パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第136話 ほどよく汚れた心の持ち主

「バー! ヒーバー! 教えて! どうすれば赤ちゃんを助けられるの!?」

 

 零那(れいな)は車椅子に乗っているヒーバーの膝にとりすがる。

 ヒーバーは困ったような顔をした。

 そしてトレーラーの上で拘束されている彩華(あやか)に向けて問う。

 

「うーん、んだのー……。マクンバの女よ、聞きたいことがある。赤ん坊はの、最初から石で産まれてきたんが? それともちゃんと普通の人間として生まれた後石化したんが?」

 

 彩華(あやか)の顔には少し生気が戻ってきていた。

 零那(れいな)たちの会話を聞いて、どうやら希望があるらしいと気づいたらしかった。

 彼女はすがるような目でヒーバーに答える。

 

「産まれた瞬間は、息をしてた……心臓も動いていた……」

 

 ヒーバーとバーは顔を見合わせ、二人同時に「うーん……」と考え込む。

 しばらくしてから、バーが口を開いた。

 

「多分……それは防御反応だったんだと思うあんけど、ママ、どう思う?」

「んだの。そう考えるのが自然だ。エシュ……精霊というか、まあ我々日本人にしてみれば神様の一種と考えていいが、神様と人間との子供。特別な存在だけど、神様そのものでも人間でもない存在。この娑婆では存在するのが難しかったんだろう」

 

 娑婆とはもともとサンスクリット語であり、仏教用語である。

 苦しみに耐えて生きなければならない現世のことを指す。

 

「ヒーバー、それってどういうこと?」

 

 零那(れいな)が聞くと、ヒーバーは答える。

 

「つまり、その赤ん坊はあまりにも無垢な心をもっていたんだろう。この現世というものは、生きるのにあまりにもつらい場所だ。その厳しさに耐えられぬほどの清らかさを持っている存在だんだ。だから、自分の心と身体を守るために自ら石となった……」

「どうすればいいの?」

 

 零那(れいな)の問いに、ヒーバーは黙って懐からたばこの箱を取り出す。

 中には糸状のタバコの葉が入っていて、ヒーバーはそれを器用にくるくると丸めると、キセルの先に詰め込んだ。

 そしてライターで火をつけると、一口煙を吸い込み、「ぷはーっ」と吐いた。

 

「ママ、たばこは身体に悪いよ。老後に病気になるからやめたら?」

「まだ若いから大丈夫だ」

 

〈待て待てこのばあさん、今いくつだよ〉

〈100歳近いんじゃなかったっけ〉

〈まだ生きるつもりでいるぞ〉

 

 零那(れいな)の耳に、イヤホンからコメントが聞こえてきた。

 そういえば、今配信中なのだった。

 ヒーバーはイヤホンをつけていないから、もちろん聞こえていない。

 

「でな、おそらく赤ん坊は純粋すぎるんじゃ。人間より神様の血が濃く出たのかもしれん。だから、赤ん坊にもっと俗な人間の部分を注入してやればいい」

「どういうこと?」

「心と身体にわざと不純物を入れてやればいい。移植だ。ただし、もちろん拒絶反応が出るから、それを霊力で抑えなければなんねあんよ。膨大な霊力……。儂や素笛那(ソフィーナ)はもう若くはないから、そんな霊力はない……もう中年だしの」

 

〈老年やろ〉

 

 コメントと同じツッコミが零那(れいな)の心にも浮かんだが、とりあえず口にするのはやめておいた。

 

「ねえ、ヒーバー。それ、私の霊力で足りる? そもそも不純物って……なに?」

「不純物……。つまり、人間の一部だ。ちょうどいいものがそこにある。わがんでろ?」

 

 ヒーバーの視線はブカブカ山伏(やまぶし)姿の深夜(みや)に向けられていた。

 零那(れいな)はすぐに気づいた。

 

「そっか……ヤッちゃんの歯ってことね?」

「そうだ。同じ年、同じ月日に産まれたおなごの身体の一部。適合しやすいものではある。しかもそのおなごは俗と欲にまみれているが、まみれすぎていない程度の、ほどよく汚れた心の持ち主」

 

 深夜(みや)はトメの隣に立ってポーッとトメの顔を眺めていたのだが、自分の悪口らしき言葉が聞こえてきたのにはすぐに反応した。

 

「汚れてないんですけど!?」

 

 それを聞いて零那(れいな)は思わずプッと噴き出してしまった。

 

「た、たしかに……ほどよく汚れているような……」

「私のどこが汚れてるの!?」

「いや、お金のために親に黙って危ないバイトするところとか」

「う……っ」

「高校一年生でゴスロリ趣味ってのも……。清らかな心の持ち主ならそうはならないわよ」

「うう……っ」

「で、ヤッちゃん。そういうわけで、そのペンダント、私たちに譲ってくれないかなあ? 赤ちゃん一人救うためなんだけど……」

「じゃー代わりになんか買ってください。これなんやかやで五万円くらいかかってるんで」

「そういうところが『ほどよく汚れた』っていうのよ……いいわよ、なにか買ってあげるわ。ヤッちゃん好みのすごく趣味の悪い奴」

「私は趣味がいいんです!」

 

〈♪ 趣味は悪いよ〉

 

「親からも言われてるじゃん……。まあいいわ、それで決まりね。で、具体的にはどうすればいいの?」

 

 ヒーバーはタンッ! とキセルを叩いて灰を床に落とす。

 

「ママ、行儀悪いよ」

 

 バーが呆れた顔をしている。

 ヒーバーはかまわずすました顔で、

 

「さっきも言ったが、適合しやすいとはいえ他人の身体の一部。拒絶反応はすさまじいものがある。それを霊力で抑え込むんだが、零那(れいな)、お前の霊力をすべて使い切るほどの量が必要だ。お前は霊力を失ってしまうかもしれん。それでもいいか?」

 

 考える間もなく、零那(れいな)の口は勝手に動いて即答していた。

 

「もちろん! 赤ちゃんを助けられるなら、私の霊力なんて全部使っていいわよ!」

 

 黙って聞いていた虹子が心配そうな声で零那(れいな)に言った。

 

「お姉さま、本当にいいの? 他人どころか、私たちを殺そうとしたやつの子どもだよ?」

彩華(あやか)さんは敵だったかもしれないけど、赤ちゃんはそうじゃないわ。別に死ぬわけじゃないんでしょ? 誰か一人を救うのに、霊力くらいいくらでも使ってあげるわよ」

「でも羽衣(うい)ちゃんの学費を稼ぐには、ダンジョン配信を続けられないと……」

「ウービーとパチンコで稼ぐから!」

「パチンコは控えた方がいいと思うけど」

 

 トメが大きなため息をついた。

 

「しょうがない。私も協力してやる。私の魔力だってそこそこあるはずだ。私のも使えばいい」

 

 すかさず羽衣(うい)も言う。

 

「もちろん私の霊力も使っていいよ! 今のお姉ちゃん、すごくかっこいい! 私も霊力全部なくなってもいいから赤ちゃんを助けたいよ!」

 

 それを聞いてヒーバーとバーはまた顔を見合わせて、

 

「困ったの。ひ孫たちには霊力をうしなってもらいたくねえ」

「でもママ、いいじゃない。この子たちがそうしたいならそうさせてあげるのもいいと思ってきたよ。この子たちは立派だよ」

「うーん、しょうがないの。そこの女、お前ももちろん霊力を提供すんなんろ?」

 

 ヒーバーが問いかけたのは彩華(あやか)だ。

 

「当たり前じゃない……私の魔力も命も全部あげるわあ……」

 

 そこで零那(れいな)はパチンと手を叩いた。

 

「命まではいらないわ。あんたにはもっといろいろ事件の全貌を話してもらわなきゃいけないし。でも、よし、決まりね! さっそくやるわよ!」

 

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