パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第126話 所有権

「……ヤッちゃん、どこまで思い出したの?」

 零那(れいな)はヤミに尋ねる。

 ヤミは目を伏せた。

 そして、呟くように言った。

 

「私の名前は……大平(おおだいら)深夜(みや)。高校一年生。お父さんは大平(おおだいら)和幸、お母さんは小夜子。……お母さんに内緒でダンジョンのバイトして……そこにいる彩華(あやか)さんに騙されて……殺された……私、……死んでた……」

 

 ヤミ――いや、深夜(みや)の幽霊は、うつむいたままで少しの間黙り込む。

 虹子とトメはかける言葉もないようで、深夜(みや)から目をそらす。

 それに対して、零那(れいな)はあっけらかんとした声で言った。

 

「いやいや、まあ死んでるけど。死んでないよ。だって、ヤッちゃんの身体、まだそこにあるもの」

 

 零那(れいな)は氷の球体を指さす。

 そこに、彩華(あやか)が、拘束されて息苦しいのか、絞り出すような声を出した。

 

「……身体はあっても、魂とあの死体はもう切り離されてるのよ……あの身体は私の赤ちゃんのためのものなの……」

 

 零那(れいな)は片眉を上げて言う。

 

「赤ちゃんっていったいなんなの? 誰の子ども?」

「私よ……私が、エシュさまと交わって得た、私の子ども……」

「神様との子どもってこと!? 昔話でしか聞いたことないわ……すごいことするわね……で、なんでヤッちゃんの身体が必要だったの? 産まれてきたならそのまま育てればいいじゃないの」

「……私の力が足りなかったのよお……。産まれてきてすぐに石化してしまったの……でも、魂はまだ生きている……だから、壺に入れてスライムで包んで、保管していたの……。あの子は、そこの幽霊と同じ年同じ日に産まれた……。ねえ、零那(れいな)さん、お願いがあるの……私が悪かったわ。でも、赤ちゃんには罪はないわ。私を殺してもいい……いえ、私の魂の力をぜひ使って……赤ちゃんの魂をあの死体に移してほしいの……お願いよお……」

 

 それを聞いて、深夜(みや)が立ち上がって叫んだ。

 

「なに言ってるの! あの身体は私の! 私の身体に知らない人の魂を入れないで! 私に帰してよ!」

「それは無理よお……」

 

 彩華(あやか)はすぐにそう答えた。

 

「あなたには悪いけど……あなたは死んで幽霊になった。魂と死体は分離するともう戻れないわ……。もう、何の関係もない二つの存在になるのよ……」

「あなたの赤ちゃんはもっと関係ない存在じゃない!」

「あの子は精霊様と私の子……。聖なる存在の子どもなのよお……。ただの人間のあなたとは魂の力が違うわ……。あの子なら、関係のない身体にも入れるはず……。ねえ、深夜(みや)ちゃん。謝るわ。ごめんなさい。でも、あなたの魂はもうあの身体には戻れない。あの身体の所有権を一度手放してしまったのだもの」

「なに言ってるのお! 私、私……! あの時、彩華(あやか)さんを信じていたのに! ……少し、好きだったのに!」

 

 そう言うと、幽霊の深夜(みや)は走り出す。

 そして拘束されて床に転がっている彩華(あやか)のそばにくると、足を大きく振り上げた。

 

「この、この……! 人殺しぃ!」

 

 そしてつま先で思い切り彩華(あやか)の顔を蹴った。

 とたんに彩華(あやか)の鼻から血が噴き出す。

 同時に、そんなことを普段やったこともない深夜(みや)は足首をくじいたようで、

 

「いたた……!」

 

 と言ってその場にうずくまった。

 

 零那(れいな)深夜(みや)彩華(あやか)に蹴りを入れるのを止めもせず、静かに言った。

 

「ヤッちゃん、気が済んだ? ……まあ、殺されておいてそれで済むわけないか……」

 

 深夜(みや)は床に座り込んで、

 

「気が済むわけないよお! お母さん……お母さん……お母さん……」

 

 と言って大粒の涙を流して泣き始めた。

 

 彩華(あやか)は鼻血をだらだら流しながら、それでも懇願するように言った。

 

「もう、あなたは自分の身体には戻れない……。ごめんね……。私にはもう、あなたの魂が天国へいけるように祈るしかできないわ……。だから……。ね、零那(れいな)さん。あの死体を……このまま腐らせるつもり? それとも、ずっとああやって冷凍保存するの? ……お願い。私の赤ちゃんを……あの身体に……」

 

「ずいぶんムシのいいことをいうんだな」

 

 トメが冷たい声でそう言った。

 それはそうだろう、彩華(あやか)のせいで何度も死にかけたのだ。

 自慢の長いツインテールも溶岩の熱で焼け焦げて今はぼさぼさのショートカットになっている。

 

「おい、山伏(やまぶし)。こいつ、本当に殺さないのか? 私としてはそうしてもらいたいところだ。罪のない赤ん坊には悪いが、そいつの言う通りにしてやる義理など一ミリもないしな」

 

 零那(れいな)はすぐに答える。

 

「殺さないわよ。私は山伏(やまぶし)よ。神様と仏様に使える一介の修験者。人の罪を裁くのは私の仕事じゃない」

 

 治療の終わった虹子が口を挟む。

 

「でもさ、こいつ、すごい数の人を殺しちゃったんでしょ? なにあの死体の山。しかもそれをつなぎ合わせてモンスターに操らせたりして……最悪。私も殺しちゃってもいいくらいの気持ちだよ」

 

 零那(れいな)は困ったような顔で答える。

 

「気持ちはわかるわよ。でもね、私は神様でも仏様でもない。人を裁くのは山伏(やまぶし)の仕事じゃないわ。今この現代日本で、生きている人間を裁くことができるのは……国民の信託を受けた裁判官だけだわ……。それとも、虹子さん、トメさん、どっちかが今ここでこの人を殺す?」

 

 聞かれて虹子もトメも零那(れいな)から目をそらす。

 

「それは……まあ言われてみればお姉さまの言う通りかも……」

「だから、この人は生きたまま地上に連れて行くわ。きっと、被害者はヤッちゃん以外にもたくさんいる……。被害者の家族のためにも、その人たちがどう殺されたのか、きっちりと取り調べしてもらいましょう」

 

 格子でサンドイッチにされている彩華(あやか)は、それでも懇願をやめない。

 

「いいわ……それでもいいわ。きっと私は死刑になるでしょう。それでもいい。でも、私の、私の赤ちゃんだけは……」

 

 その言葉を無視するかのように零那(れいな)は言った。

 

「ああ、そうそう、つららちゃん、もう出てきてもいいよ。その身体、ヤッちゃんに返すから」

 

 彩華(あやか)がかすれた声で、

 

「だから、それは無理なのよお……」

 

 それに対して、零那(れいな)はこともなげにこう言った。

 

「何言ってるの。最初から、あなたに勝ち目はなかったのよ。だって……ヤッちゃんは、自分の身体の所有権、ずっと持ってたから」

 

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