パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件 作:羽黒楓
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
地蔵菩薩の真言であった。
サンスクリット語ではクシティガルバと呼ぶ。
クシティとは大地のこと、ガルバとは子宮のことである。
日本においては子供の成長を願う、子供の守り神として広く知られている。
赤ん坊を復活させるために力を借りるのに、一番ぴったりな菩薩だった。
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
次いで虹子とトメも声を合わせて真言を唱えた。
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ、オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ、オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
四人の声がダンジョンの空気を震わせた。
護摩の炎がいっそう大きく燃え上がる。
そして。
次いで
虹子とトメの胸にも光が灯っている。
霊力が放つ光だった。
その光はしばらくそこにとどまり、そして流れるように
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
神聖な真言の声とともに、五人の霊力は音もなくすうっと石の赤ん坊に流れ込んでいった。
赤ん坊の首にかけられているペンダント――同じ日に産まれた女子、
そしてしばらくすると、ペンダントは発光しながら赤ん坊の身体と一体化していく。
ヒーバーには、たとえ赤ん坊が復活しなくても、全部の霊力を注ぎ込む必要はないと言われていた。
そこまでやると
だけど、
人ひとりの命を救うよりも自分の霊力の方が大事だとはとても思えなかった。
だから。
たとえ自分の霊力を使い果たし、
それで誰かの――赤ちゃんの人生を救えるならば。
それは
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
さらに真言を唱える。
虹子とトメは逆に汗ひとつかかず、顔が青白くなっている。
――虹子さんとトメさんは限界ね……。
そう思って、
彼女はこのあと司直の手にゆだねられ、今後霊力を使う機会もないだろう。
むしろこの赤ん坊を救うためにすべての霊力を注ぎ込むことこそ、
冷たく、硬かった赤ん坊の感触が、だんだんと暖かく、柔らかくなっていくのを感じる。
赤ん坊と同じ日に産まれた女子、
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
そろそろ限界なのだろう。
「待て、
ヒーバーの声が聞こえる。
まだよ。
まだ、完璧じゃない。
赤ちゃんの身体は内部の重要な臓器は石のままだ。
今霊力を注ぐのをやめれば、赤ちゃんを殺すことになってしまう――。
そのとき、
すべての霊力を吸い取られ、意識を失ったのだ。
あとは
それも、残りわずか。
虹子からはもう霊力を受け取っていない。
彼女は手を後ろについて息をついていた。
「虹子さん」
「うん、なに?」
「お願いがあるわ。お金貸して」
「へ?」
「
自分が霊力を失うこと自体はいいけれど、それで稼ごうと思っていた
なんとしても
「もちろん。お姉さまと
虹子が即答してくれる。
「ありがとう、虹子さん――」
「え、お姉さま、まさか……!?」
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
「
ヒーバーの声を無視し、さらに霊力を注ぎ込む。
赤ん坊の体温が腕に伝わってくる。
――もうちょっと待っててね。今、お母さんに会わせてあげる――。
「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ!」
最後の真言を唱えた瞬間、
「ンギャァァァァ!」
赤ちゃんが24年越しの産声を上げた。
そして。
「あったかい……かわいい……」
「オギャァァァ!!」
耳もとで娘の鳴き声を聞いて、
「…………赤ちゃん……!」
「ふぎゃ、ふぎゃ、ふぎゃ、ふぅぅぅ」
母の手に抱かれたことを理解したのか、赤ん坊はすぐに泣き止んだ。
赤子を見つめるその瞳は、何人もの罪なき人を殺してきた殺人鬼のそれではなかった。
我が子を慈しむ母のそれだった。
泣き止んだ赤ん坊のかわりに、大きな涙が
我が子を抱く
それはまるで絵画のような美しさを感じさせた。
「
その表情からは邪気が抜けていて、まるでどこにでもいる普通の女性にしか見えなかった。
そして一人一人の顔を見まわし、
「ありがとう……私の赤ちゃんのために……ありがとう……それに、ごめんなさい……」
「いいわよ、罪もない赤ちゃんのためだもの」
「赤ちゃん……あったかい……小さい……柔らかい……かわいい……かわいい……かわいいわあ……。ね、考えてたのよお……あなたは聖なる存在……だから。
母の腕に抱かれながら
「きゃっ、きゃっ」
と生まれたばかりとは思えない笑顔を見せた。
その光景を見て、
よかった。
よかったわね。
口の中に梅干しを突っ込んでこようとするバーの手をパチンと払って、