異世界転生失敗弱者、三千年の果てに神を斬る。 作:USK1210
五人は転移魔法の光をくぐり抜け、ようやく家へと帰ってきた。
薄く揺らめく空気が静まった頃、誰もが同じことを思っていた。
陸の王者――キングベヒーモス。
山のような巨体と、大地そのものを殴りつけるような咆哮。
あの怪物を相手に、軽傷で済んだ。それは本来、まずありえない話だ。
だが五人は、生き残っただけではない。
互いの動きが自然に噛み合い、あの“絶望的な強敵”を真正面から押し返したのだ。
(……本当に、強くなってきてる)
アスラはその事実に少しだけ胸が熱くなる。
「みんなお疲れ様だ、最高のバトルだったと思うよ!」
アスラが親指を立てる。
「うん!お疲れさまー!今日もいい勉強になったよ」
ルアはその場にへたり込み、ぐったりしていた。
キングベヒーモスの突進を寸前で避けた時の恐怖が、まだ残っているらしい。
「私も結構、勘が戻ってきたみたい。技も意外に覚えてたしね!」
ルーシーは胸に手を当て、呼吸を整えながら満足げに笑った。
その剣捌きは昨日よりも鋭く、確かな経験値が刻まれていた。
「ドラゴン並みの硬さだったな、キングベヒーモス。また珍しいものを斬ってみたいものだ」
鎧をきしませながら、ジークが棒読みで言う。
ただその目の奥だけは、珍しくわずかに熱を帯びていた。
あの巨体を寸断した不可視の斬撃は、まさに“怪物殺し”と呼ぶにふさわしい威力だった。
「あともう少しでつかめそうなんだけどなー……」
ゼロは拳を握ったまま、悔しさを滲ませる。
戦いの最中、あと一歩で掴めるはずだった“感覚”が、まだ指先に残っているようだ。
みんなは早めに食事を済ませ、それぞれの部屋へと散っていった。
アスラも自室へ戻り、ベッドに身を沈める。
(キングベヒーモス戦は、いい勉強になった……。
これなら……いける。ルーシーの加入もデカい)
胸の奥の緊張が、少しずつ温かい充足感に変わっていく。
そのまま静かに、アスラは眠りの深みに落ちていった。
――――
翌日。
五人はいつものように訓練場へ出ていた。
ただし、それは一般人が見たら“狂気の光景”にしか見えないだろう。
アスラは一本の木を正面から見つめていた。
だがその眼差しは、木そのものではなく“揺らぎ”や“気配”を見切っており、わずかに空気が震えるたび、アスラの周囲の魔力が静かに脈動する。
ゼロは暴れる龍魔力を抑えるため、極端に身体を反らし、片足立ちという奇妙な姿勢を取っていた。
身体の内側で龍が吠えるような音が微かに響き、それを押し潰すように呼吸を整えている。
ジークは鎧姿のまま、ただ立っている――ようにしか見えない。
だが実際には、彼の周囲で空気が裂けていた。
見えない斬撃が連続して飛び交い、風が斜めに流れる。
その場に近づくことすら、一般人では即死級の危険地帯だった。
ルアは禁術の“詠唱前起動”を高速化する練習をしていた。
指先に浮かぶ紋章が光の粒となって瞬時に散り、点滅する星のように明滅する。
ルーシーは剣の軌道を繰り返し確認し、さらに神聖魔法の発動域を調整していた。
剣が振れるたび、聖光が風に溶け、柔らかくも鋭い光の帯となる。
全員が“自分の力を高めるための最適解”を探り、思考し、実践する。
その姿は、冗談抜きで“最終決戦前の勇者たち”と呼べるほど研ぎ澄まされていた。
──夜。
ルーシーが作った夕食を皆で食べたあと、
五人は酒を片手に、束の間の平和を楽しんだ。
ゼロは杯を傾けながら、静かに口を開いた。
「アスラ、報告がある。今日、ついに魔導龍《ドラマギア》に全龍魔力を流し込むことに成功したぞ!これで本来の力で戦うことができる」
その声には、明確な達成感があった。
「おお!やったじゃないかゼロ!最後の戦いに間に合ったな、自分のことのようにうれしいよ」
アスラは力強く笑う。ゼロも誇らしげに胸を張った。
ジークはルーシーとルアとテーブル席で話していた。
「龍殺しが龍と組むなんて、何かあったの?あんたかなりイカれてたって話聞いたけど」
ルーシーが頬杖をつきながら質問する。
「斬る対象が、悪から巨悪に変わっただけだ。それに龍にもいい龍がいると知った」
ジークは鎧の袖口を揺らしながら、お茶を口に運んだ。
「それが神って飛躍しすぎでしょ!」
ルーシーは呆れたように顔をしかめる。
「なかなか面白い体験をさせてもらっているぞ」
ジークは無表情のまま、ルアのカップにお茶を注いだ。
「ジーク、私もお茶飲んでいい?」
「飲むといい」
そのやり取りがどこか微笑ましく、アスラは穏やかな気持ちになる。
その夜は、ゼロの努力を祝うため、ささやかだが温かな時間が流れた。
アスラだけは酒の勢いが強く、部屋へ戻るとそのままベッドに倒れこんだ。
──酒に沈むような感覚の中で、遠い記憶が蘇る。
日本にいた頃。
価値も意味もないように思えた日々。
胸の奥に沈んだ虚無だけが、やけに鮮明に思い出される。
あの頃に戻りたいか……
いや、戻りたくはない。
では、この世界に居たいのか。
……居たいわけでもない。
その矛盾した感情に囚われながら、アスラは静かに眠りへと堕ちていった。
――――
翌日の昼頃。
それは、まるで世界がひっくり返ったかのように突然訪れた。
地面に黒い影が走り、次の瞬間──
五人の周囲を覆うように、黒い半球状の結界が“ドーム”のように膨れ上がった。
空が暗転し、冷たい風が荒れ狂う。
昼の光は奪われ、重圧だけが肩にのしかかる。
「……結界!?」
アスラが身構えるより早く、闇の中心に小さな光が灯った。
それは火の粉のような弱々しい輝きだったが、脈動するように徐々に膨れ──
やがて眩い柱となって人の形を象っていく。
姿を現したのは、白銀の翼を広げた天使。
大天使ガブリエル。
神の命を“届けるだけの存在”。
五人は反射的に剣を握り、殺気と警戒を高めた。
ガブリエルは感情の消えた瞳で、ただ淡々と告げる。
――――
「主の御名において告げる。
汝らをオリンポスへと“召す”。
これは友好の招きではない。
神意により下された、揺るがぬ“執行”である。
誤解するな。
これは警告ではない──“命令”だ。
明日、この刻が再び巡るまでに備えを整えよ。
遅れし者に慈悲はない。」
――――
空気そのものが震え、心臓を握られるような圧力だけが残る。
次の瞬間、ガブリエルは光となって消えた。
同時に黒い結界も霧散し、昼の光が戻ってくる。
重圧が抜け、五人はようやく息を吐いた。
「明日とは……せっかちだな」
アスラが息をつき、目を光らせて笑う。
その目には恐怖ではなく、戦士の炎が宿っていた。
「余程殺られたいとみえる」
ゼロが牙を見せて不敵に笑う。その声には獣の威圧が混じる。
「…………運命の日となるな」
ジークは鎧越しでも分かるほど、静かに心を研ぎ澄ませていた。
「すべての力を使ってでも、絶対に勝ちたい」
ルアの瞳には迷いがなかった。決意の光だけが揺らめく。
そこへルーシーが手を広げて言う。
「そーいえば、このパーティー、治癒魔法使える人いないんでしょ?今までよく生きて来れたよね、ビックリだよ」
――――
予想外の指摘に、五人は思わず顔を見合わせた。
確かに考えてみれば、これまでの激戦の数々を“治癒師なし”で突破してきたのは奇跡に近い。
アスラは無茶をし、ゼロは力任せに突っ込み、ジークは黙々と斬り伏せ、ルアは禁術で自分の体を削る。
そのどれもが、治癒なしでは本来なら致命的だったはずだ。
「これからは私が治癒してあげるから、思う存分戦っておいで!」
ルーシーはウインクし、胸をそっと張る。その仕草は軽いが、言葉には確かな自信があり、仲間たちの心に安心と希望をもたらした。
「ルーシー治癒魔法使えるようになったのか!」
アスラが拳を握り、子どものように目を輝かせる。ルーシーの回復能力は、一気に戦力バランスを変えうるほどの“要”だった。
「思い出したっていうのが正解だね!」
ルーシーは得意げに笑う。その笑みには、天使としての誇りと、仲間として支えたいという温かさが同居しており、五人の絆をより強く結び付けた。
バラバラだったピースが、一気に揃い始めていく。戦力も、役割も、覚悟も、揃った。あとは戦うだけだ。
五人はすぐに明日の戦闘準備へと動き出す。
光に包まれた静かな部屋には、互いを信じる気持ちと、迫りくる戦いへの緊張感が、静かに、しかし確かに満ちていた。
――――
翌日。
アスラはシルバーのライトアーマーに絶剣アルティマを差し、黒のマントと仮面を身に付ける。
その姿は戦場に立つために生まれたかのように堂々としていた。
ゼロは鎧を必要としない。
魔導龍ドラマギアに変身すれば、どんな鎧も破壊されるからだ。
彼には最も信頼できる鱗があり、それが唯一の防具であり盾となる。
ジークは常にライトアーマーを着用している。
シヴァによって以前の鎧を失ったため、アスラから伝説級のライトアーマーを譲り受けた。
いつでも戦えるように、精神と肉体を整えている。
ルアは長い髪を結い、シルバーのライトアーマーにマントを重ね、腰には双剣を差す。戦士としての威厳を完全にまとった姿である。
ルーシーはボロボロの黒いワンピースを纏い、背中には黒い羽根六枚、頭上には黒い輪が浮かぶ。
まさに堕天使の風格を漂わせていた。その瞳には冷たくも凛とした光が宿り、戦いへの覚悟を誰よりも深く秘めている。
――――
そしてついにその瞬間が訪れる。
黒い半球状の結界が再び五人を包む。
光が現れ、次第に人の姿を形成していく。大天使ガブリエルだ。その存在は圧倒的で、まるで空間そのものが身をすくめるかのように静まり返った。
五人は互いに視線を交わし、覚悟を確認する。その静寂の中、全員の心臓の鼓動が戦場の鼓動のように響き、気配だけで緊張が張り詰めていった。
「……備えは、整ったか。
これより汝らを天界へと送る。
主の御前に踏み入るということは、己の魂の行き場すら捨てるに等しい。
無礼は許されぬ。だが──従ったところで救いがあると思うな。
勘違いするな。
汝らが向かうのは光ではない。
神々の裁きが降りる“終焉の座”だ。
生きて戻れるかどうかは、天すら知らぬ。」
五人はゆっくりと歩み始める。
堂々と威厳を放ち、ガブリエルの前を通り過ぎた瞬間、光に包まれる。
その光は温かくも眩く、全身を神聖な力で満たすかのようだった。
次の瞬間、五人の視界に広がったのは、輝くオリンポス山の山頂だった。
真正面の広間は円形で、まるで“神の円卓”を思わせる神聖な造形。
周囲には神々が集い、中央の玉座にはゼウスが座っていた。
その威圧感は圧倒的で、周囲の神々の動きすら一瞬止める。
女神アテナが声を上げる。
その鋭い声は空気を震わせ、アスラの血の気が一気に上がるのを感じさせた。
「あなたたちは、あまりにも踏み越えてはならぬ境界を越えました。
天を欺き、嘘で穢し、無辜の者へ手をかけた。
その咎が赦されると思うのなら――その幻想は、ここで捨てなさい。
贖いの道はひとつ。
死によってのみ、罪は天へと還るのです。」
アテナが前に出る。
続いてオーディン、アレスが現れ、最後に大天使ミカエルと大天使カマエルが降り立つ。
「!カマエルがいる!!あいつはヤバい天使だから気をつけて!」
ルーシーが天剣グラディウスを空間の割れ目から引き出す。
狙いはカマエル。全身から緊張が滲む。
「ごめんな、みんな、アテナは俺に殺らせてくれ。
この時をずっと待っていたんだ。
できるだけ早く終わらせる」
アスラは仲間たちに言い、女神アテナに向かって歩き出す。
「今までの思い、全てをぶつけてやれ!」
ゼロはそう言うと、視線をアレスに定める。
ジークはオーディンの元へ一直線に歩き出す。
ルーシーはルアにアドバイスを送る。
「大天使ミカエルは炎の剣で攻撃してくるわ。
だから氷の魔法を使って戦闘を優位に進めるんだよ。
あ、炎が効かないわけじゃないからね!」
ルアは緊張を隠せず、目を大きく見開いた。
「ミカエルって強いんだよね?私、相手になるかな……ルーシーとどっちが強いの?」
「全盛期なら私だけど、今ならミカエルだね。
だけど、奴らは私たちを舐めてる、そこがポイントだよ」
ルーシーは背中を叩き、ルアの肩を押す。
ルーシーの目が鋭くカマエルを捕らえる。
(あいつはヤバい天使だ、ルアと戦わせる訳にはいかない。試合ならミカエルの方が強いが、戦いならカマエルの方が強い!)
「あれ~?ルシファーじゃないか?帰ってきたの?な訳ないよねー!」
カマエルの挑発に、ルーシーが反応する。
天剣グラディウスが氷の光を帯び、空間の割れ目から完全に抜き取られた。
そしてアスラは笑みを浮かべ、女神アテナに向かって声をかける。
「やあ!四千年ぶりだな!俺のこと覚えているか?」
長い沈黙を破るように──戦いの幕が、静かに降り始めた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
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