パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第49話 被甲護身

 零那(れいな)は足を引いてバックステップし、距離をとる。

 そしてトメとにらみ合った。

 

「トメさん……」

 

「山伏女。その幽霊を――モンスターを滅そうとする妹を、なぜ止める? そいつはモンスターだ。放っておくと必ず人間に仇なすぞ」

 

 ギロッと突き刺すような鋭い視線を零那(れいな)に向けるトメ。

 

「違う、羽衣(うい)は今操られているの! 羽衣(うい)を止めて!」

 

 トメはちらっと羽衣(うい)を見た。

 羽衣(うい)錫杖(しゃくじょう)を構え、燃えるような怒りの表情で零那(れいな)を見ている。

 そして、トメに向かって言った。

 

「トメさん! いいところに! あのモンスターをやっつけるの! 手伝ってください!」

「そうだな、それには私も賛成だ。手伝ってやる」

 

 零那(れいな)はそれを聞いてさらに声を張り上げて言った。

 

「違うってば! 羽衣(うい)は今妖怪に操られているんだってば!」

「なにを言っている。モンスターに操られてモンスターを殺そうとしているというのか? ……むしろ、モンスターをかばおうとしているお前の方こそモンスターに操られているんじゃないか?」

 

 零那(れいな)の背中に隠れていた虹子も叫ぶ。

 

「違うよ! 羽衣(うい)ちゃんは私たちみんなを殺そうとしているの! それをお姉さまが止めようしているんだってば!」

 

 それに、壁に貼り付いていたゴスロリ幽霊少女、ヤミも必死の形相で言った。

 

「そうだよ! その人、私を殺そうとしているの! なんか勘違いしちゃっているんだって!」

 

「お前を殺すのは探索者として当然だ。山伏女、お前どうかしているな? モンスターを守ろうとするとは……」

 

 そこに羽衣(うい)錫杖(しゃくじょう)を構えて、

 

「トメさん! とにかくモンスターをやっつけないと! 一緒に攻撃しましょう!」

 

 その羽衣(うい)の口元からはゲジゲジが頭を覗かせている。

 埒があかない、と零那(れいな)は思った。

 一気に制圧してしまおう。

 まずは、弱い方から片づける。

 つまり、トメからだ。

 零那(れいな)は床を蹴り、トメに突っ込んでいく。

 

「ふんっ!」

 

 トメはその場でひらりと跳び上がる。

 そして、くるりと一回転、天井にぴたりとすいつき、掃除機のノズルを零那(れいな)に向けた。

 

吸引掃滅(サクション・デリーター)!」

 

 トメが掃除機のスイッチを押す。

 ギュオオオン! と掃除機のモーターがうなる。 

 目立製の特別仕様、と言っていたわね、と零那(れいな)は思った。

 サイクロン式じゃない。

 きっとパック式だと思うけど……。

 零那(れいな)とトメの実力差は歴然で、一対一で戦えばあっという間に制圧できるだろう。

 だけど、今は羽衣(うい)もいる。

 羽衣(うい)零那(れいな)ほどではないが、それでも一流の山伏(やまぶし)である。

 トメを制圧するあいだに隙を見せれば、羽衣(うい)の攻撃を受けるだろう。

 殺す気なら瞬殺できるかもしれないけど、もちろん零那(れいな)にはそんな気は毛頭ない。

 

 ただ無力化したい。

 そして、命を奪うよりも無力化するほうが手間がかかる。

 ――まずは、あの掃除機を壊さないといけないわね。

 零那(れいな)は一瞬でそう判断した。

 

 両手を組んで印を結ぶ。

 

(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)!」

 

 そして、真言を叫んだ。

 

「ソワタヤ ウンタラタ カンマン!!」

 

 仏母大孔雀明王(ぶつもだいくじゃくみょうおう)と並んで山伏(やまぶし)が信仰する明王、不動明王の真言の一部である。

 零那(れいな)は右の手の平をトメがこちらに向けている掃除機のノズルに向ける。

 

南無(なむ)倶利伽羅龍王(くりからりゅうおう)! お力をお貸しください!」

 

 倶利伽羅龍王とは、不動明王が持つ剣に巻き付いている竜のことである。

 その竜の力を借りる、零那(れいな)としては上級の法術であった。

 

 零那(れいな)の右手から渦巻く炎が湧き出る。

 並みの人間――いや、トメのようなS級探索者すら一撃で灰にするほどの威力を誇る。

 だが、零那(れいな)の狙いはトメ本人ではなかった。

 トメが持つ、掃除機だったのだ。

 出力を最小に絞る。

 零那(れいな)が放出したその炎は、あっという間にノズルへと吸い込まれていく。

 

 次の瞬間。

 

 トメが背中に背負っている掃除機がボンッ! という音を立てた。

 そして、焦げ臭い黒煙を吐き、その機能を停止した。

 

「な……!? こいつ……!」

 

 トメはノズルを手放し、腰の後ろに横差しにしていた短剣を抜くが、零那(れいな)はそのコンマ数秒のあいだにも距離を詰めていた。

 そして掌底をトメのアゴに叩き込む。

 

「…………ぐっ…………」

 

 トメはうめき声をあげるとその場で昏倒する。

 

「このカマキリ……!」

 

 羽衣(うい)錫杖(しゃくじょう)零那(れいな)に向け、

 

(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)!」

 

 そう叫んで法術を発動しようとする。

 

羽衣(うい)、山伏ってのはね、……身体も鍛えなきゃなのよ! 防御を固めなさい! じゃないと死んじゃうからね!」

 

 零那(れいな)はそう叫び返して、床を蹴った。

 

 拳を固める。

 黒髪のポニーテールをなびかせ、零那(れいな)の身体は羽衣(うい)目がけて飛翔する。

 

 羽衣(うい)が恐怖の表情を見せた。

 

「く! オン バザラ ギニ ハラチ ハタヤ ソワカ!!」

 

 羽衣(うい)が真言を唱える。

 身を守る九字護身法、被甲護身(ひこうごしん)と呼ばれる法術であった。

 羽衣(うい)の全身を霊力でできた鎧が守る。

 

「それでいいよ、羽衣(うい)!」

 

 零那(れいな)は握りしめた拳を思い切り羽衣(うい)の腹部めがけて振り抜く。

 

「くぅっ!」

 

 羽衣(うい)は十字ガードでそれを防ぐが、零那(れいな)の攻撃力が上回った。

 鈍い音ともに羽衣(うい)の身体が5メートルほど吹っ飛ばされ、壁に激突する。

 

「ぐ……うううう……」

 

 そしてそのまま気絶する羽衣(うい)

 零那(れいな)は綺麗に着地を決め、さらに気を失っている羽衣(うい)に向かってダッシュした。

 

「妖怪め! 引きずり出してやるわ!」

 

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