千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
姉さんから逃げるため、窓から外に出た僕は屋上にたどり着いた。さすがの姉さんもここまでは追ってこないでしょ。
それはさておき、屋上に来てからずっと戦闘音が聞こえてるんだよね。それに聞き覚えのある声が混じってる。具体的に言うとリィズとかデルタとか。
……嫌な予感がする。気配を消して、そっと地上の様子を伺おう。
「……何やってんだアイツら」
気づかれないよう顔をすぐに引っこめて、僕は空を仰いだ。快晴の青空が眩しい……いや何やってんだアイツら。
なんでアルファ達が《
「ここは静観かな」
決着ついた後に現れて、戦わずして存在感を見せつける陰の実力者……そんな感じにしよう。僕も嘆霊と手合わせしたい気持ちはあるけど――
「今はまだその時では無い……ふっ」
このセリフ、いちど言ってみたかったんだよね。
……ふと、ものすごく嫌な予感がしてきた。さっき地上を見た時、クライはいたっけ?
***
巻き起こる大爆発。イータの
「『ヘイルストーム』!」「『
ルシアがポーション瓶片手に巻き起こした嵐を、イプシロンの風の槍が瞬時に貫く。魔力の流れが乱れ、残るのはそよ風だけだ。イプシロンとルシア、2人の
「しゅしゅしゅしゅー!」
「よく見りゃ遅いな! おっと後ろ!」
「っ!? よくしのぐ!」
「言ったろ? 何人でもまとめて相手してやるってな!」
アルファとガンマの連続攻撃にルークは軽々と対応してみせた。苦戦の予感に七陰の2人は顔をしかめる。だがやはり、対照的にルークは目を爛々と輝かせていた。
「うおおおぉぉっっ!」
「むぅ……やっぱり効いてない」
「当たり前なのです! デカ鎧を狩るのは……デルタじゃないお前らには無理なのです!」
爆炎の中から現れたアンセムは無傷。それを予期していたデルタは、既に巨大なスライムソード『鉄塊』を構えていた。握る両手から魔力の青い光が溢れている。
「デルタの本気……ううぅぅぅうああああぁぁぁっ!」
「むっ……むぅん!」
アンセムは足を止め、デルタ全力の一撃を結界で迎え撃つ。狭く短い、強度重視の結界が、デルタの全力さえも防いでみせた。
するとデルタは、あっさりと『鉄塊』を手放す。まだ青い光が揺らめく手に、ツメのスライムソードが備わる。
「こっちの方が速いのです!」
「む……!?」
「――リィズちゃんの方が速いんだよバカ犬!」
「! メス
デルタは防いだ。リィズ奇襲の一撃を。デルタの反撃を蹴って、反動で離れたリィズはさらに距離を取った。そして仮面を外し、挑発的にデルタを嗤う。
「リィズちゃん無視してアンセム兄を狙うなんて生意気。それでもアンセム兄とやる気ならリィズちゃんは他の奴を狙っちゃうけど……どうするぅ? 選ばせてあげるなんて……リィズちゃん、やっさしい~」
「うっ……ううぅぅぅ……デルタは……デルタは……!」
リィズの挑発的な提案にデルタは、身構えるアンセムとリィズを交互に見回した。どちらもデルタにとって因縁のある相手……選ぶに選べない様子だ。そんな彼女を助けようと、ベータが近づき声をかける。
「デルタ、最初の作戦を思い出して。アルファ様の言った事を!」
「アルファ様の? …………っ! わかったのです! デルタは……!」
デルタは鋭くリィズを睨み、一直線に彼女へと向かった。ツメと金属ブーツが火花を散らす。
「オマエを倒すのが! デルタの役目なのです!」
「そうかよバカ犬。だったら今度こそリィズちゃんが躾けてやるよ!」
「デルタは犬じゃ……ない!」
嵐のように離れるリィズとデルタ。残ったのはアンセムと……ベータとイータだ。ベータは剣を構えるが、動くに動けない。アンセムの巨体に圧倒されている。
「イータ、イプシロンの代わりに手伝って。不動不変を足止めするから」
「いや……スライム無いし、時間も無いし、切り札かもん」
「……時間?」
イータはそっと右手を高く掲げ……パチンと鳴らした。すると次の瞬間、どこからともなく黒い何かが落ちて来た。衝撃が地面を揺らし、砂塵が舞い上がる。
「むう……!?」
砂塵の中、アンセムが目にしたのは……漆黒のマントを纏う漆黒の金属ゴーレムだった。立ち上がったゴーレムの頭部と、アンセムの目線が合う。全高はほぼ同じ。ゴーレムは両手で大剣を握り、アンセムに向かって瞬時に踏み込む。
……その光景を遠くから眺め、シトリーの表情は凍り付いた。
「アカシャ……なんで……!?」
そのゴーレムはシトリーが設計した『アカシャ』と酷似していた。操者次第だが《嘆きの亡霊》を相手に互角の力を発揮できるゴーレムだ。
実際ゴーレムは攻防ともに隙を見せず、アンセムと互角に渡り合っている。シトリーは操作権を奪おうと、アカシャの操作術式を発動するが――
(――ダメですか……という事は、設計図通りには作っていない。シャドウガーデンの
シトリーの視線は、ゴーレムを呼び出したイータへと釘付けになる。
……そのイータに詰め寄る人影があった。ベータだ。
「ちょっとイータ……!? あのゴーレムはなんなんですか?」
「ベータなら……設計図……見てる」
「設計図? ……っ! アカシャの塔のゴーレムね」
「ちょっと……陰の叡智で……改良……」
イータはゴーレムの遠隔操作に集中し、ベータを見向きもしなかった。それもそのはずである。相手のアンセムは巨体に見合わぬ軽快な身のこなしで、1発1発が強力な拳を連打してくる。
イータはかつてシャドウから教わった剣技で対抗し、勝負は一進一退。……だが、生返事に怒ったベータが、イータの前に立ちふさがった。
「ちょっとイータ、こっち向きなさい!」
「あっ、ダメ……見えない」
遠隔操作の欠点は、操者への依存度が高いという事だ。剣技や身のこなしだけでなく視界さえも……ゴーレムの動きが悪くなったのを見逃さず、アンセムの拳がゴーレムを殴り飛ばした。イータとベータのいる方向へ。
「むん!」
「あ……!」
「え? きゃぁぁっ!?」
ゴーレムの転倒が地面を揺るがす。危うく2人はゴーレムの下敷きになるところだった。
「うー……ベータのせい。ゴーレムは私が操ってたのに、邪魔するから」
「そういう事は早く言いなさい! ……それなら守ってあげますから」
「理解が早くて助かる……ん?」
立ちあがったイータは視線の先……遠くにいるシトリーと目が合った。シトリーのにこやかな微笑みに、イータは少し考え……Vサインを返す。お礼と称賛と挑発の意味を込めて。
「ぶいぶい」
シトリーは表情を変えず、指に挟んだ色とりどりのポーション瓶でVサインを返した。そして思いっきり投げる。……デルタと命がけでじゃれ合うリィズへ向かって。
「あん? シトか」
「どこ行くですかメス盗賊っ!」
ポーション瓶に気づいたリィズは、空中の瓶を残さず手に取り……戦闘中の七陰へと投げつける。毒、痺れ、睡眠……さまざまなポーションが入り乱れるが、特に何も起こらない。アルファとガンマが若干の痺れを感じた程度だ。
「っ……麻痺毒ね」
「ですが、この程度なら……しゅっ!」
「はは! もしかしてシャドウガーデンも仲間の毒で耐性、鍛えてんのか?」
「馴れ馴れしくしないでと、言っはずよ!」
……一方、症状を感じず戸惑うベータに、イータは得意気にふんぞり返る。
「毒が効かないのは、私が皆に何度も飲ませたおかげ。だから感謝して」
「感謝……するわけないでしょ! いいから――っ!? 来てるわよイータ!」
ベータが見上げる先、空中にアンセムはいた。身長の倍以上の高さに跳んだ彼は、倒れたゴーレムを踏み潰そうとしている。
「離れてベータ」
「えっ……あっつ!?」
イータの操作でゴーレムの背中から炎が噴き出した。炎の勢いで体を浮かせ……地面を転がり横移動、間一髪アンセムの足を回避する。
「むっ……!?」
「速い……予想以上……!」
素早く立ち上がってゴーレムは突進。アンセムはそれに応え、腕四つの力比べが始まった。
「むぅ……!」
かたや白銀、かたや漆黒、そして互角の力と身のこなし……アンセムとゴーレムはその在り方がよく似ている。イータは目を細めた。
「やっぱり……このゴーレム、対嘆霊を想定してる」
「確かに不動不変と背丈は同じくらいのようだけど……でもアカシャの塔が? そんな事を考えてるようには見えなかったわ」
「違う……アカシャじゃない」
イータの視線は一瞬だけシトリーを見据えた。食い入るようにゴーレムを見つめる《嘆きの亡霊》の錬金術師を。
「……『
その時、ルシアの周囲に無数の氷の槍が出現した。機関銃のような勢いで放たれる氷が……足を止めたゴーレムを襲う。
「!? 魔法が来る!」
「問題……無い」
しかしイータは冷静だった。なにもせずとも、氷の槍がゴーレムのマントの上を滑っていく。流れ弾が戦場全体に拡散……イータに飛んできた1本をベータが叩き落とした。
「イータ……今のは何ですか!?」
「陰の叡智……『
その一撃で戦場全体の空気が変わった。アンセムがゴーレムから距離を取ると、リィズの飛び蹴りがゴーレムの頭部に命中した。2発、3発……
しかしゴーレムはびくともしない。陰の叡智『超合金』で作られたゴーレムのボディは、まるで鉄でできた城のようにそびえ立っている。
「何だよコイツ!? ムチャクチャ固え!?」
「デルタから逃げるな!」
「ちぃっ!」
リィズが離れたのを見てから、ゴーレムは地面に落ちる自分の剣を握りなおす。それを待ってましたと言わんばかりに、今度はルークが近づいてきた。
「オマエも剣士か!」
倍以上の対格差で剣を交え……ゴーレムが苦戦している。操作するイータは顔をしかめた。
「……やりにくい」
自分より大きな相手を何度も斬ってきたルークと、剣をあまり使ってこなかったイータ、経験の差が如実に表れていた。
それでもゴーレムは豪快に大剣を振り回し、ルークを後退させる。……気づけばゴーレムは《嘆きの亡霊》の面々から注目を集めていた。彼らの猛攻にイータは目を回している。
「対処が……追いつかない……!」
(でも持ちこたえてる。ひょっとしてあのゴーレム……私より強いんじゃ……)
ゴーレムの戦いぶりにベータは恐れを抱き始めた。……それと時を同じくして、リィズと対峙していたデルタが、突如として足を止める。
「オイどうしたバカ犬? 降参でもするぅ?」
「うるさい! ちょっと黙るのです!」
デルタの頭頂部で耳が揺れる。獣人の優れた聴覚が何か異音を捉えたようだ。左右を見回していたデルタは、ハッと何かに気づき……地面に耳を押し当て、確信を得る。
「……っ! 下……下に何かいるのです!」
顔を上げたデルタの叫びが、戦場全体に響いた。耳にしたイータは残念そうに呟く。
「時間切れ」
次の瞬間、大地に次々と穴が開いた。穴から姿を現すのは灰色の肌を持つ亜人……黄色く輝く目、植物の蔦のような髪、アンダーマンである。
「りゅーッ! りゅーりゅりゅーりゅーッ!」
「「「りゅーッ!」」」
アンダーマンは次々と現れ、野太い声が戦場を支配する。そして……七陰と《嘆きの亡霊》を完全に包囲した。