パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件 作:羽黒楓
狂気に満ちてはいる。
だけど、そこに欲望はないように思えた。
自らの霊力どころか生命力すべてを燃やしている。
その力があふれ出て音楽となり、辺り一帯に響き渡っていた。
その結果、自分が死ぬことになってもかまわないと思っているのだ。
実際、この一撃の後、
――我が子のために。
「お姉ちゃん、よけてぇ!」
それでも
攻撃だとか防御だとか、そんなことは考えていなかった。
ほかのことを考えていた。
羨ましいわね……。
そう思っていた。
母とは、親とはかくあるべきなのかもしれない。
『
『友だちなんて作っちゃダメ。
『修験道を頑張れば神様や仏様が見ていてくれるのよ。それ以外考えちゃダメ。小説なんて読んじゃダメよ。漫画なんてもってのほか。こっそりおばあちゃんに買ってもらったんでしょ? それ全部捨てておいたから。お母さんを悲しませないで』
『修験者がおしゃれしていいわけないでしょう! すぐに脱いで! お母さんがいやなことしちゃだめよ』
『お母さんが』
『お母さんの』
『お母さんを』
主語はいつも『お母さん』だったなあ。
私は私のために生きているんじゃなくて、お母さんのために生きてるみたいで。
それでも子供のころはそれが当然と思い込んでいて。
お母さんは本気で自分のことを考えていてくれてるんだって思い込んでた。
大人になった今はわかる。
私がお母さんのために死ぬことはあっても、お母さんが私のために死ぬことはないだろう、という確信。
我が子のために自らの命を燃やし尽くす、そんな三又の矛が
母たる愛情をすべて込めたその攻撃も、化け物じみた強さを持つ
なんの意味ももたなかった。
「ぐっ……! 絶対に! 絶対に! 絶対に! 私の赤ちゃんをぉぉぉぉっ!」
大きく見開いた目は血走るどころか血液を噴出している。
「ガアアァァァァァァァァッ!!」
人生を、命を賭した
それでも。
トメも。
ヤミのことだってヤミの母親に頼まれている。
負けてあげるわけにはいかない。
「
「お姉ちゃん!」
矛の穂先をつかんだままの
それは空中でピタリと静止して浮かんだ。
そのままその手で
その手は暖かく柔らかかった。
親がどうだろうと、血を分けた妹の――家族のぬくもりを、
「
「うん!」
二人の
「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタトラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバビギナン・ウン・タラタ・カン・マン!!」
これを切れ目なく何度も繰り返して唱えていく。
「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタトラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバビギナン・ウン・タラタ・カン・マン、ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタトラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバビギナン・ウン・タラタ・カン・マン!!」
その詠唱は、まるで美しい歌のように空気に満ち、聖歌を上書きしていく。
手を握り合う二人の姉妹の間に、炎が巻き起こった。
ただの炎ではない。
霊鳥の王、ガルダ――
不動明王の背後で燃えさかるのはこの炎なのである。
それでも
「今、お母さんが助けてあげるからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫ぶ。
だが。
そして。
「終わりよっ!」
「まだ……まだ……!」
「
白い翼は黒く焼き焦げ、頭上に浮かんでいた天使の輪にはヒビが入って割れた。
翼を焼かれた哀れな母親は、
もはや聖歌は消え去っていた。
「アアアアアァァァッ! お母さんが……お母さんが……助けて……あげるのよお!!!」
それでも焼けこげた翼を動かし、それで地面を這いずるように
「
孔雀は毒を喰らうと言う。
目の前にいる人の子の母。
朱雀院
あるとしたら、我が子のために他者の命を奪うと決めたその心。
毒なのか愛なのか。
それを毒と呼んでいいのであれば。
「クーちゃん!」
そのまま
「オン マユラ キランデイ ソワカ!」
「
すると
瞬間、
「セーマン!」
横から
それでもまだ立ち上がろうとする
「まだ……まだなの……まだよお……お母さんは……あなたを……助けるのお……」
片膝立ちになった
「
煌めく光の粒が
そしてその光の粒は花火のようにその場で弾けて、一層明るい光の残像を残して消え去って行った。
「ア……ア……ア……アア……」
戦いの終わりだった。