ハイスクールD×D 転入生はアランカル   作:見裏世薄袈

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守る
堕ちた翼が散ろうとも






10.I can fly to you no matter what happens

ムスペルヘイム。もしくは、ムースペッルスヘイム。

 

北欧神話に登場する国の1つであり、神々の黄昏(ラグナロク)の最後に世界を炎で焼き尽くすとされるスルトが住んでいる国。

かの国で生まれたもの以外はあまりの暑さゆえにこの国に入ることすら出来ない。

 

通称、炎と巨人の国。

 

 

「……これほどの力を込めたのは久しぶりだ。たまには思いきりというのも悪くない」

「ガルルルル……」

「……そうか、お前もそう思うか」

 

 

すり寄ってきたフェンリルの頭を撫でながらロキは言う。

今彼の目の前に広がるのは炎。

炎、炎、炎。

自身の放った魔法による炎が目下の大地を埋め尽くしていた。

第三者が見ればこう言うだろう。

まるで地獄のようである、と。

 

 

「ここまでやればやつらは無事ではすまい。いかに二天龍といえど、あのよくわからん小娘といえど、神たるこのロキの魔法をモロに食らったのだから」

 

 

腕を組み、見下ろすロキ。口角を吊り上げ、目を細める。自らの力を行使した結果である眼前の光景に満足しているように。

しかし、すぐにその表情は聴こえてきた場違いな声によって崩れた。

 

 

「……暑い暑い。違った、熱い熱い。まさかあの神が総隊長に匹敵するかもしれないほどの炎を放てるとは。つくづくこの世界には驚かされますねぇ」

「……にゃにをのんきにゃことを言ってるにゃ。ヴァーリが心配じゃにゃいのかにゃ?」

「彼なら心配ないでしょう。そう簡単にやられるとは思えません」

「……アーサー、それなりにぼろぼろのお前が言っても説得力がねえよ」

 

 

子フェンリルと戦っていたヴァーリチームだ。

彼らは実際にロキと戦っていたわけではないので、どうやら余波程度で済んだようだ。

その証拠がこの軽口である。

 

 

「……貴様ら」

「これはこれはどうも。あなたからの熱い贈物、しかと避けたわたくし静寂薄橙と申します」

「自己紹介すんのかよ」

「そう教えられたものですから。ほら、美猴も」

「しねえよ」

 

 

神を目の前にしてこの態度。並べられた言葉は丁寧だが、薄橙の態度自体は完全にロキを何とも思っていないような感じだ。

ロキを知る者からすれば、薄橙のそれは無礼極まりない。もしこれから彼に何をされても文句は言えないだろう。

 

 

「ずいぶんとなめきった態度を取ってくれるな。今の状況がわからんか?」

「まさか。ちゃーんと承知していますよ?」

『……白々しい(です)(な)(にゃ)』

「信用ゼロですね」

 

 

肩を竦める薄橙。

誰がどう見てもこの場における緊張感が感じられなかった。

薄橙は続ける。

 

 

「しかし、おかしなことを聞きますねあなたは」

「どういう意味だ、貴様」

「今の状況……とおっしゃいましたが、僕から言わせてもらえば、わかっていないのはあなたのほうなのではありませんか?」

「……なに?」

「もしあなたが先程の炎の塊で彼女(・ ・)を……、本当(・ ・)に倒したとお思いなさっているなら、それは慢心というものですよ」

「貴様……何を言っている……?」

 

 

薄橙の言葉を、ロキは理解しがたいという表情で聞く。

ロキだけではない。黒歌たちも首を傾げる。

 

 

「僕がこの世界に来たのは偶然なのです」

 

 

語りだす。

 

 

「本来ならば虚圏(ウェコムンド)に入り、総隊長から仰せつかった任務を遂行するはずでした」

 

 

――――尸魂界(ソウル・ソサエティ)での藍染、市丸、東仙各隊長格の謀反ののち、薄橙は秘密裏に山本元柳斎総隊長に呼び出された。

他の隊長格でもなく席官でもなく隠密機動でもなく。

薄橙だけが呼び出された。副隊長の雀部までも退かせて。

 

『……おぬしに極秘で頼みたい任務がある』

『任務とは?』

『おぬしには酷かもしれん内容じゃが……』

『いかようにも』

『とある虚の討伐じゃ』

『ああ、そういうことですか……』

『……引き受けてくれるかの?』

『……委細承知』

 

彼は請け負った。進んで請け負った。

虚討伐は死神としての仕事の一環。そんなこと、わざわざ一隊長が個人に頼むものでもない当たり前のこと。

しかしこの任務においては事情が違った。

総隊長が薄橙に依頼した討伐対象の虚とは―――リーラ・ルーイッヒのことだ。薄橙の元実姉である。

 

なぜ直々に討伐を依頼したか。

 

その理由は至極単純、脅威であるからだ。

離反した藍染たちは虚圏へと姿をくらました。そのとき複数の大虚が彼らに手を貸したのをその場にいた死神全員が目撃している。

藍染たちはあろうことか、本来敵の虚たちを味方にしていたのだ。

それを目にしたとき、山本総隊長はある可能性を思い浮かべた。

 

―――もし、藍染が虚を手駒として扱うならば、あの最悪の虚も利用するかもしれない―――

 

部下が現世にいたころの姉だというリーラ。

以前薄橙から聞いた彼女の虚としての能力は対処の仕方が困難なもの。これまで交戦したのは薄橙のみであるが、その力が他の死神たちに向けられたならば被害は尋常ではない。そう思ったのである。

それが藍染の采配によって敵対しようものなら悪夢のシナリオ。阻止せねばならない。

ただでさえ、相手の戦力は底が見えないのだ。ならば、見えている力だけでも、少しだけでも、そぎ落とすのは必要だ。

ゆえに、唯一交戦経験のある薄橙を任務に就かせた。討伐しきれずとも、せめて、藍染に接触されるのを回避せねば……。

 

 

「まぁ、達成できずここで再会してしまったわけですが」

「……つまり、我の魔法程度ではやられないと」

「そういうことです。能力すら使っていないのに勝ったと軽々しく言わない方がよいというわけです」

 

 

苛立ち気なロキに、にこにこと言う薄橙。その言葉には確信があるようだ。

一方で彼を除く面々は言葉だけではにわかに信じがたいという顔をしている。

 

 

「薄橙~、それほんとかよ?」

「あなたの上司がそこまで警戒するのですか」

「にゃんだか信じられにゃいにゃ」

 

 

決戦の前日までリーラと多少接した彼らは疑念の声を上げる。

彼女がそこまで危険なのか? と。

そんな彼らの反応を見て薄橙は口を開く。

ある場所を指差して。

 

 

「―――じゃあ、あれはどう説明するのです?」

 

 

一斉に見る。

そこに広がっていたのは…………鮮血。

 

 

体中から血を流し、倒れ伏す子フェンリル1匹と、返り血で衣服が真っ赤に染まって………………いない(・ ・ ・)リーラの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―○●○―

 

ヴァーリはなんとか耐えた。

ロキの全力に近い魔法はさすがの彼と言えども相応のダメージだった。

 

(まだまだ修行が足りないな)

 

膝をつきながら考える。

鎧のダメージは修復済みだ。いつでも戦えるだろう。

だが彼はすぐには飛び出そうとしなかった。

 

(今いけば結果はきっと変わらない。なにか策を練らねば)

 

冷静に考える。

幸い、ロキの放った炎は消えずに周囲に燃え広がっていて、かがんだ状態ならば身を隠せる。禁手化してるので身体に問題はない。なぜかはわからないが、ロキからのとどめもフェンリルからの追撃も来ない。共に攻撃を食らったであろうグレモリー眷属たちは遠目に見ても怪我こそ負っているが、放置しておいても大丈夫だろう。今は自分のことだけ考えればいい。

 

練る。

魔法に関しては、こちらは付け焼刃なのに対し、向こうは本家本元。威力こそ神器で高めようにも精度と錬度が違い過ぎる。正面からは無理だ、せいぜいフェイント程度にしか使えまい。

ならば、半減で……。有効打になり得るか確証はない。神滅具とはいってもまだまだ真価を引き出せているわけではない。だからロキの魔法を上手く半減できず、こうして膝をついている。

では?

 

(テクニックとスピードで翻弄……か。パワー寄りの俺としては少々やりづらいな)

 

ヴァーリは兵藤一誠ほど一辺倒じゃないが、大抵決めるときは生まれ持った魔力による砲撃だった。半減を魔力による攻撃の端々に織り交ぜて相手の力を削いだ後、その分吸収した力を自らの魔力に上乗せして放つ。最近はこのパターンが多かった。

ロキと言う神相手に同じ手が通用するとは思っていなかったが、力の差では確実に開きがあった。

 

(俺も兵藤一誠のように一度体術のみに徹するか? 手足に半減の力と魔力を纏わせて適度に切り替える。それならば力の放出と吸収がスムーズだ。……試してみるか)

 

所詮は小細工程度だ。ちゃんとしたダメージは望めない。だが塵も積もればなんとやら。ヴァーリはそう思った。

一気にブーストを噴かして接近、連撃だ。ヴァーリは魔力を手足に集中させ、背中の神器―――光翼からエネルギーを迸らせてロキに突撃する。

 

―――前に何かが目の前に迫ってきた。

 

 

「グルルルルル!」

「っ!?」

 

 

咄嗟に魔力弾を放ち、その勢いを利用してバックステップ。さっきまでいたところに灰色の鈍い光が通過した。

 

バァアアアン!

 

地面にできるクレーター。凄まじい力である。

 

(こいつは……兵藤一誠たちが戦っていた方の子フェンリルか)

 

狙ったように出てくるとは、史上最悪の魔物の血は伊達じゃないらしい。

一閃の襲撃の後、子フェンリルはヴァーリを、見た者を震えさせるような双眸で睨んでいる。

対して、見返すようにヴァーリは鎧越しに子フェンリルを捉える。

 

(どちらにしろ倒すだけだ。それに俺たちの目的はこいつじゃない)

 

冷静に状況を見極める。ヴァーリは先程と同じように手足に魔力を、背中の光翼にも貯めていつでも反応できるようにする。

 

 

「お前に用はないんだ。……退いてもらうぞ、狼」

 

 

右腕を引き絞り、貯め、一気に突っ込む。

 

―――前に何かが、

 

 

「邪魔ですっ!」

 

 

子フェンリルを勢いよく蹴飛ばした(・ ・ ・ ・ ・)

 

(今度はなんだ!)

 

2度も出頭をくじかれ、若干いらだつヴァーリ。

彼の目の前に現れ、子フェンリルを視界から消したのは……なんとリーラだった。

 

 

「君、いつの間に……」

「? なんのことですかぁ?」

 

 

ヴァーリの質問の内容がよくわからないというように聞き返すリーラ。素で理解できていないらしい。

ヴァーリはてっきり彼女もまた怪我を負い、後ろで倒れているものだと思っていた。

しかし彼女を見ると、服こそあちこち焦げ目がついており、燃え落ちてしまっている部分もあるが、そこから覗く彼女の素肌には目立った傷が殆どついていなかった。

表情も戦い前とさほど変わらない。仲間が倒れているというのに。

ヴァーリは驚いた。

神の、力を込めた攻撃を喰らってなお、このように平然とできる彼女―――リーラと言う存在に。

 

 

「襲われそうだと思ったから助けたんだけど……いらなかったですかぁ?」

「いや……気にしないでくれ。助かった……」

 

 

実際は襲い掛かろうとしていたわけだが。

話をややこしくするのもどうかと思い、ここは適当に流すことにしたようだ。

一度深呼吸し、再びヴァーリはリーラに訊いた。

 

 

「……君はあの攻撃を喰らっても平気だったのか?」

「んー、避けようとしたけどぉ、そしたらリアスさんたちに当たっちゃうかなぁと思って。威力を少し削いでから霊圧で皆を覆ったの。その様子だと上手くいったみたいだね、安心したぁ」

「……世話を掛けたね……」

 

 

えへへ、と笑いながら、リーラはヴァーリの顔を見る。

―――信じられなかった。

ヴァーリは自分の力で耐え抜いたと思っていたのに、事実彼女に守られていたというのだ。しかもリーラはそれを何でもないかのようにやってのけた感じで話す。

ヴァーリは自身のプライドが悪意無いリーラの言葉によって傷つけられた気がした。

 

なにが違う? 俺と彼女のなにが違うんだ?

 

彼は。

 

なぜこれほど差があるんだ。一体なにがあってここまで強くなれる?

 

自問自答する。

ふつふつと湧き上がる疑問が頭の中を支配する。

残念ながら、答えは……出てこない。

 

 

「一応様子見てそこでじっとしてて。すぐ終わらせるから……ね?」

「っ……。ああ、わかった……」

 

 

首を横に触れなかった。リーラの台詞に反論ができなかった。

しようと思えばできたかもしれない。けれども、彼がそうしなかったのはなぜだろう。

内にある本能が感じているものが、あるいは先程の疑問の答えなのか。

ヴァーリは鎧の頭部分を一部解除する。決めたのだ。彼女を鎧越しではなく、直に自分の目に焼き付けようと。

 

(ヴァーリ、戦わないのか?)

(戦いたいさ、アルビオン。だがそれ以上に、俺は知りたいんだ。リーラという存在……いや、力を)

(リーラ、か。あの女からは妙な力を感じるな。理が違うというのか……なんというか)

(はっきりしないな……なにが言いたい、アルビオン)

 

神器に宿る内なる存在の口ごもるような言い方に眉を顰めるヴァーリ。自身の相棒が今回は頼りなく感じる。

 

(……もしかしたら、あの娘は人間どころかこの世界の住人ですらないのではないか?)

 

アルビオンの確証のない答えに則るかのように、目の前ではリーラが蹴りだけで子フェンリルを蹂躙していた。

 

(…………そうかもな)

 

彼は相棒に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

「なっ……! おい、スコル! どうした、返事をしろ!」

「ガゥゥ……」

 

 

薄橙の指差した方向に連れてきた子フェンリルがまさに瀕死の重傷を負い、地に倒れ伏しているのを見て、ロキは狼狽した。

なにが起きているのかわからない。自分が従える自慢の魔物が、自分が見下していた小娘に瞬く間に蹂躙されたのだ。

なのに。

 

 

「はぁ……。ちょっと疲れたかなぁ」

「僕が椅子になりましょうか?」

「近寄らないで」

「手厳しい」

 

 

リーラは疲れたなどと言い、自身の足をマッサージするようにさすっている。さすりながら、薄橙の軽口を辛辣にやり過ごしていた。

その様子が、ロキの激情をさらに煽る。

 

 

「小娘ぇ! 貴、様ぁぁぁ!」

「仕掛けてきたのはその子だから。私は悪くないよ」

「ぬかせぇ!」

 

 

悪びれないリーラに、ロキは多大なオーラを込めて魔法を放つ。

一直線に彼女に向かうそれが、

 

バララララララララララ!

 

彼女の隣からの銃撃に阻まれた。

薄橙はおどけた口調で言う。

 

 

「僕を忘れないで下さいよ。視野が狭いと戦いでは不利ですよ?」

「知った口を利くなぁ!」

 

 

ロキは再び、魔法陣をいくつも展開する。そのどれにも極大なオーラが込められていた。

まるで天井ができたような量である。

 

 

「ならば……ならば、もう一度だ。もう一度……これに耐えれるかぁ!?」

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオッ!

 

魔法陣の文字が回転を始める。次第に集められた、込められたオーラが凝縮されていく。

充填完了。目標確認。照準固定。

―――発射。

 

 

「朽ちろぉおおお!」

 

 

一斉に放たれた。

視界が埋め尽くされんばかりの量が迫る。

まともに食らえば普通なら死は免れない。

だが、もちろん彼らは普通じゃなかった。

リーラも、薄橙も、ヴァーリチームも。

 

グレモリー眷属も。

 

 

「迎え撃ちなさい!」

 

 

リアスの声が響いた。

 

「ドラゴン、ショットォ!」

「頼む、デュランダル!」

「うふふ、ありったけの雷ですわ」

「私はミカエル様のA(エース)なんだから!」

「ドラゴンを、舐めてくれるな!」

「私のフルバーストを!」

「我が雷光、北欧の魔法に負けはせん!」

 

 

赤いオーラが、聖なる波動が、大量の雷が、光の槍が、極大な炎が、鮮やかな魔法が、輝く稲光が、空を駆ける。

続き、声が響く。

 

 

「粘りますよ、纏砲」

「これでもいっくにゃー!」

「もっと伸びろや如意棒ぉ!」

「コールブランドの力、こんなものではありません」

「白龍皇を、舐めるな……!」

 

 

銃弾がばら撒かれ、禍々しい気が放たれ、超重量の打撃が突き出され、空間が斬り崩され、白いオーラが撃たれる。

それぞれが、それぞれの全力で攻撃を放つ。負けてなるものかと力を込めて。

遠距離攻撃手段のないメンバーは攻撃しているメンバーを支える。

激しいエネルギーのせめぎ合いで、空気は震え、大地は揺れた。

 

 

『いっけぇええええええ!』

『はぁあああああっ!』

 

 

鼓舞するように、声を張り上げる。

ゴゴゴゴゴ、と両者は空中で拮抗する。

やがて、それぞれが長く感じたその時間は、

 

ゴバァアアアアアアアアアアアアアアン!

 

ぶつかり合った衝撃による爆発で終わりを告げた。

 

 

「―――、―――――」

 

 

だから。

このときあえてロキの魔法に迎撃せず、自分の斬魄刀に手をかけて呟いていたリーラの言葉にも、変化した服装(・ ・ ・ ・ ・ ・)にも、誰一人気が付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―○●○―

 

「ぐっ……。無事……なのか?」

 

イッセーは爆発により、視界の優れないなか、一人呟く。

リーラのように探査神経(ペスキス)といった周囲を探る(すべ)を持たないイッセーは、今の衝突で自分以外がどうなったのかわからない。

無闇に動くのは賢明でない思いつつも、やはり仲間思いなイッセーはメンバーの無事を確認しようとした。

 

 

「イッセー! 無事!?」

「! 部長!」

 

 

数歩離れたところでリアスの姿がイッセーの目に映った。どうやら大きな怪我などはしていないようだ。

次第に煙が薄くなっていき、他のメンバーの無事も確認できた。

 

 

「皆! 良かった、怪我無くて……」

「爆風は凄まじかったけどね。それだけだったよ」

「そうか……」

「…………」

「おっさん?」

 

 

木場の台詞にイッセーは安堵するも、タンニーンの訝しげな表情に疑問を持つ。

なにか得心いかないことでもあったのだろうか。

と、遠くで叫び声がイッセーの耳に聞こえてきた。

 

 

「兵藤一誠! 何を突っ立っている!」

「へ?」

「よく見ろ!」

 

 

ヴァーリの台詞に従い、周囲を警戒すると、鈍銀が閃いた。

 

ズバン!

 

イッセーは勘で左に転がり、木場とタンニーンがその場を離れると、地面に深々と巨大な爪が突き刺さっていた。

フェンリルだ。

 

 

「なっ!? こいついつの間に!? てかグレイプニルは!?」

「とっくに解かれていた……ってことだね」

 

 

恐らく、火の海に変えたときだろう。木場はそう思った。

イッセーは拳を握り直す。

 

 

「まだ終わるわけねえか。……いくぞ、木場ぁ!」

「もちろん!」

 

 

イッセーの声に頷いた木場はフェンリルに、イッセーは上空にいるだろうロキに突貫する。

背中のジェットを噴かし、煙を突破する。

ちょうど正面だった。

 

 

「ロキィイイ!」

「正々堂々、潔し。だが、それだけだ」

 

 

ロキは慌てることなく、先程と似た魔法陣を展開。イッセーに向ける。

イッセーは防御するかと一瞬考えたが、間に合わないと構わず距離を詰めた。

 

 

「死に急ぐなぁ、赤龍帝! 望み通りにしてやろう!」

「はっ、あんがとよ!」

 

 

ロキの言葉に返しながら、イッセーは右腕にオーラを凝縮させて、

 

ドォオオオン!

 

「ぐっ……やってくれたな白龍皇!」

「照準がずれてしまったかな?」

 

 

ヴァーリの横槍であらぬ方向に魔法を放ち、無防備になったロキに叩き込んだ。

 

ズガンッ!

 

胴に入ったイッセーの拳からそんな音が聞こえた。

 

 

「はっ、はっ……。いい一撃ではないか、赤龍帝」

「お前を止めるんだ。当たり前の一撃だ」

「大口を叩く……。果たしてこいつらを相手にしても叩けるかな?」

 

 

ロキがそう言ったとき、イッセーの周囲に新たな魔法陣が展開された。

また魔法か、とイッセーは感じたが、魔法陣から出てきたのはもっとたちの悪い現実だった。

 

 

「これは……ミドガルズオルム!?」

「ほう、量産していたのか、ロキ」

 

 

黒い大蛇がいくつも出現してきた。

イッセーは一旦ロキと距離を開け、リアスたちに応援要請をする。

 

 

「部長!」

「ええ、わかってるわ! 誰かフォローを!」

「では、わた「僕が行きましょう」……」

「リ、リーラさん、怖いですぅぅぅ!」

 

 

リアスの声にリーラが反応―――した瞬間に薄橙まで名乗りを上げた。

彼はロキの一撃の後、フェンリル本体と交戦していたのだが、どういう訳だろうか。

 

 

「……なんであなたが名乗りを上げるの? その腕気持ち悪いんだけど」

「これが僕の始解なのですから仕方ないでしょう。それにあの数なら僕の方が適任ですよ」

「私だって≪千・尖(ミル・カスピーデ)≫なら……!」

「じゃあ、一緒にやりますか?」

「……っ」

「どうです?」

「…………妥協……する……っ!」

 

 

言い負かされたのか、断り切れなかったのか。薄橙の提案に渋々……本当に渋々同意するリーラ。

そんな彼らを横目に見て、ロスヴァイセはため息交じりに言う。

 

 

「どういう仲なのですか、この2人は……」

「ごめんなさい、私にもわからないわ……」

 

 

リアスは目を背けながら答えた。言葉にしがたいのだろう。

 

 

「―――≪千・尖(ミル・カスピーデ)≫!」

「差し上げます。―――閃砲(せんほう)

 

 

リーラの右目から幾重にも枝分かれした虚閃が撃ち出され、薄橙の右腕機銃部分の銃口からは光線が次々と射るように射出される。

2人の同時攻撃は量産型ミドガルズオルムを瞬く間に倒していく。まるで埃を掃除するかのように。

 

 

「……頼もしいな」

「我々の出番が取られてしまったか」

 

 

密かに手助けしようとしていたバラキエルとタンニーンは、眼前の光景にやるせない様子だった。

しかし、量産型ミドガルズオルムが倒されたとしても、まだロキにはフェンリル、子フェンリルがいる。一匹倒されてるとはいえ、脅威に変わりない。

現に、

 

 

「ぐっ! この狼めっ!」

「は、速過ぎですぅぅぅ!」

「おいおい、ヴァンパイア! 時止められんだろ!? なんとかしてくれやぁ!」

「あんまり無茶言うものではないですよ、美猴」

「なんだとぅ!?」

 

 

攻撃が満足に当てられず、苛立ちが次第にメンバーの中で積もっていく。フェンリルのスピードは子フェンリルですらも彼らにとっては速いと感じるものであった。

ヴァーリチームはこんな魔物を相手にリーラがたった1人で軽々倒したことが、今になってなお信じられない。

ちなみにリアスたちはこの時点ではリーラが1人で子フェンリルを倒したことは知らない。そのときはまだロキの炎で視界が遮られていたためだ。あまりにも短い数分の出来事だったので、炎が消える頃には事は既に済んでいたのである。

 

 

「朱乃!」

「朱乃さん!」

「しまった!」

 

 

ふとした瞬間、子フェンリルの速度を追いきれず、ゼノヴィア、木場を中心とした前衛組がイリナ、小猫、ギャスパーといった中衛、後衛組の懐への侵入を許してしまい、その爪が咄嗟の反応が出来なかった朱乃に迫った。

リアスが子フェンリルの気を逸らそうと滅びの力を込めて撃ち込むが、子フェンリルは意にも解さない。騎士の2人も俊足を生かして助けに入ろうとするが、非情かな、この時ばかりは距離が離れすぎていた。

 

 

「くそ、間に合わない……!」

「朱乃ぉ!」

 

 

ゼノヴィアが悔しさを漏らしたとき、その隣を黒い翼が駆け抜けた。

 

ザシュッ!

 

「かはっ……!」

「父さま……! なんで……!?」

「……お前まで、失う訳にはいかないんだ。たとえ、たとえ何があろうとも、何が起ころうとも……」

「とう、さま……」

 

 

間一髪間に合ったバラキエルに鈍銀の暴力が突き刺さった。舞った血飛沫が朱乃の顔にも少しかかる。

遅れて駆けつけたゼノヴィアと木場が、瞬速の剣技で子フェンリルにダメージを与えて追い返す。

かかった自分の血をを優しく弱々しく左手で、バラキエルは拭う。

 

 

「あの時のことは今もなお後悔しているのだ……。アザゼルに呼ばれなければ、もっと早く済ませていたら……何度も何度も頭の中でそんな”もしも”を考え続けていた」

「……っ」

 

 

独白だった。雷光と恐れられ、堕天使の中でも一目置かれていたバラキエルは、今このとき朱乃の前では、どうしようもなく父親の顔をしていた。本来家族を守るはずの役割の父親が、その責務を果たせずに過ちを認めた彼は朱乃の目に惨めに映ると同時に鏡を見てる気分にもなった。

だって、自分もその”もしも”を何度も願っていたから。

 

 

「だが、どこまでも空想で妄想だった。それで腹が膨れないのと同じように、失ったものは戻らず、得るべきものは遠ざかっていった。欠けたお前の思い出を埋めることさえ、私には……」

「……さ、ま」

「だからここで私が倒れようとも、朱乃。お前だけは、お前だけは全てを賭けて、この身で守り抜くと……」

「父さま!」

 

 

溜め込んでいたバラキエルの胸の内を聞くにつれ、朱乃の中でなにかが弾けた。

朱乃の一際大きな声に、バラキエルは思わず手を止める。

 

 

「私も、私も、忘れたことはありません! 父さまは確かにあの時は間に合わなかった、母さまを守れなかった。……だけどっ! 父さままで居なくなる理由にはならない!」

「朱乃……」

 

 

零れ落ちる。露わになった感情が溢れ出ていく。

赤い血と透明な涙が混ざり合って薄くなる。赤から朱へ。

バラキエルの胸に手を押し当て、彼の目を覗きこむ。

 

 

「だから、3人の思い出も、ここから消さないで……」

 

 

ふわり、と。

娘の無垢なわがままを、バラキエルは目を閉じて背中の翼で覆うように包み込んだ。

 

 






大変申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ! (スライディング土下寝)

9話からおおよそ2か月ぶりの投稿という。
しかもまだロキ戦終わらないという。
メイン作品よりサブ作品の方が評価が高いという。
皆様に謝らなければならないことが多すぎちゃって、私土下座のスペシャリストになりそうです。
これからはペースを上げて次話投稿していきたいと思います。


今回の解説をば。

蹴替響転(パターダ・ソニード)
子フェンリルを圧倒したリーラの技。移動手段としての響転を蹴り技として応用。別段リーラだけの固有技というわけではなく、やれと言われれば十刃全員できる。発想がなかっただけで。

閃砲(せんほう)
纏砲の能力というか弾種の1つ。発射する弾丸がレーザー光線になる。それだけ。弾種については他にもいくつかありますが、また今度。

・「―――、―――――」
まだ秘密ですが、リーラの刀剣解放。こっそり使いました。詳細はまた今度。ちなみにその時のロキとイッセーたちの攻撃のぶつかり合いによる爆発は、威力なら山が根こそぎなくなる、爆風なら台風の10倍クラスでした。イッセーたちはよく無事でしたね。


では最後に。
乳神は出ません。というか展開的に出せません。じゃあ、クリフォトどうすんの? ですが、どうにかします。(汗)そこまで続けばの話ですが……。
更新頻度については申し上げました通り、上げていく予定です。最低でも3週間に1話は。でないとサブ作品に人気持ってかれちゃう……。メインなのに。
ロキ戦については次話で終わらせて、その次は修学旅行か、日常小話かどちらかの予定です。日常小話は小猫や朱乃に薄橙が鬼道を教えて、イッセーで実験する話になります。コメディ寄りになりますかね。こんな鬼道を使わせて! という要望は受け付けます。活動報告にてお願いします。ネタ鬼道、オリ鬼道、原作鬼道構いません。名前と効果を書いてお願いします。詠唱文句についてはあってもなくても大丈夫です。

長くなりましたが、これにて。
ご感想等お待ちしております。
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