パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第30話 412名

 いつもの沼垂(ぬったり)ダンジョン、地下四階。

 零那(れいな)と虹子、それに羽衣(うい)の三人は、配信しながら通路を進んでいた。

 零那(れいな)羽衣(うい)山伏(やまぶし)姿。

 そして、その零那(れいな)の頭の上には光り輝く孔雀が乗っている。

 虹子はというと、今日は背中に大きな銃を背負っていた。

 

 何度かモンスターに襲われたが、零那(れいな)がいるのである。

 あっというまに蹴散らしながら、地下四階、虹子が看板を立てた場所に来た。

 看板は昨日立てた場所にきちんと立っている。

 

「うーん、あの幽霊、今日はこないのかな?」

 

 少しビクビクしながら虹子が言うと、

 

「来るでしょ。だって虹子さん、マーキングついたままだもん」

「ひぃぃっ。それ、いやなんだよねー」

「なんでそんな幽霊苦手なのよ? だっていつももっと怖そうな妖怪と闘っているんでしょ?」

「そうなんだけど、一度、ダンジョンの中で幽霊に取りつかれちゃって……。攻撃してこなかったから放っといたら、ずっと付いてきて……。ダンジョンから出たあと、うちに帰ったんだけど、そこで夜中に冷蔵庫を開けたら幽霊の顔が! チルドのとこに幽霊の首がゴロンと転がっているの! 鏡を見ると後ろにいるし! トイレに行ったら便座に座っていて私をじっと見つめているし! なんど悲鳴をあげたことか! 魔弾はダンジョンの中でしか使えないし、一度ダンジョンに戻ってから退治したんだよ。あの夜はほんと、悪夢だった。それ以降、幽霊ってだけで本能的に拒絶反応がでちゃうんだ」

 

 なるほどねえ、と零那(れいな)は思った。

 それであんなに幽霊が嫌いなのか。

 っていうか。

 

「虹子さんはダンジョンの中でしか魔弾を使えないの?」

「そりゃそうでしょ。人間はダンジョン内にいるからこそ、スキルが使えるんだよ」

「ふーん? 虹子さんも山伏の修行する? 地上でも幽霊を成仏させることくらいはできるようになるわよ」

「ほんと? それってすごいことじゃない?」

「私もまだまだだけど、修験道は修めれば地上でも洞窟でも使えるようになるわ」

「それにしてはパチンコ当たらないじゃない」

「そういうのには神様も仏様も協力してくれないから。だからこそ、私の運命力が試されるってわけよ」

「……神様も仏様も協力してくれないことなら、やめた方がよくない?」

 

〈そりゃそうだ〉

〈おこづかいの範囲内でやれよ〉

〈お金は大事にね〉

 

 話を変えるように、羽衣(うい)がぼそっと言った。

 

「ところでさ。私もあの幽霊について調べてみたんだけど……」

「ん、羽衣(うい)、なんかわかったの?」

「今日、ずっとネットで深堀りして調べてみたの」

 

 自分のふわふわの髪の毛をいじりながら羽衣(うい)は言う。

 

「2018年にダンジョン内で死亡・行方不明になった人は合計412名。あまりに多くて政府が緊急に対策してダンジョン探索の規制が厳しくなったの。で、私、その412人を一人ひとりきっちり調べてみたんだよ」

 

「私も少しは調べたけど……ぜんぜんわかんなかったよ」

 

 虹子が答えると、羽衣(うい)は頷いて、

 

「そうなんだよ。あの幽霊、見た目は十代だったよね? 当時は未成年でも家族の許可なしにダンジョンに潜れた。だから、十代の女の子で死んじゃったり行方不明になった人を探してみた。そんな若い子だったら、絶対ニュースになるでしょ? でも、なかった。いや、何人かはいたけど、みんな顔写真つきで、あの子じゃなかった」

 

 虹子は顔を傾げる。

 明るい色をしたショートボブのさらさらな髪の毛が揺れる。

 

「でもさー、じゃあどういうこと?」

「私、こないだ言いましたよね? 生存者バイアスの話。つまり、あの地下六階に潜って、戻ってこなかった」

「それだったら行方不明者になるんじゃ?」

「もし、あの子がダンジョンに潜った、という事実を誰も知らなかったら?」

 

 そうか、と零那(れいな)は思った。

 確かに、誰にも言わずにダンジョンに潜って遭難したとしたら、行方不明者として数えられることもない。

 でも、それだとおかしい。

 零那(れいな)はウービーの注文を受けて、初めてダンジョンに潜ろうとしたときのことを思い出した。

 あのときはライセンスカードの提示を求められたはずだ。

 

「あれ、でもダンジョンに入る前に、なんとか庁のおじさんに止められるじゃない」

 

 零那(れいな)の問いに、虹子が答える。

 

「今くらい厳しくなったのはは3年前くらいからだよ。2018年だと、ダンジョンの出入りはもっと簡単だったよ」

「じゃあ、なにもわかんないってことじゃない」

「そういうことになるね」

 

 三人、顔を見合わせてため息をつく。

 

「ところでさ、あの幽霊、いないね」

 

 羽衣(うい)の言葉に、零那(れいな)たちは辺りを見回す。

 

「ね、ね、私に見えてないだけで実はもうそこにいるとかない?」

 

 虹子は不安そうに言った。

 零那(れいな)は注意深く気配を探るが、なにもいないようだった。

 

「うーん、どうしようかなあ。あの幽霊、虹子さんにマーキングしているから来ると思うんだけど……。あ、そうだ!」

 

 零那(れいな)はいいことをひらめいた、と思って、昨日虹子が立てた看板に肘をかけた。

 

「あの子が実際死んじゃったのは多分、この下の地下六階だと思う。あの子は地縛霊の一種。思念は死んだ場所が一番強いはず。今から地下六階に潜ろうよ!」

 

 

 

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