それはそれは数日間
たった一つの二人のお話
所変わってイッセーの自宅。最上階VIPルーム。そこにグレモリー眷属+イリナ+リーラ、そして北欧の主神オーディンとヴァルキリーのロスヴァイセ、護衛の堕天使陣営の幹部バラキエル、その上司のアザゼルが一堂に会していた。
木場とデート? していたリーラが昼食時から気になっていた存在について木場に質問した直後にリアスから連絡を受け、2人は眷属たちと合流し、イッセーの家に帰ってきた。
イッセーとデートしていた朱乃同様、リーラも木場とのお買い物(要するにデート)を中断されたおかげで只今絶賛不機嫌だった。
「……で、誰なんですか、この変態お爺ちゃんは?」
「ちょ、リ、リーラ。この方は北欧の主神オーディン様よ!? そんなこと言ってはダメよ!」
「つれないのぉ。ちょっと尻を触ったぐらいで」
「オーディン様! この女性に何してるんですか!」
「(この変態ジジイ……!)」
……どうやら不機嫌の理由は他にもあるようだった。
「やれやれ……。まあ、そういうわけで爺さんは日本神話の神々と会談するためにこっちに来たんだ。んでもってその滞在中の護衛を俺たちがやるってわけだ」
正確には俺はあまりできないんだがな……と茶を飲みながらアザゼルは言う。ここのところ何かと忙しいようだ。
「……にしても爺さんよ、少しばかりこちらに来るのが早くねえか? 俺が聞いた日程だともうちょい先だった気がするんだが……」
「いろいろと問題を抱えているんじゃよ、
「というとヴァン神族か? たのむから
「起こしゃあせんわい。まあヴァン神族はどうでもいいんじゃが……他にも厄介な者がの……」
「……そんな人いるなら私が倒してあげる。だから帰って、変態ジジイ」
「リーラさん!? そんなに嫌いなの!?」
彼女のいつもの口調が崩壊していた。しかもいつもよりも多くの霊圧を体から放ち、オーディンに対して嫌悪感を前面に押し出している。アザゼル、オーディン、バラキエル以外のメンバーは彼女が放つ霊圧に若干体が押さえつけられしゃべるのが精々、といった様子だ。
「ほほほ、これはいい重圧じゃな。見た目とは裏腹にかなりの実力者と見た。……アザゼル坊、彼女は何者じゃ?」
「俺にもわからねえよ、爺さん。本人が言うには
「ほう、
「爺さんでもわからねえか……。もしかしたら、って思ったんだがな」
リーラが霊圧を放出している中で話を続ける2人。彼女が本気でないとはいえ、実力がうかがえる一面だった。
「アザゼル先生……どうして平然としてられるんですか……?」
「そりゃ、それだけの力の差があるってことだよ、イッセー。こいつとお前らとじゃな」
「私たちは……ともかく……赤龍帝であるイッセー……や……禁手に……至った祐斗ですらも……?」
「そういうことだ。まず今のお前等じゃ間違いなく勝てねえよ。敵じゃなくてよかったな」
アザゼルの言葉を聞いて驚きが隠せないグレモリー眷属たち。これまでかなりの修羅場を潜り抜けてきたと思っていた彼女たちではあったが、まさかそれが普段このおっとりとした彼女に敵わないなどにわかには信じがたかった。
だが先日の戦いや、彼女のもと居たとされる世界の話に、アザゼルのセリフについて心のどこかで納得している自分自身がいるのもやはり事実だった。
「しかしアザゼル坊。彼女……名前なんじゃったっけ?」
「……リーラ。リーラ・ルーイッヒです、変態」
「辛辣じゃのぉ……。そこなリーラといい、今代の赤龍帝といい聖魔剣といい『禍の団』といい、なかなかけったいなことが起きてるようじゃな?」
「……ああ。全くもって不可思議だ」
確認を取るように聞くオーディン。彼の言うことはもっともだ。
「禁手というのはそうそう現れるものではないと聞いていたんじゃがな。どうも今代に限ってはそれが起きすぎているようじゃな」
「ああ。『禍の団』の英雄派の連中が神器所有者を集めて実験しているようだ。しかも最悪の方法でだ」
「さ、最悪の方法で……とは?」
「それは……おいリーラ。そろそろその垂れ流しにしている重圧を引っ込めたらどうだ。こいつらと話がしづらい」
「むぅ……」
渋々とリーラは放っていた霊圧を引っ込めた。すると肩の重荷が取れたかのようにリアスたちは大きく息をついた。かなりの重圧だったようだ、が本気ではない。
「……ごめんなさい、皆。迷惑掛けちゃったね」
「いえ気にしないで、リーラ。実害はなかったから」
「部長の言う通りだ。大したことはない」
リアスとゼノヴィアの言葉に他のメンバーも頷く。それを見てリーラはありがとう、と呟いた。
ゼノヴィアは強がりのようだが。
「それで先生、最悪の方法でとは?」
「リアスの報告書―――お前たちの推測通り、だな、ほとんど。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってやつさ……。各勢力に神器所有者を送り込み、強制的に禁手へと至らせようとしているのさ、奴らは。テロリストにしかできねえやり方だ。俺たちがやろうとすれば批判確実、戦争秒読みだな」
「……じゃああのときのは……」
「そうだ小猫。報告書にあった炎使いと影使いは至ったか至りかけたかだろうな。それで転移し、連れ戻された」
やはりそうだったか、とイッセーは思った。あの時の自分が感じた悪寒の正体。禁手……。
「一体そんなに禁手使いを増やして何するつもりなんだろうな」
「それはわからん。現在も調査中としか言えんからな。あーだこーだと推論してても仕方ねえ。…………爺さん、会談前にどっか行きてえとこでもあるか?」
「……ならばおっぱいパブに行きたいのお」
オーディンは両手の五指をわしわしさせながら言う。それを見てアザゼルは嬉しそうに言った。
「ハハハ! わかってるじゃないか主神殿! よし、最近オープンした俺たちのとこの若いやつが開いたVIP用の店があるんだ! そこへ案内するぜ!」
「うほほほ! そりゃあええのお! たくさん揉むぞい! しこたま揉むぞい!」
オーディンの発言に頭を抱えるリアスとため息をついたり、苦笑する眷属たち(イッセーを除く)。
さっきまでの空気はどこへ行ったのか、トップ陣2人は盛り上がりながら退室しようとドアへと歩いていく。そのあとをロスヴァイセがついていこうとすると、
「……えい」
バァン! バァン!
「がっ!?」
「ぐふぉ!?」
リーラがアザゼルとオーディンの背中を
「……変態は敵……!」
「リ、リーラさん!? さすがにそれはどうかと思うんだけど!?」
「確かに変態だけど虚弾撃っちゃダメよ!」
「……室内じゃなければ虚閃を撃つつもりだったのに……!」
「それもアウトです!」
急いでリアスたちが彼女をなだめるが、既に斬魄刀の抜刀段階に入っている。
「いてて……おいリーラ! いきなり攻撃することないだろ!」
「……黙って。変態は敵よ。消し飛ばしてあげる」
「そんなに怒らんでもよかろうて……おっぱいぐらいで」
「そうだそうだ。それならイッセーはどうなるんだよ?」
「(ぎくっ!)」
ぎぎぎ、と顔をイッセーに向けるリーラ。表情は変わらないがなぜだろう、後ろに不動明王が見えた気がした。
「イッセー君……? あなたも……私の……敵なの……?」
「いいいいいい、いえ! だ、断じてそのようなことは!」
「……ふううん?」
「(ひいいいいいい!?)」
リーラのゆっくりと首を傾げる動作とともに今度はイッセー個人に向けて霊圧が放たれた。やばい、超怖い。
と、その隙に。
「(おい、行くぞ爺さん)」
「(うむ、はよ案内しとくれ)」
アザゼルとオーディンはこそこそと部屋から出ていった。
このあと、2人はイッセーの悲鳴となにかが壊れたような音と怒号を聞いたがそ知らぬふりをした。
―○●○―
「…………」
夜、朱乃の部屋にて。リーラはベッドに横になりながら物思いに耽っていた。
彼女の部屋についてはいまだに決まっていないのでとりあえずは朱乃と同部屋という扱いになっている。その肝心の朱乃はどこか別の部屋に今はいるようだが。
「――――」
ふと気になったので
『―――!』
『―――!』
『――――――!』
怒鳴り声、のようなものが聞こえる。1人は朱乃、もう1人はバラキエルのものだ。朱乃と霊圧の質が似ているのですぐに分かった。
なにやら言い争いをしている。詳しい内容までは聞き取れないが恐らく自分が口を挟むべきものではないだろうと彼女は感じた。
親と子の関係。それはリーラには理解しがたい概念だ。
リーラは
いや、もしかしたら彼女にも生前は親―――父や母がいたかもしれない。ここにいるリアスやイッセーたちのように。
この家で過ごし始めてリーラは初めて親というものを知った。もちろんイッセーの両親だ。
彼らは優しかった。
リアスに連れられて初めてこの家に来た時、見ず知らずの彼女を笑顔で迎え入れてくれた。全くの赤の他人であるというのに。
リーラは当然警戒した。
かつて彼女が藍染様に拾われて
自分があまりにも強大な霊圧を持つがゆえに、周りの破面たちからはいいように扱われなかった。
―――新参者のくせに……
―――女のくせに……
―――藍染様に気に入られているからって……
―――どうせ色目でも使ったんだろ……
いわれのない誹謗中傷を散々受けた。誰も助けてはくれなかった。
確かに虚時代よりは命の危険は少なくなった。それでも、彼女には虚夜宮は安息の地とは言えなかった。
彼女の心が壊れていくのに時間はかからなかった。
あるとき、それを見かねたのか、市丸ギンが期限付きで、とある
ある意味相性がいいかもしれない……と。
そう言われてその十刃のところへ連れられた。
その十刃は虚ろだった。虚というものを体現しているかのように。彼との関係は最初の自己紹介以来、会話らしい会話はなく、ほとんどが業務連絡みたいなものだった。
しかし、リーラにとってはそれだけの会話でも心地が良かった。
彼からは誹謗中傷もされることはなく、常に上司と部下のビジネスライクの関係でいられた。
彼はリーラ自身を見ていた。他の破面の勝手な風評ではなく、彼女自身の力を、存在を見ていた。
それはリーラが従属官である最後の日に、彼―――その十刃はまだ誰にも見せたことのない彼自身の力を、切り札ともいえるそれを彼女に見せたほどだった。
―――彼女にならば見せてもいいだろう……。万が一のことがあった場合、自分の後釜には彼女がふさわしい……。彼は無意識にそう感じていた。
もっとも、その思いは主人であるはずの藍染により、叶わなくなってしまったのだが。
ともかく、リーラはそれ以来、もとの性格を取り戻し、より一層藍染のために働くようになった。
このような経験があったからこそリーラは警戒していた。
だが、前述の通りイッセーの両親はリーラを温かく迎え入れてくれた。
全身がこそばゆいような、不思議な感覚だった。それは今も慣れない。
「家族……両親……。わからないなぁ。結局あの感覚は、なんだったんだろう」
朱乃とバラキエル。娘と父親。2人の関係。理解できない。なぜ言い争いをするのか。過去になにかあったのか。
リーラは探査神経をフルに使い、2人の会話を聞こうとすると同時に、ぐるぐると頭の中で考えをめぐらす。
「よく聞こえないけど……なんかバラキエルさんに非があるのかな……? 朱乃さんがそこまで嫌悪するほどの……」
”心がわからない”。かつてリーラが従属官をしていたときにその十刃が言ったことだ。
それに対して彼女はこう返した。”私たちは虚ですから仕方ないかもしれません”、と。
彼女としては思ったことを口にしただけだった。その十刃もそれもそうかとその場は自己完結した。
今になってその答えが猛烈に欲しくなった。それが分かれば、朱乃の心情もわかるかもしれない。なんとなく彼女は感じた。
明日あたりリアスたちに聞いてみようか。彼女らなら知っているかも。”心”とはなにかを、そして朱乃の過去も。
「今日はもう寝ちゃおうかな」
リーラは小さくそうつぶやくと、瞼を閉じた。
久しぶり過ぎてこの後書きは作者の独白の場になりました←
趣旨は変わりませんがね。
えー、リーラの
欠点としましては半径500mが限界です。居場所だけなら5kmくらいまで拡大できますが。
作中のとある十刃さんは皆さんでご想像ください。大人気の彼です、はい
ご感想等お待ちしております。