異世界転生失敗弱者、三千年の果てに神を斬る。   作:USK1210

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ルアの剣闘士大会

──剣闘士大会当日。

 

ルアは朝から身体が軽く、まるで龍の息吹が背を押してくれるような絶好調だった。

いつものライトアーマーに、彼女の象徴でもある双剣を腰に差し込み、準備は万全。

 

次は深く息を吸い、龍魔力をそっと顔へと集中させる。

 

皮膚の下を黒い力が走り、浮かび上がるように黒鱗がいくつも現れる。

頬、額、こめかみ。

やがて、二本の小さな角がコツリと突き出た。

 

「これでちゃんと変装できてるかな?」

 

ルアは不安そうに振り返ったが、その姿を見たアスラが、目を丸くして言った。

 

「凄い!これなら分からないよ。迫力が増したな!」

 

一瞬遅れて、ゼロが破顔する。

 

「ルアもだいぶ龍に近づいてきたな!角まで生えたぞ!」

 

その声は半分驚き、半分誇らしさに満ちていた。

成長した仲間を見る時の、嬉しさが隠しきれていない。

 

そんな二人を横目に、ジークは腕を組んで、いつもの調子で言った。

 

「今のルアの敵になる者などそうそうおるまい。アスラもゼロも興奮しすぎだ」

 

棒読み気味の声音だが、目の奥にはわずかに笑みが浮かんでいる。

 

「じゃあ、行ってくるね!」

 

ルアは軽く手を振り、転移魔法を展開。

地面が白く光り、次の瞬間、彼女の姿は淡い残光だけを残して消えた。

 

──王都セレリア。

 

ルアは街外れの石畳の上に降り立った。

清潔な風が吹き抜け、遠くの華やかな喧騒が耳に届く。

視線を向けると、巨大な円形闘技場が、王都のど真ん中で堂々とそびえ立っていた。

 

(よし……行こう!)

 

ルアは駆け出した。

大会の日だけは特別に設けられる大通りを走り抜け、闘技場の受付へと向かう。

 

すでに長蛇の列ができており、空気には殺気と緊張が混ざっていた。

全員が敵であり、全員が自分の強さを誇示するかのように魔力を少しずつ放っている。

 

しばらく並ぶと、ようやくルアの番になった。

受付係が書類を広げながら言う。

 

「今日の大会に出場希望ですね?ではこの紙に、名前と冒険者ランク、年齢、種族、連絡先を記入してください」

 

「あのー、私冒険者じゃないんですけど大丈夫ですか?」

 

ルアの声は小さく、少し不安が混じっていた。

 

「大丈夫ですよ!その場合は無記入でお願いします」

 

受付係は慣れた調子で微笑む。

ルアは紙に記入し、丁寧に渡した。

 

「はい、大丈夫です。二十四番の番号札になりますので、なくさずお持ちください。自分の番号が呼ばれた際は会場に入ってください」

 

そう言って、受付係は次の参加者の対応に移った。

 

――――

 

── 待合室

 

ルアは番号札を握りしめ、薄暗い待合室へと足を踏み入れる。

壁には選手たちの魔力がぶつかり合って生じる低い震動が伝わってきて、空気がざらついていた。

 

(……思ってたより強そうな人、いないかも)

 

周囲を見渡す限り、ルアの目に映るのは一般的な冒険者や武闘家ばかり。

圧倒的なオーラを放つ者は見当たらない。

 

ルアは油断しないように、魔力を限界まで薄くし、広範囲へゆっくりと探るように放った。

 

──その瞬間。

 

「…………!!!」

 

全身が震えた。

 

巨大な魔力が、ただひとつ。

いや、他にも強大な魔力はある。

だが、それらすべてを一瞬で霞ませる圧倒的な“何か”があった。

 

色に例えるなら黒と白が同時に渦巻くような、矛盾した存在感。

底なしの深淵と、透き通る光の純度を同時に持つ魔力。

 

(なに……これ……。こんなの、見たことない……)

 

ルアは震えに耐えながら、その魔力の源へ足を運んでいく。

岩の裂け目に吸い寄せられるように、自然と身体がそちらへ向かっていた。

 

そして──見つけた。

 

身長はルアと大差ない。

長い黒髪は背中まで流れ、瞳は黒の中に紅い光が灯っている。

鎧は付けず、身体に沿う皮製の防具のみ。

戦いに特化した、無駄のない装い。

 

だが何より目を引いたのは、その仕草だった。

彼女は片手でお腹を押さえ、今にも倒れそうだ。

 

(この子が……あの魔力の主?信じられない……)

 

驚きと興味が入り混じり、胸が高鳴る。

 

(仲良くなれたら……聞いてみよう!どうして、あんな魔力を持ってるのか!)

 

ルアはそっと息を飲み、その少女から目を離せなかった。

 

――――

 

やがて全ての選手の番号が呼ばれ、どよめきと歓声が渦巻く会場へと次々に入場していった。

石造りの巨大な闘技場は、観客の熱気で揺れているかのようだ。

胸を焦がすような期待と、喉を刺すような殺気が入り混じり、空気が重く震えていた。

 

大会ルールは極めて単純。

二人倒せば勝ち抜き──それだけ。

だが、簡単だからこそ一瞬の判断と速度、そして実力がそのまま勝敗に直結する。

 

司会者が高らかに声を張った。

 

「それでは大会を始めたいと思います!三、二、一、初め!」

 

場内が爆ぜるような歓声に包まれた。

 

ルアは周囲の魔力の流れを読み取りながら、視線をある一点──黒髪の少女へ向けていた。

先ほど圧倒的な魔力を放っていた、あの不思議な少女だ。

どんな戦い方をするのか、興味と警戒が入り混じる。

 

黒髪の少女は、細身の黒剣を抜いた。

その動きはふらついているのに──次の瞬間。

 

風切り音すら遅れて聞こえた。

ふわりと揺れた身体が、一瞬にして二人の選手の背後を通り抜ける。

 

残像が消えると同時に、二人の首元から薄く血がこぼれ、ゆっくりと倒れた。

 

少女もその場で倒れ込んだが、地面を強く握りしめ、すぐに立ち上がる。

その姿を何度も繰り返しながら、ふらついたまま会場を去っていく。

 

(……一切のブレがなかった。あの剣筋、間違いなく相当な使い手……!)

 

ルアは息を飲む。

見た目の柔らかさとは裏腹に、彼女が持つ剣技は鋭すぎた。

 

ルアも双剣を抜いた。

刃が半円を描いた瞬間、二人が同時に吹き飛ぶ。

動きは短く静かで、観客席から歓声が上がる前に、すでに双剣は腰へ戻されていた。

 

そのまま、ルアは黒髪の少女のいる方向へ向かった。

 

――――

 

少女は、闘技場の片隅で小さくしゃがみ込んでいた。

肩で荒い息をしながら、細い腕でお腹を押さえ、涙が今にもこぼれそうに揺れている。

 

戦いの熱気が残る闘技場の砂ぼこりが風に舞い、少女の黒い髪をふわりと揺らした。

 

ルアはその様子に気づき、ゆっくりと歩み寄り、そっと声をかけた。

 

「大丈夫? お腹痛いの?」

 

少女はぷるぷる首を振ると、耐えきれないと言わんばかりに叫ぶ。

 

「違う! お腹がすいたのー!」

 

顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらも必死の訴えだ。

その姿があまりに必死で、ルアは思わず苦笑してしまう。

 

ルアは自分のバッグをごそごそ探りながら言った。

 

「私、今軽食持ってるけど……よかったら食べる?」

 

その言葉を聞いた瞬間、少女の黒い瞳がぱあっと輝いた。

まるで夜空に星が灯ったみたいにキラキラと光り、

さっきまでしょんぼりしていた表情が一気に明るくなる。

 

ルアがいくつか食べ物を差し出すと、少女は震える手で掴み──。

 

「あ?にゆきそ?てにお?てことう!!!」

 

口いっぱいに食べ物を押し込みながら、もごもごと意味の分からないことを言い始めた。

たぶん、お礼なのだろう。

 

そして、食べ物は一瞬で消えた。

ルアはその様子をニコニコしながら見守っていた。

 

少女は満腹になったのか、ほっと息を吐く。

 

「あ、ありがとう。君の食事食べちゃってごめんね」

 

申し訳なさそうに眉を下げ、頭を下げる。

 

ルアは優しく問いかけた。

 

「どうしてご飯食べなかったの?もしかしてお金持ってないの?」

 

少女の肩がびくりと跳ねた。

 

「……全くないのお金、だからこの大会で優勝して、賞金を貰おうと思ってる」

 

「優勝できなかったらどうするの?お仕事はしないの?」

 

ルアの質問ラッシュが続く。

 

少女はため息をつきながら答えた。

 

「借金があるから仕事してもダメなんだよね。だから、この大会の賞金にかけているんだよ」

 

食べたことで体力が戻ったのか、声には生気が宿っていた。

 

そして、胸に手を当てながら名乗った。

 

「あ、私の名前はルシファー、ルーシーって呼んでね!」

 

ルアは満面の笑みで手を差し出した。

 

「よろしくね!ルーシー!私はルアだよー。ここには腕試しのために来たよ!」

 

それから二人は空き時間のほとんどを一緒に過ごし、時折笑い合いながら話し込んだ。

 

ルアが呼ばれて試合へ向かえば、およそ一分で片がついた。

ルーシーが呼ばれても同じく一分で終わった。

観客席は彼女たちの異常な強さに騒然としていた。

 

そして──。

 

試合はついに決勝戦へと進む。

ルアVSルーシー。

 

観客たちの期待が重く、熱く渦巻く。

それぞれが、どちらが勝つのか息を呑んで見守っていた。

 

ルアは静かに双剣の柄へ手をかけ、友の顔を見る。

 

「優勝させてあげられないかもしれない。ごめんね、ルーシー」

 

ルシファー──ルーシーは拳を握り、闘志を燃やすように言い放った。

 

「金千枚のために、私は勝つ!!」

 

両者の間に、緊張が張り詰めた。

一歩動けば決着がつくかもしれない、そんな刹那の空気。

 

闘技場は静まり返り──決戦の幕が上がる。

 

――――

 

試合開始の合図が鳴った瞬間、空気が弾けた。

 

最初に動いたのはルアだった。

 

彼女は腰の双剣を抜き放つと、地面を蹴る音すら残さず視界から消える。

その動きは、まるで時空をひと欠け飛ばしたかのような“瞬間移動”の速さだった。

 

対するルーシーも負けてはいない。

軽やかに間合いを取りながら、風そのものと錯覚するほどの透明な軌跡を残してステップを踏む。

二人の残像が交差した瞬間────斬撃の火花が閃いた。

 

同時に斬りつけ、剣と剣が噛み合う。

ルアは双剣を押し込み、ルーシーは黒剣で押し返す。

刃と刃のきしむ音が空気を震わせ、互いの足元の砂が小さく舞い上がった。

 

せめぎ合いののち、二人は弾かれたように後方へ跳ぶ。

 

「さすがにやるわね!ルア、あなた人間じゃないでしょ?」

 

ルーシーが挑発めいた笑みを浮かべる。

 

「私は正真正銘人間だよ!ちょっと変わってるけどね!」

 

答えと同時にルアは跳躍した。

天井まで届きそうな高度から、一気に急降下──

双剣乱舞の嵐がルーシーへと襲いかかる。

 

ルーシーの頬が裂け、鎧に細かい傷が刻まれ、腕に鮮烈な剣線が走る。

 

ここで、ルーシーの雰囲気が変わった。

 

黒い髪がふわりと揺れ、肌を覆うように黒い魔力が滲み出す。

 

次の瞬間、彼女の正面に黒い渦が開いた。

深淵そのもののような渦の中から、禍々しい剣がゆっくりと抜け出す。

 

それは反逆の剣《天剣グラディウス》。

 

神すら斬り伏せると伝わる、忌まわしい力を宿した黒剣だった。

 

ルアはその殺気を悟ると、即座に双剣を腰へ戻す。

胸元に淡い光の裂け目──異空間が開き、その内部から一振りの剣が姿を現した。

 

龍神剣ドラグノア。

抜いた瞬間、彼女の全身に龍魔力が奔流のように流れ込む。

 

二人は睨み合いながら、じりじりと間合いを詰めた。

 

そして────

 

剣撃が放たれた。

 

一撃、二撃、三撃、四撃──

斬撃が重なり、空気が弾けるたび火花が爆ぜる。

 

(速さは互角。力も互角。なら……技で押し切るしかない!)

 

ルアの瞳が鋭く細められた。

 

龍神一閃

──龍咬《ドラゴンバイド》

 

振り抜いた剣の軌道に、龍の牙のような“二条の衝撃線”が走る。

 

斬撃が形を持ったかのように空間を裂き、対象を両側から噛み砕くような破壊の圧が迸った。

 

しかしルーシーは、ギリギリのところで空へ跳び、技の間隙を抜けた。

そのまま上空から、凄まじい勢いで百撃の突きを放ってくる。

 

空が黒い針で埋め尽くされた。

 

ルアは魔法を発動させる。

 

第十五階梯魔法

──神眼《ゴッドアイ》

 

世界が遅くなり、突きの軌道が光の線として視える。

ルアは傷を負いながらも避け、弾き、切り返し、百の突きをすべてさばききった。

 

続けざまに次の魔法が発動する。

 

第十五階梯魔法

──光速《ライトスピード》

 

ルアの身体が光に包まれ、瞬間、爆発したように加速する。

残像ではなく“光の尾”が彼女の軌跡を描いた。

 

ルーシーの目の前に現れては消え、消えた直後には十の剣撃が降り注ぐ。

速度の壁を破った連撃が、無慈悲にルーシーを追い詰める。

 

しかし──

彼女がルーシーの間合いに入ったその瞬間、脳に冷たい何かが流れ込んだ。

 

“自分が一刀両断される未来”が見えた。

 

「ヤバい!!」

 

ルアは即座に後退する。

切り裂く音が空気だけを斬り裂き、紙一重で死を避けた。

 

「へー、私の攻撃の瞬間がわかるんだ!やるわね、ルア」

 

ルーシーが警戒心を増す。

互角に見える戦いだが、精神的には明らかにルアが押されている。

 

(どうしよう……剣だけで勝てるかな?攻撃魔法は使いたくないし……あ、そうだ!アスラの真似をしよう!)

 

時空間でのバトルロワイアル。

そこでアスラの技を何度も何度も見てきた。

あの戦い方なら、この状況を突破できる──そう確信した。

 

――――

 

その頃、観客席ではアスラ、ゼロ、ジークの三人が身を乗り出して応援していた。

 

「なあ、ルアの相手の子、人間じゃない気がするんだけど、どう思う?」

 

アスラが眉をひそめる。

 

「我も感じておった。あれは異質だな。間違いなく人間ではない存在だ」

 

ゼロが腕を組みながら唸る。

 

「ふむ、あれは天使だな。それも落ちた天使、堕天使だ」

 

ジークはいつもの棒読みで言った。

 

「「え?堕天使?」」

 

「自分の力と美を誇りすぎ、神より上に立とうとしたために堕ちたと聞いた」

 

ジークの淡々とした言葉に、二人は思わず顔を見合わせた。

 

観客席のざわめきが、ほんの一瞬だけ遠のく。

 

まるで今の言葉が、これから始まる試合の行方さえ変えてしまう――

そんな予感を含んでいた。

 

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