異世界転生失敗弱者、三千年の果てに神を斬る。   作:USK1210

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勇者死亡

アスラとゼロは勇者パーティーを全滅させ、深淵の階層から地上へと戻ってきた。

 

階段を上がった瞬間、空がひび割れるような“圧”が走る。

世界そのものが、ほんのわずかに悲鳴を上げたように感じた。

 

だが──地上は何も変わらない。

街の喧騒、酒場の笑い声、子どもの泣き声。

 

“世界が震えたはずなのに” という違和感だけが、アスラとゼロの胸に残った。

すべてがいつも通りで、誰一人として異変に気づいていない。

 

まるで「勇者が死んだ」事実など、この世界には存在しないかのように。

 

アスラとゼロは、いつもの道を歩き、馴染みの宿屋へと向かう。

宿の灯りが見える頃には、空はすでに群青に染まり、夜の帳が下りていた。

 

夜は簡素な食事と、少しの酒。

ゼロは相変わらずの大食らいで、大酒を豪快に飲み干していた。

豪放磊落な笑い声が響く。

 

「ぐははっ!やはり地上の飯と酒は格別よ!」

 

アスラはそんなゼロを横目で見て、静かに杯を傾けた。

無言のまま、淡く笑った。

その笑顔は、どこか儚くも見えた。

 

食後、アスラは先に部屋へ戻り、装備を外し、ベッドに体を沈める。

天井を見上げたまま、瞳を閉じた。

 

女神アテナ──その名を思い出すだけで、心が濁る。

勇者たちの背後に彼女がいたことを確信した時から、体の奥で何かが崩れ始めていた。

 

(あいつは……世界を弄びすぎた)

 

その思考と共に、力が抜けていく。

アスラはそのまま意識を闇に沈めた。

 

――その後三日間、アスラは満足に体を起こすことができなかった。

 

やっとの思いで起き上がった朝、体は重く、息をするたびに痛みが走る。

喉が焼けるように乾き、水を一杯飲んでベッドに横たわる。

 

(死にたい……)

 

そう思った。

だが、すぐにその後に続く言葉が浮かぶ。

 

(……だが、女神アテナだけは許せない)

 

カーテンの隙間から差し込む日差しが、心を少しだけ軽くした。

アスラは久しぶりに外へ出る気になった。

 

日差しを浴び、街を歩く。

人々の笑顔、犬の鳴き声、花の香り。

ほんの少し、世界が優しく見えた。

 

だが──すぐに違和感を覚える。

 

いつも決まった場所に座っていた、あの少女の姿がない。

アスラは立ち止まり、周囲を見渡した。

少女は、アスラとゼロと同じ“虚無の目”をしていた。

それが妙に心に残っていたのだ。

 

嫌な予感が走る。

アスラは街の中を探し始めた。

露店の裏、教会前の噴水、裏路地──どこにもいない。

 

そして、街の外れへ向かった時。

 

木の枝に吊るされた縄と、その下に立つ小さな影が目に入った。

少女だった。

縄を首にかけ、今まさに踏み台を蹴ろうとしていた。

 

「やめろっ!」

 

アスラは咄嗟に駆け出し、縄を掴み取った。

少女を抱きかかえ、地面に下ろす。

冷たい体。細い肩。

震える指で縄を解き、彼女を抱きしめた。

 

「どんな辛いことがあった?よかったら俺に話してもらえるかな?」

 

アスラは静かに語りかけた。

だが、少女の瞳は焦点を結ばず、虚空を見ている。

声も、表情も、感情も、何もない。

 

「……お、お父さんとお母さんに、男の人についていきなさいって言われて……そこでずっと寝ないで働いてた。

でも体調崩しちゃって……働けなくなったら……奴隷商に売られてしまって。……そこからはずっと……虐げられて……また捨てられた」

 

その言葉を聞いた瞬間、アスラの中で何かが切れた。

血が沸騰する。

拳が震える。

 

だが、怒りを抑え、少女を優しく抱き上げる。

 

「もう、怖い思いも、辛い思いも、寂しい思いもしなくていいからね」

 

少女は何も答えず、ただ虚空を見つめていた。

 

「君にはまだチャンスがある。そのチャンスを、俺と一緒に探そう」

 

アスラはそのまま宿屋へ戻り、一部屋を用意した。

まずは「普通」を教えること。

それが、彼女に必要な第一歩だと思った。

 

夜、三人で夕食を囲んだ。

湯気の立つスープ、焼き立てのパン、静かな時間。

アスラが話し出した。

 

「まずは名前、教えてもらえる?」

 

「……ルア・ライトリィー」

 

「ルア、よろしくね。俺はアスラ。そして、こっちがゼロだよ」

 

「ルア!よろしくだ!我は龍王ゼログラス、ゼロと呼んでくれ!」

 

「アスラ、ゼロ……よろしく」

 

か細い声が、ほんの少し震えていた。

それは、初めて“生”を取り戻す瞬間だった。

 

アスラは穏やかに微笑んだ。

 

――――

 

「そろそろ小さい家でも買わないか?ルアもいるし、俺たちにも拠点が必要だ。金は全部、俺が出す」

 

静かにそう提案すると、ゼロが勢いよく頷く。

 

「我は大賛成だ! やっぱり、自分の部屋があるのはいいことだしな!」

 

その声には、まるで子どものような嬉しさが混じっていた。

 

「わ、わ、私は……おまかせする」

 

「じゃあ、明日早速見に行ってくるよ」

 

アスラは久々に心が軽かった。

 

翌日の家探しも順調で、何件も内見をし、アスラは本当に家を見つけてきた。

 

王都から少し離れたところにある、森の中にある家だ。

 

一階には小さなリビングがあり、木の香りがふんわりと漂っている。

陽の光が窓から差し込み、床をやわらかく照らしていた。

 

二階には四つの寝室があり、それぞれが落ち着いた色合いで整えられている。

 

決して広くはない。けれど、不思議と心が安らぐ。

まるで「おかえり」と囁いてくれるような、温もりに満ちた家だった。

 

ルアは部屋のカーテンを握りしめながら、小さく笑った。

 

「……きれい……」

 

その一言だけで、アスラは報われた気がした。

ゼロも珍しく黙って頷き、どこか誇らしげに天井を見上げた。

 

移り住んでから数日が過ぎ、三人の暮らしにも少しずつ穏やかな日常が戻り始めた頃。

 

突如、世界を震撼させるニュースが届いた。

 

――“勇者が殺害された”

 

王都セレリアは混乱の渦に包まれた。

 

「魔族の仕業しか考えられない!」

 

怒号が飛び交い、民衆は恐怖に怯える。

 

王は玉座の上で怒りを露わにした。

 

「勇者を殺した者を見つけ出せ!一族郎党、許すな!」

 

そして、その報は、女神アテナの耳にも届いた。

 

「勇者が殺された……?ふふ、タイミング的には悪くないわね」

 

女神の微笑みは、氷のように冷たかった。

 

――――

 

─ 三ヶ月後

 

新たなる勇者が、召喚された。

 

王国は再び歓喜に包まれ、街には祝祭の喧騒が戻っていた。

「第二の勇者」の誕生という報せは、瞬く間に世界中へと広がっていく。

 

その情報は、静かに暮らしていたアスラの耳にも届いた。

 

アスラは杯を置き、向かいに座るゼロに視線を向ける。

 

「第二の勇者が出現したらしい。……作戦を決行する日が近いかもしれないが、手伝ってくれるか?」

 

ゼロは大きく口角を上げ、豪快に笑うと親指を立てた。

 

「当たり前だ!主は命の恩人だ。何でもするぞ!」

 

その言葉に、アスラの胸の奥がじんと温かくなる。

あの日、あの場所で出会えたのがゼロで良かった──心から、そう思えた。

 

アスラは再び動き始める。

次なる戦いに備え、最も重要なのは情報収集だ。

勇者の動向、王都の警備、教会の動き、女神の信徒たちの行方……。

 

一つひとつを冷静に調べ、少しずつ戦略を練り上げていく。

 

だがその合間にも、彼は時間を惜しまずルアの訓練に力を注いだ。

 

剣術の基本、構え、重心の置き方、呼吸法。

そして時折、魔法の基礎も教えた。

ルアに魔法の才があるかを確かめるためだ。

 

だが、彼女の心はまだ完全には開かれていなかった。

どこか遠くを見つめるような虚ろな瞳。

命じられた通りに動くが、自ら意思を示すことはほとんどなかった。

 

──それでも、アスラは焦らない。

 

時間をかけること。

それが彼の、最も得意な戦い方だった。

 

じっくりと、ゆっくりと。

一つの心を癒すには、千年でも惜しくない。

 

やがて、彼女の行動にわずかな変化が現れ始めた。

自ら進んで家事を手伝うようになったのだ。

 

料理は少し苦手なようだったが、掃除はとても上手かった。

 

いつも床は磨かれ、窓は輝き、白いシーツは毎日のように洗われていた。

特に洗濯が好きらしく、干された布が風に揺れる姿を見ると、どこか満足げに微笑んでいた。

 

その笑顔を、アスラは何度も思い出した。

ほんの一瞬でも、彼女が笑った──それだけで十分だった。

 

そしてそれをきっかけに、ルアは少しずつ訓練にも熱を入れるようになっていった。

 

――――

 

アスラの情報収集は順調だった。

 

だが、勇者は、最後には〈終極のダンジョン〉に来る。

六十階層にある道が、魔大陸への一番の近道だからだ。

 

アスラは〈終極のダンジョン〉で迎え撃つことも考えたが、今度は、王都セレリアの北西に広い平原があり、そこで戦うことを考えた。

 

風が吹き抜ける草原──何も遮るものがない、力と力がぶつかるには最適の場所だ。

 

勇者がここまでたどり着くまで約一ヶ月。

アスラとゼロ、ルアはのんびりと暮らしていた。

訓練をし、食事をし、時に笑い合う。

久しく味わったことのない、穏やかな時間がそこにはあった。

 

ルアの剣の技術も目に見えて向上し始めていた。

小柄なこともあり、スピードはあるが力はない。

だが、その瞳の奥には確かな闘志が宿っている。

これが、これからの課題だ。

 

一方、魔法のほうは──

 

「ルア、人差し指に火をともしてみて。」

 

「うん!」

 

ルアは人差し指の先に小さな炎を宿らせた。

 

「次は中指だ。中指の先に水を宿してみて。」

 

「分かった!」

 

ルアは中指の先に澄んだ水の粒を浮かべた。

 

「え?できるの?じゃあ、薬指に雷を宿せる?」

 

「やってみる!」

 

パチ、と空気が弾け、ルアは薬指の先に雷を宿らせた。

 

「……よくわかった!ルア、もういいよ!」

 

「はい!」

 

アスラは焦った。

五百年以上かけて手に入れた力を、あの子は一瞬で手に入れたのだ。

胸の奥がざわつく。だが同時に、確かな期待もあった。

 

「あの子は──魔法特化型魔法剣士に育てよう。」

 

――――

 

――一ヶ月後。

 

ある日、情報屋から連絡が来た。重要な情報だ。

今から十日後、北西の平原を勇者一行が通るそうだ。

 

アスラは十日後に備え、訓練を始めた。

ルアも一緒になって訓練をする。

ゼロは気持ちよさそうに寝ているようだ。

 

ゼロが、ルアの今後のことを考えるなら、戦闘を見せておいたほうがいいと言いだした。

 

「ルアが危ない時は我が守る。安心せよ。」

 

その一言でルアを今回連れて行くことにした。

あくまでも見学だ。倒せそうな時だけ魔法を使っていいよと約束した。

 

――十日後。

 

今回は装備を変えた。

 

聖剣エストレアを手に入れたのに、防具はボロボロでは釣り合いが取れない。

なので、動き重視の黒のライトアーマーを購入した。

 

マントも綺麗な黒を新調した。

黒い仮面は相変わらず付けている。

 

ゼロの装備も揃えた。

好き嫌いが多く困ったが、何とか気に入ったものが見つかったらしい。

 

ルアはライトアーマーとマントをつけ、双剣を腰に下げている。

 

三人は北西の平原に向かって歩き出した。

 

朝の空気は冷たく、草原を渡る風が砂塵を巻き上げていた。

その静寂の中、アスラ、ゼロ、ルアの三人が、ただ無言で立っている。

空気は張り詰め、まるで「嵐の前」のような気配が漂っていた。

 

「……来るな。」

 

ゼロは目を閉じ、気配を探る。

地の底から響くような、生命の鼓動。臭いを確かに感じる。六つの気配。

その中心に、異様な“光”の存在がある。勇者の証だ。

 

「西十キロ、六人パーティーだな。」

 

ゼロが短く報告する。鼻先がわずかに動く。

 

「ゼロ、ありがとう。俺が勇者をやる。残りは任せる。」

 

「分かった!任せておけ。」

 

ゼロは牙を見せて笑った。

 

アスラの心拍がゆっくりと高まる。

この瞬間が、三千年をかけて待ち続けた“再戦の刻”。

 

アスラは息を整え、右手を上げた。

周囲の空気が収束し、風が止む。

砂粒が宙に浮き、世界から音が消える。

 

── 静寂。

 

次の瞬間、爆ぜた。

 

第八階梯魔法

── 颶刃嵐《グジンラン》

 

無音から爆音へ。

世界を切り裂くような風が咆哮し、空を引き裂いた。

何千、何万という風刃が同時に生まれ、

敵陣を中心に円環を描くように放たれる。

 

大気が悲鳴を上げ、地平線ごと削り取られていく。

嵐の中では光すら届かず、風が刃となり、砂が剣となる。

ただ一瞬の後、すべてが沈黙した。

 

その場に残ったのは、まるで鏡のように滑らかな大地。

草も、影も、血すら存在しない。

 

ゼロが笑う。

「相変わらずやりすぎだな、主は。」

 

そのとき、風の中から、ひときわ強い“光”が弾けた。

閃光が地面を抉り、大地が鳴る。

光が人の形を取る──勇者だ。

 

勇者が叫ぶ。

 

「この魔法、君がやったのかな?」

 

声は若く、よく通る。だがその奥に、確かな殺気があった。

 

アスラは一歩前に出る。

 

「答えてほしければ、俺の質問に答えてくれ。君は勇者なのか?」

 

「僕は勇者アオト・クロカワ、世界を守る男だ!」

 

勇者は拳を握り言い放つ。

 

アスラが目を細めながら口を開いた。

 

「勇者アオト、ありがとう。女神アテナは元気かい?」

 

アオトは眉をひそめ、少し戸惑いを見せた。

 

「女神アテナ様は元気だ!が、君には関係ない!さあ答えてくれ。この魔法は君が放ったのか?」

 

勇者アオトは怒りの顔で問いただす。

 

「……ああ、俺だ。殺すつもりでな。」

 

アスラの声には、冷たい気配が宿る。

その瞬間、勇者アオトの瞳が鋭く光り輝き、体から力がほとばしった。

 

「《全知全能》──解放。」

 

天地が震え、空気が歪む。光がアオトを包み込み、黒いマントが風を裂くように翻った。

 

その背後に広がる力は、限界を超えた魔力の奔流であり、放たれた瞬間、周囲の大地が微かに震え、木々の葉も震動した。

 

彼の体から放たれるオーラは、圧倒的で、まるで世界そのものを押し包むかのようだった。

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