パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第6話 チャリで二十分

 霞が関。

 省庁が立ち並ぶその一角。

 中央合同庁舎第4号館の一室で、電話が鳴った。

 スーツを着た初老の男性が電話をとる。

 

「森島です」

『あ、ダンジョン課長! 新潟沼垂(ぬったり)ダンジョン監視所の所長からお電話です』

「変わってくれ」

『あ、もしもし? 沼垂ダンジョン監視所所長の上崎です』

「どうした?」

『あの、うちのダンジョンに三日月零那(れいな)さんが来られて……』

 

 それを聞いて、課長は首をかしげる。

 

「ん? 三日月……零那(れいな)……? どこかで聞いた名だな……」

『あの、特SSS級の三日月零那(れいな)さんです』

「なんだと!? いや待てそんなことが……」

 

 特SSS級。

 それは、探索者としての最高レベル。

 そしてそのレベルに認定された人物は、全国で一人しかいない。

 どうりで聞いたことがある名だと思った。

 

「しかし、三日月零那(れいな)は確か……。いくら国が要請しても、両親が絶対にダンジョン探索の許可を出さなかったはずだ。未成年のダンジョン探索には家族承諾がいるじゃないか。本人たちもそれで納得して今はダンジョン探索をしていないと聞いている」

『しかし、零那(れいな)さんは先日誕生日を迎えて18歳になって成人しています。このまま通していいですか?』

「待て。一人で来ているのか? SSS級の妹もいたはずだが。妹の方は未成年だろう」

「一人で来ています」

 

 課長は考え込む。

 成人していてライセンスを持っている、というならば止める理由は一つもないし、そもそも止める法的根拠もない。

 いや、むしろこれはチャンスだ。

 ダンジョン探索に絶対参加しないと思っていた特SSS級の探索者が自ら探索したいと言っているのだ。

 うまくコントロールすれば、日本のレアメタル産出量を飛躍的に伸ばすことができるかもしれない。

 

「通してやりなさい。現住所と連絡先は必ず聞いておくように」

 

     ★

 

 若い職員が零那(れいな)に言った。

 

「失礼しました。上の方からの許可がでました。どうぞお通りください」

 

「やった! ありがとーございまーす!」

 

 どうなることかと思ったけど、十万円が手に入る!

 零那(れいな)はそう思った。

 自転車にまたがったまま、ニッコニコの笑顔で職員にお辞儀する。

 礼儀正しさは正義と思っているので、ちょっと邪険にされたくらいじゃ礼儀作法を忘れない。

 それが山伏(やまぶし)というものなのだ。

 

「あ! あと二十分しかない!」

 

 零那(れいな)はスマホを見て焦った声を出す。

 

「あのー、その二十分でどこまで行くつもりですか?」

 

 職員の質問に、零那(れいな)はスマホを操作して答えた。

 

「えーと、深さから言って多分地下五階か地下六階かな」

「はあ? 普通半日はかかりますよ!?」

「だから、急いでるの! じゃ、行ってきますねー!」

 

 零那(れいな)は自転車をこぎだす。

 

「ちょっとちょっと! まさか自転車でダンジョン探索!?」

「自転車ならギリ間に合うから!」

 

 そう言って零那(れいな)山伏(やまぶし)姿のまま、ママチャリのペダルを踏んだ。

 黒髪のポニーテールを風になびかせながら、彼女はダンジョンの入り口へと進んでいく。

 

 その後ろ姿を見ながら、職員は呆然とした顔で呟いた。

 

「まじかよ……自転車でダンジョン探索って……。それに、地下六階まで二十分って無理だろ……」

 

 

     ★

 

 甘白虹子の運命は尽きようとしていた。

 食料はチョコバーがあと半分残っている。

 だが問題は水だった。

 水筒の水はとっくに空になっていた。

 このダンジョンには水が豊富に湧いているので油断していた。

 閉じ込められたこの部屋のどこにも、水分が存在していないのだ。

 アルマードベアから逃れるために全速力で走ったので全身汗だくになったが、出て行った水分を補給する手段がなかった。

 喉が渇く。

 乾燥してかさかさしている唇を何度も舌でなめた。

 

〈おい、大丈夫か?〉

〈ニジー、目がうつろだぞ〉

〈しっかりしろ〉

〈ニジー、もう駄目なのか……〉

〈虹子死ぬなー!!〉

 

 コメント欄が次々と読み上げられる。

 読み上げるコメント主は常連ばかりに設定している。

 だから、不謹慎なコメントは読み上げられない。

 それが救いだった。

 ファンだけではなく、悪意の視聴者もたくさんいることを虹子は知っていた。

 虹子のような遭難者が死ぬところを見たくてダンジョン配信を視聴している奴らだ。

 それ込みで人を呼び込んで商売にするのがダンジョン配信者というものなのだ。

 

「ふふふ……でも、もう……死にそうだよ……コーラが……飲みたい……」

 

 脱水のせいで、意識がもうろうとしてくる。

 このまま気を失ってしまえば、二度と目を開けることはないだろう。

 それが虹子の死であろうことは明らかだった。

 

 ドアの向こうにはまだアルマードベアの鼻息が聞こえる。

 それを聞いているうちに、耳鳴りがしてきた。

 ドアの向こう側、そのさらに遠くの方で、奇妙な音が聞こえているような気もする。

 

 プオオーーーン……プオオーーーーン……。

 

 なんの音だろう?

 モンスターの鳴き声だろうか?

 それとも、幻聴だろうか?

 ああ、喉がかわいた。

 体中が乾ききっている。

 コーラが飲みたい。

 冷たいコーラが……。

 

 虹子はゆっくりと目を閉じた。

 意識が遠く遠くなっていく……。

 

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