パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件 作:羽黒楓
そして、幽霊少女、ヤミを見た。
目が合うと、ニコッと笑うヤミ。
うーん、かわいらしい顔をしているわね。
手の込んだ編み込みのツインテール、大きい目に小さな鼻、唇は少し薄くて、まさに薄幸の美人、って感じだ。
まあ死んでいるんだから薄幸には違いないけど……。
黒を基調としたゴスロリ衣装も似合っていて、正直、部屋に飾っておきたいほどだ。
「じゃあ描くわよ」
〈れいなちゃんの絵楽しみ〉
〈ニジーも絵に自信ネキみたいだしな〉
〈いや、ういちゃんが一番うまいと予想〉
〈みんなで見比べられるように、インサタとZにアップされてるゴスロリ自撮りを自動収集するプログラム組んでる〉
「助かるわ」
★
そして三十分がたった。
ヤミはモデルをやるのに飽きたのか、今はもう地面にぺったりと座り込んであくびなどしている。
幽霊でも眠くなるんだろうか?
「さあて! みんなできたぁ?」
虹子の言葉に
「じゃ、ひとりずつ見せてもらいましょう! だれから行く? お姉さまは?」
「うん、うまくかけたと思うわよ」
「どれどれ……うっ!」
それはとても、……微妙だった。
鉛筆で描かれたサイドポニーのゴスロリ少女。
それはそうなのだが……。
「悪くない……けど……」
虹子も顔をしかめる。
〈うーん、下手ではない……けどなんか人を不安にさせる絵柄だな〉
〈左右の目の高さが絶妙にずれてる〉
〈あれだ、技術はあるんだけどセンスがないというか〉
ヤミもその絵をちらっと覗き込む。
「……えー。まあ、下手じゃないけど……。私、こんな顔してるかなあ? もう少しこう、かわいげがあるはずだけど……。いや、下手じゃないけど」
幽霊にまで気を遣わせてる……。
自分の絵とヤミを見比べると……。
まあ悪くないけど、似顔絵としてはたしかにちょっと……。
これで同定は難しいだろう。
「うーん、もっとうまく描けると思ったんだけどなあ……。じゃあ、次は虹子さん見せてよ」
「うん! まあまかせて! 私はプロ級だよ!」
その虹子の人物画は、確かにプロ級だった。
見事なものであった。
〈うまい〉
〈まじか〉
〈ニジーってこんなに絵がうまかったの!?〉
「ふふーん」
得意げな顔をしている虹子。
確かに、その絵は見事なものであった。
完全にプロ級であった。
いますぐに少女漫画誌で連載を持てるほどの画力だった。
だけど。
「でも虹子さん、これって……似顔絵じゃないですよね……?」
そう、完全に幼女向け少女漫画の絵柄であった。
うまいのだけれど、どう見ても記号化された女の子。
「えー? いいじゃん、うまく描けたと思うけど」
「いや、うまく描けてますけど、絵柄が……。このイラストをもとにして人を探せと言われても……」
「いや、これ漫画のキャラじゃん。そんなに特徴とらえてないし……。上手なんだけど、なんか方向性が違うというか……」
ちなみに、幽霊少女ヤミはその絵を見て、
「きゃー! かわいい! 私、この絵好き!」
などと言っている。
「うーん、私のも駄目かー。じゃ、最後の希望は
虹子はそう言って、
「これは……!
「おお……わが妹ながら……うまい」
人物のデッサン、という枠にはとてもじゃないがあてはまらないレベルだった。
微細な鉛筆のタッチ、立体感があってまさにリアルそのものだった。
ただリアルなだけではない。
丁寧に描かれたその絵は、どこかもの悲しげな、それでいてとても気味の悪い印象を与えてくる。
見ているだけで
虹子もその絵を見て、自分の肩を抱いた。
「なにこれ……すごい……まるで絵じゃなくてここに実際にいるみたい……」
〈やばい、うまい〉
〈妹ちゃんすげえ! プロ並みの絵だ〉
〈ってか俺等には見えてないけど、これがみんなには見えてるってこと?〉
幽霊少女、ヤミも興味津々なようすでその絵を覗き込む。
そして叫んだ。
「キャーーーーーーーーーーーッ!!」
そこに描いてあったのは……。
「なにこれ! 私じゃないじゃない! これ、これ……虫? カブトムシ? しかも裏から見たカブトムシ! キモイキモイキモイ無理無理無理無理ヤバいヤバいヤバい無理無理!」
「え? けっこう上手く描けたと思うんだけど……それなりにそっくりだし」
「そっくりじゃないよ! 私カブトムシじゃないし! しかもオスだし! 私はメスだから!」
すかさず虹子が突っ込む。
「メスってそんな言葉つかうもんじゃありません」
マジでどっからどう見てもカブトムシ(裏)である。
キモすぎて鳥肌が立つ。
「よりによってなんで裏側なのよ……
「どういうこともなにも……ヤミちゃんの似顔絵だけど」
〈うっそだろ〉
〈え、もしかしてこれ人間の顔を描いたつもりなの?〉
〈妹ちゃんってもしかして脳のどこかがアレしちゃってる系?〉
「いやいやもう、
虹子が言うと、
「え。だから、ちゃんと描きましたけど」
「……もしかして、本気で言ってる?」
「はい。それなりにうまく描けてると思います。あ、でも顎のあたりとかもっとうまく描けたかな」
ヤミが地面をだんだんと踏み鳴らした。
「顎! アゴ!? ど、どこがアゴなの、このカブトムシのどこがアゴなの!?」
「ほらここ」
「そこは腹! カブトムシの腹! じゃ、じゃあこの、このトゲトゲの足は!?」
「あ、これだけじゃちょっとさみしいと思って猫ちゃんのヒゲを書き足してみたんです。いいでしょ、かわいいでしょ?」
虹子がyPhoneを取り出し、自分の好きな女優を画面に表示させた。
「ね、これ見て描ける?」
「描けますよ」
そう言って
出来上がった絵は、女優そっくりの見事な肖像画だった。
「……ねえ、お姉さま。
「ないと思うけど……。姉としても、これはショックだわ……。一度お医者の先生に見てもらったほうがいいかも……。いやちょっと待って……。こういうのって……ん? あれ?
その時、
なるほど、と思った。
まったく、
そして首にかけていた法螺貝を口に当てると、思い切り吹いた。
突然の轟音に驚いた虹子が言った。
「な、なに急にどうしたのお姉さま?」
「妖怪よ。近くにいるはず」