パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第116話 氷の被甲護身

 零那(れいな)はヤミの死体を抱きしめていた。

 腕の中の死体がものすごい力で暴れる。

 だが、零那(れいな)の腕力はそれをはるかに上回っていた。

 操られているとはいえ、ただの15歳の少女の死体である。

 修行を積んだ零那(れいな)のフィジカルの前では無力であった。

 零那(れいな)は全力でヤミの死体を床に押さえつける。

 普通であれば、ヤミの死体が損傷してもおかしくないほどの力。

 感情のない目で零那(れいな)をにらみつけ、歯並びの良い前歯をむき出しにして、

 

「ぎしゃああああ!」

 

 と叫びつづける死体。

 零那(れいな)の怪力で無理やり押さえつけられているのに、ヤミの死体は皮膚が破れることもなく、骨が折れることもない。

 

――やっぱり、とんでもない防護魔法がかけられているわね――。

 

 さきほど老婆はこの死体にエシュ(?)だかなんだかの魂を移すと言っていた。

 やつらにとってもこの死体は傷つけるわけにはいかない重要なものなのだ。

 だから、最強レベルの防護魔法をかけているのだろう。

 そうだとしても、そんな大切な死体を武器として零那(れいな)にけしかけるとは。

 

「考えが足りなすぎるわね! この身体は私がもらうわよ!」

「ダメー! それ私の! あんたのものでもないからっ!」

 

 トメに抱き留められているヤミの声が聞こえる。

 

「わかってるわよ、ちゃんとヤッちゃんに返すから! 羽衣(うい)!」

 

 零那(れいな)は蟲使いに完勝したばかりの羽衣(うい)に声をかける。

 

「そのゲジゲジ、こっちにも頂戴!」

「え? うん!」

 

 蟲使いの下僕であるゲジゲジは、主であるカブトムシの身体の上にもたくさん這いずっていた。

 羽衣(うい)はそのうちの一匹を拾い上げると、カブトムシにまたがったまま、見事なサイドスローで零那(れいな)に投げてよこす。

 それを片手で華麗に受け取ると、零那(れいな)はゲジゲジをヤミの死体の唇に押し込み始めた。

 

「ギャーッ! 虫! 虫! 虫を私に食べさせないでーっ!」

 

 背後でヤミが叫んでいる。

 

「気持ちはわかるけど! まずはこの身体の制御をこっちに取り戻さないと!」

 

 死体の、綺麗な歯並びの前歯。

 零那(れいな)は死体の顎をつかんで無理やり口を開けさせると、そこにゲジゲジを放り込む。

 とたんに、

 

「うぐ! ぐぐぐぐ!」

 

 と死体が呻いたかと思うと、ふっと死体から力が抜けた。

 

「このガキがぁ!」

 

 老婆――ハナエが叫び、火のついた葉巻を思い切り吸うと、その煙を零那(れいな)たちのほうに向けて吹きかけた。

 煙――いや、黒煙といってもいいほどの真っ黒なそれは、カマを持った死神の形となって零那(れいな)たちに襲い掛かってくる。

 それが、三体。

 そのうちの二体が零那(れいな)の方へ向かってくる。

 

 零那(れいな)はとっさに法螺貝を口にあて、そこに空気を吹き込んだ。

 

 プオオオーーーーン!!

 

 その音は衝撃波となり、死神の煙に激突すると、死神たちを雲散霧消させた。

 もう一体はトメとトメが抱き留めているヤミの方へ。

 

「こわいいい!」

 

 ヤミがトメの手からするりと逃れ、頭を抱えてしゃがみこむ。

 まずい、間に合わないかも、と零那(れいな)が思った瞬間。

 

「私だってS級だ!」

 

 そう叫んでトメが取り出したのは、ハンディクリーナー。

 予備として荷物に入れていたものを腰に下げていたのだ。

 スイッチを入れると、トメの霊力を動力源としてそのモーターが作動する。

 クオオオン! というモーターがうなり、襲い掛かってくる死神の煙を吸い込んだ。

 だが死神のすべてを吸い込み切ることができない。

 

「クッ! 容量が……!」

 

 死神の上半身まで吸い込んだところで、ハンディクリーナーがプスプスと煙を吐き始める。

 

「これ以上は故障する……!」

 

 トメはモーターを止める。

 死神の煙は半分ほど吸い込まれたが、もう半分は残っていた。

 そいつがまた形をかえ、さきほどより一回り小さい死神となった。

 もう一度カマを振りかざす煙の死神。

 そこに。

 トメの背後から、寒風が吹いてきた。

 つららだった。

 つららが、氷のブレスを吐いたのだ。

 それは煙の死神を包み込む。

 煙は氷点下数十度まで急激に冷やされ、煙ではなく、細かな氷の粒となる。

 

「よくやった、つらら!」

 

 トメは叫んで、腰の後ろに横差しにしていた短剣を抜く。

 

「氷の粒でも――斬れるモノならば斬れる!」

 

 トメが短剣で氷の粒で形づくられた死神に素早い動きで何度も斬り付ける。

 

「ギィィヤァァ!!」

 

 切り刻まれた死神が断末魔をあげた。

 

 その直後、零那(れいな)が叫んだ。

 

「さすがトメさん! つららちゃん、こっちに来て!」

 

 呼ばれたつららは、

 

「え? つららがそっちに行けばいいの?」

 

 よくわかっていない表情で零那(れいな)にトトト、と駆け寄る。

 

「つららちゃん! このご遺体をトメさんにしたみたいに氷のボールで覆って! めちゃくちゃ冷やして!」

「え? いいけど……」

 

 つららはヤミの死体に近寄ると、その死体に手を触れる。

 すると、つららの白い髪の毛がグングンと伸びて、つららの身体ごとヤミの死体を包み込んだ。

 不透明な、白い球体のできあがりである。

 

羽衣(うい)! 一緒に被甲護身(ひこうごしん)をかけるわよ!」

「うん、わかったよお姉ちゃん! ハイヨーシルバー!」

 

 羽衣(うい)がペチンとカブトムシの頭をはたくと、カブトムシが六本の足でガサガサと動き始める。

 零那(れいな)の近くまで来ると、羽衣(うい)はひらりとカブトムシから飛び降りた。

 

 二人の山伏が並び、同時に印を結んで真言を唱える。

 

「「オン バザラ ギニ ハラチ ハタヤ ソワカ!!」」

 

 とたんに、つららとヤミの死体を包んだ氷の球体が、バチバチッ! という火花に覆われ、直後、二重の防護法術がそれを包み込んだ。

 

 零那(れいな)羽衣(うい)、最高峰の力を持つ山伏(やまぶし)が最高の防護法術を施したのだ。

 よほどのことがない限り、ヤミの死体は守られるだろう。

 

「ヤッちゃんの身体はもらったわ! さあ、ハナエさん、観念してもらうわよ!」

 

 ところが、老婆は不敵な笑みを浮かべた。

 

「ひゃひゃひゃひゃ。その身体はすでに本人の魂から離れ、霊的な所有権は儂が持っておると言っておるだろう。無駄じゃ」

「いいえ、ヤッちゃんにこの身体を返してもらう!」

「もはや、そのおなごの魂と死体は完全に切り離されておるのじゃ。霊的にはまったく関連のない二つの存在となっておる。返すも何も、もう無理じゃよ。それに……今から、お前らは儂に殺されるんじゃからな!」

「ふん、ハナエさん、今のあなたじゃ……」

「そうじゃ。儂だけでは無理じゃ。だが……儂の愛する奇跡の子なら、それをやり遂げてくれるじゃろう!」

「は? 誰ですって!? この周辺にはもう、あなたくらいしか霊力を持つ存在はいない――」

 

 零那(れいな)が言いかけたとき、虹子の立っていた地点の天井から、破片が落ち始めた。

 

「…………くっ!」

 

 異変を感じた虹子はとっさに魔導銃を壁に打ち込む。

 そして虹色の綱に引っ張らせて自らの身体を移動させる。

 それとほぼ同時に、天井がガラガラと崩れ落ち、そこに降り立ったのは――。

 

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