パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件 作:羽黒楓
「うーん、そのパターンで来たかぁ」
地縛霊にはたまに自分の記憶を失っているのもいるのだ。
強い恨みと執着だけで存在している霊が。
困ったわね、と
これでは、身元が分からないじゃない。
どうしようかな、と
「ね、自分の名前も覚えてないの?」
「うん……どうしてだろ……。透明になる魔法をかけられたときに忘れちゃったのかな……?」
幽霊少女は自分が幽霊だということにまだ気づいていないのだ。
自分がまだ生きていると思い込んでいる。
もう死んでしまった幽霊であると本人が自覚したとき、彼女がどう反応するのかわからないので、
「じゃあ、どこで生まれたかとか、どこの学校に通ってたとか、ご両親のこととかは?」
「お父さんとお母さんのことくらい覚えてるよ! ……ええと……、ええと……、あれぇ?」
編み込みツインテールを揺らして首をかしげる幽霊少女。
自分のことはなにも覚えていないようだ。
虹子がさらに尋ねる。
「じゃあじゃあ、趣味とかは?」
「趣味? えっとね、私、かわいいお洋服が好き! ゴスが好きだから、バイト代は全部ゴスロリ衣装につぎ込んでた!」
見たままの趣味だった。
「いつもお母さんに無駄遣いするなって怒られて……。あれ? でも、お母さんの顔が思い出せない……」
「うーん、じゃ、好きな食べ物は?」
「カレーライスとハンバーグ」
「好きなお菓子は?」
「え、なんでこんなに質問責めされてるの私? 好きなお菓子はパッキー」
ちなみに
虹子は持っていたスマホをパパッと操作すると、一枚の写真を幽霊少女に見せた。
「じゃあこのお菓子知ってる?」
そこには細長くて茶色いパンみたいなのが写っていた。
少なくとも、
幽霊少女はそれを見てすぐに答える。
「ぽっぽ焼きでしょ?」
「あ、新潟の人だ」
「え、なにそれ」
「これ、新潟の名産。お祭りとかの縁日でよく売られてるの。これを知ってるってことは多分新潟の人。ま、ここは新潟だからそりゃそうかもしれないけど。じゃあさ、じゃあさ、これはこれは?」
また写真を見せる虹子。
それを見て
「これは知ってるわよ、あじまん」
「ちがうよ! 大判焼き!」
「いや違うわよ、これはあじまんでしょ」
黙っていた
「お父さんは今川焼って言ってたよ」
「あれ、もしかして私たち、いまものすごく不毛な会話してる……?」
「いやいや、この子が新潟の子だってことが分かったからいいじゃん」
「そうかなあ……?」
「で、視聴者に聞きたいんだけど、みんなこの子が見えてる?」
〈っていうかさっきから誰と会話してるんだ?〉
〈なにかいるのか?〉
〈まったく見えん〉
〈っていうか、あじまんってなんだ〉
〈回転焼きだろ〉
〈不毛な言い争いはやめろ〉
やはり、カメラには少女の姿は映っていないようだった。
虹子はがっかりした表情で、
「うーん、そっかあ……。顔がカメラに映れば、誰か知っている人がいるかもしれないと思ったんだけどなあ……。ところで、あなた、いつもゴスロリの恰好してたの? それで街歩いてた?」
「ううん、恥ずかしいから家の中だけ。自撮りはしてたけど……。って、あれ、なんで私、ダンジョンの中でゴスロリなの!? ダンジョンには普通の恰好で潜ったはずなんだけど……」
そうだろうな、と
霊体は最も思い入れの強い姿で現れるのだ。
そして、もう一つ気づいたことがあった。
彼女が覚えていること、覚えていないこと。
自分の名前も、親のことも忘れてしまっている。
だけど、ゴスロリが好きだったこと、好きな食べ物のことは覚えている。
そこになにかあるのかもしれない。
好きな食べ物の話をしているときには、幽霊少女の表情は明るかった。
でも、自分の名前や親のことを聞かれた時には、心なしか、苦しそうな顔をしていたような気もする。
これはいったいなんだろう?
『人』については忘れるとか、そういう法則があるのだろうか?
「っていうか、私、今どうなってるの? はやくこの透明になる魔法を解いてほしいんだけど……」
すがるような目でそう言う幽霊少女。
そのとき、虹子が言った。
「自撮り、かあ……。じゃあ、視聴者のみんなに協力してもらおうかな」