とうとう原作ではNARUTOが完結しましたね。遅れながら岸本先生お疲れ様でした、の気持ちを込めて書いてみましたうちは兄弟ギャグコメディです。
それにしても本当は完結した週にアップしたかったんですが、何故書いているうちにこう長くなるのか。まあ、ネタ的に本来は3000~5000文字ぐらいが適している話だと思いますので、多少長くなりすぎた感がありますが、楽しんで頂けましたら幸いです。かしこ。
オレはうちはサスケ、16歳。
突然だが語らせて欲しい。
オレは幼い頃兄さんに憧れてた。
その昔、兄は完璧だった。
教師共は揃いも揃って兄を『アカデミー設立以来の天才』と称し、齢11で既に父よりも手裏剣術に長けており、主席を維持したまま、たった1年でアカデミーを卒業してしまった、まさに神童の名に恥じぬ怪物のような才能の兄だった。
眉目秀麗、文武両道。優しくて厳しくも、強くてかっこよかった兄さん。
オレの自慢だった。あまりに出来の良すぎる兄に嫉妬しつつもいつかあの背中を越えたいと思っていた。
……そう、そう思っていたのに。
「もぐもぐもぐもぐ……どうしたサスケ。あ、そこの女中さん、みたらし3っつ追加で」
「なのに、なんでこうなってしまったんだあああーーー! あの頃のオレの兄さんを返せーーー!!!」
いや、本当、一体どうしてこんなことになったんだ!
兄は……あの頃オレがあれほどに憧れ嫉妬したあの完璧な兄は、すっかり霧散し、残っているのは毎日甘味をモグモグモグモグ見ているこっちが胸焼けするほどに喰いまくるだけの、どこかボケた変人兄貴だけだった。
っていうか、昨日夫婦揃って温泉旅行に出かける前に母さんに「イタチ、母さんがいないからって、間食ばかりするのはやめなさい。兄弟仲良くね」と注意されたばっかりなのに、両親がいなくなるなり早速甘味屋で馬鹿みたいに団子アホ食いしてんじゃねェよ!! クソ兄貴ィ!!
「ええい、いい加減甘いもんばっか食ってんじゃねえ! そのうち太るぞ!」
そうオレが怒鳴りつけると兄さん……イタチ、もう呼び捨てでいいな、うん、は太るという単語に反応したのか、ピクリとほぼ無表情なポーカーフェイスの中、僅かに眉を上げてこんな主張をしてきた。
「サスケ、これでもオレは薄幸の天才で、病弱な美青年枠にいる人間だぞ。そのオレが……もぐもぐ、太るわけがないだろう……あ、すみません。汁粉と豆大福追加で」
「自分で薄幸の天才とか美青年とか言うな! なんでだよ、イタチィ! 昔のアンタはそんなじゃ無かった筈だろ。ガキじゃあるまいし団子馬鹿食いすんなよ、見てるこっちが胸焼けするわ!!」
そうオレが嘆けば、馬鹿兄もとい、元神童イタチは団子を口に頬張ったままこう言った。
「昔のオレはそうじゃなかった、か」
「な、なんだよ?」
「サスケ……お前ももう16だ。いい加減……もぐもぐ、オレに夢を見るのはやめろ」
「……!?」
もしかして兄さん、オレが兄さんの背中を追いかけてばかりいたことを気にして……嫌われようとぐうたら兄貴を演じているのか?
「この世に完璧な人間などいない。居たとしたらそれはそう見えるように振る舞っていただけだ……お前もいい加減
完璧な兄という幻想から覚めろ……ズズズッ……む、茶柱か、縁起が良いな」
いや、違う! こいつ、素だ!!
「オレの夢を壊した張本人が言うなッ! ていうか、アンタは食うか飲むか喋るかどれかにしろ!! これ以上オレの幻想を壊すなァーーー!」
「ふ、耐え難い痛みに耐え現実を見る。それが大人になるということだ、サスケ」
なんだ、そのどや顔! 弟イジメがそんなに楽しいか!!
「違ェだろ!? なんかそれは違ェだろ!? 少なくともオレのこのストレスはアンタのせいだァ!!」
「サスケ、人のせいにするのはやめなさい。あ、すみません、お茶のお代わりを」
もうヤダ、このマイペース兄貴。
オレは思わずガックリと膝を落としながら呟いた。
「なんでだ……どうしてだよ、兄さん。昔はあんなにかっこよかったのに、どうしてこんな甘味をむさぼり食うダラ男になっちまったんだ。友達はいねーし、オレの保護者気取りだし、なんか発言一々天然だし、しかもいつも見る度連れている女変わっているし……」
「む、人聞きの悪いことを言うな、サスケ」
さめざめとしたオレの嘆きを前に、相変わらずどこかとぼけたようなポーカーフェイスのまま、イタチは友達はいないという部分に反応したのかこう反論した。
「オレにだって友人はいる。瞬身のシスイとは幼い頃からの親友だ。それにオマエは知らなくて当然だろうが、里外にだって仲良くしている相手はいる。少なくとも女子にキャーキャー騒がれた挙げ句同年代の男を敵にまわしまくっているオマエよりはオレのほうが友人は多い……筈だ」
「おい、なんだその心底心外そうな顔。アンタひょっとしてオレに友達皆無だと言いたいのか? 言いたいんだな? ふざけんな、バカヤロウ。オレにだって友達居るわ」
主にナルトのバカとか、ナルトのバカとか、ナルトのバカとか。
サクラは……まあ、チームメイトだな。
……ウスラトンカチ以外の友人が思い付かなかったのは、この際思考から省いておこう。
「それにいつも連れている女が変わっているというが、オレは別にスケコマシではない。オマエと違ってな」
「おい! そこ無視かスルーか、それとさり気なくオレをスケコマシ扱いしやがったな!? ざけんなオレはアンタと違って女連れ歩いたりしてねェぞ。女のほうがキャーキャー騒いでるだけだ」
そんなオレの発言を華麗に全スルーして、イタチは言い聞かせるような声でこんな情けないことを、深刻な表情と声音で語った。
「良いか、サスケ。彼女達とは告白され付き合ったその日に『なんか思っていたのと違う』とフられてその日のうちにいつも別れているだけだ。一度試しにデートしているぐらいでオレは彼女達に何もしていない。だというのにお前の言い分だとまるでオレがヤリ○ンのようじゃないか」
「情けない事を堂々と言うなッ! プレイボーイよりそっちのほうがよっぽど男として情けないわ!」
あと、真面目な顔してヤリチ○とかゆーな。
「フ……まあ、そこで別れを切り出すということは、所詮そこまでの女だったということだ」
とかなんとか言ってるけど、んな涼しいクールな顔して言っても、内容は間違いなく情けな男だからな!? とは思いつつ、そっか、毎度兄さんの連れている女が違うのって付き合った其の日にフられてたからなのか……と思えば、まあ同情がないこともないわけで、しかし新たな疑問も湧いてきたので、脱力気味ながらも訊ねることとした。
「……なあ、結局別れることになるのに、なんでアンタ告白受けて一度は付き合っているんだ?」
「決まっている。 オレが相手の事をよく知らないからだ」
「は?」
いや、よく知らなかったら、断るだろ、ふつー。
「ああいうのは付き合ってみないとわからないこともあるだろう。最初はなんとも思わぬ相手でも、もしかすれば逢瀬を重ねれば愛情が湧く場合もあるかもしれないからな。オレもいい加減21だ。そうなればそうなったで良い頃合いだと思っている」
つまり、要約したら、イタチは結婚相手を探しているから告白を断らない……ってことか?
いや、だからって誰彼構わずほいほい告白受けるのはどうなんだ、兄さん? いや、1日で破局してるってことは、別に二股とかそういうのをしてるってわけじゃないんだろうけどさ……というか、意外とまともな返事が返ってきたことに吃驚した。そうか、兄さんなりに考えてたのか……昔はともかく、今は専ら任務中以外は駄目兄貴だからな。意外。
でも……真面目な話してる癖に団子食い続けるのをやめないってのはやっぱりどうなんだ、兄さん。
「なあ、兄さん」
「なんだ、サスケ」
「ところで、兄さんはどういうところでデートしてるんだ」
「主にここだ」
って、甘味屋かよ!!
「まさかとは思うけど、兄さん、女連れにも関わらず女を半ば無視していつもの調子で団子を馬鹿食いしてたりとか……しないよな?」
そうオレが訊ねたら、イタチはさっと目線を横に逸らした。其の横には山のように積まれた皿の姿がある。いかにも大食漢然とした奴が食ったんなら違和感はないかもしれないが、どう見ても線の細い美形である兄のイタチとはイメージ的にそぐわないような光景だ。
女どころか弟であるオレもドン引きなその光景。
「……なぁ、兄さん。アンタ、デート中にちょっとだけでも女のほう気に掛けてやったのか?」
嫌な予感に包まれつつ、オレがそう訊ねれば、イタチの奴は開き直ったのか、いつもの調子でこう答えた。
「良いか、サスケ。付き合ったばかりでよく知りもしない女と、目の前の甘味。どちらを優先するかなど聞くまでもなく……目前のおやつに決まっているだろう?」
「だから、フられるんだよ! どう考えても1日で破局する原因それだろ!?」
「フッ、お子様のオマエにはまだ早い話だったか。まあ、そういうわけだからな、サスケ。別にオレはスケコマシではない」
「どう考えても子供舌で今現在お子様みたいな態度取ってんのはアンタのほうだぁああああ! あとスケコマシのほうがもっとマシだ! アンタの女に対する態度、ぜってーアカデミー生の子供以下だぁあああ!! どや顔してんじゃねェよ、このボケボケ若年寄兄貴ィイイ!!!」
そう思わずイタチの奴をガクガク上下に揺らしながらキれた。
「おやぁ? イタチさんじゃないですかァ。 今日はこっちだったんですねェ。探し回りましたよー」
「……鬼鮫」
と、そんな風にオレとイタチがやりとりを繰り広げていると、そんな感じの聞き慣れない男の声とチャクラ反応がして、オレは振り向いた。どうやら双方の言動からして知り合いらしいが……思わず、其の男の容姿に驚きオレは声を漏らす。
「さ、鮫、いや人間!?」
なんかヘラヘラ笑っていやがるけど、ええ!? なんだあの青い肌、鮫か人間か、どっちだよ!?
そんな風に半ば混乱しているオレを置いて、イタチは涼しげな声で届いたばかりの汁粉を啜りながらこう男を紹介した。
「サスケ、紹介しよう。こちらは他里で知り合ったオレのげぼk……ごほん、友人の干柿鬼鮫だ」
「ちょ、え!? アンタ今なんか凄いこと言わなかったか?」
他里の人間がなんでこんな木の葉の団子屋うろついてんだよ、つか今下僕って言いかけてなかったか!?
しかし、そんなオレの疑問なんてどうでもいいのか、鬼鮫と呼ばれた男なんだか鮫なんだかわからない魚人ヤロウはヘラヘラと顔を笑いに歪めながら、側頭部に手をやりどことなく照れたような仕草……大男がやってもキモいだけなんだよ! をしながら、こう自己紹介してきた。
「むふふ……イヤァ、紹介にあずかりました。イタチさんの友人の干柿鬼鮫です。アナタがイタチさんの弟のサスケくんですかァ? 噂は聞いてますよォ」
「鬼鮫」
そうヘラヘラ笑いながら自己紹介初めやがる鮫ヤローを前に、イタチの奴はいつも通りの声音と表情で、じっと青い肌の怪奇鮫男へと視線を向ける。
そんな兄の態度を前に、何か思い当たるところがあったのか、干柿鬼鮫と名乗った男はヘラッとさらに笑いながら手に提げていた袋を前へと突きだした。
「おっと、すみません。約束の品です。ちゃんと要望通り、水ようかんと抹茶餡蜜は三袋ずつ用意していますよォ。1日限定10食の霧隠れ自慢の逸品ですからねェ。手に入れるのに苦労しましたよ」
そういって鮫野郎は見た目にそぐわぬ繊細な手つきでさっと水ようかんの一つを取り出し、切って皿に盛りつけると、イタチの奴の前へと静かに置いた。
イタチはもぐもぐとさっそく咀嚼を開始する。
「イタチさん美味いですかァ?」
「ん、鬼鮫」
「おや、私としたことがこれは気が利かずすみませんねェ。はい、緑茶ですよ、イタチさん」
そういって男は、今度は自然な動作でこれまた持参したらしき緑茶をイタチの奴の目の前に差し出して……ってちょっと待て!
「って、パシられてるだけじゃねえか! アンタなんでイタチの奴にそんな従順に付き従ってんだよ!! アンタのが一回り年上だろ!!」
そうだよ、あまりに自然な動作で慣れたような感じだったからつい実況しちまってたけど、どう見てもこの馬鹿でけェ鮫野郎のほうがイタチより一回り年上じゃねえか!
だってのになんでイタチの奴に敬語使っている上に、こんな従順なんだ、おかしいだろ、普通! 大体他里の忍びだってんなら例えイタチの奴のほうがランク上だったとしても関係ねェんだから余計におかしい、どう考えても変だろうが。
……この際、オレが上官相手でも敬語使わないってのは置いておく。今はオレのことはどうでもいいしな。
とにかくおかしいと、そう上げたオレの声を前に、全く「何がおかしいのかわからない」っていうかのようなポーカーフェイスを貫くイタチの野郎を尻目に、青い肌の鮫野郎は無い眉を顰めながら、まるでオレを聞き分けのない子供か何かにものを言う時みたいな声と態度でこう答えた。
「おや、パシられてるとは人聞きが悪いですねェ。私は友人のイタチさんの要望を叶えてやりたいだけですよ。なにせ、イタチさんは私の恩人ですからねェ」
「……恩人?」
兄さんがこいつの?
「なにせ、私はこの外見、どいつもこいつも私のことを鮫だの海洋物だの、マトモに人扱いしやしませんでした。ところが、イタチさんは私のことを「人間」と認め、「友」と認めてくれたのです。イヤァ、あれは嬉しかったですねェ」
そう如何にも感動しました的な表情で語る鮫野郎に続き、いつもの調子でイタチも言葉を続けた。
「そうだ、もぐもぐ……鬼鮫は、オレの大事なげぼk……友だ。もぐもぐ……サスケ、お前もあまり失礼なことを言うな」
「2回も下僕って言いかけてるじゃねェか!?」
「煩い小僧ですねェ、削りますよー?」
って、なんか軽いタッチではっはっはと笑いながらこの青肌男、背中からばかでかい刀、いや刀なのかあれ? 取り出しやがった! クソ、そっちがその気なら臨戦してやるぞ、この怪奇青肌鮫野郎!
そんな風に構えるオレを前に、兄は静かな声で茶を啜りながら一言、鮫男の名を呼んだ。
「鬼鮫」
「やだなァ、冗談ですってば、イタチさん」
いうなりコロリと殺気を霧散させて、刀を仕舞う鮫男。
だからなんでアンタはそんなにイタチのヤロウに従順なんだよ!!
「うっ……!」
そう思っていると、突如兄は胸を押さえ、膝を崩し座り込む。
顔色は青い。
「イタチ!? どうした、兄さんッ」
そういえば、自称病弱の美青年だったな、兄さん。
まさか自称じゃなくて本当に体悪かったのか!?
「鬼鮫……気持ち悪い」
「イタチさん、大丈夫ですかー。イタチさーん」
って、なんで兄さんオレじゃなくてこの鮫野郎頼ってンだよ!
あとこいつもなんで兄さんが具合悪そうなのにそんな呑気っぽい返事なんだ!!
「あー、さては悪阻ですかァ? 悪阻ですねェ? ほら、落ち着いて、深呼吸して」
こ、このアンポンタンのウスラトンカチ!
「なんでだよ!? イタチはオレの兄貴だッ! つまり男だ、悪阻なわけねーだろッこの唐変木」
「ほら、ヒッヒフー、ヒッヒフー」
「無視か!? オレは無視か!?」
「うぷ……」
「ほらほら頑張ってー、ヒッヒフー、ヒッヒフー」
「だから何ラマーズ呼吸させようとしてんだよッ! そんなことしている暇あったら医者呼ぶか病院に運べ、この海洋哺乳類ィ!!」
結局兄さんはオレが病院まで抱えて連れて行った。
が、そこで受けた診断結果は……。
「ただの食べ過ぎですね」
へ? 食べ過ぎ?
ああ……確かに原因は心当たりありすぎるけど。
それだけ?
「ただ、血糖値がやや高く、将来糖尿病になる可能性もありますので、偏食には注意してください。胃薬のほう後で出しておきますから。それではお大事に」
そう言われ、胃薬だけ渡されて早々に診察室から追い出された。
因みにイタチの奴が訴えた腹痛は便所に10分ほど籠もった結果治ったらしい。
「そんな馬鹿な」
病院から出た後イタチの奴は食べ過ぎと言われた事か、糖尿病に将来なるかもと言われたことにか、珍しくもショックを受けて狼狽していた。こういう姿を見ると、いかに朴念仁ボケボケ想い出クラッシャー兄貴とはいっても、慰めたくなるのが身内としての情ってやつだろう。
「な、なぁ兄さん、そんなに落ち込むなよ。確かに甘い物は自粛しなきゃかもしれないけど、その代わりほら、毎日出来るだけキャベツやこんぶにぎりが食卓に上がるようオレからも母さんに言ってやるからさ」
そう落ち込むイタチの肩にポンと手を置き、甘味の代替え品として、兄の好物の名を出す。
不幸中の幸いというべきなのか、兄さんの趣味は甘味処巡りであり甘い物がそれはもう好きだが(甘い物が嫌いなオレとしては理解出来ないほど)、通常の食事に置けるイタチの好物は、こんぶにぎりとキャベツという、まあ糖尿病だったとしても問題無く摂取可能そうな健康なメニューだ。いや、もしかしたらこんぶにぎりはアウトの可能性もあるかもしれないけど、それでも四六時中甘味食いまくるよりはそっちのほうがよっぽど健康的だしな。
だが、そんな風に慰めにかかったオレに対し、兄はこう言った。
「ふ……愚かなる弟よ」
「おい?」
「確かにオレはキャベツやこんぶにぎりが好きだ。はっきり好物と言っていい。だが、甘いものは別腹だッ!」
「女子かッ!!」
「愚かなる弟よ、オレはお前と違うのだ。甘い物がない人生なんて、あんこの入っていない大福のようなものだ」
ぬぁあああ、そのどや顔ムカツクゥ!!
上手い事言ってるつもりっぽいのが更にムカツク! それがわざわざ心配して慰めにかかった弟に言う言葉と態度かよォ!
「知らねェよ! 例えまで甘味オンリーなのかよッ! いつもいつも甘ったるい匂いばっかり振りまきやがって。大体、別にそんなもん無くても生きてけるだろッ。あとなんでオレをディスった!?」
「なんとなくだ、お馬鹿さんめ」
「よし、其処に直れ。お望み通りカカシの野郎直伝の千鳥の餌食にしてやる」
これはもう殴っても赦されると思う。
「こら、サスケ。カカシさんはオマエの上忍師だろう。上忍師にぐらい敬意を払いなさい。確かにカカシさんはオレよりは弱いかも知れないが、今のオマエよりはまだ強いのだからな」
「そういうアンタの言い分のほうがよっぽどカカシの野郎、コケにしてんだろッ! 大体素で無礼千万を地で行くアンタに礼節についてとやかく言われたくねェ!」
マジで不貞不貞しすぎだろ、このポーカーフェイスクールビューティー男。
実力下に見てるくせにさんづけなのが却って慇懃無礼過ぎて、ちとカカシのヤロウに同情しちまったじゃねえか。
「何を言う。オレは事実を言ったまでだ。そしてオレが薄幸の天才美青年なのも事実だ」
「自分で自分の事を薄幸の天才美青年とかいうな! 腹立つから!! 何どや顔してんだよッ上手くねェよ」
「美味く……そうだ、鬼鮫、抹茶餡蜜と残りの水ようかんを……鬼鮫?」
そこではっと上手いから美味いで食い物へと思考転換させる辺りが駄目兄貴過ぎる。
しかし、そういやあ病院を出てからやけにあの鮫人間大男が静かだなと思い返し、オレもまたそいつのいる方向に振り向き、ぎょっとした。何故なら……。
「ううう……」
何故か奴がさめざめと泣いてやがったからだ、それはもう悔しそうに!
「イタチィさァん!!」
言うなり奴はガッシリとイタチの肩を掴み、涙もそのままに凄い気迫を浮かべたまま兄へと詰め寄った。
「私、言いましたよね。アナタ、自分のことはわりとちゃらんぽらんなんですから、ちゃんと健康管理してくださいよー。出来ないなら私がしますよーって」
「……そんなこともあったな」
「そんなこともあったなじゃありませんよ! 大事なお体なんですから、気をつけてくださいって私散々言って聞かせたじゃあないですか。甘い物もいいですけど、取りすぎは体に毒ですよーとも言いましたよねェ? しかしアナタ大丈夫だ、管理ぐらい自分でしてるの一点張りで、まあイタチさんがそういうなら私がそれ以上口出しするのもと思って甘やかしてきましたけど、食べ過ぎの腹痛だけでなく糖尿病予備軍ってどういうことですか、糖尿病予備軍って。アナタ自分でなんとか出来ると言っていたでしょう!」
「鬼鮫、医者は大げさに言ってるだけだ。オマエの心配の程ではない。あとオレは本当に自分1人で平気だ」
……なんかあの鮫野郎、言ってることがまるで母親みたいだな。オマエはイタチの保護者か。
あと、このクソ兄貴、病院送りになったのに全く懲りてねえ。
「いいえ、今度の今度という奴は堪忍なりません。アナタの平気という言葉ほど信用出来ないものはありませんからねェ。さようなら、イタチさん。この水ようかんと抹茶餡蜜は没収です。この結果には私も些か残念ですが、次に会うときは完璧なアナタの健康補完プランを作ってきてみせますよォー!!」
そう言うなり、青肌怪奇鮫人間は水ようかんの残りと抹茶餡蜜を抱えたまま、猛ダッシュで里の彼方へと去っていった。
「待て、鬼鮫。せめて抹茶餡蜜だけは置いていけっ」
「病院の世話になった直後にまで甘味求めんなッ! この馬鹿兄貴ィイイイ!!」
そう思い咄嗟に出たチョップをぱしっと受け止め、兄がオレへと視線を向ける。
その瞳の色は……。
「って、何アンタ真っ昼間から写輪眼晒してんだ」
「ふ……先に手を出したのはオマエだろう、サスケ。オレは暴行には暴行で返す主義だ」
いうなり、実の弟を初っぱなっから幻術に嵌めようとする兄。
その切欠がシリアスなものならともかく、甘味に端を発している辺り、かつて憧れだった兄さんの大人げなさやら情けなさにちょっと心折れそう。だが、無理矢理己を奮い立たせて応戦した。
「へ、オレだっていつまでも幼かったままのオレじゃねェんだよ! 舐めんなッ」
愛用している刀に雷の属性変化を付け、千鳥流しの応用で幻術を破る為にも兄に切り込めば、切り捨てたイタチは数多の烏となって四散する。兄の得意忍術の一つである烏分身だ。
そして斜め後ろでオレを見ていたであろう兄貴本体に向かって、オレはそれを決めた。
「火遁・豪火球の術!」
貰った!
「水遁・水陣壁」
って、なにィ!? あの鮫野郎が置いていった水筒の茶で水遁を作るだとぉ!? って、隙なんて見せたらまずい……くそ、兄貴お得意の投げ手裏剣か。けど、こんなのお見通しなんだよ! こんなの愛刀で一層……って、ええ!
「火遁・鳳仙火の術」
……からの。
「火遁・鳳仙花爪紅」
だと!? アンタ弟相手にどんだけ大人気無……って、後ろからも上からもクナイって、360度囲みやがった。
「トドメだ、サスケ」
その言葉を合図に襲いかかる容赦ない無数の火の玉。アンタは鬼かァ! ぎゃあああああ。
「ふ、まだまだ甘いな、サスケ。その調子ではあと10年はオレに勝てないぞ……サスケ? サスケェ!」
* * *
『兄さん、遊ぼうよ、兄さん』
『許せサスケ、また今度だ』
その光景を覚えている。何度も見た光景だ。
兄はそう言って、何度も一緒に遊ぶ事や修行することをせがむオレに対して、仕方なさそうに、でも優しく大人びた微笑みで笑って、オレの額を指で小突き、約束を先延ばしにし続けた。
多分、本当に任務などで忙しく、幼い弟と遊ぶ暇など兄さんには存在していなかったんだろうことは、中忍となった今のオレには理解出来ている。早熟だった兄は早熟だった分だけ早く大人の世界へと放り込まれ、青二才と侮蔑されながらもそう扱われ続けていたのだから。
でも、当時のオレじゃそれじゃ足りなくて、不満で、もっと構ってほしくて、時々兄と比べられる周囲の視線から鬱陶しく疎ましく感じることもあったけど、それ以上にたった1人の兄のことが自慢で大好きだったのだ。
幼いオレの目には、キラキラと兄さんのことが誰よりも眩しく映ったんだ。
鬼才、神童と呼ばれ続けてきた兄さん。
『サスケ』
でもそうやってオレを呼ぶ声はいつだって優しくて、そしてそして……。
『サスケ……お前ももう16だ。いい加減……もぐもぐ、オレに夢を見るのはやめろ』
ん? いやいやいや、いくら子供の頃に子供出来なかったからって、大人びていて格好良かった兄さんがあんなダラ兄に成長したわけないって。
『ふ、耐え難い痛みに耐え現実を見る。それが大人になるということだ、サスケ』
いや、だからこんなどや顔駄目兄なんてただの幻想だって。
ああ、そうかわかったぞ、きっとこれは夢だ。
今までのボケボケ天然我が儘兄は夢だったんだ。
そうか、そりゃそうだよな!
兄さんは昔からしっかり者で、大人びていて、かっこよくて、強くて、美しくて、オレの自慢で、厳しくも優しいパーフェクトな兄で、だから断じてあんな体が甘味で出来ているような男でもなく、意外と我が張っていて天然我が儘で、なんか幼稚返りしている、ぶっちゃけ仕事は出来るけどそれ以外は総じて駄目人間の駄目兄貴なんかじゃないはずだ! きっとそう。
だから目が覚めたら兄さんはきっと、優しくも厳しい声で「サスケ」とオレの名を呼んで、仕方ない奴だとか言いながらオレにだけ見せてくれる笑顔で額を小突きながらクールにかっこよく鮮やかに色んな忍術や体術を教えてくれるはず、きっとそのはず!
だから早く悪夢から覚めるんだ!!
『サスケ』
ほら、兄さんは今もこの通り、優しい声でオレを呼んでる。
きっと、目から覚めたらあの頃のようにオレに接してくれる筈だ。
だから、目を覚ますんだ。
* * *
「……兄さんッ!」
「サスケ、漸く目が覚めたか、中々起きないからな、心配したぞ」
そう言いながら、ほっとしたように微笑みオレを見る顔は、幼少期に見慣れた兄のかつての表情そのもので、オレはこみ上げる感情の侭に言葉を吐きだした。
「良かった、やっぱりあれは夢だったんだね、兄さん」
「…………?」
「そりゃそうだよな、兄さんがあんなダラダラ自堕落体は甘味で出来ているまったりハイパー駄目兄貴に成長するわけないもんな! ああ、夢で良かった、よか……げぶらっ!?」
ベシコンッ!
そんな感じの強烈な音と共に額へと鋭い痛みが襲う。
ぬおおと内心でのたうち回りつつ、よくよくその発生源へと目を向けてみれば、兄イタチは、いつも通りの表情を浮かべながら、指を前へと突きだしていた。どうやら先ほどの強烈なのは、イタチによるデコツン強化バージョンだったらしい。
そのことに思わずオレは動揺する。
「に、兄さん?」
「どんな夢を見たかは知らないが、現実逃避はやめろサスケ。あとオレはそんなことよりオマエに話がある」
オレの全力の希望的観測を、そ、そんなこと扱いしやがった!?
「実はこれからの予定なんだが……」
いうなり、なんだかイタチは無表情の侭酷く空気がうきうきしている。
オレの勘が碌でもねェと告げる中、兄はそわそわと、身内しかわからない程度に嬉しそうにこんなことを言った。
「サスケ、兄さんはこれからみたらしアンコ特別上忍と先月オープンした甘味屋に行ってくるので留守を頼む」
「え……」
ちょっと冗談だろ…………こっちが現実?
このかつての大人っぽさが嘘みたいなガキじみた兄が?
そんな馬鹿な……!
「その後は甘味処食べ歩きツアーで2、3日留守にするが、何サスケなら1人でも大丈夫だ。フフッこのために本来1週間かかる任務を昨日1日で終わらせ休暇をもぎ取った甲斐があるというものだ」
……誰か、嘘と言ってくれ。
「明日帰宅予定の母さんにはオマエのほうから適当に言っておいてくれ。とりあえずこの烏を1羽置いていくから、もし何かがあればこの烏を通じてオレに連絡を……サスケ、サスケ?」
「うううっわああああああああああーーーーん!!!」
頼むから誰か、あのクールで優しくて強くてエリートで格好良かったオレの兄さんを返してくれ!!
終われ
ご覧頂き有難う御座いました。
因みにこの話のイタチさんがなんでこんなキャラだったのかっていったら、あれだ。イタチさんは里が平和だった場合、幼い頃しっかりしてて子供時代が存在しなかった反動でなんか幼児返りしそうなタイプというか、大人になってからガキっぽいところが出てきそうなタイプだと思ったからだよ!
まあ、本編ではあの通りな方なわけですが、せめてIFの中だけでも幸せに過ごしてもらえたらなあと思います。