異世界転生失敗弱者、三千年の果てに神を斬る。   作:USK1210

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一方、他の戦場では、ゼロは、砕け散りそうな命を必死に繋ぎ止めながら、ようやく崩れた地面から身を起こそうとしていた。

 

女神アテナの金の鎖は、まるで光そのものが形を成したように鋭く、ドラゴンの鱗を簡単に貫いてしまう。

 

どれだけ力を込めても、ドラゴニックガードはまるで紙の盾のように役に立たない。

 

それでもゼロは、崩れかけた身体を必死に支え、もう一度立ち向かおうと歯を食いしばった。

 

── まず倒すべきはアレスだ。

 

ゼロは呼吸を荒げながら、戦神アレスの間合いから大きく跳び退いた。

喉が焼けるように痛むが、それでも動く。

 

ゼロは深く息を吸い込み、口腔へ龍力を圧縮する。

そして、躊躇なくブレスを叩き込んだ。

青白い龍炎が奔流となり、地表を削りながらアレスへ迫る。

 

だがアレスは、それらを手で払うような仕草だけで掻き消した。

 

その瞬間──ゼロの姿はアレスの背後へと消えていた。

龍の脚力が地へ深い亀裂を走らせ、風圧が砂塵を吹き飛ばす。

 

ゼロが技の姿勢に入った。

 

龍魔零式── 蒼天覇龍《ゼファー・ドミナンス》。

 

蒼き龍の咆哮が空間を切り裂き、世界そのものに衝撃の亀裂を刻む。

 

嵐は刃へと変わり、無数の斬撃がアレスを包囲した。

それは大気の抵抗すら置き去りにし、音速を超えて敵へ襲いかかる。

 

アレスは即座に防御魔法を展開した。

しかし、“空間ごと切り刻む”覇龍の斬撃には意味を成さない。

 

数十の斬撃がアレスの身体を縦横に刻む。

血が弧を描き、筋肉に深い切れ目が走る。

 

……だが。

 

アレスは斬られた箇所を、まるで時間を巻き戻すように再生した。

 

(ダメだ……!どこか“本体”を断ち切らないと意味がない……!なら──とっておきを食らわせてやる!)

 

ゼロは奥歯を噛み締め、残された龍力を根こそぎ引き寄せた。

 

体内の魔力は枯渇寸前で、血管が逆流するような痛みが全身を走る。

 

技を放てるのは──あと一回。

 

それを外せば終わりだった。

すでにジークも、ルーシーも倒れている。

自分が倒れれば、仲間すべてが死ぬ。

 

ゼロは龍魔剣ノクスを真横に伸ばし、その刃を静かに構えた。

そして、自身の魔力、龍魔力、生命エネルギー──すべてを刀身へと注ぎ込んでいく。

 

痛みは焼けた鉄を流し込まれたかのようで、皮膚が赤く光を帯びた。

 

その時。

 

アレスが地を踏み鳴らし、巨大な大剣を振り下ろしてきた。

視界を埋め尽くす、質量そのものが殺意となった一撃。

 

だがゼロの集中は極限へ達していた。

大剣の軌道が“読める”。

ほんの数ミリ身体をずらし、その死角をすり抜けた。

 

そして──ゼロが放つ。

 

斬撃が放たれた瞬間、景色が塗り替わった。

光すら追いつけない速度で、地平線の彼方まで一直線に“消滅”が走る。

 

 

龍魔零式・奥義

── 終滅龍界《エンド・ドラグリア》

 

 

ゼロの持てるすべてを捧げ、命を刃へと変換する禁断の奥義。

真っ向から振り下ろされたその一撃は、光の奔流となってアレスを貫こうとする。

 

アレスは即座に防御魔法を張るが──

光刃は静かにそれを裂き進む。

 

「……っ!」

 

大剣で受け止めようとする。

しかし光刃はゆっくりとだが確実に、大剣を縦へ斬り裂いていく。

 

アレスは拳で斬撃を殴りつけた。

衝撃が炸裂し、地面が抉れる。

 

だが斬撃は止まらない。

 

次の瞬間──。

 

アレスの左腕と左脚が、光の軌跡に沿って滑らかに切断された。

 

「ぐあああぁぁぁ!!」

 

血飛沫が舞い、戦神は地へ崩れ落ちる。

 

すぐ近くにいたアテナが駆け寄り、ヒールを施した。

白光が傷口を包み、失われた四肢が元の形へと再生していく。

 

ゼロは、それを見届けたところで──。

 

意識が、音もなく落ちた。

 

闇がすべてを覆い、ゼロはそのまま倒れ込んだ。

 

――――

 

アスラは、ひび割れた神殿の床を蹴りながらアテナと激突していた。

 

「仲間にヒールをする時間があるなんて、なかなか余裕じゃないか」

 

アスラは唇の血を舐める。

 

盾はあらゆる攻撃を鮮やかに受け止め、槍は迷いなくアスラの急所を狙い続ける。

 

さらに背後には、まるで生き物のようにうねる黄金の鎖が控え、わずかな隙を虎視眈々と狙っていた。

 

攻撃を弾かれるたびに衝撃が腕を痺れさせ、アスラの身体は鉛のように重くなっていく。

 

こちらの剣撃はことごとく盾に阻まれ、逆にアテナの槍撃と鎖の奇襲が、確実に体力を奪っていた。

 

「面倒くさい、早く終わらせたい。禁術二発同時に打ち込む」

 

アスラは無謀と分かりつつ、もはや考える余裕もなく禁術を叩き込んだ。

 

第二十階梯魔法・禁術

──黒日爆核《アン・バル・シグ・キド》。

 

太陽の核を黒炎で爆ぜさせる、最古にして最悪の魔法。

空が一瞬白に染まり、次の瞬間には漆黒の閃光が炸裂した。

アテナの周囲で空間そのものがゆがみ、爆音が連鎖するように神殿を削り取っていく。

 

「もう一発」

 

第二十階梯魔法・禁術

──雷禍深轟《ザル=クレム・ヴォルグ》。

 

地の最深層から呼び出された黒雷が奔流となり、山脈すら砕く轟音をあげて襲いかかる。

爆炎と暴雷が混じり合い、オリンポスの大地を渦のように削り崩した。

 

しかし──。

 

その中心に立つ神々の姿は、まるで初めからそこにいた石像のように無傷だった。

アスラの全力の禁術は、彼らにとってはただの“強い魔法”ほどの認識にすぎない。

 

(ジーク、ゼロ、ルーシーが戦闘不能……。俺とルアだけじゃ勝ち目はゼロだ。このままだとルアが殺される)

 

焦燥がアスラの心を焼いていく。

 

そのとき、肩で激しく呼吸しながら、ルアがアスラの隣へ高速で走ってきた。

そして数秒遅れ、血まみれのジークがふらつきながら立ち上がり、無言でアスラの横に並ぶ。

 

三対三。

 

凄絶な光景の中、均衡が一瞬だけ戻る。

 

ジークが鋭い光を宿した目でオーディンを睨みつけ、そのまま消えるように間合いへ飛び込んだ。

 

ルアは足元の石畳を砕きながらアレスの懐へ突進し、超高速の連撃で翻弄する。

 

そしてアスラは全てを超えて力を解放した。

 

阿修羅──《完全開放》。

 

空間の裂け目が開き、幾本もの剣が霧のように溢れ出す。

右手には絶剣アルティマ。左手には聖剣ラグナロク。

その両刃へ、アスラは躊躇なく二つの禁術魔法を流し込んだ。

 

「──神眼《ゴッドアイ》、光速《ライトスピード》、剛力《マイティパワー》」

 

言霊のように唱えた瞬間、アスラの身体は光の残像を引き裂くように加速した。

 

アテナへ一直線に突っ込み、双剣乱舞のように回転しながら数十の剣撃を叩き込む。

 

速度だけで撹乱し、近づいては数百の斬撃を浴びせ、離れては瞬間的に隙を探る。

 

しかし、すべての攻撃はアイギスの盾に淡々と受け止められ、鎖が死角から迫ってはアスラを後退させる。

 

少し離れた戦場では、ルアがアレスと斬り結んでいた。

鋭い剣撃を何度叩き込んでもアレスは瞬時に再生し、決定打へ届かない。

 

ルアは一度大きく距離を取り、荒い息のままアレスを突破する方法を必死に思考する。

 

――――

 

──他の戦場。

 

ジークはオーディンと死線の速度で打ち合っていた。

人の目では捉えられない神速の応酬が幾度も交差し、石床にはいくつも深い溝が刻まれる。

 

オーディンが静かに口を開いた。

 

「確かジークフリートとか言ったか。主は不死の体を持つらしいな」

 

嘲るようにオーディンが笑う。

 

「だが、弱点があるのだろ?確か背中だったか」

 

その一言で、ジークの表情から僅かな焦りが漏れた。

 

怒りを押し殺し、攻撃速度を限界まで引き上げる。

光速でオーディンを翻弄し、視界から消えるように距離を詰める。

 

ジークの突きがオーディンの頬をかすめ──

その瞬間、オーディンの体勢が崩れた。

 

ジークは勝負に出る。

 

 

──オーダーゼロEX《デス・エンド》

 

 

死を与える剣撃が、凶星の軌跡を描いてオーディンの首を狙った。

オーディンは避けきれず、狙いは僅かに逸れたものの、肩口を深々と斬り抜いた。

 

鎧の奥から鮮血が吹き上がる。

 

しかしオーディンは怯まない。

グングニルを強く握りしめ、そのまま全力で投げ放った。

 

必中──《グングニル》。

 

神すら逃れられない必殺の槍が、轟音とともにジークへ迫る。

 

ジークは真っ向切りの構えを取り、迫り来る槍先を斬り裂くように弧を描いて振り下ろした──!

 

―――

 

神剣バルムンクの刃が、グングニルの槍先に激しく衝突した。

ジークは全力で槍を真っ二つに斬ろうと力を込めるが、剣は弾かれ、グングニルは無慈悲にもジークの首下を貫いた。

 

ジークは宙に飛ばされ、地面を転がる。血の臭いと金属の音が辺りに響き渡る。

その前にオーディンがゆっくり歩み寄る。

両手に握るグングニルが、まるで死神の鎌のように光を反射した。

 

「ジーク……!」

 

アスラの叫びが、戦場の轟音にかき消されそうになる。

だが耳に残るのは、仲間の無力な絶叫と金属が叩きつけられる音だけだ。

 

オーディンはジークの背中を上にし、グングニルで数百回に及ぶ突きを加えた。

ライトアーマーはたちまち破壊され、中から血が滝のように溢れ出す。

ジークの目の光が完全に消え、命が尽きた。

 

「ジーーーク!!」

 

アスラの胸の中で、いつも潜んでいた黒いモヤが、嵐のように膨れ上がった。

仲間が次々と倒れていく光景に、彼の心は深く抉られていく。

 

その隣で、ルアは完全にスピードを失っていた。

疲労と魔力切れで体は限界を迎えている。それでも、彼女は諦めない。

 

瞬間移動のように消えては現れる動きを繰り返すが、明らかに力は落ちていた。

 

「くっ……まだ……!」

 

ルアは荒い息をつき、膝と手を地につける。

全身は汗と血で濡れ、至る所に深い切り傷がある。呼吸は浅く、限界が近いことを物語っていた。

 

――――

 

そしてルアは、最後の手段を解き放った。

 

第二十階梯暗黒魔法・禁術

── 黒焉律刻《ラグ=ノル=ディアス》

 

魔法陣が空に浮かび上がると、世界の時間が数秒止まった。

直後、大地は黒い稲妻と共に崩落し、暗黒の力が天の光を闇に封じた。

 

アテナが槍を天に掲げる。

 

天盾──《アイギス》

 

瞬時に白い魔法防御の球体が神々を覆い尽くす。

神聖な力で形成された盾は、黒い稲妻の雨を弾き返した。

 

「このままじゃ……」

 

アスラは二刀流で構え攻撃に入る。が、アテナの背後の魔法陣から伸びる金の鎖が四肢を絡め取る!

力は奪われ、自由は制限される。

 

「くっ、また鎖かよ!まともに戦えない」

 

その隙を突き、オーディンはルーシーに歩み寄る。

アスラの目の前で、グングニルを何度も突き立てる……一回、二回ではない、数百回の滅多刺しだ。

 

「ルーシー!!」

 

ルーシーの命が、ゆっくりと、しかし確実に消えていく。

 

アスラの胸の中で、感情が深く沈み、黒い塊となって押しつぶす。

何もできない無力感だけが、残酷に現実を突きつける。

 

涙が彼の頬を伝い落ちる。

 

それを見下ろすアテナは、大笑いする。

 

「どうじゃ?今の気持ちは?やっぱり最高か?」

 

アスラの顔を見下し、悦に浸るその姿は、まるで悪魔の化身のようだ。

 

そしてオーディンは、ゼロの前にゆっくりと立った。

その影は巨大で、戦場に残る血の匂いと煙に溶け込むようにして、ゼロを覆った。

 

「やめろ!やめてくれ!もう殺さないでくれ、頼む、お願いだ……」

 

アスラの叫びは震え、嗚咽に変わりそうになる。

しかし、その必死の願いは届かない。

オーディンの眼は冷酷そのもので、情けは存在しなかった。

 

両手でグングニルを握り、ゆっくりと構えると、その先端は倒れたままのゼロの体全体を無慈悲に貫いた。

 

骨を裂き、内臓を押し潰し、血が飛び散る。

ゼロは反応することなく、その場に横たわったまま、命を完全に失った。

 

「ゼ……ロ?」

 

アスラが小さな声で呼びかける。

 

だが返事はない。

 

静寂だけが戦場に残った。

胸の奥で、四千年もの間抱えてきた黒い何かが、今まさに溢れ出そうとしていた。

 

痛み、悲しみ、恐怖、孤独——その全てが、鋭い刃のように心を刺す。

 

(苦しい……悲しい……辛い……怖い……寂しい)

 

アスラは鎖に縛られたまま、身を震わせて嗚咽をこらえられず泣き続けた。

汗と涙で顔はぐしゃぐしゃになり、目の奥が真っ赤に染まる。

 

その時、戦場の隅でルアがアレスに捕まった。

腕を力いっぱいねじられ、全身に右拳を叩き込まれる。

体が浮き上がり、吐血し、黒い血が戦場の土と混ざる。

 

「ルア?……ルア?」

 

アスラの声が嗚咽混じりに飛ぶ。

 

だが、ルアは返事をすることなく、再度空高く持ち上げられた。

戦場の風が巻き上がり、土と砂と血が舞う。

 

そして、地面に叩きつけられた瞬間、戦場全体に衝撃が響き渡る。

地面が割れ、砂塵と血が空へ舞い上がった。

アスラの心臓が、胸の奥でひどく揺さぶられる。

 

そして最後に——

 

アスラの目の前で、ルアは袈裟斬りで斬られた。

 

刃が体を裂く瞬間、光と影、血と土が混ざり合い、戦場は一瞬の悪夢のように凍りついた。

 

ルアの体が地面に倒れ込み、動かなくなる。

風が血の匂いを運び、アスラの視界は涙と混ざった血で揺れる。

 

戦場に残ったのは、沈黙と絶望だけだった。

 

アスラは鎖に縛られたまま、手足の力が抜け、ただ目の前で倒れた仲間たちを見つめることしかできなかった。

 

心の奥底で、黒い塊が、激しく蠢いている——怒りと悲しみが、やがて牙をむき出すように。

 

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