千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
洞窟型の宝物殿に入ると、彼女は亜人タイプの
「お見事。慣れてるんだね」
「貴族だって宝物殿に潜るの。マナ・マテリアルで体を鍛えるのは嗜みよ」
それにしたって彼女は手慣れていた。どんどん奥へ進む彼女を追いかけていると、さらに
……なるほど、アレクシアは剣技の基本部分に徹底的な研鑽を積み重ねたようだ。地味ながら堅実なその技から、彼女の剣に対する思いが本物だと伝わって来る。ハンターになったのは剣を振るのが好きだからかもしれない。
そんな風に考えていると、剣を収めながらアレクシアが呟いた。
「貴方の剣……不思議ね。基本は出来てるのに、それしかない」
「そりゃどうも」
「……嫌いよ。まるで自分を見ているみたい」
彼女の推察は正しい。僕は実力を隠すため技と力を抑えて剣を振るっていた。そうすれば残っているのは基本だけだろう。でも嫌いってどういう事だろ?
その後も特に苦戦することなくボスを倒し、宝物殿の攻略に成功した。たしか認定レベル1の宝物殿だから……アレクシアはレベル2か3くらいの実力はあるかもしれない。
***
宝物殿から帝都に戻った次の日。資料を借りようと《探索者協会》を訪れていた僕は、アレクシアに連行され帝都南西のスラム街を訪れていた。通称【退廃都区】噂には聞いてたけど実際訪れるとは思ってもいなかった。
「急にどうしたの? 今日は休みって言ってなかった?」
「それどころじゃなくなったの。いいから来なさいポチ」
疲れてるはずのアレクシアは、ここでもどんどん先へと進んでいく。仕方ないので後を追いかける事にする。
埃っぽい空気、狭くて薄暗い道、壁際でうずくまっている浮浪者……【退廃都区】はスラム街という言葉からイメージできる光景がまさに広がっている。いいロケーションじゃないか。
僕がこっそり感動していると、道すがらアレクシアが説明を始めた。
「ゼノンについて尋ねる手紙を何通か送ったって話はしたわよね?」
「そうだっけ?」
「……とにかく、その返事の中に送り主のわからない手紙が紛れていたの」
「そこにはなんて?」
「『ゼノン侯爵の秘密を私は知っている』そんな文章と、待ち合わせ場所と、期日が書いてあったわ」
「……怪しすぎない?」
「わかってるわよ。だから貴方を連れて来たんじゃない」
「なるほど、ボディーガードってわけだ」
「はあ? アンタなんかに守ってもらおうとは思ってないわよ。貴方はただの付き添い、何も言わず横につっ立ってなさい」
「はーい」
そのまま、目的地を教えてもらえないままスラム街の奥へ進んでいるけど……おかしい。人の気配が無さ過ぎる。暴漢に絡まれたり、スリと遭遇したり……そういった定番イベントが発生しそうにない。
「なんだか静かだね」
「キョロキョロしないで、堂々としなさい。そうしたら絡まれにくくなるわ」
そのまましばらく進んでいると、少し開けた場所に出た。比較的日当たりのいいその場所には、シャッターの降りたアイスクリーム屋があって、それを見たアレクシアは脚を止めた。
「あった。あれが目印よ」
そう言って彼女は手紙と地図を取り出し再確認している。それはいいんだけど……僕はアイス屋の方から視線を感じていた。数は……3かな。当然アレクシアは気づいていない。
やっぱり何かの罠、だとしたら仕掛けたのはゼノン侯爵? アレクシアの言う通りだった? なんにせよ陰謀の匂いがする。ここは陰の実力者としてカッコよく乱入したい! でもアレクシアに見られちゃうな……彼女を口封じするわけにいかないし。
陰の実力者としてどう振る舞うか考えていると、アイス屋の方から何かが投げ込まれた。空中に放物線を描くそれは、琥珀色の液体が入ったポーション瓶。もしやエクスプロージョンポーション? 昔、
アレクシアを……ネームドキャラを狙った攻撃、ならモブとしてやるべきことはひとつだ!
「危ない!」
「えっ……きゃっ!?」
僕はアレクシアに向かって走った。勢いのまま彼女を突き飛ばし、瓶に向かって立ちふさがる。重要キャラを庇って倒れる。それこそモブの役目だ!
ついに地面で瓶が割れる……しかし何も起きなかった。琥珀色の液体は爆発せず、ただ地面に広がるだけ……どうやらエクスプロージョンポーションでは無かったみたいだ。じゃあなんだろう?
「ちょっと、何があったの?」
僕が地面を睨む後ろで、アレクシアが疑問の声を上げてる。さすがに瓶の割れた音には気づいたみたいだ。
「いや、何か……瓶が飛んできたんだ」
「……瓶? それって……」
アレクシアが言葉を詰まらせた。どうしたんだろう? 振り向くとふらつく彼女が目に入った。瞼が降りるのを必死にこらえている……そう見えた。
「何……これ……急に眠……く……」
これは……さっきのはスリープポーション? 陰の実力者として状態異常耐性も鍛えてたから気づけなかった。でも今の僕はモブだから効くべき、ならアレを披露する時だ。モブらしさを極めるため編み出した奥義の1つを。
「どしたの? アレク……シ……」
途切れ途切れに言葉を発し、ふらつくふりで立ち位置を調整……今だ! 膝を伸ばしたまま前に倒れる、ギャグマンガならなら『ビターン』って効果音がでそうな倒れ方だ!
モブ式奥義『
「すやぁ……」
「ポチ、アンタまで…………ぅん……」
よし、アレクシアより早く倒れる事が出来た。ネームドより先に戦闘不能になる……モブらしい事ができたぞ。このまま眠ったふりをして、敵の出方を見よう。
アレクシアが眠ってそう間もなく、アイス屋の陰から敵が姿を見せた。3人組の真ん中にいる小柄な黒ローブが口を開く。
「はい、うまくいきました。あとはプラン通り彼女を確保するだけです」
聞こえたのはちょっと低めな女性の声。フードを目深にかぶって顔は見えないけど、そこからこぼれる髪はすごく鮮やかな赤色をしている。両脇にいる2人は無言で頷いている。真ん中との身長差的に男だろう。こっちは口元を布で覆った黒い軽装備、帯剣した盗賊か暗殺者……そう見える。いかにも裏世界の住人めいたファッションだ。
僕は心の中でガッツポーズした。こういう展開を待っていたんだ! すぐに起きて返り討ちにしようか? それとも泳がせて情報を集めるか……僕は後者を選択した。真昼間にシャドウに……黒コート姿になりたくない。黒コートは夜にこそ映えるんだ。
「さあアレクシアさんを運んでください、丁重にですよ」
「男はどうする?」
「殺さずに放置しなさい。彼には容疑者になってもらい時間を……?」
指示を出していた赤髪の女性が僕を見て言葉を詰まらせた。そのまま近づいてくる。うつ伏せの僕をひっくり返し、こっちの顔をまじまじと見ている……気がする。間近に来られたら目を開けるわけにはいかないからね。それで、震える声で彼女は呟いた。
「シド・カゲノー……どうして……?」
……え、もしかして僕の知り合い?