DARK SOULS Trilogy Collection   作:神父三号

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ダークソウル2の主人公とミラのルカティエル、そしてアン・ディールの物語です。
3のフレーバーテキストで語られた内容を踏まえた上で書いています。
作中のキャラクターの台詞や動向は、ゲームから多少の改変が入っています。


絶望を焚べる者(DS2:ミラのルカティエル、アン・ディール)

 ドラングレイグを巡る、長い旅。

 その旅の終わりが、近づいてきている。

 

 目の前で厳かに開いていく大扉。

 そこから覗いた夜の青白い月を見上げながら、一人の不死の男はそう感じた。

 

 

 しかし、これはもう目的を果たした旅だ。

 

 

 多くの苦難を乗り越えて集めた、四つの大いなるソウル。

 古き者に憑りつかれ、歪まされた強者達。

 しかしそれでもなお、強大な力を確かに帯びるソウル。

 

 多くの苦難を乗り越えて集めた、四つの王冠。

 それらに宿る、王たらんとした者達の遺志。

 世の理を継ぐか、あるいは壊すか。

 その答えについぞ辿り着くことなく、膝を屈してしまった者達の残滓。

 

 

 莫大なソウルと四つの王冠は一人の不死を、闇の刻印はそのままに、亡者の呪いから完全に解き放った。

 

 

 そして、男は全てを思い出した。

 自身の身分を。

 愛する人達の名を。

 帰るべき故郷を。

 仕えるべき主君を。

 そしてそれら全てを、ずっと昔に失くしていたことを。

 

 だからもう、歩みを止めてもいい旅だった。

 

 それでも立ち止まらなかったのは、心が"何か"を求めていたからだ。

 何を求めているのかは、分からない。

 だが確かに、男の心は"何か"を求めていた。

 自分の心は一体、何を求めているのだろうか。

 

 いずれにせよ、はっきりと言えることが一つだけある。

 

 旅の終わりが、近づいてきている。

 しかしまだ決して、終わってはいない。

 

 不死の男は大扉をくぐり、月の光が照らす大きな館へと近づいていった。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 夜の暗闇を照らす篝火。

 そのあたたかさが、いつものように不死の男の心身を癒す。

 当然、これは単なる焚火ではない。

 この火を熾して燃えているのは、名も知れぬ不死人の骨だという。

 何故人はこの篝火に、安らぎとぬくもりと、そして郷愁を覚えるのだろうか。

 

 呪いを克服して、不死の男ははっきりと思い出した。

 帰るべき故郷は、もう無い。

 ひたすら隣国との争いを繰り返し、戦乱の果てに滅びた。

 騎士であった男は主君も同朋も家族も、何もかもを失い、野盗に堕ち、やがて闇の刻印を得て、不死となった。

 

 そして、このドラングレイグの地で屍から剥ぎ取って永く愛用していた鎧が、自身のかつての戦装束であったことも、男は思い出した。

 失くしていたものを、忘れ去っていたものを、いつの間にか一つだけ、取り戻していたのだ。

 

 篝火の熱と、戦神ファーナムの鎧の重たさ。

 それは不死の男にとって、寄る辺となる安寧であった。

 

 しかし。

 

 

『人は皆、偽りの生の中にある』

 

『たとえいかに優しく、美しくとも、嘘は所詮、嘘にしか過ぎない』

 

『それでもなお、お前は安寧を望むのか?』

 

 

 いつしか篝火の傍で、時折言葉を交わすようになった、燃え盛る枯れ木の賢者。

 

 枯れ木は言う。

 かつて光の王によって、人という名の闇は封じ込められて、仮初の姿を得た。

 それこそが、この世の理のはじまり。

 道は二つ。世の理を継ぐか、あるいは壊すか。

 

 そうだ。

 この旅の終わりはおそらく、そこなのだ。

 だが、本当にそうなのだろうか。

 その二つの道のどちらかを選ぶことを、自分の心は求めているのだろうか。

 それが、自分に歩みを促し続ける"何か"の正体なのだろうか。

 

 篝火の熱、鎧の重たさ。

 安寧だ。優しい、ぬくもりだ。

 しかし、旅が終われば、二つの道を選ぶ時がやってくれば、その安寧は終わるのではないか。

 安寧が終わった先にあるものは、何だ。

 燃え盛る、火の光か。

 内に蠢く、人の闇か。

 そのようなものが本当に、自分の──

 

「……ん」

 

 不意に、不死の男は篝火から視線を上げた。

 入り口の大扉を、人間が一人、大剣を杖の代わりにして、よろけながらくぐってくる。

 遠目に、誰だかすぐに分かった。

 典礼用の帽子を被り、翁の仮面を着けた騎士だ。

 旅の中で何度か協力した、ミラという国の女騎士。

 

 男は声をかけ、手を振った。

 

 仮面の女騎士はこちらに気づき、殺気を発して、しばしの逡巡の後にそれを解いた。

 そして、篝火へと寄ってくる。

 同じ不死なのだ。篝火の熱に引き寄せられるのは、当然のことだ。

 

「よう、久しぶりだな。ミラのルカティエル」

「……ああ。お前、か……」

 

 杖代わりにしていた大剣の切っ先がずれ、ルカティエルは篝火の前で力無く腰を抜かした。

 そして震える手で、翁の仮面を外す。

 男は息を呑んだ。

 ルカティエルの端正な容貌の半分以上が、醜い亡者となっている。

 前回出会った時より滲み出るソウルの量は増大しているにも関わらず、亡者の呪いは明らかに大きく進行している。

 何故だ。自分ならばソウルを得さえすれば、呪いの進行は抑えられたというのに、何故。

 

「ハハ……大丈夫、だ。お前のことは、まだ……覚えているぞ……だが何だか他のことは、どうにも。頭が、はっきりしないんだ……ハハ、ハハハ……」

「……ルカティエル。これを見ろ」

 

 不死の男は、荷袋から暗い色の像を取り出した。

 

 "人の像"。

 自分自身を、あるいは大切な人の姿を思い出させ、亡者の呪いを和らげるものだ。

 ドラングレイグを初めて訪れた時に、怪しげな老婆達がこれを半ば亡者となった自分にくれて、それで自分は、名前だけは思い出せた。

 その後、再び亡者の呪いに深く蝕まれた自分をこの"人の像"で救ってくれたのが、目の前にいるルカティエルだった。

 

「よく見ろ。そして思い出せ。あんた自身を、俺に語ってくれた自慢の兄のことを」

「……私と兄。ん、ぇ……? 兄……私に、兄が……? いや、そんなもの……いた、だろうか……」

 

 不死の男は戦神の兜の下で、唇を噛んだ。

 かつて、ルカティエルは同じように篝火の前に座って、男に語ってくれた。

 

 二人で共に剣を鍛え上げた、兄がいた。

 兄は、騎士の国ミラでも随一の剣の腕前を誇っていた。

 ルカティエルはついに一度も兄に勝てず、しかし兄はある時急にいなくなった。

 今なら分かる。兄もきっと呪われたのだ、と。

 その兄もまた、自分と同じくこのドラングレイグを訪れているかもしれない、と。

 

 だがもう、"人の像"を見つめても、それを思い出すことが出来ないのだ。

 もう亡者の呪いは行きつくところまで、行きついてしまっている。

 

「なあ……これはやはり、呪いのせいか……? 私が考えたことを、すぐに忘れてしまうのは……頭の中から大切な何かが、溶け出していくように感じるのは……」

「ああ、呪いだ。闇の刻印を得た不死を蝕む、呪い。……ミラのルカティエル。あんたはそれを解くために、ソウルを求めてこのドラングレイグへやってきたと、俺に話してくれた」

「ソウル……ソウル、か。私はそれを結局、見つけられなかったのか……?」

「……いいや。あんたはもう、充分なソウルを得ている」

 

 座り込んだルカティエルの茫洋とした視線が、"人の像"から離れて、不死の男へと向けられた。

 篝火の横に転がる大剣の刀身は、もう決して拭えないほどに赤黒く染まっている。

 

「ルカティエル。あんたはこの地で多くの敵対者を斬り続け、間違いなく大量のソウルを得てきたはずだ」

「……ならば、何故? 何故、ソウルを得ても……この呪いが……解けない……?」

「それは」

「……お前は? お前も私のように……全てを忘れていっているのか……?」

 

 この地で何度も共闘してきた友の疑問に、不死の男は俯いて黙りこくった。

 自分は、真逆だ。

 苦難の果てに不死の呪いから完全に解放され、全てを思い出した。

 だが、そんな残酷なことは到底、今のルカティエルには伝えられない。

 しかし、それでも彼女はやはり、何かを悟ったようだった。

 

 

「私とお前……何が違う……?」

 

 

 何とか正気を保って見つめてくる女騎士の瞳には、複雑な色が混じっていた。

 悲哀、恐怖、焦燥、そして嫉妬と絶望。

 

 

「生来の器か……? 定められた運命か……? ならば私は……一体何のために……」

 

 

 生者の目が閉じられ、涙を溢れさせる。

 亡者の目は、微動だにしない。一滴の涙すら流さない。

 

「怖いんだ……失うのが。記憶を、私自身を、失っていくのが……怖い。もうすぐ……全てを失ってしまう。はっきりとしない頭でも……分かる。だから、怖い」

「…………」

「もしお前を殺せば……お前のソウルを得れば……この呪いは、解けるだろうか……? 私は、私であり続けたい……ルカティエルで、あり続けたい……」

 

 ルカティエルはこちらを見つめたまま、手を地面に這わせ、自身の大剣の柄に触れて──

 しかしその手をもう片方の手が制して、胸元へ強引に引き寄せた。

 

「ハハハ……何と醜く、浅ましいことか……これが、私の……本性か……」

「他者を殺して、ソウルを得る。亡者にならないために。……それは俺だってこの地で、いやこの地に来る前でも、何度も繰り返し続けてきたことだ。醜くも、浅ましくもない。自分を失いたくないなんて……人ならば、当然の感情だ」

「人ならば、当然……そうか、そう、なのか……? だとすれば、人とは何なのだろうな……何故、このような呪いが現れる……? 私達人間が、一体……何をしたというのだ……? 何の罪があって、このような……」

 

 ルカティエルは翁の仮面だけでなく典礼用の帽子まで脱いで、うなだれた。

 

 

「もしや人は誰もが皆……生まれながらに、呪われている……のか? ならばそれは……誰の、せいで……何の、罪で……」

 

 

 女騎士が、嗚咽する。

 深い絶望の中に、亡者の呪いの中に、沈んでいく。

 不死の男は、友にかける言葉を持っていなかった。

 自分は呪いから、解き放たれた。

 まだ、先に歩みを進めることができる。

 しかし彼女は、ミラのルカティエルは、もう。

 

 

「なあ、教えてくれ。私とお前……一体、何が違う……?」

 

 

 おそらくそれは、生来の器。

 おそらくそれは、定められた運命。

 ルカティエルはもう、自身の問いかけに、既に答えを見出している。

 それでもなお、答えろというのか。

 

 いや、本当にそうなのか。

 器だと、運命だと、そんなくだらない言葉でこの友の全てを断じていいのか。

 

 ルカティエルはかつて、語ってくれた。

 

 祖国ミラは常に戦乱にある国だった。

 自分は、決して恵まれた身分ではなかった。

 だからこそ、自らの力で世を切り拓くしか術は無かった。

 そうして戦場で功をあげ、まさに万に一つである騎士の名誉を勝ち取った。

 騎士としての、主への忠節と、剣の技。

 それが、ルカティエルという人間の全てだったのだ、と。

 

 そんな人生を生きてきて、その果てに呪いが現れて、全てを失って、亡者に堕ちていく。

 それを、器じゃなかったからだと、そうなる運命だったからだと、断じていいのか。

 人は生まれながらに呪われているのだから仕方ないことだと、断じていいのか。

 いや、いいわけがない。

 

「……ルカティエル。俺もあんたも、きっと何も違わない。同じ一人の、人間だ」

「…………」

「気を強く持て。心を折るな。あんたの中の、希望を絶やすな。俺達は、不死だ。不死なら何度死んでも、決して死なない。だから何度死んでも、何度だって立ち上がればいい。失ったソウルは、何度でも取り戻せばいい。そうしていけばいつか……俺のように全てを思い出す日が、あんたにもきっとやって来る。だから、諦めるな。立ち上がれなければ這いつくばってでも、生きていくんだ」

 

 "人の像"をルカティエルの手にしっかりと握らせ、不死の男はその手を優しく包み込んだ。

 亡者の目から、一筋の涙が流れた。

 

「お前は、優しいな。だがもう、私はお前の名前すら……思い出せない。それでも、この地でお前と出会って、何度も肩を並べて戦って、語らってきたことは……まだ、わずかに覚えている……もう私には、自分の名前とそれだけしか、残っていない……」

「っ……!」

「いいんだ、もう。お前は選ばれ……私は、選ばれなかった。おそらく……そういうことなんだろう……」

「違うっ、そんなことは!!」

「ありがとう。もうじき私は、全てを……忘れるだろう……だけど、私が私であった証を、最後に残させてほしい」

 

 不死の友の両腕が、こちらを優しくかき抱いてくる。

 

 

「私の名は、ルカティエル。ミラのルカティエル。お前に、私の名を覚えておいてほしい」

「……ああ。決して忘れない。忘れるものか。たとえこの世界が終わる日が来ても、いや、世界が終わった後でも、俺はあんたのことを……ミラのルカティエルを、忘れない。いつまでも、永遠に覚えていよう」

 

 

 ありがとう、と耳元で囁かれた穏やかな声。

 不死の男は兜の下で、とめどなく涙を溢れさせた。

 

 

「……頼む。どうかしばらく、目を閉じていてくれ。お前に、私の最期の無様を……見せたくないんだ」

 

 

 男は頷き、目を固く閉じた。

 友が立ち上がり、大剣も仮面も帽子も拾わずに離れていく。

 気配が確かに、遠のいていく。

 やがて気配は途絶え、篝火がパチパチと燃える音だけが、夜に響き渡り始めた。

 

「ルカティエル……」

 

 不死の男は目を開けて、友の名を呼んだ。

 もう二度と、その呼びかけに応えは無い。

 

 遺された大剣と、翁の仮面と、典礼用の帽子を拾った。

 大剣の刀身には、友が誰かと交わしたであろう約束の言葉が、小さく掘り込まれている。

 

 

『どうかいつまでも、共に名を残さんことを。未来永劫に、二人の名を残さんことを』

 

 

 何と幼稚で、純粋で、途方もない約束だろうか。

 しかしそれは、武に生きる騎士としてきっと、至上の名誉であることだろう。

 

 不死の男は、両手で握った友の大剣を夜空に掲げ、咆哮した。

 それは弔いであり、誓いであり、決意であった。

 

 心が求めていた、"何か"。

 その"何か"が確かに、形を成した。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

「あぁ……『父』よ、どうかお許しを……」

 

 闇の落とし子たる「渇望」の使徒が"ソウルの奔流"によって引き裂かれ、霧散していく。

 不死の男は愛剣"ブルーフレイム"に燻る魔力の残滓を軽く払い、鞘へと納めた。

 

 ドラングレイグを巡る、長い旅。

 その旅は今、ここに終わった。

 

 ゴーレム達が示し合わせたかのように動き出し、王たる者のための「玉座」への、最後の橋をかける。

 

 

『試練を越えた者よ、答えを示す時だ』

 

 

 男の背後で炎が噴き上がり、燃え盛る枯れ木の賢者が姿を現した。

 旅の最中に幾度となく現れ、因果を、世の理を、そして人の在り方を問いかけ続けてきた者。

 

 その正体は、ドラングレイグの王であるヴァンクラッドの実兄、アン・ディールであるという。

 ヴァンクラッドと道を違え、しかし同じく因果に挑み、そして敗れ去った者。

 

 

『私は全てを失い、そして待ち続けた。……答えを示す者を』

 

 

 アン・ディールは枯れ木のような巨体を揺らし、いつものように不死の男に語りかけてくる。

 しかしこれは、最後の問答だ。

 言われるまでもなく、男はそれを分かっていた。

 

 この旅の終わり。その先にある道は、二つ。

 アン・ディールは以前、そう言った。

 光か、闇か。

 世の理を継ぐか、あるいは壊すか。

 

 

『かつてこの地には、幾多の王たらんとする者達が現れた。ある者は毒に呑まれ、ある者は炎に沈み、ある者は凍てついた地に眠った。そして私の弟もまた……絶望の中で心折れた』

 

『辿り着いたのは、お前だけだ。玉座は、お前を迎え入れるだろう。だが、因果は……』

 

 

 燃え盛る枯れ木は、炎の瞳を僅かに細めた。

 

 

『お前は何を望む? 光か、闇か……あるいは……』

 

 

 ゴーレム達が形作った橋の先にある「玉座」。

 それがじんわりと、光を帯びた。

 王たる者に相応しい不死の男に対して、囁くように輝く。

 

 

 答えろ。答えろ。

 光か、闇か。

 

 答えろ、答えろ。

 世の理を継ぐか、あるいは壊すか。

 

 答えろ、答えろ。

 どちらの因果を、選ぶのか。

 

 答えろ、答えろ。

 世界に定められた、決して抗えぬ因果。

 そのどちらを、お前は選ぶのか。

 

 

「答えはもう、決まっている」

 

 不死の男はそう言って、腰の"ブルーフレイム"を再び抜いた。

 

 ゴウッ。

 

 放たれた"ソウルの奔流"。

 四つの魔力の牙が輝く「玉座」へと襲いかかり、粉々に噛みちぎった。

 さらに両手の"骨の拳"が枯れ木の賢者を抉り、その懐から一本の燃える枝を奪い取る。

 

『……何を』

 

 僅かに動揺したアン・ディールに構わず、不死の男は粉砕された「玉座」へと歩み寄った。

 そして瓦礫の山に、投げ捨てる。

 兄アン・ディールの、燃える枝を。

 弟ヴァンクラッドの、王の指輪を。

 

「記憶の世界で、ヴァンクラッドと何度も話をした。そして、アン・ディール。あんたとだって、何度も」

『…………』

「だが、あんた達兄弟の絶望の呟きに付き合わされるのは、もうたくさんだ」

 

「玉座」の残骸に焚べられた兄の枝が、弟の指輪が、合わさって燃え上がる。

 ドラングレイグを興した兄弟の絶望が「玉座」に焚べられ、燃えていく。

 しかしその火は、世の理を継ぐものではない。壊すものでもない。

 二人の男の無念を、弔うためだけの火だ。

 

 不死の男は「玉座」の残骸から、枯れ木の賢者へと向き直った。

 

 

「答えてやる、アン・ディール。人の内に宿る真実が闇だろうが、火がそれを覆い隠す偽りの光だろうが、俺には関係無い。王の玉座にも、火と闇のせめぎ合いにも、興味なんて無い」

 

 

 そうして戦神ファーナムの兜を脱ぎ捨て、燃え上がる火へと焚べる。

 

 

「俺はここからまた、旅を始める。そしてその旅は、決して終わらない。友の名と俺の名を、永劫に残すための旅だ。そのために俺は……"俺達"は、因果も世の理も、世界の終わりも、何もかもを踏み越えていく」

『何もかもを……しかし、それは果てしなく……報われることも……』

「果てしなくても報われなくても、"俺達"は進み続ける。ただ、約束のために」

『…………』

「アン・ディール。あんたはずっとそうやって、枯れ木のままか?」

 

 

 賢者アン・ディールが、枯れ木の身体を大きく震わせた。

 巨体を包む炎が一際強く、奮い立ったかのように燃え上がる。

 

 

「『道は二つ』……かつてあんたは俺にそう言った。だが"俺達"が歩むのは、そのどちらでもない。道など、ありはしない。それでも俺も、ルカティエルも、あんたも……"俺達"は前に、進むんだ」

 

 

 不死の男は、それ以上語るのをやめた。

 そして、崩れ落ちた「玉座」に背を向け、燃え上がる火に背を向け、絶望に背を向ける。

 

 本当の旅は、ここから始まる。

 友の名と自分の名を、未来永劫に残すための旅が。

 

 友の大剣を担ぎ、翁の仮面と典礼用の帽子を被り、戦神の鎧を纏った、一人の不死。

 一人の不死は、しかし決して独りなどではなく、力強く歩み出した。

 

 

『フフフ……道など、ありはしない、か……その通りだ。光すら届かず、闇さえも失われた先に、何があるというのか……そんなことは、まだ誰一人として知らない』

 

『だが、それでも……その先を求めることこそが、"我ら"に課せられた試練……』

 

 

 その日。

 世界には絶望が焚べられ。

 

 

「さあ、いつまでも、どこまでも。共に行こう、ルカティエル」

 

 

 代わりに密かな希望が、確かに放たれた。

 




シリーズの短編集と言いながら、ここまで2ばっかりですね。すいません。
しかし、私は2のキャラクターや最後の結末が大好きなんです。

世界において、火継ぎの意味とは何か?
人の本質とは何なのか?火とは?闇とは?
火を継ぐか、闇の王となるか、その二択しか本当に無いのか?
他の選択肢は無いのだろうか?

そういう問いかけをする作品として、三部作の二作目に相応しい作品だと個人的に思っています。
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