パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件   作:羽黒楓

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第65話 ヤミバイト②

「あのー……。私、一応E級の資格は持ってるんですけど、探索はまったくの未経験で」

 

 私はおずおずと彩華(あやか)さんに言う。

 

「大丈夫よお。未経験者歓迎だもの。E級の資格持ってるってだけですごいことよ。1000人に一人の才能なの。で、地下一階で荷物運びの手伝いやってもらうだけだし、もしモンスターがやってきたって私はS級探索者だから、あっという間にやっつけちゃうわ。危険なんてないから大丈夫」

「そうですか……」

「で、ダンジョンに入れる才能を持つ人って、さっき言った通り千人に一人。貴重な人材だから、給料は弾むわよお。日給45000円出すわ。あ、藍里(あいり)ちゃんはB級だし、60000円出すわよ」

 

 それを聞いて、私は思わず口元がほころんでしまうのを感じた。

 45000円!

 それだけあれば、ほしかったアレやコレもみんな買える!

 来月のお母さんの誕プレも買えるじゃん!

 ところが、ポニーテールの藍里(あいり)さんが不安そうな顔で私に言った。

 

「いや、でもダンジョンは地下一階でもそれなりに危険よ。高校一年生? 未経験? 危ないわ、あなたはやめておいた方がいいんじゃない?」

「だ、大丈夫です! やれます!」

 

 45000円!

 8時間働くとして、時給だと……ええと……ええと……よくわかんないけど、5×8が40だから、時給5000円以上! 

 求人雑誌で普通のバイトも探してみたけど、宅配ピザ屋のメイキングスタッフとかだと時給803円だった。

 6倍以上!

 こんなチャンス、そうそうない。

 すごくワリのいいバイトだ。

 ゴスロリ衣装は高くて、高校生にはなかなか手が出せないけど、これでほしかった服やアイテムを買いまくれる!

 私は浮かれまくって、藍里(あいり)さんの心配なんて余計なお世話としか思えなかった。

 でも、藍里(あいり)さんはさらに強い口調で、

 

「でもね、大平(おおだいら)さん、あなた、未成年でしょ、親御さんの許可は?」

「えっと、それは……」

 

 正直、親の許可なんてとっていない。

 ピザ屋さんのバイトしていい? とちょっと聞いてみたけど、絶対駄目、って返事だった。

 高校生なら勉強しなさい、って言われてるんだ。

 でも。

 欲しい服やアイテムがいっぱいある。

 ゴスロリ着れるのなんてたぶん若いうちだけだし、今! 今お金が絶対にほしい!

 

 そこに、彩華(あやか)さんが相変わらず優し気な笑みで言った。

 

「大丈夫よお。うちの仕事は土日だけだし、親御さんには友達と遊びに行くって言えばいいじゃない? 私も秘密にしといてあげるわよお」

「お願いします!」

 

 私が頭を下げたのと、その私の腕をとって藍里(あいり)さんが立ち上がったのは同時だった。

 

「帰るわよ、大平(おおだいら)さん。怪しすぎるわ」

「え、でも、私、やりたいです!」

「だめよ。絶対にダメ。絶対に危ない。どうなるかわからないわ」

 

 そして藍里(あいり)さんはテーブルの上に千円札を二枚おいて、

 

「さあ! 帰るわよ! 駅はすぐそこね、まっすぐ帰るのよ!」

「え、でもでも私やりたいのに!」

「いいから!」

 

 藍里(あいり)さんはもんのすごい力で、私をぐいぐいと無理やりひっぱって店の外へと連れだしてしまった。

 その様子を、彩華(あやか)さんはただニコニコして見ていただけだった。

 

 もう!

 なんなのこの人、まじで迷惑!

 店の外に連れ出された後、

 

「これはやばいバイト。ほんとになにされるかわからないわよ。親の許可もとらずに親に秘密で働かせる人がまともなわけないわ! まっすぐ帰るのよ! あなたはまだ若くてバカだから騙されてるだけだわ! どうしても探索関係の仕事やりたいなら、私に連絡して! すぐには無理かもだけど、なんか信頼できるいい話あったら紹介するから! あなた、家どこ? 家まで送って行くわ」

「けっこうです! っていうか家まで来るって、藍里(あいり)さんの方が怪しいです! もう付いてこないで!」

 

 そう叫んで私は藍里(あいり)さんの腕を振り払う。

 

 日曜日の駅前だからそこそこ人通りがある。

 その中、私は駅に向かってダッシュした。

 藍里(あいり)さんは走ってまでは私を追いかけてこないみたいだった。

 

 もう!

 もう! 

 もう!

 なんなのあのポニテ女、人の邪魔して!

 それに人の事、バカとか言って失礼失礼失礼!

 あんたの方がよっぽど信用できないって、あの女!

 

 私はプンプン怒りながら新潟駅の地下街に行き、スマホをとりだす。

 そして、トリッターのアプリを開いた。

 

 ――そこには、彩華(あやか)さんからのDMが届いていた。

 

『邪魔が入っちゃいましたね。親には秘密で何十万円も手に入ります。あとでまた連絡ください。今度は二人で会いましょう』

 

 もちろん、私はすぐに返信したのだった。

 親に秘密のお金を、何十万円も稼げる。

 若くてバカな私は、そんなトリッターで募集しているバイトをやることにしたのだった。

 

 

     ★★★★★

 

 

「私は、あの時追いかけるべきだったのよ。今でも後悔しているわ。なんであのとき、全速力で追いついて、ひっぱたいてもいいからそのままご両親のところまで引きずって行かなかったんだろう」

 

 yPhoneの向こう側から、沈鬱な藍里(あいり)の声が聞こえる。

 零那(れいな)はただうつむいて聞くことしかできなかった。

 

 それは、今だからこそ言えることだ。

 今ヤミ――深夜(みや)は幽霊となっている。

 つまり、死んだのだ。

 しかし、後から何とでもいえることで、藍里(あいり)にとってヤミはその時ほんの数分間一緒にいただけの関係にすぎない。

 少なくともあの場は一緒に逃げられたのだし、まさか彩華(あやか)が追撃してヤミをたらしこむなど、その一瞬で予想するのは難しいはずだった。

 

藍里(あいり)先輩は悪くないです!」

 

 虹子が大きな声で言う。

 零那(れいな)はその通りだと思った。

 

 悪い人がいるとすれば……それは、彩華(あやか)しかいない。

 いや、藍里(あいり)から聞いた話だけでは彩華(あやか)がヤミを殺したという証拠はまだなにもないのだが、しかし、状況から言えばほぼ確実だと思われた。

 

「私はそこで大平(おおだいら)深夜(みや)と別れて、二度と会うことはなかった――。まさか……まさか死んでいたなんて……」

 

 yPhoneの向こう側から聞こえる藍里(あいり)の絞り出すような声。

 

 零那(れいな)は自分の唇をグッと噛んだ。

 ヤッちゃん――。

 必ず、あなたの魂を、私が救ってあげる。

 

 

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