失ったものは戻らない
得るものはやってこない
唐突ではあるが、人が涙を流して泣くときは一体どういった状況だろうか。
親しい人を失ったとき?
大切な物が壊れたとき?
怒りのあまり、自我が崩壊したとき?
それとも、身に迫る恐怖から逃げているとき?
恐らく今列挙したものはそのどれもが正解ではある。
しかし、上の4つのうち3つは鍛錬や経験によりある程度は耐性がつくもの。
問題は最後の1つだ。
恐怖というのはそう簡単には克服できるものではない。
仮に克服できたとしても、また新しい恐怖が身に迫れば振り出しに戻ってしまう。
真に恐怖の全てを、全ての恐怖を克服したものなどこの世界には誰一人としていないだろう。
それが人でも、獣でも、たとえ―――化物でも。
つまり、何が言いたいのかというと……
「うぇぇぇぇぇぇぇぇええええん!! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
―――彼女は絶賛逃走中だということだ。
「グオオオオオオオオオオオオ!!!」
―――自身に迫りくる恐怖から。
赤い赤いとてつもなく巨大で強大な化物から。
どうしてこうなったのか?
彼女は自身の
―○●○―
―――
そこは
その一角にあるドーム状の建物、
今そこのとある部屋である対談が行われていた。
「……というわけで君は虚圏を探索し、さらなる強力な虚を探し出して私の前につれてきてくるかい?」
「はい! 了解です! 藍染様!」
片や髪をオールバックにした柔和な表情の男性。
片や薄紫色のミディアムストレートをゆるいお下げにした中背の少女。
何も事情の知らない者が見れば美男美少女の麗しい主従関係に見えるかもしれない。
しかし
彼らはそれほどの強者なのだ。
「あっ、
「それは心配しなくていい。私から伝えておくよ」
「ありがとうございます、藍染様! では行ってきますね!」
「いい報告を期待しているよ、……リーラ」
「はい!」
少女―――リーラは元気よく返事をすると勢いよく部屋のドアを開け、駆け足で去って行った。
さながら、遠足に行く小学生のように。
少女を送り出し、彼女の霊圧が虚夜宮から離れていったのを確認すると藍染様と呼ばれた男性は小さく息をついた。
額にはうっすらと汗がにじんでいる。
「……藍染隊長、うまいこといきはりました?」
「ギン。……ああ、大丈夫だよ。上手く彼女を
ギン―――銀髪で薄目が特徴の青年は藍染の後ろからそう声を掛けた。
その表情は藍染同様、安心したかのようなものだ。
「あの子はほんま変わりもんやからなあ。せっかく力はあるのに性格が残念やから十刃候補どまりとか」
「仕方がないことさ。それが彼女であり、その力であり、司る死の形なのだからね」
そうですけども、とギンは続ける。
「力だけなら虚圏で1,2を争うクラスやないですか。性格さえどうにかすればいい戦力やのに」
「さすがの私でも彼女の制御には手を焼いてしまうからね。確かに惜しいとは思う」
しかし万が一、と藍染は言う。
「采配を間違えれば、私とて
「しゃーない、てことですね……。ああほんま」
―――あの子は残念な子やなあ。
と落胆の色の彼のつぶやきは静かに部屋にこだましていった。
一方その頃。
自分が仕える藍染様の命令(嘘)を受け、意気揚々と虚夜宮を飛び出していった少女リーラ。
自身の
きっとこの任務は十刃候補どまりの自分を正式に十刃にするための試験なのだ! と自分に言い聞かせていた。
このときの彼女は普段と違い、その思考はポジティブなものだった。
まあ、実際は厄介払いされただけなのだが。
しかし心から藍染に忠誠を誓っている彼女はそんな事とはつゆ知らず、ひたすらだだっ広い虚圏の砂漠を駆けていった。
が。
ぐぅぅぅきゅるるるるぅぅぅぅぅ。
「ううぅ、おなかすいたぁ……」
彼女は走るのを止め、お腹をさすりながらトボトボと歩いていた。
というのも、彼女は命令(嘘)を受けてから何の身支度もせず虚夜宮を飛び出したため、自身の斬魄刀以外なにも持っていないのだ。
長旅になるかもしれないとは全く考えてなかった。
空腹を覚えるかもしれないということも。
そう。
―――後先をほとんど考えない。
彼女の欠点の1つだった。
「はあ、どこかに手頃な虚はいないかなぁ」
周りを見渡すが、虚どころか岩陰すら見えない。
360度砂、砂、砂。
何もいなければ、何もなかった。
「どうして普通の虚すらいないのよぉ……。皆現世に行っちゃってるのぉ?」
違う。
厳密にいえば虚はいる。
いや、
彼女は気づいてはいないが普段から垂れ流している霊圧に恐れをなして虚のほうが彼女から逃げてしまっているのだ。
虚夜宮にいたときも垂れ流しっぱなしだったので、たまに
ちなみに彼女はそのとき彼らは急に眠くなってしまったのだと勘違いしていた。
今でも勘違いしている。
というかそもそも霊圧を調節しようなどとはこれっぽっちも考えていない。
―――自己管理ができない。
彼女の欠点その2だった。
「空気中の霊子だけじゃお腹いっぱいにはならないし……。私も現世へ行って魂魄食べてこようかな」
久しぶりに。
そう言うと彼女は
そして彼女の運命は狂い始めた。
「どうしようかなぁ。空座町は死神がいるらしいし、他の町にしよ…………あれは?」
黒腔のなか、現世へ向かう途中、彼女は人ひとり分の亀裂を見つけた。
「どこかにつながってるのかなぁ? ちょっと行ってみよ♪」
歩む方向を変え、彼女はその亀裂をくぐる。
その先に広がっていたのは。
「うわぁ……! ……なにこれ」
よくわからない風景だった。
「変なのぉ。断界とは違うし、黒腔でもないし。なんだろう、この空間」
彼女が入った亀裂の先。そこは俗に次元の狭間と呼ばれる無の空間なのだが当然知る由もない。
そこになにがいるのかも。
「こんなところにごはんなんてあるわけないよね。やっぱり戻ろ」
と、入ってきた亀裂を振り返るがそこには何もない。
「あれ? なくなってる……? じゃあ、黒腔で……」
再び開こうとするがどういうわけか開くことができない。
「え、あ、あれ? な、なんで? なんで? なんで開かないの? どうして?」
何度も試してみるが、全くうまくいかない。
徐々に彼女に不安な表情が浮かび始める。
「ふえぇ、どうしよう……、帰れないよぅ……」
目に涙が滲み始めたとき、彼女の視界の端に赤い何かが映り込む。
「?」
だんだんと近づいてくる
「いやぁぁぁぁぁああああ! 化物ぉぉぉぉおおお!!」
彼女は全力で逃げ出した。
で、冒頭に戻る。
―○●○―
バチッ! バチッ!
空間に開いた巨大な穴に兵藤一誠とその仲間たちは大変驚いた。
理由は単純、100メートルを余裕で超えている赤い巨大なドラゴンが姿を現したからだ。
近くにいたヴァーリ・ルシファーは言う。
「よく見ておくんだ、兵藤一誠。あれこそ俺が見たかったものだ」
目を細めながらヴァーリは続ける。
「『赤い龍』と呼ばれるドラゴンは2種類いる。1つは君、ウェルシュ・ドラゴン、赤龍帝。もう1つは『黙示録』に記されし、赤いドラゴンだ。」
「『黙示録』……?」
「『
ヴァーリの、グレートレッドを見つめる瞳は非常に真っ直ぐなものだ。
「俺が最も戦いたい相手……。赤の最上位がいるのに白がいないのでは格好がつかないからね。だから俺はいつかあいつを倒して真なる白龍神皇になる」
イッセーはそれを聞いてなにか感じるものがあった。
ああ、こいつも夢があるんだな……と。
実際は悪いことをしているテロリストではあるが、その集団に身を置いているのはその夢のためでもあった。
と、イッセーはあることに気付く。
「グレートレッド、久しい」
「誰だ、あの娘?」
イッセーの問いにヴァーリは苦笑しながら答える。
「……オーフィス。ウロボロスだよ。『
しかし、イッセーは否定する。
「ちげえよ、ヴァーリ。その娘じゃなくて、あのグレートレッドの近くを……走ってる? 娘のことだよ」
イッセーが指差した先には確かに走ってる少女がいた。
それを見てヴァーリは首を傾げる。
「そういえばさっきからいたな。……オーフィス、あの娘は誰だ? グレートレッドのなにかか?」
「我、あの娘、知らない。でも、グレートレッドとは、関係ない、と思う」
「そうか……。オーフィスが知らないとなると……そちらの関係者か?」
ヴァーリはイッセーの主、リアス・グレモリーに尋ねる。
「いいえ、私も知らないわ。少なくとも悪魔ではなさそうだけれど……」
そうリアスが返しているとその少女がこちらを見つけた。
「あぁぁあああ! そこの人たちぃぃぃいい! 助けてくださぁあああい!!」
そう叫びながら、物凄いスピードで彼らのところへ駆けてきた。
グレモリー眷属は思った。
―――またなんか厄介事に巻き込まれたな、と。
超不定期更新ですが、生暖かく見守っていただければ幸いです。
最初のオサレポエムも頑張って考えます(笑)
どうぞよろしくお願いします。
……ちなみに藍染様とギンはこの話だけです。登場するのは。
あのあとどうなったかは原作通りの展開となっております。
時系列的には井上織姫攫う前くらいと考えていただければ。
そしてオリキャラのリーラちゃんのことは翌日には忘れてます。