異世界転生失敗弱者、三千年の果てに神を斬る。   作:USK1210

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雷神トール

アスラと雷神トールの戦闘も、すでに火蓋が切られていた。

 

肩に神器ミョルニルを無造作に乗せ、雷雲を背負ったような巨躯がゆっくりと歩み寄ってくる。

足音一つで大地が震え、空気は帯電し、髪が逆立つほどの圧がアスラを包み込む。

 

トールは笑っていた。

見下すような、飢えた獣の笑みだ。

 

「死ぬ準備はできたか人間よ」

 

アスラは絶剣ウルティマを抜き放つ。

刃が鳴り、周囲の空気が引き締まる。

胸の奥は燃えるように熱く、まるで世界の中心に立ったかのような万能感が全身を満たしていた。

 

黒衣を揺らす風が、一瞬だけ止まった。

 

次の瞬間――トールがミョルニルを投げ放つ。

 

唸る風を押し切る速度で迫るハンマー。

アスラは半歩だけ身体を傾け、紙一重でそれを回避する。

すぐにミョルニルは弧を描き、神の掌へ帰還した。

 

今度は、先ほどの比ではない。

雷鳴を連れてミョルニルが投げ放たれる。

大気が裂け、アスラの頬を掠めながら戻っていく。

 

そして三度目。

放った瞬間、トールは地を蹴った。

雷撃の軌跡を残して突進し、アスラとの距離を一気に詰めてくる。

 

ミョルニルを避けた刹那、トールの影が覆いかぶさる。

巨腕がアスラの体を押さえ込み、雷神の握力が骨を砕くほど締め付ける。

肋骨が軋み、肺が押し潰され、呼吸が奪われていく。

 

空が裂けた。

 

雷鳴ではない。

雷そのものが一直線に降り注ぐ。

 

一撃!

二撃!

三撃!

さらに四撃!!

 

焼けつく閃光がトールに落ち続ける。

アスラもろともだ。

 

直撃の衝撃が皮膚を裂き、骨まで震動させ、視界が白く塗り潰される。

 

身体は痙攣し、意識が焼き切れそうになる。

抵抗する余裕などない。

死神の手が首を撫でていくような感覚が全身を支配した。

 

ぐったりと力が抜けた瞬間――

 

トールのミョルニルが、横一線に走った。

 

ゴッッ!!!

 

アスラの身体は凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、岩壁をいくつも突き破って地面へ転がる。

岩片が雨のように砕け散り、砂塵が舞い上がる。

 

「これは痛い、打撃と雷、どっちもやばいぞ!」

 

喉の奥が焼けるように痛む。

それでもアスラはゆっくりと立ち上がり、荒い呼吸のままトールを睨んだ。

 

対するトールも、砂塵を踏みしめながら前へ歩き出していた。

片腕を振るたびに空気が震え、雷光が皮膚の間を走る。

 

アスラはウルティマに魔力を込める。

刃が軋み、白炎のような光が柄からあふれ出す。

ただ立っているだけで、周囲の空気が熱で歪む。

 

そして――消えた。

 

いや、消えたように“見えた”だけだ。

次の瞬間、アスラはトールの眼前へ現れ、胴を横一文字に薙ぎ払う。

斬撃の軌跡が空間を裂き、白炎の尾が残る。

 

しかしトールは巨腕でミョルニルを振り上げ、盾のように構えた。

雷鳴が轟き、アスラの一撃は衝撃ごと弾き返される。

 

ふたりの間に爆風が生まれ、大地が抉れた。

 

アスラは足元の影へ滑り込み、死角から背後へ回り込む。

狙うは急所、雷神といえど防ぎ辛い一点の突き。

 

しかし――それすらもミョルニルが受け止めた。

 

跳躍。

空中で身体を捻り、ウルティマを振りかぶる。

全力の一撃を叩きつけた。

 

『キンッ』

 

神鉄をも砕く絶剣の斬撃を、トールは微動だにせず弾き返した。

 

「これはただの剣ではダメだな、いくつか試すか」

 

アスラは後退し距離を取る。

地面には無数の雷痕が刻まれ、大気は焦げた匂いで満ちていた。

 

そして――禁術が解き放たれる。

 

第二十階梯魔法 禁術

── 黒日爆核《アン・バル・シグ・キド》

 

天地が黒く塗り潰された。

太陽が裏返り、空は反転し、世界の理が崩れ落ちる。

“上”と“下”が曖昧になり、重力すら震え始める。

 

トールの身体を覆う神光の輪が黒炎に焼かれ、悲鳴のような摩擦音を上げた。

概念そのものが崩壊し、神性の核が削られていく。

 

アスラの腕は千切れそうだ。

口、鼻、耳から血が噴き、皮膚の下の血管が裂ける。

魔法の衝撃を抑え込むだけで、生死の境へ踏み込んでいた。

 

だが――トールは膝をつかなかった。

 

雷神は概念の崩壊に抗い、ゆっくりと顔を上げる。

 

「禁術が効かない事が証明されたな。やはり斬るのが一番いい」

 

アスラが構え直した瞬間、トールが雷撃の光をまとって飛び込んできた。

 

ミョルニルが振り上げられる。

それはもはや質量兵器ではなく、天変地異そのものだった。

 

叩きつけられる直前、アスラは身を捻り、地を滑るように避ける。

だが――ミョルニルは速くなる。

一度、二度、三度と振るうごとに速度が上がり、やがて嵐となって襲いかかる。

 

完全回避は不可能になっていた。

刃先すら触れなくとも、その衝撃波だけで皮膚が裂ける。

 

トールがミョルニルを天へ掲げると、空が裂けた。

 

数百の雷が一斉に収束し、一本の巨大な雷槍となってアスラへ降り注ぐ。

 

落雷。

大地が焦げる轟音。

 

だが――アスラはその雷を斬った。

 

荒々しい軌跡で雷を切り裂き、蒼白の閃光は渦を巻きながら霧散していく。

 

瞬間、アスラは更なる速度でトールを狙う。

大地が割れ、空気が爆ぜる。

 

しかし同時に、トールも横一文字の軌道でミョルニルを振るっていた。

 

雷がミョルニルへ落ちた。

その一撃は天災を超え、世界の“怒り”が形を成したかのようだった。

 

巻き込まれたアスラの身体は雷撃に貫かれ、眩い光の中へ消えていった。

 

――――

 

「グハッ!……遠近隙のない攻撃だな、こりゃ強い。だが血が湧き上がってくる!」

 

たまらずアスラが後方へ跳躍した。

砂塵が爆ぜ、大地がえぐれ、雷神の気配が追いすがる。

着地した瞬間、空を裂いてミョルニルが飛来する。

雷の尾を引き、質量と殺意を兼ね備えた一撃が一直線に迫った。

 

アスラは冷静に剣を捻り、刃先でハンマーの軌道をそらす。

火花が散り、大地を滑ってミョルニルは弧を描き、再びトールの掌へと吸い込まれた。

 

ミョルニルを受け取った雷神は、次の瞬間には地面を砕きながら突進してくる。

巨体とは思えぬ速度だ。全力で振りかぶられたミョルニルが、容赦なくアスラの頭を狙う。

 

アスラは紙一重で身を翻したが――その隙を逃さず、トールの左ストレートが閃いた。

 

「ッぐ……!」

 

重い。

ただ重いだけではない。

大地の怒りと雷鳴の衝撃が拳に宿り、アスラの顔をえぐる。

視界が揺れ、鼓膜が震え、平衡感覚が一瞬で奪われた。

 

ふらつくアスラに、トールは追撃を畳みかける。

雷を帯びたミョルニルが稲妻のように投げ放たれた。

 

次の瞬間、腹に衝撃が突き刺さった。

雷撃が爆ぜ、内臓を焼き、骨が軋む。

 

「こりゃ強すぎる……こいつなら俺を殺せるかもしれない」

 

膝をつきかけながらも、アスラは自らを鼓舞するように立ち上がった。

だが、心の奥では“死”が静かに手招きしていた。

 

「このまま殺されるのも……ありかもな」

 

呟きとは裏腹に、アスラの身体は闘気をまとい、静かに構えを取る。

心は死を望んでも、体は勝負を決して捨てていない。

その矛盾が、逆にアスラを研ぎ澄ませていく。

 

阿修羅零式

── 神滅裂刃《シンメツ・レツジン》

 

神を裂くためだけに研ぎ澄まされた一撃。

アスラの姿が掻き消え、残像だけが雷光の中に揺れる。

 

一瞬後、アスラはトールの背後へ回り込み、逆袈裟の軌道で背中を斬り裂いた。

鮮やかな斬撃。神ですら反応できない速さ。

 

だが――神肉は瞬時に再生する。

 

「はー、回復とかやる気なくなるわ」

 

アスラの心が落ちていく。

虚無が満ち、だがそれが逆に攻撃の勢いを増した。

 

苛立ちが爆発し、速度が跳ね上がる。

限界のその先へ。

 

アスラは何度も何度もトールを斬りつけ、回復する端から斬り続けた。

雷神の巨体に、斬撃の残光が無数の傷を刻みつける。

 

「それなら一刀両断しかないな」

 

アスラの声が低く響いた。

 

次の瞬間、雷神が暴れ出した。

ミョルニルが嵐のように振るわれ、空気ごと破壊の渦が生まれる。

叩きつける一撃一撃が大地を砕き、周囲に雷撃が飛び散る。

防御しているだけなのに、雷の刺す痛みが皮膚を裂いていく。

 

「防御してても攻撃が入る、たまったもんじゃない!」

 

アスラが苛立ちを露わにした瞬間――

雷を纏ったミョルニルが軌道を変え、アスラの左肩に直撃した。

 

炸裂。

雷光の爆発とともにアスラの身体は吹き飛び、地面を滑り、動かなくなった。

 

「はー、どうしようもなく死にたい。さっきまで気分が良かったのに、今じゃどん底だ」

 

血塗れのまま、アスラはそれでも立ち上がる。

左肩は黒く焦げ、腕は震え、呼吸は荒い。

だが、脚は前へ進む。

剣先を地に引きずり、ゆっくりと歩み出す。

 

その姿は、まるで死神そのものだった。

絶望の底から、なお戦意だけを抱えて進む者の歩み。

 

――――

 

阿修羅零式

── 零式天斬《レイシキ・テンザン》

 

神格さえ避けられぬ必中の斬撃。

雷鳴が轟く戦場に、アスラの影がふっと消えた。

 

トールが嵐の如くミョルニルを振り回した、その一瞬の緩み――

そこへアスラの超神速が突き刺さる。

 

刃閃。

 

次の瞬間、トールの左手首が宙を舞った。

 

「うおおおおぉ!!」

 

雷神の絶叫が天地に響く。

切断面からは神血が噴き上がり、地面に落ちた瞬間に石を溶かすほどの熱を帯びていた。

アスラは口元を吊り上げる。その笑みは挑発以外の何物でもない。

 

それが――雷神の怒りに火をつけた。

 

「いでよ!メギンギョルズ」

 

トールの腰に黄金の光が走る。

金属装飾が施された重厚な革ベルト。

巻けば力と神力が二倍になるという伝説の神器が、怒りを燃料に脈動していた。

 

装着した瞬間、トールの肉体が雷を噴き、空気そのものが震え始める。

 

アスラもまた解き放つ。

 

《阿修羅──解放!》

 

押さえ込まれていた魔力が奔流のように噴き上がり、筋肉が異様なほど隆起する。

血管が黒く浮かび、周囲の魔力が吸い寄せられていく。

 

第五階梯魔法が連続して展開される。

 

──フィジカルブースト(身体強化)

──アクセルドライブ(スピードアップ)

──マインズアイ(心眼)

 

視界が澄み渡る。

世界の動きが、ほんの一瞬だけ遅れて見える。

心臓の鼓動すら、凪いだ湖のように静かだ。

 

アスラは静かに構えた。

対して、トールも呼吸ひとつ乱さず、ただ獲物を見る猛獣の眼光で睨み据えてくる。

ふたりの間に漂う気配だけで、大気が震えた。

 

そして、雷が弾ける。

 

ミョルニルが投擲された。

その速さは先程の倍――いや、まるで空間そのものを裂くような光速の暴威。

雷の尾を引き、空気の壁を何度も突き破る。

 

アスラは心眼で軌道を読み切り、紙一重でかわした。

しかし、二発、三発と続くたび、雷撃がかすり肉体を焦がし、体力が容赦なく削れていく。

 

トールがミョルニルを天に掲げた瞬間――

世界が白く染まった。

 

周囲数キロにわたり、雷が雨のように降り注いだのだ。

天地が落雷の獄と化し、逃げ場という概念そのものが消える。

 

だがアスラは、雷の切筋をすべて見切っていた。

ウルティマが輝き、降り注ぐ雷を数百本切り伏せる。

稲妻はやがて渦になって収束していく。大地には焦げ跡すら残らない。

 

トールが、雷速で消えた。

 

次の瞬間にはミョルニルを投げ放ち、そのまま左フックを叩き込み、膝を二発突き刺し、最後に頭突きを浴びせる。

戻ってきたミョルニルを片手で掴み、そのまま横一文字でアスラを薙ぎ払った。

 

轟雷と共に爆撃の衝撃。

アスラの体は地を砕きながら転がり、砂塵を巻き上げて吹き飛ぶ。

 

さらにトールは雷と共に叫ぶ。

 

山羊の戦車《ゴートチャリオット》が召喚された。

雷に包まれたその戦車は、踏み潰された者を原形すら残さないという死の兵器。

 

トールは戦車へ飛び乗り、一息で駆け出す。

車輪が回転するたび、雷が弾け、世界が白と紫の閃光に染まる。

 

アスラは剣で弾き、かろうじて避け続けていたが――

攻撃の糸口が見えない。

思考は鈍り、視界は霞み、反応が遅れ、完全に防戦一方へ追い込まれる。

 

「心が乱れている。それなら、俺は闇に沈もう」

 

雷神が雄叫びを上げ、ミョルニルを構えたまま戦車で突撃する。

 

アスラは魔法を叩き込む。

 

第七階梯魔法──

──スーパーアクセルドライブ(超スピードアップ)

 

空気が爆ぜ、視界が白い線の奔流となる。

アスラは制御不能の超光速へ突入し、その勢いのまま戦車の車輪を切断した。

 

戦車が激しく傾き、雷と砂塵を撒き散らして横転。

トールも体勢を崩すが、その眼光だけは獣のように鋭く、決して獲物を逃さない。

 

アスラはゆっくりと歩いていく。

呼吸は荒く、全身に痛みが走るが、その足取りには確かな決意が灯っていた。

 

剣をだるそうに構える。

 

阿修羅零式

── 先刻斬《センコクザン》

 

「先刻」の名の通り、斬撃は発動した瞬間に対象へ到達する。

アスラが横一文字に振るったときには――

 

すでにトールの右腕が空へ舞っていた。

 

「ぐわあああぁ」

 

雷神の絶叫が裂ける。

だが執念の一撃。

トールは左手にミョルニルを持ち替え、アスラの顔面へ叩き込んだ。

 

爆ぜる光。

アスラの頬が割れ、血飛沫が弧を描く。

 

それでもアスラは止まらない。

左腕を斬り落とし、さらに体をひねり――

流れるような神速の動作でトールの首をはねた。

 

その最期の瞬間まで、トールの表情は「信じられない」という色を浮かべていた。

 

雷雲が晴れ、嵐が止む。

静寂の中、トールの巨体が重く地へ崩れ落ちる。

 

その場に残ったのは、満身創痍の三人――

ゼロ、ジーク、アスラのみ。

 

こうして、凄烈を極めた神々の戦争は幕を閉じた。

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