千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
ミツゴシ温泉ランド ホテル館には、大人数の客や巨漢のトレジャーハンターを想定した大部屋も存在していた。《
今はクライを覗くメンバーとクレアが集まり、静かに顔を突き合わせていた。キルキル君とノミモノが部屋の隅でくつろぐ中……シトリーが声を張り上げる。
「では、臨時
「うおおおおおお! ひゃっはー!」
「いえーいっ! ひゅーひゅー!」
「……ああ、そういうテンションでやる感じなの?」
場を盛り上げようとするルークとリィズの大声に、ゲストのクレアは面食らってしまった。司会のシトリーは構わず話を続ける。
「クライさんがお風呂から戻ってくる前に、手早く終わらせましょう。議題は……シャドウガーデンについてです!」
「その前に1つ、聞きたい事があるんですけど」
真っ先に手を挙げたのはルシアだ。仏頂面でシトリーに視線を送っている。
「はい、なんでしょうルシアちゃん?」
「この間の話の続きをしましょう。オークションの事件について教えてください」
「確かに、そちらの話を先にした方がいいかもしれませんね。手短に説明しますと――」
***
首輪を外し、外に置いておいた荷物を回収し、最寄りの街に向かう乗合馬車に乗り込む……ここまで、クロとシロの逃走計画は順調に進んでいると言えた。しかし不安はぬぐえない。街で馬車を降りた2人は、すぐさま建物の陰に身を隠す。
「何故だ……どうしてあの男は俺達を逃した?」
「考えるだけ無駄だ。それよりここからの事だろうが……!」
鍵を渡しておいて、後から追いかけるとは考えにくい。しかし……もういちど関わるような事態は避けたい。それに《シャドウガーデン》だ。《嘆きの亡霊》とシャドウガーデン、どちらも帝都ゼブルディアを中心に活動している。クロとシロに取れる選択肢は限られていた。
「逃げるなら国外だ。もうゼブルディアには戻れねえ」
「ああ……俺も同じ考えだ」
《嘆きの亡霊》の御者をさせられた僅か数日……その経験が、2人の生存欲求を極限まで高めていた。危うい光を宿した目で地図を睨み……今いる町から西へと伸びる1つの線に目をつける。
「鉄道だ。オリアナに行くぞ」
「――そこの君達、ちょっといいかな?」
「「ッ!?」」
クロは心臓が鷲掴みにされたような恐怖を感じた。シロも同様だろう。2人は声をかけて来た偉丈夫へと向き直る。高級感漂う黒のローブと、腰まで伸ばした銀髪が特徴的なその男は、鷲のように鋭い目つきで2人を睨んでいた。
彼の後ろにはプラチナホースを繋げた馬車が……見覚えのある馬車が停まっている。
「君達は……嘆きの亡霊の御者をしていなかったか?」
(ッ! 思い出した……ビアの町の……探索者協会の馬車……!)
――火の精霊が穴を開けた道で、穴の向こうで立ち往生していた馬車。クライが道を変えた……道を変えてまで逃げようとした相手。……逆に言えば、クライを追いかけてる可能性がある馬車だ。……関わるわけにはいかない。そうクロは判断した。
「さ、さあな……知らねえよ嘆きの亡霊なんて」
「とぼけるか……まあいい。無理やりにでも連れて行く」
「なッ……グワーッ!?」「グワーッ!?」
どこからともなく現れた黒づくめの集団に、クロとシロは取り押さえられた。そんな2人に対し銀髪の男は、憐れみと侮蔑の混ざった目で見下ろしている。
「どうやらツキが味方しているようだな……この馬車も、ここでお前達を見つけたのも」
「まさかお前ら……ディアボロ……ヒッ!?」
クロの首に刃が付きつけられる。銀髪の男の――ディアボロス教団ネームドチルドレン《闇蜘蛛》の鎌。
「今の俺達は探索者協会……そういう事にしておけ」
***
「――ディアボロス教団? また変な組織ですか……」
「ええ。また変な組織です。その変な組織とシャドウガーデンは敵対関係のようですが――」
嘆霊会議は続く。オークション事件の説明が終わり、いよいよ本題へと移ろうとしていた。
「まあ教団の話はおいおい……帝都に戻ってからしましょう。今、話したいのは私達の前に現れたシャドウガーデンについてです」
「一応、聞くけど……ホントにいたのよね?」
「間違いなくシャドウガーデンだよ。あのバカ犬、私服で変装してんのに自分の事をデルタって名前で呼んでた。隠す気ないんじゃね?」
1人その場にいなかったクレアの確認に、どこか呆れながらリィズが答えた。デルタの事を鼻で笑っている。
「オッケー、わかった。話に割り込んで悪かったわねシトリー」
「いえいえ。お気になさらず。それで話を戻しますと……向こうは6人。いずれも蛇の時や、帝都襲撃、オークションの一件で姿を見せた人達だと思われます」
「さっきの説明を聞く感じ、シャドウガーデンって組織の規模は大きいはずですよね? それなのに同じ顔と何度も会うって事は……」
考え込むルシア、彼女に代わりアンセムが自分の考えを口にする。
「実行部隊の精鋭……あるいは幹部か」
「ええ。私の考えもお兄ちゃんと一緒です。どうやら今回、幹部が集まるその場に居合わせてしまったみたいですね。蛇の時みたいに」
「あん時はルークちゃんの誕生会だったよね~私が幹部を見つけてさ」
「おう! あれは最高の誕生日プレゼントだった! ちょうどデカい組織と戦いたいと思ってたんだよなぁ……懐かしいぜ」
……ここでは詳細を省くが、そういう事があったのだ。その一件がキッカケとなり《嘆きの亡霊》と裏社会の大組織《蛇》との抗争が始まった。ルークは腕を組み、遠い目で懐かしんでいる。
「いろいろあったよな。クライが襲われたり、逆にクライが連中のアジトみつけたり……それでシャドウガーデンとぶつかった!」
「当事者のアンタらはともかく、私もティノも巻き込まれて酷い目に遭ったわ」
「でもクレアちゃんは幹部を捕まえて手柄にしたじゃん。クライちゃんと私らのおかげだよねー」
「はいはい、感謝してるわよ。アンタ達とその時、逃げ道を塞いでくれたシャドウガーデンにね」
押しつけがましいリィズの冗談に、クレアも投げやりに返答する。手柄にしたと言っても、認定レベルはあの時から上がっておらず、なので感謝の気持ちもあまり強くはないようだ。
……話題が逸れ始めたそんな折、シトリーが両手をポンと打ち鳴らす。
「さて、入口で彼女達と遭遇した時……クライさんは戦闘を止めようとして、向こうもそれに倣いました。皆さんは何故だと思いますか?」
「アレだろ? お互い万全の状態で真剣勝負しようって事だ。相変わらずクライはいい事するぜ」
「う~ん……私もやり合いたいけど。でもアイツらあんまり戦う気が無さそうなんだよなぁ。バカ犬以外」
「ふむ……オークションの一件では、人質を救出したそうだな」
「そうね。私がいた一般席でも、客に手を出す素振りは無かったわ。賊だけ標的にしてた」
好戦的なルーク、懐疑的なリィズ、シトリーの問いかけに各々がシャドウガーデンに対する考えを口にしている。一方でルシアは、全く違う考えを持っていた。
「シャドウガーデンじゃなくて……もっとロクでもない事が起きるんじゃないですか?」
――それはクライのトラブル体質に対する、負の信頼。
「あー……ありそう。ってか絶対そうだよ!」
「なるほど……シャドウガーデンは前座か! だったらアルファ以上の
「えっ……シャドウガーデンとは戦わず、体力を温存するって流れじゃないの!?」
「うーむ……」
「売ろうと思ってたアレが役立つかも……今回は赤字でも、いい商売ができそうです」
各々が好き勝手に発言し、会議としての纏まりが無くなり始めた……そんなタイミングを見計らったかのように、戻って来たクライが姿を見せる。
「いや~……マッサージも温泉も一流だね。流石ミツゴシだよ」
「クライちゃん、おかえり~」
「うん、ただいま。盛り上がってたみたいだけど、何を話してたの?」
「このバカンスをどう楽しむか、みんなで話してたところなんです」
「うんうん……そうだね、バカンスは楽しんでこそだ」
シトリーの建前にクライは大きく頷いている。しかし……クレアは呆れながら小さく呟いた。
「みんな、平和的に終わるとは思ってないみたいだけどね」
「別にどっちも楽しめばいいんだよ。クレアちゃんもバレーボール、すっごい楽しんでたよね?」
「まあそれは……って、独り言に返事しないでよ」
「素直じゃないよね~クレアちゃんって」
「そうだアンセム、次は一緒に温泉に入ろう。背中を流してあげるよ」
「む? いや……」
「遠慮しないでよ。いつもお世話になってるから、そのお礼に。ルークもやらない?」
「……クライ、背中を流すと礼になるのか?」
「なるなる」
「あ、私も! 私もアンセム兄の背中 流したい!」
「お姉ちゃん! ここは混浴じゃないでしょ!」
「……混浴だったらまず、シトがリーダーの背中を狙いますよね?」
騒いだり睨んだり……クライの登場で和気藹々とする《嘆きの亡霊》のメンバー達。そんな光景を眺め……しみじみとクレアは思う。
「結局、シャドウガーデンにどうするか決めてないじゃない」