異世界転生失敗弱者、三千年の果てに神を斬る。   作:USK1210

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神の力

「!!」

 

ルーシーが、ゼロの異変に真っ先に気づいた。

 

魔力の波が乱れ、立っているだけで倒れそうなほど、ゼロの全身が軋んでいるのが見えた。

 

瞬時にゼロの元へ転移する。

到着と同時に、彼女は両手をゼロへ押し当て、強力なヒールを流し込む。

 

だが──。

 

その前にアレスが立っていた。

神の戦士の形相で、ルーシーの細い身体を無造作に掴み上げると、そのまま地平線へ向かって投げ飛ばした。

 

肉体が風を裂く轟音が響く。

 

投げつけられた先には、迎えに来ようとしていたルアがいた。

二人は衝突し、地面を何度も転がりながら止まった。

 

その直後──。

 

ゼロがよろめきながら立ち上がる。

 

ヒールが間に合ったのか、瞳の奥にかすかな光が戻る。しかし身体はなお血まみれで、呼吸は荒く、握る拳は細かく震えている。

 

ゼロは胸の空間に手を差し込み、その奥底から龍魔剣ノクスを引き抜いた。

 

黒い霧が尾を引き、刃に宿った龍の魔力が脈打ちながら、戦場へ漏れ出していく。

 

アレスもまた応じるように、淡い白光の裂け目を開いた。

その内部から、神の大剣がゆっくりと抜き出される。刀身は星屑のように輝き、触れた空間を削るほどの威圧を放った。

 

ゼロは龍魔力を限界まで高める。

骨がきしみ、皮膚の下で龍紋が膨張し、周囲の空気が唸りを上げた。

 

そして──。

 

龍速で地面を踏み砕き、一気にアレスへ肉薄する。

そのまま、全力の真っ向切りを叩き込んだ。

 

しかしアレスは、一歩も退かない。

大剣を横一閃に振り抜き、ゼロの一撃を弾き返す。

 

金属同士が噛み合う硬い音が、戦場全体を震わせた。

 

ゼロは間を置かず逆袈裟で斬り上げる。

狙いは完璧。しかしアレスは紙一重でのけぞり、寸前で回避する。

 

体勢が崩れた!

 

ゼロはそれを逃さなかった。

左手の真爪を閃かせ、アレスの首筋を裂く。

 

鮮血が舞った──

 

アレスは三歩、地面を踏みしめて後退する。

だがゼロは止まらない。

龍魔剣を大きく振り抜き、敵の首を薙ぎ払うように横へ放つ──。

 

その瞬間。

 

アテナの金の鎖が、蛇のようにうねりながらゼロへ襲いかかった。

 

鎖が連続で身体を貫き、ゼロは大きく後方へ吹き飛ばされる。

地面を滑り、大量の血が軌跡を描く。

 

――――

 

同じ頃、別の戦場ではジークがオーディンとぶつかっていた。

 

相手は最強の神槍グングニルを握り、最強の大馬スレイプニルに跨っている。

 

すべての要素が最高峰。

ジークの剣撃は一太刀も届かない。だがオーディンの槍は、届こうと思えばいくらでも届く距離だ。

 

ジークは懐へ潜り込むため、あえて大馬の足首を狙う。

刺突を捌きつつ、確実に一撃ずつを当てていく。

 

《必中グングニル》

 

そう呟いた瞬間、ジークの胸に槍が突き刺さった。

避けようのない、理不尽な一撃。

 

オーディンは槍を引き抜き、続けざまに二度、三度と突き込み、ジークの身体を穿つ。

兜の奥の瞳が、光を失いかけていた。

 

オーディンが勝利を確信し、背を向けたその刹那。

 

ジークの身体が稲妻のように動いた。

一気に馬体へ肉薄し、足を二本まとめて斬り裂いた。

 

『ヒヒヒヒーーンッ!』

 

大馬が悲鳴を上げ、暴れ狂う。

脚を二本も断たれれば、もはや立つことすら困難だ。

 

重心を失ったオーディンの体勢が崩れた。

 

そこへ──ジークが動く。

 

──オーダーゼロ《ディヴァイン・アサルト》

 

神格の防御をも無視し、一撃で敵の戦力を削り取る奥義。

空気が裂け、ジークは瞬間移動のような速度でオーディンの横へ回り込む。

 

首を狙い、渾身の剣撃を振り抜く──が、兜の上からでは威力が通らない。

ジークが斬り落としたのは兜だけだった。

 

オーディンは地面に降り立ち、神槍グングニルを再び構える。

ジークも血に染まった神剣バルムンクを握り直す。

 

だが──戦いはすでに始まっていた。

 

両者が動かぬまま、見えない剣と見えない槍が高速でぶつかり合っている。

 

百合の花びらのように、百の斬撃が散り、千の突きが交差し、衝突の余波だけで地面に亀裂が走った。

 

ジークは右手で攻撃を続けながら、左手で古代の魔法陣を起動する。

 

第二十階梯神聖魔法禁術

──白黒滅炎《オブスクーラ・エト・アルバ》

 

ジークが口を開いた瞬間、白と黒の炎が混じり合いながら渦を巻き、五千度を超える光柱となって爆発した。

 

大地は焼かれ、砂塵が暴風のように舞い、周囲は一気に灼熱地獄へ変わる。

 

近づくだけで皮膚が焼ける熱量。

炎の流れは全方向へ伸び、敵の逃げ場を完全に奪い去った。

 

オーディンは神速で後方へ跳び退く。

そして神力を一気に解放した。

 

《必中グングニル》

 

槍に宿す力が爆発的に高まり、光速を超えた勢いでジークへ投げ放たれる。

その一撃は、周囲の炎の柱ごと、まとめて掻き消しながら直進した。

 

次の瞬間。

 

槍はジークの身体を貫き、そのまま十数メートル吹き飛ばした。

地面へ衝突し、砂煙が立ち上がる。

 

ジークの目は光を失い、動かなくなった。

 

――――

 

アスラは飛んでいくジークの姿を横目に追いながら、眼前のアテナと静かに対峙していた。

 

胸の奥に冷たい焦りが滲む。あの絶対防御――アイギスの盾を斬る方法を、いま、この瞬間に見つけなければならない。

 

力で斬ることは不可能。

ならば──理そのものを断ち切るしか道は残されていない。

 

アテナの背後に展開した無数の黄金鎖が、一斉に蛇のような軌道で迫る。すべての先端が鋭い刃となり、一本一本が神殺しの威力を宿していた。

 

だがアスラは一歩も動かない。無造作とも思える最小の動きで、迫る鎖を叩き落としていく。その姿はまるで、攻撃そのものが遅く見えているかのようだった。

 

アテナが槍を掲げた。

 

天槍──《雷》

 

天を割るようにアイギスの槍へ雷が降り注ぎ、白い閃光が槍身に宿る。

 

次の瞬間、世界が光に飲まれた。視界がほぼ真白に染まり、雷撃が一直線の暴威となって迫る。

 

(これは避けれないなー……いや、避けなくてもいいか)

 

アスラは雷撃を受けながら、迫り来る槍を片手で弾き返す。

皮膚を削る雷気の痛みよりも、胸の奥に溜まる重さの方がよほど気になっていた。

 

そして――跳ぶ。

 

地を蹴った瞬間、アスラの身体は天へと駆け昇った。

そこから放たれるのは、月光の如く鋭く、淡く煌めく連撃の嵐。

 

阿修羅五式──天月連牙《ルナ・ライトフォール》

 

空を切り裂くほどの斬撃が幾重にも降り注ぎ、まるで夜空の月が何十にも砕けて落ちてくるかのようだった。

 

だがアテナは一歩も退かない。アイギスの盾をわずかに傾けるだけで、アスラの斬撃をすべて受け止めていく。

 

(……やっぱり今日は体が重い。思うように動いてくれない。気持ちも沈んだままだ。こんな状態で戦っている場合じゃないのに)

 

アスラの胸がぎゅっと痛み、呼吸が乱れかける。

 

――――

 

── その頃、空中では、別の戦いが熾烈を極めていた。

 

ルアが龍魔力を限界近くまで研ぎ澄ませ、天使長ミカエルを切り崩していく。

対してルーシーは、カマエルの狂気に近い剣撃に押されつつあった。

 

天剣──《重》

 

ミカエルの重力技が発動した瞬間、世界そのものが沈み込むような重圧が生まれた。

 

ルーシーの身体が地面へ叩き落とされ、重力に押しつぶされる。

だがルアだけは、重圧を受けていないかのように平然と立っていた。あの“空間”の恩恵だ。

 

ミカエルは信じられないというように、ルアを見て「?」と表情を曇らせ、地に伏すルーシーと、自らの手のひらを交互に見比べた。

 

その動揺を、ルアは逃さない。

 

(ここしかない!)

 

第二十階梯暗黒魔法・禁術

──光喰虚域《アン・セレ・ティア・ノス》

 

龍神剣ドラグノアに、闇を纏わせる。

ここまで、〇.四秒──

 

神聖光を吸い尽くし、闇炎へ変換する禁域の魔。

天光の加護を持つ神々ほど、その反動は甚大。肉体を焼き尽くすほどの代償を伴う。

 

──《ライトスピード》

 

ルアは〇.七秒で剣を引き抜く。

 

〇.九秒後 ──

闇の閃光がミカエルを切り裂いた。白い羽根と腕が、音すら置き去りにして飛ぶ。

 

『ぎゃああああ』

 

ミカエルは悲鳴を上げて落下した。

ルアは追撃に入り、落ちるミカエルへ蹴りを叩き込み、そのまま縦一文字で斬り裂こうとした――その瞬間だった。

 

ルアが爆発した。

 

一発だけではない。二発、三発……連続した爆音が弾け、視界が乱れる。

 

──龍鎧壁《ドラゴニックガード》

 

ルアの身体が硬質化し、爆炎を弾き返していく。

爆発の主は大天使カマエル。ルーシーを重力で拘束したまま、遠距離から撃ち抜いていたのだ。

 

ルアはカマエルに突っ込む。

刃と刃がぶつかり、カマエルも即座に反撃。

互いの剣が火花を散らし、空で激しく交差した。

 

ルアは精神を極限まで研ぎ澄ませる。

一瞬の隙を、確実に刺し貫くために。

 

(剣技なら、私の方が上え!)

 

剣筋が鋭さを増した瞬間、世界が暗転した。

ルアとカマエルが、漆黒の球体に包まれた。

 

(え?何も見えない!)

 

天剣──《剛刃》

 

黒い球体の内部で、無数の刃が嵐のように駆け巡り、ルアの身体を容赦なく切り裂く。

 

鈍い痛みと鋭い痛みが交互に襲い、どちらがどこから来ているのかすら分からない。

 

視界は奪われ、ただ暗闇の中で血の温度だけが生々しく伝わってくる。

 

防御に回る余裕などない。

腕を上げようとした瞬間、さらに刃が走り、皮膚が裂ける感覚が全身に広がった。

 

「ッ……くそ……!」

 

声を漏らせば、その震えすら刃に読まれるように追撃が襲う。

痛みが意識を削り取る中、それでもルアは必死に耐えていた。

 

倒れれば終わりだ、と本能だけが告げていた。

 

その時だった。

 

黒い球体が真っ二つに裂けた。

 

ルーシーが蘇ったのだ。

 

息も絶え絶えの身体で、必死に魔力を振り絞り、ルアへヒールを流し込んだ。

 

「よくやったわね!ミカエルボロボロだよ。ざまあないね!」

 

ルーシーはルアの肩を抱え、無理やり立たせる。

 

上空から、燃えることのない氷のような光を宿したカマエルの視線が、ゆっくりとルーシーへ降り注いだ。

 

その目には感情がない。まるで敵を“排除対象”として認識するだけの、天使としての冷徹な使命だけが宿っていた。

 

カマエルは手にしていた剣を霧のように散らし、次の瞬間には純白の弓を握っていた。

 

動きに一切の無駄がない。

弦を引く腕も、呼吸も、心拍すら乱れていない。

 

放たれた矢は、音を置き去りにして空気を裂く。

高速回転する矢が残す白い軌跡が、まるで天の裁きを象徴しているかのようだった。

 

ルーシーは身を捻り、回避に移ろうとする。

しかし──わずか、ほんの紙一重の誤差。

 

矢が胸を正確に貫いた。

 

鮮血が噴き上がり、赤い花が空中に咲いたように散った。

 

──大量の吐血。

 

「ルーシー?え……やだよ……」

 

ルアの声が震え、足元がふらつく。

視界が滲むほどの恐怖と不安が一気に彼を襲った。

 

だが、それでもルーシーは倒れなかった。

胸から溢れる血を滴らせながら、よろめくことなく前へと進む。

 

「まだ……終わってない……」

 

そのかすれた声が、死に瀕しながらも折れない意志を示していた。

 

ルーシーは渾身の力で剣を振り下ろす。

カマエルも瞬時に武器を剣へと戻し、その攻撃を淡々と受け流す。

 

彼女の動きは乱れず、まるで機械のように正確だ。

だが、弱りきったルーシーの剣撃は、次々と打ち返され、火花だけが虚しく散った。

 

それでもルーシーは止まらない。

血に濡れた足で地を踏み締め、呼吸を整え──技の体勢へと入る。

 

まるで、最後の一撃を託すかのように。

 

天剣──《光闇融合……》

 

だが、その声が途切れてしまう。

身体が崩れ落ちる寸前、ルーシーは完全に動きを止めた。

 

地面には、止まることなく血が流れ続けている。

 

――――

 

「ルーーシーー!」

 

ルアが喉が裂けそうな声で叫びながら、地面に崩れ落ちず、立っているルーシーの元へ一直線に駆け寄る。

砂埃を巻き上げ、膝をつき、震える指先で仲間の肩を揺らす。

 

「ルーシー?大丈夫?ねえ、ルーシー?」

 

返事はない。

ルーシーの胸には矢が深々と突き刺さり、そこから絶え間なく血が溢れていた。

その光景が、ルアの心を底の底まで引きずり落とす。

 

胸の奥で、何かが切れた。

 

赤髪がゆっくりと逆立ち、瞳は深紅に染まり、鋭い牙が伸びる。

肌の下から赤い鱗が浮かび上がり、龍の血が暴れ出す。

 

「絶対に……許さない」

 

その声は震えではなく、怒りと憤りで地を震わせるような低音だった。

 

「あれあれ~、ルシファー死んじゃったの?あれくらいで死ぬとは思わなかったよ」

 

カマエルが空中で楽しそうに、嘲笑うように言い放つ。

その軽い口調が、返って戦場の温度を数度下げた。

 

「ドラグノア、形を変えて。より鋭く……より速い最速の形に」

 

ルアが静かに告げると、手の中の龍神剣ドラグノアが淡い光を灯す。

 

刃が伸び、細く、よりしなやかで、より迅速な“斬り”のためだけに存在する片刃の刀へと変貌していく。

まるで意志を持ったかのような変形だった。

 

その変化を見ても、カマエルは口角を上げたままだ。

子供が玩具を壊す前のような顔で魔法陣を展開する。

 

第二十階梯神聖魔法・禁術

──極対啓火《ソルマ・レクス・ディナリア》

 

神すら恐れた両極の炎。それは焼かれた者の因果の履歴ごと消し去る禁術だ。

 

天蓋の彼方から、対を成す二色の極光が現れ、ゆっくりと、しかし逃れようのない威圧感と共に降り注ごうとしていた。

 

ルアは一歩も動かない。

むしろ、静かに足を開き、腰を落とし──居合の型を取った。

 

上空から垂直に落ちてきた両極の炎が、ルアを飲み込もうと迫る。

 

その刹那。

 

ルアは、風が撫でるような優しい所作で、刀を抜いた。

 

音すら立たない抜刀。

しかし、その一閃が炎の“切筋”そのものを断ち割る。

 

暴れ狂うはずの炎は斬られた瞬間に軌道を乱し、まるで苦しむように暴発し──

すぐに、おとなしく消滅してしまった。

 

「えー!なんで?何で消えた?」

 

カマエルの顔が驚愕に染まる。

その表情は、まさに隙そのものだった。

 

ルアは再びゆっくりと居合の構えを取る。

呼吸が凪のように静まる。

 

第二十階梯暗黒魔法・禁術

──斬滅禍誓《ル=グラ=ゼルヴァ》を刃に流れ込み、刃文が禍々しく脈打った。

 

この魔法は発動と同時に、地平線まで黒炎が広がり、触れる全てを“斬り”へと変換する禁忌の魔法。

 

ルアの狙いはすでに定まっている。

 

次の瞬間──。

 

光の速さで刀が抜かれた。

 

見た目はただの一撃。だが速い。

あまりにも速い。

 

カマエルが異変に気づいた時には、すでに遅かった。

両腕をクロスに構え、必死に受け止めようとしたが──

 

斬撃は腕をゆっくりと裂いた。

皮膚、肉、骨を静かに、確実に切り裂き、

そのまま胸まで達し、美しい斜線を刻んでいった。

 

光と血が散り、カマエルの身体が後方へ大きく弾き飛ばされる。

 

ルアの瞳は、まだ怒りの色を失っていなかった。

 

飛ばされたカマエルの後ろに回ると、何の躊躇もなく、横一線で首を切った。

 

首が地面に転がり落ちた瞬間、ルアはようやく、ひとつだけ長い呼吸を吐いた。

 

その音は、戦いの終わりというより――

心に刻まれた何かが、静かに崩れ落ちる音に近かった。




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