スターナイト、そう呼ばれる者たちがこの世界には居る。
星々よりの力を身に纏い、世界を護るために魔界の猛吹雪の如く襲い来るリクリエの脅威を薙ぎ祓う戦士とでもいうべき少年少女たちである。
そんな彼ら、彼女らの活躍によりリクリエの脅威は遂に跳ね除けられ、世界は遂に一時の安寧と平和を掴み取った。
が、その一方で静かな平穏が打ち破られようとしている1人の青年がいる。
スターナイツを養成する新進気鋭の学園、新星学園に彗星のごとく現れ、魔王の力で世界を救ってみせた新星会長・緋宮クロト、その人である。
それは何故か・・・一言で言ってしまえば、彼の人柄や実績、容姿に好意を抱くものが多いにも関わらず、驚くほどの朴念仁なのである。新星学園、そして新星学園と2大スターナイツ養成校として双璧を成す流星学園の者からも人によって多少の強弱はあるものの好意を寄せられ・・・とはいえ、ほとんどが強な上に流星学園付属校や学園以外の組織からすらも、であるが・・・彼へのアタックを仕掛けてもほとんどクロトは誰にも靡かず普段通りの笑みを浮かべるばかりで、誰も彼との仲を一歩踏み込んだ位置に進められずにいた。
そしてなにかを察し、周りにいるほとんどがライバルと気づいた彼女たちは水面下でクロトを巡り、誰もがお互いに火花を散らせることで更にクロトへ好意を伝えようとする動きは弱まり、このままでは誰も得しない結果になりかねないことを誰もが察していたが、誰1人として勇気の一歩を進めずにいた。
だが、ここで動く勇気を持っていた・・・いや、あるいは逆になにも考えなしだっただけやもしれないが・・・この雲がかかった心を晴らすように動いた、金星の恩恵を受ける1人の少女がいた。
これはスターナイトたちに振り回されることになる、未だなにも知らない星徒会長の日常を描いた物語である・・・
side.詠野マトイ
私は詠野マトイ。新星学園にいるごく普通なスターナイト、なんだけど新星星徒会の書記をしています。
ついさっきまで急用で帰っちゃった会長の代わりに副会長のアナ、会計のサーシャさんと一緒に仕事をしてたんだけど・・・
「な、なんなのこの状況・・・!?」
思わず思ってたことが口から出てしまった。い、いやこれは仕方ないよね?
うちの星徒会のフィクサーこと前会長のヴィーナスに呼ばれてカフェテリアに来てみれば・・・いやいやいや、学園のプリマステラがほとんどここにいるし!なんなら流星星徒会の皆に付属校の子たちや守護天使の皆さんまでいるし・・・!
え、いやどういうこと?何度思考を巡らしてもそれしかでてこない。
い、いや・・・こういう時はなにかを察したように大体アナかサーシャさんが解説して・・・!
アナ「・・・なんなんですか、これは。」
サーシャ「あらあら、ヴィーナスちゃんもすごいことをしたものねぇ。」
だ、駄目だったー!?
く、こういう時は会長を頼れば、っと思ったけど会長いないんだった!
いやいやいや、こんな人数集めてなにするつもりなのヴィーナスは?!・・・うぅ、ダメだ。ヴィーナスがなに考えてるかわかるなら今まで苦労してないし。この状況なら尚更わからない!
「うぅ、どうすればいいのよこの状況・・・せめて会長がいれば・・・」
アナ「そうはいっても、会長は帰っちゃいましたし、どうしようもありません。前会長を待ちましょう。」
「なんでそんなにアナは冷静なの・・・?」
アナ「慌ててもどうしようもないですから。」
・・・たしかに。ヴィーナスがここに皆を呼んじゃった以上どうしようもない、かぁ。
そんなことを思いつつ諦めて手近にあった席につくとアナとサーシャさんも同じように席に座る。
・・・しかし、静かにしてると周りのよく声が聞こえてくる。
フィオナ「ヴィーナスさんに呼ばれて来ましたが・・・中々来ませんね。」
ユウリ「一体何人呼んでるんだよ・・・」
ルリエル「でも、賑やかで楽しいです!」
ソフィア「そういう問題では無い気が・・・というかプリマステラのほとんどがパトロールに出ていないこの状況。もし万が一急にアステラが出てきたら大変ですよ。」
セーラ「あっはは!まぁあんま難しいことは考えなくても良くない?大丈夫だって!」
流星星徒会の人たちの会話に・・・
ヨミ「お嬢様、中々来ないですね・・・」
蘭美「まぁ、仕方ないわよ、お嬢様だもの。・・・ところで閃?いつまでそのだらしない顔をしているの?」
閃「うぇへへ・・・」
ヨミ「仕方ないと思いますよメイド長、お嬢様から大切な話があるから来て頂戴、なんて言われたんですから。」
せつな「そうでござる!閃殿ならお嬢様に話しかけられただけでノックアウト!でござる。」
美鶴「そのうえで大切な話、とか言われたら・・・まぁ、こうなりますよね。」
蘭美「・・・いや、九浄家メイド隊としてそれはどうなの?というか閃?いい加減戻ってきなさーい!」
九浄家メイド隊の人たちに・・・
サチ「うーん、新星の前会長さんに呼ばれて来ましたけど・・・私たち、ここに居ていいんでしょうか・・・」
トマル「・・・わかりませんが、サチ様は会長様に関する話と言われて、来ないにもいかなかったでしょう?」
プリムラ「そうじゃ、眷属の話と聞いたら迷わずここに来よったというのに。」
サチ「な、なっななな!?なにを言ってるんですかトマル君にプリムラ!?別にお兄さんは関係ないです!」
トレジアンナ「あっはは!サチさん、わかりやすいですねー。顔が真っ赤ですよ?」
サチ「〜〜〜!!トレジアンナさん!」
可愛くて普通じゃない私の自慢の弟のトマルに流星付属の会ちょ・・・いや待って?トマル今なんて言った?
え、会長のことでこれだけの人が集められてるの?え、え、どういうこと!?
思わずトマルに聞くために立ち上がりかけた、その時だった。
バーン!という爆音といっても差し支えない音が響くとともに見覚えのあるピンク髪が踊りながらカフェテリアに入ってくる。
ヴィーナス「皆!待たせたわね!」
いつも通り、広い場所でもよく通るヴィーナスの声がカフェテリアに響き皆がヴィーナスの方をみる。
サーシャ「やっとヴィーナスちゃん、来たわねぇ〜。」
アナ「ですね。・・・?後ろからまた誰か来ていませんか?」
「え?」
サーシャさんのいつも通りのんびりした声を聞きつつ、アナが言った通り後ろに誰か居た・・・気がするけど、カフェテリアには入っては来ないようでよく見えない。
「たしかに、誰かいるような・・・影だけしか見えないけど。」
アナ「同じくです、よく見えませんね。」
そんなことを話している内にヴィーナスがどこからともなくマイクを取り出す。
・・・どこから出てきたのそれ?
ヴィーナス「皆、今日はよく集まってくれたわ!・・・そして、今日集まって貰ったのは・・・言うまでもなくとても重要な話があるからよ!」
そのヴィーナスの声に皆が少し身構える。・・・この声のヴィーナスはかなり真面目に話してるときの声だ。その後に出てくる話が真面目かは別・・・だけど。
・・・いや待って、そういえばさっきトマルが会長に関する話って言ってたような。
ヴィーナス「そう、私が言いたいのはパパ・・・クロトのことよ!」
「「「???」」」
ヴィーナスの言葉にカフェテリアにいる皆がぽかんとした顔をするか、トマルたちみたいな多分なんの話かだけ聞いていたのだろう人たちの一部が、だからなんの話なんだ・・・!と言いたそうな困惑した表情を見せる。
・・・うん、圧倒的に説明不足だよ、ヴィーナス・・・
トワ「あのー、ヴィーナスちゃん?もうちょっと具体的に説明してもらってもいいかな?」
カフェテリアが静まり返った・・・のに何も話さないヴィーナスにトワちゃんが思わずと言わんばかりの声を出す。
ヴィーナス「それもそうね、私が言いたいのは・・・」
い、言いたいのは?
ヴィーナス「皆もっとクロトに積極的に仕掛けていくべきだと思うの!」
・・・んん?
ヴィーナス「わかってるわよ!ここにいる皆がクロトのことが好きなのは!」
・・・え?は!?え?!
な、ななな、なにを言ってるのこのヴィーナスは!?
い、いやいやいや!た、たしかに会長のことはすごくいい人だと思ってるし・・・正直、す、好きかもだけど!
というかここにいる皆って・・・
ぱっと確認できるだけでもさっき話が聞こえた人たちに、トワちゃん先生を始めとする先生たちに・・・というか日傘探偵として有名なジュエリーに、天才スケーターの舞亜ちゃん、新星流星寮長のマムとヒルディオーネさん、リーリアさんに何故かしれっと混ざってるアイリーンさんたちネビュラの人たちに、こっちもなんかしれっと混ざってるコラプサーの人たち・・・
いや、まさか冗談だよね・・・?
そう思って思わずアナの方を見ると・・・
アナ「え、あ・・・」
か、固まってる・・・!いつも冷静沈着って感じのイメージがあるあのアナが・・・!
てことはやっぱりそんな気がしなくもなかったけどアナも・・・?
い、いやというかもしかしてサーシャさんも?
そう思ってサーシャさんの方を見るといつも通り「あらあらうふふ」って言ってるけど、若干頬が赤いし、あれは図星って感じだ・・・!
周りをもう一回見回しても皆同じような反応だし、ほんとにここにいる皆そうなの!?
ヴィーナス「やっぱり、思った通りね・・・」
いや思った通りね、じゃないですけどぉ!?
なんか満足げに頷いてるけど結局なにがしたいの・・・今のところ、ここにいる人が均等に痛み分けどころじゃないダメージを負っただけなんだけど。
そんなことを思っているとヴィーナスがまた話し出す。
ヴィーナス「私ね・・・皆がクロトのことが好きなのはなんとなくわかってた。私もその1人よ!」
・・・んん?なんかさり気なくまた爆弾投下した?
そう思う間もなくヴィーナスは言葉を続ける。
ヴィーナス「でね、わかったの。皆が皆クロトと付き合おうとしても上手くいってないし、なのに皆自分が付き合うためにお互いを牽制してる・・・」
・・・そ、そんなことになってたんだ。
でも、そういえばたまに会長と仕事してると羨望というか恨めしげな目を見たりしたし、なにか見えない火花が散ってるような気がしたことも一度じゃない気が・・・
ヴィーナス「でも、そんなの誰も幸せになれないじゃない。私たちも、クロトもね。だから私、考えたの。」
ヴィーナスがそう言って一呼吸いれる。
気づけばざわざわとしていたカフェテリアが静まり返って、ヴィーナスの話に皆が耳を傾けていた。
ヴィーナス「皆でクロトをシェアすればいいんじゃないかって!そう考えたの!」
・・・?
い、いや、ちょっと待って。なにを言ってるのこのヴィーナスは、ってなんかさっきも同じことを思ったような気が・・・
ってそれはどうでもよくて!
・・・よし、いったん落ち着こう。深呼吸して・・・
混乱してきた頭を落ち着かせるために一回深呼吸をしてもう一回思考をフル回転させ・・・
てもわからないよ!普通に意味わからないよ!
いやなによ会長をシェアって・・・ケーキじゃないんだからさ・・・
フィオナ「あ、あの、ヴィーナスさん。緋宮会長をシェア?というのは・・・?」
ヴィーナス「ん?そのままの意味よ!」
いやっ、わかるわけないでしょ・・・!
思わず心の声が出かけたけど、まだヴィーナスが口を開こうとしている。多分まだ説明する気はあるらしいし、なんとか押しとどめる。
ヴィーナス「クロトを皆でシェアする・・・つまり!クロトにハーレムを作らせれば皆クロトと付き合えて平和で幸せになるんじゃないか・・・って思ったのよ!」
「「「は・・・?」」」
ヴィーナス「ふっふっふ、どうやら私の考えに感激して声も出ないって感じね・・・」
いや、違うよ。意味わからなすぎて皆困惑してるの。
恐らく皆同じことを思ったのだろう、静かになっていたカフェテリアがしばらくしてからざわつき始める。
アナ「・・・いや、前会長は何を言っているんですか・・・」
サーシャ「さ、流石にわからないわねぇ。」
ほら、アナとサーシャさんですら理解が追いついてないし!
というかカフェテリアにいる全員がざわつき始めたせいで若干カオスになりつつあるし・・・!どーするのよヴィーナス?!
ヴィーナス「うんうん、皆の言いたいことはわかるわよ。」
「よかった、ヴィーナスにも普通の常識があったかもしれない・・・!」
サーシャ「マトイちゃん、多分心の声が漏れちゃってるわよ?」
「あ、やば。」
しまった、ついやってしまった・・・。
でも流石にヴィーナスには聞こえてなかったみたいで一呼吸入れてまた話し出す。
さて、次はなんて言ってくるか・・・
ヴィーナス「安心しなさい!クロトと皆で過ごすためのでっかい土地はヘレナちゃんの手で確保済みよ!」
「「「???」」」
ちょっ・・・と何言ってるかわからないんだけど?
???「そろそろ出番だな。失礼するぞ、スターナイト諸君。」
明らかに困惑の広がったカフェテリアに唐突に声が響き、また1人だれかがカフェテリアに入ってくる・・・って、あの人は!
ヘレナ「ふむ、文字で読んでるだけではわかりずらかろうし、改めて名乗らせて貰うとしよう。・・・立てばプリティ、座ればゴージャス。泣く子も黙る、九浄家26代目当主・九浄ヘレナちゃんとは私のこと。」
アナ「・・・?文字で、とはなにを言っているのでしょうか?」
「さぁ・・・?」
突然名乗り始めた乱入者・・・九浄家当主、ヴィーナスの母でもある九浄ヘレナ様の登場に混乱で静まり返りかけていたカフェテリアが一気にざわつく。
???「なんでご当主様が・・・!?」
???「あれが、九浄家の当主様・・・!」
周りのあちこちからの誰のかもわからないレベルでざわつく驚愕の声が耳に飛び込む一方でヘレナ様は話を止める気配なくまた喋り始める。
ヘレナ「色々言いたいことはあるだろうが・・・安心してよいぞ!教皇庁には私が話を通しておこう。そしてヴィーナスが言ったとおり、なんでもできる土地は用意してある。」
いや、教皇庁の方は・・・流石にそれは無理なのでは?
ヘレナ「無理だと思うかもしれないが、そこはご都合主義という名のヘレナちゃんパワーでどうにかなるから安心するとよい。」
「ごつごう・・・?なんて?」
なんか私たちが聞いちゃいけない気がするセリフだったけど・・・いや、それはどうでも良くて。
アナ「流石、九浄家当主様。前会長並に話が理解できません。」
サーシャ「アナちゃん。それ、褒めてるのかしら?」
アナ「褒めてはないです。」
サーシャ「あらあら、辛辣ねぇ。」
割と火力の高い言葉を飛ばすアナと、いつも通りの飄々とした、のんびりした雰囲気に戻ったサーシャさんの2人の会話を聞きつつもいくつか問が頭を過る。
まず、そんなことして皆納得できるのか?ハーレム、なんて何人かは納得出来ない人がいると思うのだけど・・・
そして・・・会長にこの話はしてて了承はとったの?こんな話、真面目な会長がオッケーを出すはずが無い気がするのよね・・・。それから・・・それから・・・
う、う〜ん、だめだ。ツッコミどころが多すぎてなにから聞けばいいのやら・・・
ヴィーナス「うんうん、なんとなく言いたいことはわかったよ。マトイ!今クロトにオッケーとったの?って顔をしてたわ!」
「なんでわかるの!?」
ヴィーナス「ふふふ、それは秘密よ。そしてクロトにこの話は一切してないわ!」
「そして会長にこの話してないの!?」
いやいやいや、駄目でしょそれは。せめて当人は了承してなきゃだめじゃない?
ヴィーナス「そして、ここにいる皆の中でもこの話に賛成出来ない人もいると思うわ。でも、問題ないわ!それぞれがクロトを”その気”にさせればいいんだからね。」
「と、いうと?」
ヴィーナス「クロトにはこの話を全くしてないから、この話に賛成してくれる人はクロトにハーレムを作らせる気を起こさせればいいし、どうしてもクロトを独占したい人はそれぞれで猛アタックすればいいと思うの。」
・・・なる、ほど?
なんかどんどんとんでもない話になってる気がする・・・いや、元からやばいことにはやばかったか。
ヴィーナス「うぅん、とりあえず最後に言いたいことだけ言っておこうかしら。」
え?最後?
なんかとんでもない話を進めてる割に話があっさりすぎない・・・?
ヴィーナス「・・・私がやりたいのはとにかくクロト・・・私のパパと、それから皆にも幸せになってもらうことよ!」
おぉ、なんかヴィーナスにしてはすごくいい話の予感がする。
アナ「すごい、普段会長を振り回してる前会長が言っているとは思えない良い台詞です。」
アナ、容赦ないツッコミ・・・!
とんでもないことを暴露されてテンションがおかしくなってないかな・・・和菓子かなにか用意しておいた方がいいかなぁ?
ヴィーナス「私もクロトのことはパパとしてだけじゃなくて、男の子として好きよ?でも、クロトったらほんとにパパって感じの反応しかしないし・・・でも、皆でアタックすればきっとクロトも少し変わるはずよ!」
な、なるほど?
たしかに会長、あんまり私たちを女の子として意識しているって感じがしないことが結構あるし・・・理にかなってはいる・・・のかな?
ヴィーナス「さぁ、皆でクロトを変えてやるわよ!」
そんなめちゃくちゃな宣言のあと、カフェテリアが喧騒に包まれて・・・
ほとんど毎日なにかしら起こる、多分会長にとっては平和じゃなくなった日々が始まるのでした。