千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
実力者同士の戦いがトラブルで中断する……あまり面白くは無いけど、それもテンプレ展開である事には違いない。
アルファ達と《
「――りゅんりゅんりゅーりゅりゅ!」
「ん? ……りゅ?」
この声はクライ? ホテルの屋上から顔を出すと……露天風呂を挟んだ向こう側の建物、温泉ランドの本館の屋上に、アロハシャツを着たアンダーマンの姿が見えた。
……いや、アンダーマンなのは顔だけだ。あれはクライの変装だろう。……なにしてんの?
クライは巨大なアンダーマンの上で……別の小柄なアンダーマンと腕を組んでいた。……よく見たらアレって、イータの写真に写ってたアンダーマンじゃないか。王冠を被っているクライが王だとしたら、隣のアンダーマンは……姫?
「クライちゃーん! そんなとこで何してんの?」
やばっリィズだ……! 気配を消して慎重に様子を見ると……屋根の上に3人が上った。ルシアとリィズとシトリー……
「兄さん! そんなとこで何してるんですか! こっちは散々心配したのに、地底人と王様ごっこですか!?」
「ルシアちゃん、心配で泣きべそかきそうだったもんね~」
「泣いてない!」
「あー……りゅーりゅりゅう!」
「クライさん! いったいどっちの味方なんですか! 女の子なら誰でもいいんですか!」
シトリーはりゅうりゅうの意味がわかるみたいだけど……これクライは適当に言ってるだけじゃないか? いったい何を言ってるのか、シトリーがどんどんヒートアップしてる。
「――この女たらし! 鬼畜! 借金持ち! そんなに王様になりたかったのなら――」
「もうシトは黙ってて! 私が兄さんを引きずり下ろします!」
カンカンに怒ってるルシアが1歩前に出た……その時、不意に地面が揺れた。アンダーマンが現れた時よりも強い揺れだ。クライがバランスを崩して、屋上を転がり落ちた。
リィズがキャッチして無事みたいだけど……それよりマナ・マテリアルの乱れが気になる。この感じは……温泉に集まってる?
***
「クライちゃん、何やってたの?」
「……見てわからない?」
「わかんない。それで今の、何が起きるの?」
「……わからない?」
クライを担いで屋根から降りたリィズ、後に続いてルシアとシトリーも降りてきた。そこは温泉ランドの露天風呂、地上で戦っていたルークとアンセムも合流する。
「戻ってきたかクライ」
「なあクライ、今までどこにいたんだ? それと地底人に
「ちょっと地底を観光してたんだけど……剣士は見当たらなかったな」
仲間と合流し『
「りゅ、りゅうぅぅぅぅ!」
絶叫、見上げたクライ達が見たのは涙を流すリューランの姿だった。地底でクライが見せた圧倒的カリスマと不思議な力(宝具)に、彼女は魅せられていた。彼こそが王に相応しい……と。だがそれは全て幻だった。怒りと悲しみに震えながら、彼女は叫ぶ。
『王は死んだ。殺せ。戦士も、民も、何もかもを破壊せよ。我々を謀った愚かな地上人共に我らの恐ろしさを思い知らせるのだ!』
「――って言ってます」
「兄さん! なんで王様のふりなんかしたんですか!」
「いや僕だってやりたくてやったわけじゃないよ。いつの間にかそうなっていたというか……」
しどろもどろにクライが弁明をしていると、彼らの周囲にアンダーマンが集結していく。地底人の目には明確な殺意。王を絶対とする文化形態のアンダーマンにとって、クライの行動は到底 許される事ではないのだ。
だがアンダーマンが温泉に足を踏み入れるたびに地面が揺れる。それが何度も続けば偶然ではないだろう。
「この揺れ……なんかヤな感じする」
「うむ……そうか」
身構える《嘆きの亡霊》の前にリューランが降り立ち、彼女の涙が温泉へと落ちた……次の瞬間、温泉が揺れた。湯が浮き上がり、アンダーマンの一部が足を取られ転んでいる。
「りゅん……!?」
温泉が……いや付近に存在するあらゆる水が露天風呂の上空に集まっていく。流れるプールやウォータースライダーからの水が、濁流のような勢いで温泉ランドの天井を突き破った。その光景にアルファ達も息を呑む。
「この魔力……いったい何が起きているの……?」
「もしかして水の精霊? でも精霊がこんな人里に現れるなんて……」
彼女達が精霊と勘違いするほどの、膨大な魔力が水を集めていた。やがて集まった水は、淡く発光しながらその形を変えていく。鋭い爪と牙、長い尾、大空にはためく大きな翼……水の体を持つ巨大なドラゴンが、温泉ランドの上空に出現した。大きな口を開き、咆哮が空を震わせる。
「アンギャアァァァァァァァァッ!!」
その雄々しき姿に誰もが目を奪われてしまった。アンダーマンさえも……その威容に圧倒されている。
「りゅ、りゅーりゅーりゅー!?」
「りゅんりゅんりゅー!」
「厄神……? どうやらアンダーマンにとってドラゴンは天敵のようですね。もしかしたら『竜の涙』伝説に出て来た怪物は、アンダーマンなのかもしれません」
シトリーの言葉通り、アンダーマンの様子が変わった。まるで蛇に睨まれた蛙のように、身動きできないでいる。
すると水のドラゴンがおもむろに首を動かし、地上を睨みつけた。群れるアンダーマンを見たドラゴンの口が……赤く輝く。『
――シャドウガーデンに
「むん!」
帝都有数の聖騎士、アンセムの張った強固な結界が『竜の息吹』から仲間を守る。高温高圧の水のブレスが地面を抉る中……《嘆きの亡霊》と付近にいたリューランだけは被害から逃れた。
――シャドウガーデンに聖騎士はいない。……ブレスに吹き飛ばされたアルファは、震える体を無理に起こした。
「ベータ! ガンマ! ……デルタ! くっ……」
張り上げた声が傷に障り、アルファは痛みに顔を歪める。周囲には瓦礫が散乱……その中には、露天風呂の柵も紛れていた。ブレスはホテル館と本館の間を通り抜け、アルファ達のいた駐車場をも吹き飛ばしたのだ。
「イプシロン! イータ! ……どこにいるの、返事をして!」
アルファが叫んだその時、瓦礫を押しのけてイータのゴーレムが立ち上がった。その足元には、アルファの探していた仲間が3人。
「! ベータ……! イプシロンにイータも……!」
「アルファ様!」
「私達、もうダメだって思ったら……イータに助けられたんです」
「陰の叡智に不可能は無い……ぶい」
傷だらけのゴーレムの足元で、イータは得意気にVサインをアルフェに見せる。ゴーレムの『
「無事でよかった……それで他の2人は……ガンマとデルタは見なかった?」
「デルタは……ここに……いるのです……」
「アルファ様……」
息も絶え絶えな返事、4人の前に姿を見せたのはデルタ……を背負う涙目のガンマだった。
「逃げ遅れた私を助けようとして……デルタはブレスに……」
「オマエ、ぜんぜん強くなっていないのです……そんなんだから最弱なのです……」
重傷でも口の減らないデルタを下ろし、ガンマは膝から崩れ落ちた。デルタの言葉がよほど堪えたのかもしれない。心身ともに傷ついた仲間達を見て……アルファは決死の覚悟を固める。
「皆はここを離れなさい。できるだけ遠く……安全な場所に」
「!? 嘆きの亡霊に後を任せるのですか……?」
「……アルファ様は、どうする?」
「私は残って……この戦いを終わらせる」
アルファの視線の先には水のドラゴン。恐れをなしたのか、アンダーマンは地底へと逃げ帰ろうとしている。あのドラゴンさえ倒せば……残るのは《嘆きの亡霊》だけだ。アルファは自分を犠牲にしてでも、仲間を守ろうとしている。
「待ってくださいアルファ様!」
「この戦いを始めたのは私。だから私が責任を――」
「そうではなくて……シャドウ様です!」
「っ!? 彼が……!」
ベータが指さしたホテル館の屋上、そこに漆黒のロングコート纏う男が立っていた。彼こそ《シャドウガーデン》の盟主シャドウ……彼は水のドラゴンに背を向け、西の空を見上げている。
「シャドウ……いったい何が見えているの……?」
シャドウの視線を追って、アルファも西の空を見上げた。するとそこには、青空を滑空する巨大な影……鋭い爪と牙、長い尾、大空にはためく大きな翼……巨大な水色のドラゴンが、温泉ランドに迫っていた。
「そんな……ドラゴンがもう1体……!?」
アルファの悲痛な声に、デルタの耳が揺れた。ベータとイプシロンの治癒魔法を受けながら、デルタは思い出した言葉を口にする。
「そういえば……ボス言ってたのです。温泉ドラゴンと友達になったって」
「温泉……ドラゴン……?」
アルファ達は首を傾げるが……温泉ドラゴンを知るイータだけが、その言葉に目を丸くした。
「スルスの温泉ドラゴン……! マスターはスルスの街に行って……あのドラゴンを手なずけた……?」
「だとしても……いったいなんのために……?」
再びシャドウを見上げたアルファは……彼の口元が笑っているように見えた。
***
一方、水ドラゴンは《嘆きの亡霊》と睨み合っていた。正確には……クライが説得しているリューランを睨んでいる。
「りゅりゅりゅりゅりゅっりゅりゅりゅ?」
「りゅ……りゅんりゅりゅ、りゅーーーー!」
(結果的に)ブレスから守ってくれたクライ達を信頼したのか、リューランの言葉によってアンダーマンが地底への撤退を始めた。最後に残ったリューランは、涙ながらに別れを告げる。
「りゅ!」
「……なるほど。アンダーマンにドラゴンの恐ろしさを見せつけて、地上侵略を諦めさせるのが目的だったんですね。さすがです!」
シトリーはにこやかな笑みをクライに向けるが……状況が返事を許さない。
「ギャオォォォッ!」
水ドラゴンの口が再び輝く、しかしブレスが放たれようとした瞬間……その口が凍結した。荒れ狂う力が暴発し、水ドラゴンの頭部が粉々になって吹き飛ぶ。……ルシアの魔法だ。
「……2度目は見逃しませんよ」
しかしルシアが睨む中、ドラゴンの頭部は即座に再生を始めた。水の体はそう簡単にダメージを与えられない。それでもルシアは眉1つ動かさず、今度はクライを睨みつける。
「リーダー、やっちゃっていいですよね?」
「クライ」
「クライちゃん!」
仲間の声に、クライはハードボイルドな笑みを浮かべた。恐れることなく巨大な敵を指さす。
「みんな」
その一言だけで《嘆きの亡霊》は動いた。氷の嵐が巻き起こり、ドラゴンは凍り付いて墜落。各々の技で粉々に粉砕するが……すぐに解凍し再生してしまう。
「アンギャアァァァァァァァァッ!!」
2度目の咆哮が空を震わせた……その次の瞬間、3度目の咆哮が空に響き渡る。
「あんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
西の空から巨大なドラゴンが飛来し、水のドラゴンと対峙した。水色の表皮は遠目からでも頑強で、赤い瞳が水ドラゴンを睨みつけている。
そして……この両者は体格も声もそっくりだった。クライはそっくりな2体のドラゴンを見比べ……感心したように呟く。
「……どっちが本物?」
「なあクライ、どっちを先に斬るんだ?」
見つめ合う2体のドラゴン、水のドラゴンが急におとなしくなり《嘆きの亡霊》は様子を窺う。緊張感が漂う中、クライはドラゴンの手をじっと見ていた。上に何かが乗っている。
水色でツルツルした丸っこい……子供のドラゴン(?)と、それに話しかける人影。漆黒のロングコートを纏った彼の姿に、クライは見覚えがあった。
「シャドウ……?」
――その呟きは咆哮によってかき消される。
「あんぎゃあ!」「アンギャア!」
2体は何度も鳴き声を合わせ……やがて、水ドラゴンの体が金色に輝きだした。その体から水が元の場所へと戻り、光だけとなった黄金ドラゴンが天へと昇る。
それを追うように水色のドラゴンも飛び立ち……天から黄金の光が降り注いだ。まるで雪のようにひらひらと落ちてくる光が、温泉ランドを黄金色に染め上げる。
「綺麗……ですね。クライさん。でも、あの水のドラゴンは……『竜の涙』伝説と、何か関係してるのでしょうか?」
「うんうん、そうだね」
予想外の光景にシトリーは目を白黒させている。他の《嘆きの亡霊》メンバーも驚きを隠せない様子だ。
「……やっぱクライがいると違うな」
「うむ!」
「バカンスに来てよかった~! 楽しいイベントだったね!」
「綺麗なのは認めますけど……私はまだ許してませんからね。勝手にどっか行って……心配させないでください」
「うんうん、そうだね。宝具の魔力チャージ頼むよルシア」
「~~っ! もうもう! ちゃんと聞け!」
和気藹々と話しながら、クライの先導でホテルに戻ろうとする《嘆きの亡霊》……そんな中、リィズがルークに声をかける。
「ルークちゃん。勝負の続きしない?」
「シャドウガーデン倒す奴か。いいけどよ……でもアイツらまだいるのか? もう尻尾巻いて逃げてるかもしれないぜ」
「大丈夫、もっといい獲物がいるんだって……ほらそこ、あそこにいるのがシャドウだよ」
「っ!? シャドウ……アイツが!」
「そっ、シャドウガーデンのボス……でもたぶん1対1じゃ本気も出してくれないよ」
リィズの視線の先……瓦礫だらけの駐車場で、シャドウが独り佇んでいた。