パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第11話 瞬殺

「も、もうだめだ~~~~」

 

 危険レベル4のモンスター、ケルベロスを前にして、虹子は涙声で零那(れいな)に抱きついてくる。

 

「ちょっと、あんまりくっつかないでください。錫杖《しゃくじょう》がとれないです」

 

零那(れいな)は自転車に跨ったまま、背中に背負っていた錫杖《しゃくじょう》を取り出すと、それを眼の前の空中へと無造作に投げた。

 すると、錫杖《しゃくじょう》は零那《れいな》の眼の前でまっすぐ宙に浮いた。

 

〈なんだこれ〉

〈魔法の杖か?〉

〈こんな魔法の杖見たことない〉

〈いや、山伏が山に入るときに使う金属製の杖だ〉

 

 ケルベロスは態勢を低くして今にも襲いかかってきそうだ。

 それを気にもとめず、零那(れいな)は右手の人差し指と中指を立てた。

 そしてその指で空を横に切る。

 

「臨!」

 

 すると零那(れいな)の切った空中に、白く輝く一本の横線が現れ出る。

 今度は縦方向に空中を切る。

 

「兵!」

 

 またも光の線が現れ、空中に十字が描かれる。

 さらに続ける零那(れいな)

 横、縦、横、縦と空中に線を描き続ける。

 

「闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前!」

 

 縦に四本、横に五本。

 四縦五横《しじゅうごおう》と呼ばれる、格子状の呪《まじな》い。

 それが、光り輝きながら零那(れいな)の目の前にあった。

 

 それに反応してか、ケルベロスがついに床を蹴って零那(れいな)たちに向かって走り出す。

 零那(れいな)は動じず、静かに言った。

 

南無(なむ)仏母(ぶつも)大孔雀明王(だいくじゃくみょうおう)!」

 

 その瞬間、パァン! という音が響き渡り、光の格子が錫杖を包み込む。

 零那(れいな)は叫んだ。

 

「オン マユラ キランデイ ソワカ!」

 

 真言(しんごん)と呼ばれる、サンスクリット語を元にした呪文である。

 杖の頭から光の玉が現れた。

 

「クーちゃん、おいで!」

 

 零那(れいな)がそう言うと、その光はすぐに形を変え、鳥の姿へ。

 それは光り輝く孔雀だった。

 

「クーちゃん、あいつ食べちゃって!」

 

 さらに零那(れいな)が叫ぶと、孔雀は弾かれたように杖の頭から飛び立ち、ケルベロスに向かって一直線に飛んでいく。

 

「ガウガウ!!」

 

 ケルベロスは抉るように地面を蹴って急旋回し、ほぼ直角に曲がってその攻撃を避けようとする。

 

 だが。

 

 光の孔雀は、ケルベロスを逃がしはしなかった。

 まるで予知していたかのようにケルベロスの動きを読んで先回りする。

 

 3つの首をもつ地獄の番犬。

 そのスピードはありとあらゆるモンスターの中でもトップクラスと言われる。

 光の孔雀はそれを遥かに凌駕する高速でケルベロスに追いついたのだ。

 そしてその聖なる鳥はケルベロスの三つの首のうちのひとつに噛みつく。

 ブチリとケルベロスの首がちぎれた。

 切り口からは血のかわりに、ピンク色に輝く光があふれる。

 切り落とされた首がゴロッと床に転がったかと思うと、やはりピンク色の光に包まれ、やがて消えた。

 

「キャウン!」

 

 残った二つのケルベロスの首は、ぶざまな鳴き声を出す。

 恐慌をきたしたのか、零那(れいな)たちに背を向けて逃げ出そうとした。

 しかし。

 

「追いかけて!」

 

 零那(れいな)の叫びとともに孔雀のクチバシがケルベロスの逃げる背中に突き刺さった。

 次の瞬間、ケルベロスの体は、パシュンッ! という音とともに、爆発を思わせる閃光を放ち、そしてその光はやがて空気に溶けるように消え去った。

 魔なるもの、毒となるものすべてを浄化するのが孔雀の力なのである。

 

「よし、もういいよ、ありがとう!」

 

 零那(れいな)が言うと、孔雀は羽ばたいて零那(れいな)のもとに戻ってきて、零那(れいな)の頭の上に止まった。

 

「クーちゃん、ありがとね!」

 

 零那(れいな)の言葉に、

 

「ニャオーーッ!」

 

 と孔雀独特の甲高い鳴き声をひとつあげると、そのまま光の粒に分解され、空気に溶けるように消え去った。

 

 浄化——というより消滅させられたケルベロスは、血の一滴も残していない。

 零那(れいな)は宙に浮いている錫杖を手に取ると言った。

 

「ふー。ワンちゃんは好きなんだけど……。あの子は逃がすと何度でも襲ってくるほどやんちゃだから仕方がないわ」

 

 虹子はその光景をただただ呆気にとられて眺めていた。

 

「嘘でしょ……。危険レベル4のモンスターなんだよ」

 

〈嘘だろ瞬殺だった〉

〈危険レベル4って人類には討伐不可能って言われてるんだぞ!?〉

〈これAI生成のフェイク動画じゃないの〉

〈マジかよ、この山伏女なにものだ!?〉

〈待って、民間の探索者データベースにも記載がないぞ〉

〈いや、ある。未成年だから名前も顔写真もないけど、探索者タイプが修験者で登録されてる特SSS級とSSS級の女性が一人ずついるはずだ〉

〈いやいやいやただのサンプルでしょあれ〉

〈それ、サイト運営者のいたずらだって噂もあったはず〉

〈修験者って山伏(やまぶし)のことだろ。間違いなくこの子のことだろ〉

〈まじで存在したのか〉

〈未成年なの?〉

〈あ、今データベースが更新された。名前:三日月零那(れいな)。18歳。探索者タイプ:修験者。特SSSクラス。これじゃないか?〉

〈実在したんか〉

〈俺、まじでいたずら説を信じてた〉

〈やべー。今俺、歴史的瞬間を目撃しちゃった〉

〈特SSSってすごいの?〉

〈日本にはSS級が一人いるだけ〉

〈ちなみにSSS級だなんて世界に数人だからな〉

〈特SSS級は世界に三人いるぞ〉

〈でもその三人って過去の人で追贈だから、現役はゼロなはず〉

〈ってことは世界で唯一の特SSS級? なんで今まで知られてなかったんだ?〉

〈そりゃ未成年だったからかも〉

〈今未成年の情報って原則非公開だからな〉

 

 零那(れいな)は錫杖を背中に背負い直すと、虹子に言った。

 

「じゃ、ほどほどに飛ばしますね。早くパチンコ打ちたいから」

 

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