異世界転生失敗弱者、三千年の果てに神を斬る。   作:USK1210

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キングベヒーモス

翌日から、五人は本格的にコンビネーションの訓練へと入った。

訓練内容は基本的に「二人対三人」。

 

規模こそ小さいが、連携の精度を極限まで高めるための重要な実戦形式だ。

 

しかし、本来ならば実戦で鍛えたいところだが――いかんせん、この五人の相手となれる存在が周囲にはいない。

彼らは、ただの訓練では手応えを感じられないほど強くなってしまっていた。

 

そんな中、アスラがジークへと声を掛けた。

 

「なあジーク、俺たちのコンビネーションの練習になるようなモンスターっていないのか?」

 

ジークは記憶の奥底を探るように、ゆっくりと目を細める。周囲の風が砂塵を巻き上げ、緊張感が辺りを満たした。

 

「……いるにはいるが、ここからだとかなり遠いぞ」

 

「へー、いるんだ!どんなモンスターなんだ?」

 

アスラは気配を隠さず、興味を示した。彼の瞳には冒険者としての本能が瞬いた。

 

「キングベヒーモスだ」

 

ジークは短く、しかし重く答えた。その声に含まれる意味は、ただの警告ではなく、絶対的な現実の重さを帯びていた。

 

「…………それは無理でしょ?」

 

アスラは右手をぱたぱたと振り、完全拒否のジェスチャーを示す。だが、その心臓は早鐘のように高鳴っていた。

 

「キングベヒーモスに勝てないようでは、神にも勝てないと思うが?」

 

ジークの目が淡く光り、冷静に現実を突きつける。その冷たく鋭い視線は、先を見据えている。

 

「ジークはキングベヒーモスと対峙したことあるのか?」

 

「ない」

 

「ないのかよ!でも、まあこれもいい機会かもな」

 

アスラは一瞬驚きつつも、すぐにやる気へと切り替わった。荒野を越える想像だけで胸が熱くなる。

そのままゼロ、ルア、ルーシーを呼び寄せ、声を張る。

 

「キングベヒーモスって知ってる?」

 

「陸最強のモンスターでしょ?あんなのと戦うなんて言わないよね?」

 

ルーシーは青ざめ、肩を震わせた。瞳の奥には恐怖が微かにまざっていた。

 

「私は頑張るよ!少しでも強くならないと。ルーシーも一緒に戦おうよー」

 

ルアは拳をぎゅっと握りしめ、目に決意を灯す。まるで身体から魔力が迸るかのようだ。

 

ゼロは逆に興味津々で、戦意を隠しもしない。

 

「陸最強?ふん!笑わせる、陸最強はドラゴンの我だ!」

 

「みんな意見一致だな!」

 

アスラが笑うと――

 

「私は賛成してないけど?」

 

ルーシーが詰め寄り、顔を近づけた。闘志よりも警戒心のほうが濃く、その瞳はどこか怯えすら含んでいる。

 

「本気で言ってるの?相手は“陸最強”よ?私の今の力で足を引っ張ったら、全員まとめて死ぬわ。そんなの、絶対に嫌よ!」

 

アスラは一歩も退かずに受け止める。

 

「ルーシーは、戦闘の勘を取り戻すためにも、この戦いに参加したほうが絶対にいいと思うぞ」

 

その声は静かだが、芯があった。

逃げ道を塞ぐような圧ではなく、“仲間だからこそ言える本気”がそこにある。

 

「……でも、もし私が判断を誤ったら?もし攻撃が遅れたら?その一度のミスで誰かが死ぬかもしれないのよ?私、あんたたちの足を――」

 

「そんな心配はしなくていい。お前が遅れたら、俺たちがカバーする。逆の時は、お前が助ければいい。そういうもんだろ?」

 

アスラの言葉に、ルーシーの肩がわずかに震えた。

長く閉ざされていた心の扉が、ほんの少しだけ軋む。

 

「……ほんとに、私でも……戦力になると思うの?」

 

「思う、じゃない。お前は“なる”。元々強かったんだからな」

 

短いが、揺るぎない断言。

 

ルーシーは数秒間、必死に迷いと向き合った。

そしてゆっくりと息を吸い、拳を握りしめる。

 

「……わかったわよ、参加する!少しでも昔の力、取り戻してみせるわ!」

 

言葉と共に、瞳に再び火が灯った。

 

ルーシーは気迫を取り戻し、胸に手を当てた。その背中には覚悟と希望が重なる。

 

「ジーク!キングベヒーモスは何処にいるんだ?」

 

アスラが問いかける。彼の声には好奇心と戦士の興奮が混じっていた。

 

「ここから北西に約五千キロ。魔大陸の荒野を徘徊していると聞いた」

 

ジークはいつも通りの棒読みで答えた。だがその言葉の重みには、以前のような心理的な壁を感じさせなかった。

 

「ゼロ!魔大陸までお願いできるか?」

 

アスラが飛ぶジェスチャーをする。彼の瞳には冒険者の熱気と仲間への信頼が光っていた。

 

「任せておれ!五千キロなら三時間くらいだ!あっという間に着いてみせよう」

 

ゼロは親指を立て、胸を張った。その背中からは、まるで大空そのものを駆け抜ける力強さが感じられた。

 

こうして五人は、史上最大級の強敵を討つための準備へと入った。

武具の点検、魔力の調整、緊急時の連携確認――どれも抜かりなく行われていく。

誰もが胸の奥に高揚と緊張を抱えながら、静かに戦いへ備えた。

 

そして翌日の早朝。

空気が澄み、冷たい風が頬を撫でる中、彼らは出発のときを迎えた。

 

ゼロは巨大な龍の姿へと変じ、その背に四人が飛び乗る。

次の瞬間、空気が弾けるようにゼロの翼が広がり、五人の身体は天へと舞い上がった。

雲を突き抜け、大気の層を切り裂くような速度。

風すら追いすがれないほどの超音速の飛行が始まった。

 

――――

 

──十五時間後

 

五人は、魔大陸の中心部へ続く荒れ果てた荒野を進んでいた。

土砂の風が吹き抜け、乾いた岩が砕けて転がっていく。

空は鉛色で、どこか世界そのものが息を潜めているようだった。

 

「ねぇ、みんなちょっと待って、いい考えがあるから!」

 

ルーシーが声を上げた瞬間、背中から黒い羽がふわりと展開した。

そのまま勢いよく風を巻き込み、彼女は真上へと飛び上がる。

高度を一気に取り、鋭い眼差しで地平線の向こうを見渡す。

 

上空に漂う空気が震えた。

そして、彼女は息を呑む。

 

「あ!え?何あれ?凄ーくデカい!!ここから北に三キロ位!」

 

焦りを帯びた声が、風に乗って地上の四人へ降り注ぐ。

 

「じゃあこのまま歩いて行くか!」

 

アスラは笑って肩を回す。

だがその笑みには、戦士としての高揚が隠しきれない。

 

やがて五人は、視界の先に“それ”を捕らえた。

黒紫の巨体が大地を揺らしながら、巨山のようにゆっくり歩いている。

魔大陸の王――キングベヒーモス。

 

――――

 

アスラは深く息を吸い込み、その巨体へと歩み出る。

 

「キングベヒーモスよ、死んでもらう。こちらの都合で本当に申し訳ない、責任はとる!」

 

キングベヒーモスは、まるで挑発を理解したかのように巨躯を揺らし、低い唸り声を響かせた。

 

五人は即座に戦闘配置へ散開する。

空気が張り詰め、辺りの温度が一気に下がった。

 

アスラが右手を掲げ、禁術の詠唱を開始する。

 

第二十階梯魔法 禁術

──黒隕破核《アン・ヴォル・セグル》

 

大気がざわめき、空が裂けた。

無限生成された小隕石群が空いっぱいに広がり、黒い雨となって降り注ぐ。

 

同時に、ゼロも龍の力を限界まで圧縮する。

 

──龍人型

魔道龍《ドラマギア》

 

龍気が地面を揺らし、ゼロの身体から蒼白い龍光が溢れた。

 

滝のように落下する隕石が、キングベヒーモスの巨体に容赦なく激突する。

何十、何百、いや数え切れないほどの衝撃が連続し、荒野が抉れていく。

 

しかしキングベヒーモスは、その全てを真正面から受け止め――

 

──《キングクエイク》

 

大地が爆ぜ、周囲が大きく陥没する。

同時に岩柱が森のように隆起し、隕石群を防壁のように遮った。

隆起は止まらず、ついにはすべての隕石を無効化した。

 

ゼロが咆哮とともに飛び込み、龍魔剣ノクスをキングベヒーモスの口へ叩き込む。

だが――

 

ガギィィンッ!

 

弾かれた!

 

「口であの硬さかよー、こんなの斬れるのか?」

 

ゼロが舌を巻きながら後退する。

 

背後ではジークが神剣バルムンクを振るい、音を置き去りにする速度で斬撃を刻み込む。

右腕にはルア、左腕にはルーシーが剣撃を浴びせ、動きを止めにかかる。

 

「やっぱり顔の弱点って言ったら、目だよな!」

 

アスラが地を蹴り、突きの体勢を取った。

 

阿修羅五式

──神威突光《カムイスラスト》

 

アスラの姿が消える。

次の瞬間、キングベヒーモスの顔面前に現れ、神をも穿つ突きを右目へ叩き込む!

 

「グオオオオォ!!」

 

巨獣が暴れ狂い、アスラは右手で激しく殴打され地面へと叩きつけられた。

ジークも左手の一撃を受け、荒野の彼方まで吹き飛ばされる。

 

ゼロは天へ向けて大きく息を吸い込む。

 

──終天煌覇《オウテンコウハ》

 

天を覆う光柱が形成され、大陸規模で焼き尽くす終焉のブレス。

五人は即座に退避し、キングベヒーモスを光の海へと押し込んだ。

 

焼き尽くされながらも、キングベヒーモスは悶え暴れ、その動きは徐々に乱れていく。

 

その隙に五人は同時に飛び掛かる。

だが――巨体が地を蹴り、全力の突進が迫った。

ルアとルーシーが巻き込まれるが、奇跡的に軽症で済む。

 

キングベヒーモスは前足を振り下ろし、大地を砕いた。

地震の波が五人を飲み込もうとし、裂け目が蛇のように走る。

全員が跳躍して回避するが、その直後――

 

尻尾が唸り、ゼロの身体を強烈に叩きつけた。

ゼロは空を裂き遥か彼方へ投げ飛ばされていく。

 

アスラとジークは巨獣の手指を狙って攻撃するが、まるで神鉄のような硬さで傷一つ付かない。

 

戻ってきたゼロを含む四人は再び連携を組む。

まずは、ルアが魔力を高く掲げた。

 

第二十階梯魔法 禁術

──終神雷誓《デ・ウス・ア・クネス》

 

天から降り注ぐ雷剣がキングベヒーモスを切り裂いた。

皮膚を貫き、肉を刻み、骨までも震わせる。

 

「グオオオー!」

 

アスラとジークが突撃しようとした瞬間――

 

キングベヒーモスは口から爆炎を放つ!

 

アスラはその炎の“切筋”を神眼で見極め、優しく斬る。

爆炎は道を失ったように円を描き、やがて霧散した。

 

その刹那、ジークの技が炸裂する。

 

──オーダーファイブ《ブレイド・リヴァイブ》

 

残像すら残らない速度の連撃が顔面を切り刻み、ついには左目へも到達し、一瞬で十回突いた!

 

キングベヒーモスは両目を抑えて吠える。

 

『グオオオオオオォォォーー』

 

その直後、空に無数の魔法陣が浮かび、大量の隕石が五人へ降り注いだ。

 

「これはやばい!!」

 

アスラが叫ぶ。

 

ルーシーが両手を広げ、聖域を展開した。

 

第十五階梯神聖魔法

──十光環絶界《アルカナ・ラディウス》

 

半球状の防壁が十重に重なり、五人を包み込む。

凄まじい破壊の雨が続き、地上に幾つもの巨大クレーターが刻まれていく。

 

だがルーシーは一歩も退かず、全員を守り切った。

元大天使の力は衰えても、なお圧倒的だった。

 

四人は一斉に飛び出す。

 

キングベヒーモスの両手首へ剣撃を浴びせるが、巨獣も暴れ狂う。

視力を失い、闇雲に振り回す両腕が大地を裂き、空気を震わせた。

 

アスラは神眼で未来を読み、確実に手首へ斬撃を刻む。

ゼロは龍眼で全ての動きを見抜き、反撃の刃を突き立てる。

 

ジークは消え、現れ、また消える。

残るのは斬撃の残光のみ。

 

ルアは龍神剣ドラグノアに禁術を宿す。

 

第二十階梯魔法 禁術

──終雷葬劫《ゼロ・ヴォ・ル・ディア》

 

世界最後の雷が剣に宿り、ドラグノアが狂ったように震動する。

 

ルーシーが剣を天へ掲げ、叫んだ。

 

「天剣──《神鎖》!」

 

キングベヒーモスの背後に多数の魔法陣が展開される。

そこから巨大な鎖が次々と飛び出し、巨獣を絡め取るように捕獲していく。

 

ルアが戦線に飛び込んだ。

 

第十五階梯魔法

──神眼《ゴッドアイ》

──光速《ライトスピード》

 

ルアの瞳が蒼く輝き、龍神剣ドラグノアが暴れ狂う。赤黒く染まった刃が光を切り裂き、魔力の奔流を巻き起こす。

 

「行くよ!」

 

力強く踏み込み、ルアは全身の魔力を剣に集中させた。刹那、光速の衝撃と共に、彼女は空間を切り裂き、瞬く間にキングベヒーモスまで距離を詰める。

 

肩から太ももまで、一直線に刃を走らせ、黒紫の巨体に深い傷を刻む。

 

血潮が吹き出し、荒野の大地に赤黒い痕を描いた。

 

キングベヒーモスが唸り、巨大な鎖を二本、無理やり引きちぎった。

 

「ここで止めるわけにはいかない!」

 

その叫びに呼応するように、ゼロが動いた。

 

龍魔五式

──絶対零龍《アブソリュート・ドラグ》

 

神速の一撃が胸部を斬り上げ、柔らかな筋肉を切り裂く。

 

裂けた肉の間から魔力が迸り、冷気がほとばしる。

 

巨獣の胸部、足元から氷の結晶が広がり、地面を白く染める。時間すら凍結したかのような静寂の中、空気も魔力も炎も、すべてが凍りつく。

 

キングベヒーモスの動きが徐々に鈍り、暴れ狂う巨体が制限されていった。

 

「今だ、アスラ!」

 

冷静に状況を見極めたアスラは、全身の力を一点に集中させる。

 

阿修羅零式

──零式天斬《レイシキ・テンザン》

 

神格すら避けられぬ必中の斬撃が、キングベヒーモスの首へと突き刺さる。巨大な首が半分裂け、暴れる動きが一瞬止まる。荒野の大気が裂けるような衝撃波が広がり、砂塵と破片が空中に舞った。

 

「ここは任せて!」

 

ルーシーが静かに呟き、天剣──《真斬》を高く掲げる。光と魔力の奔流が剣先から迸り、幾万もの真空の斬撃となって巨獣を襲う。

 

首から顔面にかけて無数の斬撃が集中し、まるで嵐のようにキングベヒーモスを引き裂いた。

 

ルーシーの手がそっと閉じ、手のひらを握り締めた瞬間、集束した斬撃が一箇所に集中する。

 

炸裂する光と衝撃がキングベヒーモスの顔面を襲い、荒野全体が轟音に包まれた。大地が震え、空気が裂ける。

 

その衝撃の余波の中、ジークが静かに現れる。神剣バルムンクを握り、完璧なタイミングで首元に斬撃を刻み込む。

 

「これで……終わりだ」

 

巨体がぐらりと揺れ、キングベヒーモスの動きが完全に止まった。

 

五人は互いに目を合わせ、荒野に静寂が戻るのを確認した。血と魔力の残光が揺れる中、戦いの緊張と興奮が体中に残り続けていた。

 

 




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