パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件 作:羽黒楓
「つららちゃん、もういいわよ。お疲れ様」
すると、球体の中から、くぐもったつららの声が聞こえてきた。
「いいの? ほんと? もう怖いことない?」
「ないわ。みんな私がやっつけたから」
「ほんとに? 出て行ったら私がやっつけられるなんてことない?」
「大丈夫大丈夫。つららちゃんのおかげで助かったわ」
「ほんとにほんとにほんとに? かき氷にされない?」
「しつこいなあ……けっこう怖がりなのね……大丈夫だってば」
しばらくしてから氷の球体の一部が割れ、そこからつららが頭だけ出して周りをキョロキョロ見る。
それでようやく安心したのか、
「うん、大丈夫そ。じゃあ……」
とつららが言うと、パリン、と球体が割れた。
中から出てきたのは雪女のつららと、そして
「あのねあのね! つらら、我慢してこの死体食べなかったよ! 偉いでしょ! 褒めて褒めて!」
それを聞いて幽霊の
「当たり前でしょ! 私の身体なんか食べちゃったらバラバラにしてコーラの氷にしてやるんだから! あとさっきゲロ吐いてなかった? 私の身体にかけてないよねえ!?」
「え、ちょっとかかった」
「嫌ぁ!」
「でもほら、最近なにも食べてなくて氷の粒しか吐かなかったから大丈夫だよ。ちゃんと手で払っといたから大丈夫」
「ほんと? ちょっと梅干の臭いするけど! さっき食べてたじゃん!」
「うるさいなあ。つらら、あんたの身体を食べるのをガマンしてあげたんだからそれだけでいいでしょ」
「あーもーサイアク! 信じらんない!」
言い争う二人を見ながらトメが肩でため息をつき、呆れた顔をして、
「まあまあ……。つらら、お前はちゃんとこいつの身体を守ってくれたんだな。それに、これのおかげであのばあさんにも勝てた。礼を言うよ」
褒められたつららは嬉しそうに笑って、胸を張った。
「さすがトメお姉さん! つららの偉さをわかってる! えへへ、つらら、がんばったよ!」
「褒めるのもいいけど、ちゃんと叱るところは叱ってよ!」
と苦情を言っている。
そのあいだにも、
なにも身に着けていない15歳の身体。
手足は細く、胸も薄い。
死んでいるのだから当たり前だが、血の気はなく真っ白だ。
ただ、何年も前に死んだとは思えないほど鮮度は保たれていて、腐敗しているような様子はまったくない。
その上からもう一枚、バスタオルをかけてやる。
「さて、と……」
「ヤッちゃん、こっちおいで。私のとなりに座りなよ」
「え? うん……」
少し離れたところで拘束されている
「無駄よお……その身体の所有権はもう、その幽霊にはないの……」
「いいえ。この死体の所有権は間違いなくまだヤッちゃんが持っているわ。あなたのものになったことなんて、ない」
「死んで魂は身体から完全に分離したのよお。身体と魂との紐付けは完全に切れているわあ……」
「違うわ。ヤッちゃんはね、死んだ後もずっと自分の身体を所持していた。だから、魂と身体は切り離されていない」
「そんなことはありえないわあ……。どうせ、爪とか髪の毛とかを持っているとかでしょお? そんな死んだ細胞ではそういう効果を発揮しない……。生きているうちに健康な指を一本切り落としてそれを持っていたとか、そのレベルじゃないと、魂と身体のリンクは切れるのよお……」
もちろん、見たところ
しかし、
「ね、ヤッちゃん。私はね、ヤッちゃんのそのゴス趣味……まあかわいいけどさ。でも悪趣味だなあとも思ってた」
それを聞いて、
「かわいいからいいじゃないの」
「うんうん、似合っていてかわいいわよ。それに、ヤッちゃん、笑うとすごくかわいいし」
「それはありがと。でも、いったいなんの話してるの?」
「だからさ。ヤッちゃんのその悪趣味がヤッちゃんを救うって話。ヤッちゃん、ちょっと笑って見せてよ」
「はあ?」
「いいからいいから。ほら、私みたいにこうやってニカーッて笑ってみて」
「おもしろくもないのに……」
「これから生き返れるんだから面白いでしょ! ほらほらほら!」
「こう?」
と歯を見せて笑って見せた。
「うんうん。ヤッちゃんって美人よねえ。いまはまだ美少女って感じだけど、もう何年かしたらすごくモテそう」
「え~~? そうかなあ? えへへ」
今度は本気の笑いを見せる
「うんうん、歯並びが綺麗だし美少女よ。……でもね、ヤッちゃん。私、ヤッちゃんの家で、小学生の頃のヤッちゃんの写真を見たんだけど。あの八重歯のヤッちゃんもかわいかったよ」
言われて、
「ヤッちゃん、歯並び悪いのがコンプレックスだったんだよね? で、お母さんに頼んで歯列矯正したんだよね?」
それを聞いて、拘束されている
「まさか……!」
「歯列矯正って、健康な歯を抜いて隙間を作って針金で固定して……時間をかけてなおしていくんだよね。で、ヤッちゃん。
「それは……」
その瞬間、霊体である
「お母さんにお願いして……業者さんを探してもらって……これに……」
握りしめたペンダントがぼんやりと発光して、
「……ペンダントに加工してもらったんだよ」
「そんなことを!?」
「そんな……歯……永久歯……? 健康な状態の永久歯を抜いて……霊体が持っていた……?」
「そう。ヤッちゃんはずっと自分の歯を持ってた。健康な永久歯を抜いて、ペンダントに加工して、しかも神社でお祓いまでしてもらって。しばらくはお母さんが預かっていたけど、ほら、見て。今回の洞窟探検のあいだ、ずっとヤッちゃんは自分の歯を持っていたんだもの、すごく馴染んでいるわよ。幽霊が自分の肉体の一部を持っていた――この意味、
「うん、お姉ちゃん!」
そして、真言を唱え始めた。