パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第133話 慣性の法則

「それでそれで、この彩華(あやか)ってやつがさー。私やトメさんに呪いをかけたってわけ。ほんとはお姉さまと羽衣(うい)ちゃんにも呪いをかけようとしたらしいんだけど、さすがお姉さま、普段からバリアみたいなのを張っていて無理だったみたいなんだよ」

 

 虹子は自転車トレーラーのカゴにつかまりながら、饒舌にしゃべり続けている。

 

「あ、お姉さま、もう少しスピード落として! 風切り音でうまく声が入らなくなっちゃう」

「はいはい……。ゆっくり行きますよっと」

 

 零那(れいな)は呆れながら返事をした。

 なにしろ、地下20階を出発してから今は地下7階まで来ている。

 零那(れいな)のおそるべき脚力は、たった半日でそれだけの距離を踏破したのである。

 

 四頭の牛にも自転車を牽かせているし、それに祭壇を破壊したからか、強力なモンスターが出現してこないというのも大きな要素ではあったが。

 ちなみに羽衣(うい)とトメは牛の背に乗っている。

 さすがに自転車トレーラーに五人つかまるのは狭すぎたからだ。

 

 ちなみにつららも牛の背に乗ろうとしたが、あまりに冷たすぎて牛が嫌がったのであきらめてトレーラーにつかまっている。

 

 だから、零那(れいな)の目からは、前に四頭の牛が走っていて、そのうちの二頭にそれぞれ羽衣(うい)とトメが乗っているのが見えている。

 

 羽衣(うい)のふわふわの髪の毛と、トメの焼けこげたショートカット。

 そしてチラッと後ろを振り返ると、虹子がトレーラーのカゴに掴まり、カメラに向かってずっとしゃべり続けている。

 

 反対側にはつららが捕まり、トレーラーに積んである荷物の上に深夜(みや)がちょこんと座っている。

 

 ちなみに『荷物』には光り輝く格子に挟まれて拘束されている彩華(あやか)も含まれている。

 深夜(みや)はなんだかボーッとした表情だ。

 トレーラーに乗り込むときも、「なんだか現実感がない」としきりに言っていた。

 無理もないわね、と零那(れいな)は思った。

 なにしろたった半日前まで、『死んでいた』のである。

 幽霊だったのに、突然肉体をとり戻した反動で、脳の処理が追い付いていないのだろう。

 それにしたって、と零那(れいな)は思う。

 早くお母さんに会わせてあげたいわね。ちゃんと家まで送り届けなきゃ。

 だんだんと気が急いてきた。

 虹子さんはゆっくり走れって言ってたけど、そんなこと言ってられないわ……。

 

 零那(れいな)はペダルにかけた足にグッと力を入れた。

 

「ちょっとちょっとお姉さま! 速い速い!」

 

  後ろから虹子の上げる抗議の声が聞こえてきたが、零那(れいな)はかまわずペダルを踏みこんでいく。

 零那(れいな)の漕ぐ自転車は、時速80キロを超えるスピードでダンジョンの中を進んで行った。

 

 

     ★

 

 

〈お、もう地下2階まできた〉

〈ニジーって話うまいよな。けっこう臨場感あふれてて〉

〈いまや登録者数が300万人超えてる〉

〈それは今回の探索で増えた分がかなりあるから〉

〈なにしろ地下20階まで潜った人間って今までにいなかったんだろ?〉

〈その前に朱雀院彩華(あやか)が地下20階に到達してたんだからこいつもすごい〉

〈精霊とのあいだに子供を産んだってやばすぎる話だろ〉

 

 配信についたコメントは、読み上げソフトによって倍速で読み上げられ、零那(れいな)が装着しているイヤホンにも聞こえてくる。

 子供……あの赤ちゃん……。

 零那(れいな)はそのことを思い出して、少し胸が痛んだ。

 石の赤ちゃん。

 間違いなく、魂を持っている。

 でも、その魂を入れる身体――同じ年、同じ月日に産まれた深夜(みや)の身体――はすでに持ち主の元に戻った。

 

「赤ちゃんには罪がないのにね……」

 

 自転車のペダルを踏みながら、零那(れいな)は独り言をつぶやいた。

 

 地下一階へ続く階段が見えた。

 

「みんな! また階段だから、ガタガタ揺れるわよ! 舌を噛まないようにね!」

 

 零那(れいな)は叫ぶ。

 まず羽衣(うい)とトメを乗せた牛たちが階段を駆け上がり、さらに自転車も階段を上っていく。

 あまりに酷使したせいで、250万円もしたダウンヒルバイクのフレームもさすがにきしみ始めている。

 なんとかこの探索の終わりまで持ってくれた。

 

「ありがとね」

 

 零那(れいな)たちはついに、地下一階へとたどり着いた。

 地上への出入り口まであと数分だ。

 

 その時。

 

 零那(れいな)たちは、そこに誰かがいるのに気が付いた。

 

「ええ!? 嘘!? なんで!? コウオツヘイテイちゃんたち、止まって!」

 

 それが誰なのかを確認した直後、零那(れいな)は急ブレーキをかけた。

 そして零那(れいな)が見たのは。

 慣性の法則に従って前方へと吹っ飛んでいく深夜(みや)とつららの姿だった。

 

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