パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第141話 エピローグ 大団円②

 三日月零那(れいな)、19歳。

 職業、ウービーイーツ配達員。

 しかし、今日は仕事を休むことに決めていた。

 ウービー配達員だってもちろん休日が必要なのだ。

 

 そして。

 

 零那(れいな)はパチンコ店でハンドルを握っていた。

 だがその目はうつろでなにも見ていない。

 まあ、見るべきものもない。

 なぜならパチンコ台の盤面には銀玉が一つもなかったからだ。

 

 大きな液晶画面にはカニとサメとタコがばらばらに並んでいる。

 上皿には銀玉は残っておらず、いくらハンドルをひねっても玉の打ち出し口からはなにも出てこない。

 いや、その代わり、出ていた。

 零那(れいな)の口から、魂のようなものが半ば抜け出していた。

 三万円!

 ウービーの3日分の稼ぎが……。

 あっという間に吸い込まれてしまったのだった。

 

 最近は月に一度しかパチンコに行っていない。

 羽衣(うい)の学費のために節制する必要があったからだ。

 だから、一か月前から今日という日を楽しみにして……。

 そしてなけなしのお金でワクワクしながら打ち始めたのに……。

 

「うう……」

 

 涙で液晶画面が滲む。

 今日の負け分を補填するのにあと何件配達しなければならないのか。

 財布の中にはもう二千円しかない。

 この二千円もサンドに突っ込もうかとも思ったが。

 

 帰宅してから羽衣(うい)()()()に勝ったフリをしてケーキを買っていかなければならない。

 オケラになったらそれもできなくなる。

 

 零那(れいな)はあきらめてハンドルから手を離して、うなだれながら店を出た。

 

 スマホを見る。

 時間は昼の12時。

 そのとき、スマホがピロリロリン、と鳴った。

 

 ウービーの注文だ。

 その画面を見て、零那(れいな)はしまった、と思った。

 

「そういや虹子さんとの約束、今日だったじゃない! パチンコ打ちたすぎて忘れてたわ!」

 

 零那(れいな)は慌てて自転車に飛び乗り、ペダルを漕いだ。

 

 

     ★

 

 

 アパートの部屋に帰ると、()()()は一人で本を読んでいた。

 零那(れいな)が図書館で借りてやった本。

 夏目漱石の『こころ』だった。

 

 ()()()零那(れいな)の顔を見ると、

 

「勝ちましたか?」

 

 と聞いてくる。

 

「もちろん! まあ時間がなかったから帰ってきちゃったわ。ほら、今日が虹子さんとの約束の日だから! 一緒に行くわよ!」

 

 久しぶりに山伏(やまぶし)装束を身に着けながら、零那(れいな)()()()にそう言った。

 

 

     ★

 

 

 やすらぎ提ダンジョン。

 虹子とトメは配信を続けている。

 

「うーん、遅いなあ。まさかパチンコ打ってるんじゃないよね」

「あいつのことだ、あり得る話だな」

 

〈いやでも、霊力を全部失ったんでしょ?〉

〈もうダンジョンには潜れないんじゃ?〉

 

「いやいや違うよ。確かにダンジョンに潜るのには千人に一人の才能がいるけど、潜ること自体は霊力がなくてもできるんだよ」

 

〈でも霊力がなければ戦えないじゃん〉

〈モンスターに一方的にやられるだけ〉

〈自殺行為だ〉

〈どうするの〉

 

 虹子はにやりと笑う。

 

「ふっふっふー、実はね、私たち裏技を編み出したんだよ。何度か試してうまくいったから大丈夫。あ、きたきた!」

 

 カメラが通路の奥を映し出す。

 そこには。

 こちらに向かって爆走してくる、一台の自転車の姿。

 乗っているのは、ウービーバッグと呼ばれる大きな箱を背負った山伏(やまぶし)姿の女性。

 零那(れいな)だった。

 

「お姉さま、こっちこっちーー!」

 

 虹子が手を振って合図する。

 そのときだった。

 

「グゲッ、グゲッ、ギャギャー!」

 

 その自転車に向かって、物陰に隠れていた5匹ほどのゴブリンたちが襲い掛かるのが見えた。

 

〈大変だ、助けにいかないと!〉

〈ニジー、山田、助けに行って!〉

 

 しかし、虹子はすました顔で答える。

 

「大丈夫だよ、まあ見てて。ほら、お姉さまの背中にもう一人いるでしょ?」

 

 零那(れいな)が背負っている、ウービーバッグ、そこからは別の少女が一人、ぴょこんと顔を出しているのが見えた。

 零那(れいな)が背負うバッグの中に入っているのだ。

 身体の大きさから、5歳ほどの少女だとわかる。

 その少女が、その幼い姿からは想像もつかないほど大人びた口調で叫ぶ。

 

「敵発見。魔力を供給します。どうぞ!」

 

 そして零那(れいな)のポニーテールの先っぽを握った。

 すると、青白く輝くなにかが、少女の腕から零那(れいな)の身体へと流れ込んでいくのが見える。

 零那(れいな)は大声で叫んだ。

 

(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)! どいてーー! どかないと死んじゃうわよ!?」

 

 自転車の前方に光り輝く格子が出来上がり、ゴブリンを跳ね飛ばしまくっている。

 飛ばされたゴブリンは壁に叩きつけられそのまま絶命していた。

 

「お姉さま! 待ってたよ!」

「はい来たよー! ウービーでーーーーーすっ!」

 

 キキーッ! とブレーキの音を鳴らして虹子たちの前で横滑りしながら止まる零那(れいな)

 

〈え、なになに〉

〈どういうこと?〉

〈今山伏の力を使ったよな!?〉

〈っていうか幼女がウービーバッグの中にいる!?〉

 

 零那(れいな)が自転車からぴょんと飛び降りる。

 零那(れいな)の背負っていたバッグから、少女もぴょんと飛び降りた。

 少女は零那(れいな)と同じように山伏の恰好をしている。

 ただし、山伏(やまぶし)装束は身体よりずいぶん大きくてかなりブカブカだ。

 

「わりと似合っているな」

 

 トメが落ち着いた表情でそう言った。

 零那(れいな)はにっこり笑って、

 

「でしょ? でもすぐにおっきくなるから、これでも間に合わなそうなのよねー。あ、はい、ご注文の品でーす!」

「わーい! チーズバーガー!」

 

 つららが零那(れいな)にかけより、商品を受け取る。

 

「で、山伏(やまぶし)のお姉さん、その人、だれ?」

 

 少女を指さしてきくつらら。

 

「ふふふ。つららちゃんはこの子に会ったことあるわよ?」

「え、ないよ、知らないよ?」

 

 そこに、少女が一歩進み出てペコリと頭を下げた。

 おかっぱにしている髪の毛が揺れる。

 顔を上げた少女は、年齢に似合わず、ずいぶん大人びた表情をしていた。

 艶のある黒髪、キリッとした眉、ブラウンに輝く大きな瞳、控えめで薄い唇。

 

「こんにちは。つららお姉さん、久しぶりです。虹子お姉さんとトメお姉さんも二日ぶりです」

 

 つららはポカーンとした顔で、

 

「え? 誰? どこで会ったっけ?」

「私です。朱雀院聖華(せいか)です」

「えええええ~~~~~~っ!? だって、赤ちゃんだったのに……!」

 

〈待て、数か月前はまじで生まれたばかりの赤ちゃんだったぞ〉

〈え、これ朱雀院彩華(あやか)の娘? あの時復活したあの赤ちゃんか?〉

 

 聖華(せいか)の耳にもイヤホンがつけてあって、コメント欄の読み上げは聞こえるようになっていた。

 

「そうです。なにしろ私は精霊様と人間のミックスですから。成長に何年もかかる下賤な人間どもと一緒には……」

 

 そこまで言ったところで、零那(れいな)が、

 

「こらっ、聖華(せいか)! 駄目でしょ、人間をそんな風にいっちゃ! あんたのお母さんも零那(れいな)ママだって人間なんだよ!」

 

 と叱りつけると、聖華(せいか)はビクッと身体を震わせ、

 

「はい、ごめんなさい」

「もー、この子はまだまだ成長途上だから。これからいろいろ教えてあげないとダメね。あなたはみんなの愛で産まれてきたんだから。……それを実感するように育てないとダメね」

 

 そこで、虹子がカメラに向かって説明を始める。

 

「というわけで、この子、人間と神様のあいだの子なんで、成長速度がめっちゃ早いんだよ! あと一年もすれば大人になっちゃうのかなあ? 復活の時、ひいおばあさまの術でお姉さまには絶対服従するように紐づけられてるらしいけど。

 

 トメがそれに続けて言う。

 

「そういうわけだ。こいつはとんでもない魔力を持っているからな。魔力を失った山伏(やまぶし)姉にこいつが魔力を供給すれば、以前と同じようにダンジョン内で活動できる」

 

〈え、待ってこの年齢の子はダンジョンに入れないでしょ?〉

 

「そこは特別に許可をもらったのよ。だってこの子は私しかしつけられないし、人間として生きていくのはどう考えても難しいし、かといってモンスター扱いも違うし。今、林野庁の人を通じて国会議員の人を説得してるところだけど、この子の霊力は大きすぎる。たまにダンジョンの中で発散させてあげないと危険だって言って特別に許可をもらってるのよ」

 

〈へー。その辺の話もっとよく聞きたい〉

 

「まあ、あとでね。それより、私もおなかすいたわ。みんなでごはんにしましょう。私、自分の分も買ってきてるから」

「で、お姉さま、まさか今日、パチンコ行ってないよね?」

「行ったけど、まあ調子は普通だったわ。トントンってところね」

「まったく、ギャンブル好きの言うトントンは信用ならないからな」

「あのねあのね、つらら、知ってるよ。トメお姉さんもこないだ桜花賞で負けてたよ」

「こら! 余計なことを言うんじゃない」

「ギャンブル私はやらないからなー。私もやってみようかな?」

「やめておいた方がいいわ……抜け出せない泥沼になるわ」

「私もやってみたいです」

「18歳未満は駄目! あんた、まだ1歳にもなってないでしょ」

「でも昨日見たポリキュアでは赤ちゃんがポリキュアに変身してました」

「関係ないわよ、それ三年前のポリキュアでしょ、一週間前に初代見始めたのにもうそこまで見たの」

「読書しながら見ればすぐです。私は並行思考も得意なので」

「あ、次の年は犬が主人公だから」

「いくら零那(れいな)ママの友だちでもネタバレは許しませんよ」

「あのねあのね、雪女はポリキュアならないの? つららも変身したい」

「人魚はいたがなあ」

「なんであんたらポリキュアにやたら詳しいの」

「そういえばお母さんと面会できるのは次いつですか」

「来月また行くわよ。あんたと面会させるの、手続きが時間かかるのよね」

 

 みなでワイワイ言いながらハンバーガーにかじりつく。

 

 近い将来。

 

 この聖華(せいか)がまた大きな事件を引き起こすのだが。

 それはまた別の話なのであった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがきです。

これでいったんの区切りです。

でもちょっとしたSSは今後も書いていきますのでよろしくお願いしますです!

 

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