パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第56話 ひっぱりうどん

「うどん茹であがったよー!」

 

 羽衣(うい)が大きな鍋を持ってやってきた。

 鍋からは湯気がもうもうと出ている。

 中に入っているのは乾麺のうどんを茹でたやつだ。

 

「待ってましたー!」

 

 虹子がウキウキの表情で言う。

 ダンジョンから引き上げた後、一緒に夕飯を食べようということになって、零那(れいな)羽衣(うい)のアパートの部屋に虹子もやってきているのだ。

 

「うーん、羽衣(うい)、この季節にひっぱりうどんってのは暑くない?」

 

 零那(れいな)が言う。

 今は7月。

 これから夏真っ盛りになる。

 部屋にエアコンはついているが、羽衣(うい)は冷え性なので設定温度は控えめになっている。

 

「いいの! ひっぱりうどんはいつ食べてもおいしいんだから! さ、虹子さんも食べてください」

 

 テーブルの真ん中にドンッと鍋を置き、羽衣(うい)もちょこんと座る。

 

「うわーなにこれなにこれ! どうやって食べるの?」

 

 虹子がハシをカチカチさせながら聞く。

 

「えーとね、この器にめんつゆと生卵と薬味と納豆と鯖缶をぶち込んで、混ぜます! そしてこの鍋から直接うどんをひっぱりあげて、このドロドロの汁に混ぜて食べるの! これが山形名物、ひっぱりうどんよ!」

「へー! こんな食べ方あるんだ!」

「昔ね、山形の炭焼きの人が、雪に覆われる山の中の炭小屋に住み込んで仕事してたんだけどさ、そのときに日持ちのする材料でおいしく食事を摂れるように編み出されたのがこのひっぱりうどんなのよ! 納豆と鯖缶ってめちゃくちゃ相性がいいんだから! 虹子さん、食べてみて!」

 

 そう言いながら零那(れいな)は鍋に直接ハシをつっこむ。

 さっきはああ言ったけど、実際零那(れいな)も大好物なので待ちきれなかったのだ。

 

 お湯の中で泳いでいるうどんをひっぱりあげ、生卵と納豆と鯖缶でぐちゃぐちゃになった器に入れる。

 

「そしてね、これをよく混ぜて……」

「うわ、これちょっと見た目グロくない?」

「でもそれが最高なのよ! そしてこれをね、ずずずずっと口の中にかっこむの! ずずずずぞぞぞぞぞぞぞぞ!! うんまぁーーーーーーい!」

 

 虹子も同じようにうどんを口に運ぶ。

 

「んん!? すごい、おいしい! 生卵と納豆のぬるぬるがなんか感触いいし、鯖缶と納豆がこんなに合うなんて初めて知った! ずずずずぞぞっ! うん、これ、いくらでも食べれるね!」

「お姉ちゃんも虹子さんもいっぱい食べてください。もう一つの鍋でも今茹でてるから」

 

 虹子は夢中になってうどんをすすりながら羽衣(うい)に尋ねる。

 

「うん、でもこれだけでもいっぱいあるけど……? これ、何束入ってるの?」

「5束です。もう5束茹でてます」

「え、じゃあ全部で10束ってこと? 乾麺1キロ? 女の子3人で食べるには多くない?」

「少ないくらいです。私が食べますから」

「そうだった、羽衣(うい)ちゃんって大食いだったね……。カメダのカツパンなんて一瞬で食べきってたしね……」

「育ちざかりなんで」

 

 そうね、羽衣(うい)はもっと成長したほうがいいかもね、小学生みたいな体型しているし、と零那(れいな)は思って、思っただけで口にはしなかった。

 いやでも今のままの羽衣(うい)でも十分かわいいしなあ。もう成長しなくてもいいかも。

 

 虹子は初体験のひっぱりうどんに夢中で、「おいしい、おいしい」と言いながらうどんをすすっていたが、

 

「あれ? なんか、痛い……」

 

 と言って自分の鎖骨の下あたりを押さえた。

 

「ん、虹子さん、どうしたの?」

「なんかね、この辺痛いんだよ。探索中にぶつけたかなあ?」

 

 虹子は着ていたシャツの襟もとをめくってちょっと覗く。

 

「あれ? なにこれ、アザになってる……」

 

 零那(れいな)も首を伸ばして覗いてみる。

 

「ほんとだ……。ってか虹子さん、これただのアザじゃないわよ。なんか、嫌な霊力を感じる……」

「げ。まじで? うわー。どっかで呪い受けたかなあ。やだなあ。あの幽霊?」

「いえ、ヤっちゃんの霊力じゃないわね……」

「それにしてもやだなあ……。またあんときみたいに冷蔵庫の中に生首転がってるのが見えるとか、いやだよ私」

「大丈夫よ。私と羽衣(うい)山伏(やまぶし)。仏教の僧でもあるのよ。あとでお祓いしたげるわ」

「え。じゃあダンジョンの中まで行かなきゃいけない?」

「ここで大丈夫よ」

「えー!? だって人間って、ダンジョンの中に入らないとスキル使えなくない?」

「いや、私と羽衣(うい)のはスキルじゃなくて山伏(やまぶし)の法力だから。そりゃ、洞窟の中に入った方が力は強まるみたいだけど」

「へー! じゃあ、お願いするね! そっか、お姉さまが除霊してくれるなら安心だね!」

 

 不安そうな顔をしていた虹子だったが、よほど零那(れいな)を信頼しているのか、すぐにニコニコしながらうどんを鍋からひっぱりあげる。

 

「お姉さまがなんとかしてくれるってなら心配することないね! また食欲がわいてきた! あ、羽衣(うい)ちゃん、納豆のおかわりある?」

 

 だが。

 事態は、そんなに軽いものではなかったのだった。

 

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