千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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序章
シド・カゲノーと姉と幼馴染達


 世界に満ちる根源元素マナ・マテリアル。それによって生まれる遺跡、宝物殿。凶暴な怪物……幻影(ファントム)が溢れるその遺跡から宝具を持ち帰り巨万の富を得る。トレジャーハンターは今も昔も花型の職業。世はまさにトレジャーハンター黄金時代。

 

 僕、影野 実が転生したのはそんな異世界だった。

 

***

 

 ゼブルディア帝国の辺境にあるのどかな村、今代の村長を務めるカゲノー家の長男シド・カゲノー、それが今の僕だ。

 

 前世の……日本人だった頃から憧れていた存在がある。普段は実力を隠し、物語の佳境で圧倒的な実力を見せる存在……主人公でもラスボスでもない『陰の実力者』だ。

 それは一時の憧れなんかじゃない。陰の実力者を目指し、体を鍛え技を磨き、強くなるための修行を重ねていた。人としての限界を超えるため、魔力さえ追い求め……最後の修行でその光を見た事をよく覚えている。

 そのおかげか、自分が赤ん坊になっていると……転生したと気づいた時から魔力を認識できた。陰の実力者になるために、追い求めた魔力が……この世界では当たり前の存在だったんだ。

 

 魔力操作で肉体改造をしながら僕は成長を重ねた。文字が読めるようになると本を読み漁るようになる。情報社会で洗練された剣術や格闘術、トレーニング理論……前世で得た様々な知識だけじゃ足りない。こちらの世界ならではの知識が欲しい。

 運のいい事に、幼馴染達がトレジャーハンターを目指して勉強や特訓を始めた。そこに姉さんも参加して、僕もついでに参加させてもらった。

 

 姉さんが木剣を振り回してるのを横目に、今は魔法や錬金術を勉強する日々を過ごしている。

 

***

 

 村の広場に木剣がぶつかる音が響く。

 

「やるなクレア! 俺様も本気で行かせてもらうぜーっ!」

「ちょっ……ルーク、まだ本気じゃなかったの!?」

 

 その日は、皆で集まって互いの成長を確かめ合う日だった。広場の方には4人、剣をぶつけ合っているのは黒髪の女の子と赤髪の少年……僕の姉さんクレア・カゲノーと、ルーク・サイコルだ。その剣技は既に、大人顔負けの迫力を見せている。

 

「行っくよ~アンセム兄!」

「うむ!」

 

 奥の方ではアンセムとリィズ、スマート兄妹が力比べをしている。鎧に身を包んだ小柄な兄に、ピンクブロンドの髪をなびかせる妹が容赦なく蹴りを浴びせている。しかしアンセムはびくともしていない。

 

 4人の組手を流し見つつ、僕は木陰で勉強中だ。地面をノート、木の枝をペン代わりにして、錬金術の基礎を覚えている。

 

「最近熱心に勉強してるけど、シド君も錬金術師(アルケミスト)を目指すの?」

「えーっと、僕は魔法生物に興味があるだけ」

 

 隣に座る女の子が話しかけて来た。ピンクブロンドの髪が目立つ彼女はシトリー・スマート、リィズの双子の妹だ。錬金術師を目指す彼女とは、よく一緒に勉強してたり。

 

「魔法生物って言うと……スライムとかゴーレムとか?」

「うん! スライムならその辺にいるし、僕でも実験できそうだなって思うんだ」

「なるほど……それも楽しそうだね」

 

 控えめな笑みを浮かべるシトリー。姉リィズとはよく似た顔たちだけど、性格は対照的だ。きょうだい達や幼馴染達の力試しをじっと観察している。

 

 彼女の目指す錬金術士はポーションを作ったり生物の研究をしたり……前世の世界と同じく科学に近い分野だ。本領を発揮するのは実際にハンターになってからで、今成果を見せるのは難しい。回復薬1つ作るにも材料がいるし、事前に作れば当日はやる事が無い。

 でもスライムはなかなか興味深い。最弱の魔法生物ながら、その体は魔力(マナ)伝達率が99%以上。その性質を利用できれば……前世の修行と魔力を組み合わせた全く新しい戦闘方法が生まれるかも。素手で戦うか、武器を使うかはまだ迷っているけどね。

 

 しばらくすると、もう2人の幼馴染……アンドリヒ義兄妹が僕とシトリーの方に姿を現した。2人とも息を切らせている。

 

「もう……兄さんが寝坊するから、もう始まってるじゃない!」

「あはは……ごめんルシア」

「おはようクライお兄ちゃん、ルシアお姉ちゃん」

「おはようシド君。早起きできて凄いね」

 

 黒髪黒目のぼんやりした顔つきの兄、クライが軽く手を振って挨拶した。彼は……剣の才能も魔法の才能も無い。でもその事で不平や不満を漏らしているのを見た事も無い。

 

「それじゃあ兄さん。私も魔法をみんなに見せるから……兄さんもしっかり見ててよね?」

「……その前に少し休まない? 走って疲れちゃったよ」

「そ、そうね兄さん。少し休んで、それからにしましょう」

「ルシアちゃんは相変わらずですね」

 

 シトリーの言う通りだね。ルシアは義兄クライにいつもべったりくっついている。一緒にいる時は、今みたいに手を繋いでいる事が多い。きっと大人になったら、恥ずかしくて記憶を封印する事になりそうだね。

 そんなルシアが目指しているのは魔導師(マギ)だ。師事する魔導師からは天才と呼ばれ、すでに初級魔法をいくつか覚えている。僕が魔法について質問した時に、見せてくれた事がある。

 

 クライ達に気づいたのか、広場からの音が止まった。視線を動かすと、こっちに向かってルークとリィズが大きく手を振っている。

 

「おおクライ! ルシアも来たか!」

「クライちゃーん! ルシアちゃーん!」

「やっと来たのね……」

「うむ」

 

 そのまま4人もこっちに来て、クライの周りに腰掛けた。僕達幼馴染グループの中心はクライだ。彼には不思議な魅力がある……気がする。

 

「みんな調子はどう?」

「おう! 俺の剣は毎日成長してるぞ! クライの言ったとおりにな」

「ルークちゃんもクレアちゃんも凄いよね~私も負けないから」

「うむ」

「リィズだって剣を簡単に躱すじゃない。負けてられないはこっちのセリフよ」

 

 前衛の4人はどんどん実力を伸ばしている。泥だらけで笑い合う姿は、訓練の激しさと成長を物語っていた。すると姉さんが話しかけて来た。

 

「ねえシド、後でまた練習につきあってよ。今日の反省とかしたいの」

「え~? お姉ちゃん1人でやってよ~」

「ダメ、アンタには剣の才能があるんだから……本ばかり読んでないで体も動かしなさい」

「シド君も大変だね」

「クレアちゃん厳し~」

 

 クライが同情しリィズが笑うと、他の皆も笑いだす。姉さんはよく僕を練習台にしてるけど……もしかしたら、教材にしているのかもしれない。

 この世界の剣技はまだまだ発展途上、前世の情報社会で洗練された剣技にはとても及ばない。その剣技は当然隠しているんだけど、姉さんは片鱗を見ている……のかも。

 

「なあ、そろそろルシアの魔法見せてくれよ! 魔法を剣で叩き落としてみたいんだ!」

「はぁ!? 何ですかそれ……魔法を受けたらケガじゃすまないですよ」

「その時はアンセムやシトリーが治してくれる! そうだろクライ!」

「え? うんうん、そうだね?」

「うーむ……」

「私のポーション……まだ一度も試してないんですけど」

 

 もう休憩はいいのか、突然ルークの無茶振りが始まった。適当に相槌を打つクライのせいで、もうやる流れになっている。

 

「魔法を剣で叩き落とすって……前にクライが言ってたヤツじゃない」

「……そんなこと言ったっけ?」

「また兄さん変なこと言ったの!? もう!」

 

 怒りながらも、ルシアは広場の方に向かった。なんだかんだ言って、魔法を披露したいのだろう。ルークも意気揚々と立ち上がり、広場へと向かう。

 

「頑張れルシア~!」

「……もうどうなっても知りませんよ!」

「ルークお兄ちゃん頑張れ~」

「おう! 見てろよシド、俺様の剣技を!」

 

 クライが妹を応援したので、こっちはルークは応援しよう。クライの真似をすれば、理想のモブムーブに近づけるかもしれない。

 陰の実力者がその実力を隠す姿、それはモブ。ハンターの才能が全く無いクライはまさに平凡なモブで、見習いたい部分がたくさんある。だからチャンスがあればクライの事をよく観察しているんだ。

 

 幼馴染達と過ごす日々は、陰の実力者になるためのとてもいいスタートになったと思う。勉強の機会をくれた幼馴染達には感謝している。

 もし彼らがトレジャーハンターとして成功したら……素直に嬉しい。陰の実力者では無く、友達としてね。

 

 

 その日の集まりは、ルシアの水魔法がルークの剣を叩き折って終わった。

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