パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第139話 山伏パーティ、地上に帰還する

 沼垂(ぬったり)ダンジョン入り口。

 配信を見ていた多くの人々が零那(れいな)たちの帰還を待っていた。

 パトカーが10台以上並び、数十人はいると思われる警察官が規制線を張っていた。

 その規制線ギリギリにカメラを構えている報道陣。

 

 地下20階。

 人類が永遠にたどり着かないと思われていた深層階から、生還成功するその瞬間は、今や世界中の注目を集めていた。

 

 規制線の中に深夜(みや)の母親、小夜子がいた。

 8年前、深夜(みや)が行方不明になったときに捜索の担当をしてくれた警察官が口をきいてくれて、特別に入らせてもらったのである。

 

深夜(みや)……」

 

 小夜子は胸を高鳴らせながらそのときを待つ。

 群衆たちもざわついている。

 

「特SSS級が帰ってくるぞ」

「今までの人類の記録が地下14階だぞ」

「大幅更新だ」

「まさか日本人が破るとは」

 

 中には有象無象の配信者たちも集まっている。

 

「はい、緊急で動画まわしてます」

「はい、緊急で動画回してます」

「緊急で動画」

「緊急」

 

 みな緊急のようだった。

 そして、ついにそのときがやってきた。

 

 ダンジョンの入り口からまず出てきたのは一台の自転車を押してくる一人の女性だった。

 それは、ふわふわの髪の毛をした、小柄な山伏(やまぶし)姿の少女。

 

「おお! 羽衣(うい)ちゃんだ!」

「生の羽衣(うい)ちゃん!」

「おかえりーー!」

 

 さらには虹子とトメ。

 

「ニジー!」

「ニジーお帰り!」

 

 群衆に手を振る虹子。

 そしてトメ。

 

「山田ー!」

「山田、ショートも似合ってるぞ!」

「山田トメー!」

 

 トメはふん、と鼻を鳴らして不機嫌そう。

 そこに一人が大声で叫ぶ。

 

幻影の掃除人(ファントムスイーパー)!」

 

 それを聞いてトメはやっと笑顔になり、軽く手を振った。

 

 さらには、朱雀院彩華(あやか)が自分の足で歩いてダンジョンから出てくる。

 その胸には群衆を見て驚いたのか、元気に泣いている赤ちゃんがいた。

 すぐに何人もの警官が駆け寄ってきて彩華(あやか)に話しかける。

 

「あれ、逮捕されるのか?」

「現状ニジーの証言だけだから、令状はとれてないだろ。とりあえず任意で聴取だろ」

「そういや妹だけだな。姉の方はどうした?」

「特SSS級がいないぞ?」

「どういうことだ?」

 

 ざわつく群衆。

 小夜子はいてもたってもいられなくなり、ダンジョンの入り口へと走っていく。

 

「あ、お待ちください。危険です!」

 

 入口のすぐ前で警官に止められる小夜子。

 また人影が現れた。

 小夜子はその人影に大声で叫ぶ。

 

深夜(みや)! 深夜(みや)ぁっ! み……あれ? 違うわ……」

 

 出てきたのは二人の老婆だった。

 まあまあしわくちゃの老婆の腕に、ものすごくしわくちゃの老婆がつかまって二人並んで歩いてくる。

 

「ヒーバーだ!」

「バーだ!」

「まあばあさんはどうでもいいか」

 

 冷めた群衆に、バーは投げキスをしている。

 ついでに小夜子にも投げキスをしてきたので、思わずひょいと避けてしまった。

 

「なんじゃい!」

 

 不満そうな顔をしている老婆はどうでもよかった。

 

深夜(みや)ぁ! 深夜(みや)、いるの!?」

 

 大声で叫ぶ小夜子。

 

 そして。

 最後に、やっとのことで二人が出てきた。

 

 車椅子に乗っている女性山伏(やまぶし)と、それを押す女性山伏(やまぶし)

 どちらも山伏(やまぶし)姿だったので、瞬時には分からなかったが、たぶん車椅子に乗っている方だろう、と見当をつけて小夜子は彼女に駆け寄ってしゃがみこむ。

 

深夜(みや)深夜(みや)深夜(みや)……あれ、違う」

 

 車椅子に乗っていたのは、零那(れいな)だった。

 どうやら気を失っているようだった。

 

「やっぱり霊力を使い果たしているのか」

「そうだよな」

「いや違う、よく見ろ」

「ん? ほっぺたが膨らんでいるぞ?」

 

 まるでリスのように膨らんだ零那(れいな)のほっぺた。

 そして、その唇からポロリとなにかが落ちた。

 

 それは、バッタに似た虫だった。

 ただし、甘辛く煮てある佃煮の虫だった。

 

「イナゴ……」

 

 また一つ零那(れいな)の口からなにかが落ちた。

 

「今度は梅干し……」

 

 よく見ると零那(れいな)の身体はプルプル震えていた。

 膨らんだ頬には涙の跡。

 

「ふん、ママの梅干しを断るなんざ百年早い。詰め込んでやったわい」

 

 バーが憤慨した表情で言う。

 

 零那(れいな)が薄く目を開けた。

 その目は充血して真っ赤だ。

 

「す、すっぱ甘辛い……し、死ぬ……」 

「ってことは……」

 

 小夜子が顔を上げる。

 車椅子を押している、ぶかぶかの山伏(やまぶし)装束の少女。

 目の下には二つ並んだ泣きボクロ。

 彼女は小夜子に気づくと、目を大きく見開いた。

 

深夜(みや)ぁっ!」 

 

 思わず抱きつく。

 

「ちょ、お母さん、痛い痛い……!」

深夜(みや)深夜(みや)深夜(みや)ぁっ!」

 

 死んでいるかもと思っていたのに。

 もう二度と、会えないかもと思っていたのに。

 ついに。

 我が子を再び、抱くことができたのだ。

 

 力の限り抱きしめる。

 

「ちょっと、痛いよ、痛い!」

深夜(みや)、もう! もう! もう! よかった、よかった、よかった……」

 

 深夜(みや)の吐息が耳にかかる。

 娘の体温。

 娘の声。

 娘の匂い。

 また、また会えた!

 抱きしめられた!

 そう思うと、急に膝から力が抜け、その場にかくんと座り込んでしまった。

 

「ちょ、どうしたの、お母さん!?」

 

 深夜(みや)は〝死んでいる〟あいだ、時間の感覚をほとんどなくしていた。

 だから、母である小夜子とも、長く会えてなかった実感がないのだ。

 そんな深夜(みや)がしゃがんで小夜子の顔を覗き込んでくる。

 せっかく再会できたのに、たいして嬉しそうな顔もしない。

 まったくもう。

 まったくもう、この子は! 

 まったくもう!

 

 小夜子はもう一度深夜(みや)の首に抱き着き、大きな声でこう言った。

 

「お帰り! ……晩御飯、おいしいの、作るからね!」

 

 そこに老婆がとことこ歩いてきてタッパーを差しだした。

 

「イナゴと梅干しあっぞ」

「いりません」

 

 深夜(みや)は即答するのだった。

 でも小夜子はイナゴが好物だったので受け取って、その日の大平家で晩御飯を彩ることになったのである。

 

「あにょお……びゃー(バー)ひーびゃー(ヒーバー)きょれひゃきじゃしていー(これ吐き出していい)?」

「駄目だ。ちゃんと88回噛んでから飲み込め」

「ひーーー」

 

 零那(れいな)の口に、ヒーバーがもう一個梅干しをつっこんだ。

 

 

 

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