パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第121話 それ私の身体にかけてないよねえ!?

 トメは腰にぶら下げていた掃除機のダストカプセルを取り出す。

 本体は溶岩の熱で壊れてしまったが、カプセルの予備は自転車のトレーラーに積んであったものがまだあったのだ。

 

「この中には妹山伏に霊力を封じ込めてもらっている。これを使う」

「え? え? え?」

 

 ヤミはなにがなんだかわかってないようだったが、虹子は硬い表情で頷いた。

 そして、胸のポケットから一つの弾丸を取り出す。

 弾丸の表面には梵字のようなものが浮き出ている。

 

「これもね……羽衣(うい)ちゃんに祈祷してもらった弾丸。羽衣(うい)ちゃんの霊力がパンパンにつまってるんだよ。自転車の上でやってもらったから時間がなくて一発だけだけど……これがあれば!」

 

 虹子は弾丸をおでこにチョンと当てると、

 

「これがあれば絶対に勝てる!」

 

 そう言って小銃のチャンバーを開き、そこに装填する。

 コッキングレバーを引くとカシャン、と音が鳴った。

 安全レバーを目視する。

 そこには『ア』『タ』『レ』『3』と書いてあった。

 『ア』は安全装置、『タ』は単発、『レ』は連射、『3』は三点バーストのモードのことだ。

 虹子はレバーを『タ』に合わせる。

 

「虹子、同時にやるぞ」

「わかったよ、トメさん。狙いはどっちがつける?」

「今は入れ墨の彫師やってる双子の姉がいてな……」

「は? 何の話?」

「お姉ちゃんたちはビリヤードが好きでいつも付き合わされてたんだ。私がやろう」

「よし、じゃあ任せたよ!」

 

 

忍忍(にんにん)!」

 

 トメは指を組んで印を結んだ。

 山伏である零那(れいな)が組む印とほぼ同じものである。

 歴史的に見れば、ニンジャの術にも修験道の技術が取り入れられており、その意味でトメの忍術と零那(れいな)たちの法術とは相性が良かった。

 トメが念ずるとトメの身体を青い光のようなオーラが包み込んだ。

 その間にも氷の球体は次々と飛ばされてくる針をはじき返している。

 

「よし、やるぞ!」

 

 トメが球体に右手を当て、左手でダストカップを持ちその留め金に指をかける。

 同時に虹子が小銃を球体に向け、狙いをつける。

 

「え? え? え? まさか? この中に私の身体が入ってるんだけど!?」

 

 ヤミが抗議の声を上げる。

 

「ごめんね、ヤミちゃん。でもね……お姉さまと羽衣(うい)ちゃんが防護魔法を重ね掛けしたこれね……多分今地球上で一番硬いから!! いくよ、トメさん!」

「OKだ!! 一、二の……三!」

 

 虹子が小銃を球体に打ち込むのと同時にトメがダストカプセルの蓋を開ける。

 閃光があたり一帯に放たれた。

  

「やめ……眩し!」

 

 ヤミが目を抑えて転がる。

 

 ヤミの死体が入っている球体は、まるで砲弾のように発射された。

 

 

「馬鹿な……!」

 

 ハナエが目を見開いて驚きの表情を見せた。

 この老婆にとっても、予想外の攻撃方法だった。

 ヤミの死体は彩華(あやか)にとってはもちろん、零那(れいな)たちにとっても最優先で守らなければならないもののはずであった。

 だからこそ、零那(れいな)羽衣(うい)が防護魔法――被甲護身(ひこうごしん)を重ね掛けしたのだと、ハナエはそう思い込んでいた。

 しかし、零那(れいな)たちの狙いはそれだけでなかった。

 完璧な防護魔法で守られたこの球体は、今や、この地球上でもっとも恐るべき砲弾となっていたのだ。

 もちろんそのスピードは音速を軽く超えるものだった。

 反動で虹子の軽い身体が後方に吹っ飛ばされたほどだ。

 トメは魔力でなんとか踏んばるが、トメが履いている足袋の下で床の石材がピキッとひび割れた。

 

 ハナエはしかし、その猛烈な速度の砲弾の動きを見極めていた。

 

「くひゃ!」

 

 蘇った死体とは思えぬほどの瞬発力で、その場から飛び跳ね、壁に貼り付いた。

 

 だが。

 

「そっちに逃げると思ってたぞ!」

 

 球体はハナエがいた場所の床に当たり――そして。

 

「ぐおおおおお!」

 

 トメが猛獣のような唸り声とともに魔力を発動する。

 

 球体が、床でありえない方向に跳ねた。

 まるでビリヤードの球のように。

 

 そして――。

 

 その軌道は、逃げた先のハナエを確実に捉えていた。

 

「エシュ様……!」

 

 ハナエの老いた――いや、死んだ身体が、球体の直撃に耐えられるわけもなかった。

 

 バチン! という破裂音とともに、球体と壁に挟まれたハナエの身体が潰される。

 血は飛び散らない。

 枯れた木の枝のような破片が飛び散っただけだった。

 

 ただ、ハナエの首だけは破壊されずに、大きく吹き飛ばされた。

 それは、反動で吹き飛ばされて床に倒れていた虹子のすぐそばまで転がってくる。

 

 ハナエは首だけになりながらも、燃えるような怒りの表情を浮かべ、低くしゃがれた声で、

 

Laroyê(ラロイエ)Exu(エシュ)Exu(エシュ)……」

 

 虹子に向けてなんらかの魔法を唱えようとする。

 

 痛みと衝撃で朦朧となりながらも、虹子はほとんど本能だけで身体を起こす。

 血まみれの身体が、プルプルと震えている。

 小銃も飛ばされて手元にはない。

 だが、まだ腰に拳銃がある。

 虹子は腰からその魔導銃を抜いた。

 距離一メートルの至近距離。

 

 虹子は照準をハナエの額に合わせ、ためらいもせずに引き金を引いた。

 

 パシュゥン! という軽い音ともに虹色の弾丸が撃ちだされ、ハナエの眉間に穴が開いた。

 

 怒りの表情を浮かべたまま、ハナエは再び死体へと戻った。

 

 虹子は大きく息を吐く。

 そしてそのまま床に倒れこんだ。

 体中に針を撃ち込まれているのだ。

 もはや、立っていることもできなかった。

 それはトメも同じで、魔力を使い果たしたトメはその場で倒れている。

 

 

 球体が激突した床の石材は粉々になって砂のようになり、そこには深さ一メートル以上あるクレーターのような穴があいていた。

 壁も同じように粉々になって破壊され、しかし球体は傷一つもなくそこに転がっていた。

 

「私の身体~~! ひどいひどいひどい!」

 

 球体に駆け寄っていく霊体のヤミ。

 その球体の中から、なにか声が聞こえてきた。

 

「あのねあのね、今の何……? グワングワンってすごいことになって……つらら、吐きそう……あ、吐く……おろろろろろ」

「待ってえ! それ私の身体にかけてないよねえ!?」 

 

 

     ★

 

 

 そんな虹子やトメの闘いを、零那(れいな)たちは見ていなかった。

 それどころではなかったのだ。

 

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