パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第123話 マニフィカト

 朱雀院彩華(あやか)は、かつて感じたことのないほど大きな高揚感に包まれていた。

 石の赤ん坊を産んでからすでに二十数年の時が過ぎている。

 そのあいだずっと切望し、求め続けていた我が子の顕現。

 

 敬愛するエシュ様の子。

 なによりも大切な我が子。

 

 そのために人生のすべてを捧げ続け、多くの人間――一流の探索者を目指す若者――の命を奪い続けてきた。

 若者たちの夢や希望や想いを摘み取ってきた。

 

 彩華(あやか)はすでに気づいていた。

 自分自身が狂っていることを。

 愛と信仰のために正気を捨て去っていることを。

 だが、信仰を成し遂げるのに正気など必要だろうか?

 真の信仰が、狂気なくして成立するだろうか?

 

 エシュへの愛、我が子への愛が自らを狂わしているのならば、それは正義の狂気だと信じていた。

 

 目の前にいる二人の山伏(やまぶし)

 彼女たちの魂を奪えば、ついに彩華(あやか)の悲願が達成されるのだ。

 

 ――赤ちゃん。私の、赤ちゃん。

 ママが、今起こしてあげるわ……。

 さあ、今こそ再び誕生するときなのよ……。

 

 そうしようとも思っていなかったのに、彩華(あやか)の口から言葉が紡がれた。

 

「Magnificat anima mea Dominum.《わが魂は主を崇める》」

 

 それは、曲だった。

 彩華(あやか)の頭上に浮かぶ天使の輪がさらにいっそう強い光を放つ。

 目が眩むほどのまばゆい光が彩華(あやか)を中心としてダンジョン内を照らした。

 

 ヴァイオリンやヴィオラやトランペット。

 ここにあるはずのない楽器が旋律を鳴らした。

 彩華(あやか)のほかには誰もいないはずなのにそれは合唱となって聖歌が響き渡った。

 

 氷の球をひっかいていたヤミがハッと顔をあげて呟く。

 

「バッハ……? どこから……?」

 

 ダンジョンの通路は今や、聖歌の歌と楽器が満ち溢れる場所となっていた。

 

「なによこれ……」

 

 眉をひそめる零那(れいな)彩華(あやか)はにっこりと笑顔で答える。

 

「奇跡よ……エシュ様も我が子の生誕をお喜びになっているわ……」

 

 そして、さらに高らかに聖歌を歌い上げる。

 

「Et exsultavit spiritus meus in Deo salutari meo.《私の霊は救い主である 神を喜びたたえる》」

 

 彩華(あやか)の表情はほがらかで明るく、すべての悩みから解放されきった、すがすがしさすら感じさせるものであった。

 

 実際、彩華(あやか)は多幸感に包まれていた。

 私は今エシュ様に祝福されている、と思った。

 

 奇跡の子が今、復活しようとしている。

 

 彩華(あやか)の頭上に輝く天使の輪は強いオーラをまといながら強く輝き、長い茶色の髪の毛は宙に舞い、漆黒の修道服すら聖なる光につつまれて明るく見えた。

 

 彩華(あやか)の胸を満たしているのは、ただ、愛だけであった。

 

 エシュへの、そして自分がおなかを痛めて産んだ赤ん坊への。

 

 乳首の先がぴりぴりと痛痒くなるのを感じた。

 二十数年の時を経て、ついに我が子へ授乳するときがやってきたのだ。

 彩華(あやか)は三又の矛をふりかぶり、それを零那(れいな)に向けて突き出した。

 この一撃は彼女の命を奪うだろう。

 いや、天国へ葬送するのだ。

 土着の神や仏などを信仰する邪教の僧はついに真実の教えに触れ、愛のあふれる天国へと到達できるだろう。

 すべての者を幸福へと導く、精霊の慈悲なる攻撃だった。

 錫杖を持ち、法螺貝を胸にさげ、赤と白の装束に身を包んでいる邪教の僧。

 黒髪のポニーテールが彩華(あやか)のオーラで強くなびいている。

 愚かで哀れな邪教徒よ、今私が救いの道へ、天国へ送ってあげるわ――。

 

 零那(れいな)の黒い瞳は彩華(あやか)の瞳をまっすぐ見つめてきている。

 

 ――さあ、おわりよ――。

 

 命を穿つ矛の先が、今零那(れいな)の胸を刺し貫こうとしていた。

 

 

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