俺を待ち構えていた男の名はギリアム・イェーガー。
ギリアムもまた数奇な宿命を背負ったOGシリーズのメインキャラクターであり、その特異な出自を見込んで俺は協力者をもし一人だけ選ぶとしたらギリアムだと最初から決めていた。
『惑星エルピス』、そして『フラスコの外からの来訪者』。
この二つのワードを用いて少々強引な手段でギリアムと接触した俺は、ギリアムの素性を言い当てると共に自らがこの世界が辿るであろう歴史を知る転生者である事を告白。
それから更に自らの行動を示す事で俺はギリアムの信頼を勝ち取り、今ではギリアムが所属する情報部で掴んだ情報で俺の知識の裏付けを取って貰ったりしている。
「EOT特別審議会が企む密約の証拠と、それに加担する人間のリストは入手が出来た。本当なら君がビアン博士と面会するまでに用意出来れば良かったんだが……」
「いえ、俺にとってもEOTI機関からの申し出は予想外でしたから。それよりも少佐には何時も危険な橋を渡らせてしまって、申し訳ありません」
「今の俺が協力者として出来る事はそれくらいなのだから、気にする必要はない。それより情報をリークする相手は特別審議会と関わりがない連邦議員だけで良いんだな?」
「はい。それで連邦の上層部に自浄作用が働くなら、それに越した事はない。だけどその動きが見込めない場合は……」
「マスコミにリークせざるを得ないか」
「だけどその場合は一般人にもかなりの混乱が生じる事になる。本当なら俺がもっと上手く立ち回れれば良いんでしょうが」
「何度も言うが君一人で抱え込む必要はない。これは本来なら後回しにする事は許されない、地球人全員で向き合わなければならない問題だ。君からすれば歯痒く思う事が多いのは理解出来るが、俺の目から見ても君は良くやっている」
「ありがとうございます」
「だがこの状況で言うのは憚られるが、どうしても一つ他に君へ報告しておかなければならない事がある」
そしてギリアムから告げられた話を聞いて、俺は思わず絶句するのだった。