パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第127話 悪趣味

 零那(れいな)は氷の球体に近づき、それをコンコンと軽く叩いた。

 

「つららちゃん、もういいわよ。お疲れ様」

 

 すると、球体の中から、くぐもったつららの声が聞こえてきた。

 

「いいの? ほんと? もう怖いことない?」

「ないわ。みんな私がやっつけたから」

「ほんとに? 出て行ったら私がやっつけられるなんてことない?」

「大丈夫大丈夫。つららちゃんのおかげで助かったわ」

「ほんとにほんとにほんとに? かき氷にされない?」

「しつこいなあ……けっこう怖がりなのね……大丈夫だってば」

 

 しばらくしてから氷の球体の一部が割れ、そこからつららが頭だけ出して周りをキョロキョロ見る。

 それでようやく安心したのか、

 

「うん、大丈夫そ。じゃあ……」

 

 とつららが言うと、パリン、と球体が割れた。

 

 中から出てきたのは雪女のつららと、そして深夜(みや)の死体。

 

「あのねあのね! つらら、我慢してこの死体食べなかったよ! 偉いでしょ! 褒めて褒めて!」

 

 それを聞いて幽霊の深夜(みや)が歯をむき出して怒り始めた。

 

「当たり前でしょ! 私の身体なんか食べちゃったらバラバラにしてコーラの氷にしてやるんだから! あとさっきゲロ吐いてなかった? 私の身体にかけてないよねえ!?」

 

「え、ちょっとかかった」

「嫌ぁ!」

「でもほら、最近なにも食べてなくて氷の粒しか吐かなかったから大丈夫だよ。ちゃんと手で払っといたから大丈夫」

「ほんと? ちょっと梅干の臭いするけど! さっき食べてたじゃん!」

「うるさいなあ。つらら、あんたの身体を食べるのをガマンしてあげたんだからそれだけでいいでしょ」

「あーもーサイアク! 信じらんない!」

 

 言い争う二人を見ながらトメが肩でため息をつき、呆れた顔をして、

 

「まあまあ……。つらら、お前はちゃんとこいつの身体を守ってくれたんだな。それに、これのおかげであのばあさんにも勝てた。礼を言うよ」

 

 褒められたつららは嬉しそうに笑って、胸を張った。

 

「さすがトメお姉さん! つららの偉さをわかってる! えへへ、つらら、がんばったよ!」

 

 深夜(みや)は不満そうに唇を尖らせて、

 

「褒めるのもいいけど、ちゃんと叱るところは叱ってよ!」

 

 と苦情を言っている。

 そのあいだにも、零那(れいな)羽衣(うい)、それに虹子の三人は、トレーラーに積んで持ってきていたバスタオルを床に敷き、その上に深夜(みや)の死体を横たわらせていた。

 なにも身に着けていない15歳の身体。

 手足は細く、胸も薄い。

 死んでいるのだから当たり前だが、血の気はなく真っ白だ。

 ただ、何年も前に死んだとは思えないほど鮮度は保たれていて、腐敗しているような様子はまったくない。

 その上からもう一枚、バスタオルをかけてやる。

 

「さて、と……」

 

 零那(れいな)伊良太加念珠(いらたかねんじゅ)を手に、その死体の前にあぐらをかいて座った。

 

「ヤッちゃん、こっちおいで。私のとなりに座りなよ」

「え? うん……」

 

 少し離れたところで拘束されている彩華(あやか)が息苦しそうな声で言う。

 

「無駄よお……その身体の所有権はもう、その幽霊にはないの……」

 

 零那(れいな)彩華(あやか)の方をふりむいてふふっと笑った。

 

「いいえ。この死体の所有権は間違いなくまだヤッちゃんが持っているわ。あなたのものになったことなんて、ない」

「死んで魂は身体から完全に分離したのよお。身体と魂との紐付けは完全に切れているわあ……」

「違うわ。ヤッちゃんはね、死んだ後もずっと自分の身体を所持していた。だから、魂と身体は切り離されていない」

「そんなことはありえないわあ……。どうせ、爪とか髪の毛とかを持っているとかでしょお? そんな死んだ細胞ではそういう効果を発揮しない……。生きているうちに健康な指を一本切り落としてそれを持っていたとか、そのレベルじゃないと、魂と身体のリンクは切れるのよお……」

 

 もちろん、見たところ深夜(みや)の死体には欠損している部分などない。

 しかし、零那(れいな)は余裕そうな笑みを見せた。

 

「ね、ヤッちゃん。私はね、ヤッちゃんのそのゴス趣味……まあかわいいけどさ。でも悪趣味だなあとも思ってた」

 

 それを聞いて、深夜(みや)はまたも口を尖らして言う。

 

「かわいいからいいじゃないの」

「うんうん、似合っていてかわいいわよ。それに、ヤッちゃん、笑うとすごくかわいいし」

「それはありがと。でも、いったいなんの話してるの?」

「だからさ。ヤッちゃんのその悪趣味がヤッちゃんを救うって話。ヤッちゃん、ちょっと笑って見せてよ」

「はあ?」

「いいからいいから。ほら、私みたいにこうやってニカーッて笑ってみて」

「おもしろくもないのに……」

「これから生き返れるんだから面白いでしょ! ほらほらほら!」

 

 深夜(みや)は頭の上にはてなマークを浮かべているような表情で、

 

「こう?」

 

 と歯を見せて笑って見せた。

 零那(れいな)は満足げに頷き、

 

「うんうん。ヤッちゃんって美人よねえ。いまはまだ美少女って感じだけど、もう何年かしたらすごくモテそう」

「え~~? そうかなあ? えへへ」

 

 今度は本気の笑いを見せる深夜(みや)

 零那(れいな)はその表情を見て、

 

「うんうん、歯並びが綺麗だし美少女よ。……でもね、ヤッちゃん。私、ヤッちゃんの家で、小学生の頃のヤッちゃんの写真を見たんだけど。あの八重歯のヤッちゃんもかわいかったよ」

 

 言われて、深夜(みや)はハッとして口元を手で覆った。

 零那(れいな)は続けて言う。

 

「ヤッちゃん、歯並び悪いのがコンプレックスだったんだよね? で、お母さんに頼んで歯列矯正したんだよね?」

 

 それを聞いて、拘束されている彩華(あやか)が目を見開いた。

 

「まさか……!」

 

 零那(れいな)はさらに続ける。

 

「歯列矯正って、健康な歯を抜いて隙間を作って針金で固定して……時間をかけてなおしていくんだよね。で、ヤッちゃん。()()()()()()()()()、どうしたの? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それは……」

 

 深夜(みや)は首にかけているペンダントをギュッと握った。

 その瞬間、霊体である深夜(みや)の〝実在感〟が増すのが零那(れいな)には分かった。

 深夜(みや)はペンダントを握りしめたまま、呟くように言う。

 

「お母さんにお願いして……業者さんを探してもらって……これに……」

 

 握りしめたペンダントがぼんやりと発光して、深夜(みや)の指の間から光が漏れ出てきた。

 

「……ペンダントに加工してもらったんだよ」

 

「そんなことを!?」

 

 彩華(あやか)は愕然とした表情を見せた。

 

「そんな……歯……永久歯……? 健康な状態の永久歯を抜いて……霊体が持っていた……?」

 

 零那(れいな)は力強く頷いた。

 

「そう。ヤッちゃんはずっと自分の歯を持ってた。健康な永久歯を抜いて、ペンダントに加工して、しかも神社でお祓いまでしてもらって。しばらくはお母さんが預かっていたけど、ほら、見て。今回の洞窟探検のあいだ、ずっとヤッちゃんは自分の歯を持っていたんだもの、すごく馴染んでいるわよ。幽霊が自分の肉体の一部を持っていた――この意味、彩華(あやか)さんならわかるわよね? ……羽衣(うい)! 行くわよ!」

「うん、お姉ちゃん!」

 

 零那(れいな)の隣に座っている深夜(みや)の幽霊を挟み込むようにして羽衣(うい)が反対側にあぐらをかいて座る。

 

 そして、真言を唱え始めた。

 

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