千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
「――出発は明日の早朝です。頑張ってきますね」
「今回も【
「8、です。クライさんと同じですね」
「……行かないよ僕は」
《
シトリー・スマート。リィズの双子の妹で、髪の色と顔つきは姉とよく似ていた。肩で切りそろえられたショートヘア、野暮ったいが実用的なローブ、冒険の際には大きなカバンを背負う《
ハンター活動から離れがちなクライの代わりに、現在はシトリーが《
「ええ、わかっています。クライさんには帝都でやる事がありますもんね」
「え? ああうん、そうだよ。僕は忙しいからね……」
クライは慌てて取り繕うが、シトリーは変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「話は変わりますけどクライさん、街でシド君を見かけましたよ。もう帝都に来てたんですね」
「シトリーも会ったんだ。何か話した?」
「声をかけようとは思ったんですが、人と一緒にいたのでやめました。銀髪で赤い目の女性です」
「銀髪で赤目……アレクシアかな。でもなんでシドと……あ」
クライの表情が固まった。宝具を磨く手も止まっている。どうやらアレクシアの依頼交渉の場に、友人のシド・カゲノーを同席させた事を思い出したようだ。そんな彼の呟きをシトリーは聞き逃さなかった。
「アレクシアと言うと……ミドガル家のご令嬢でしょうか?」
「……そこまで分かってるなら話した方がいいかな。実はねシトリー、この前アークからアレクシアを紹介されてね――」
クライからゼノン・グリフィ侯爵の身辺調査の件を聞いたシトリーは、目を瞑り少しの間黙って考え込んでいた。やがて考えがまとまったのか改めてクライに視線を向ける。
「……やはりそういうことでしたか」
「うんうん、そういうこと」
「わざとアレクシアさんを怒らせ、独力での調査を決意させ、その手伝いにシド君を巻き込ませた……正解ですか?」
「うん???」
シトリーの真剣な、しかし的外れな推察にクライが困惑していると、ノックの音がクランマスター室に響いた。部屋に入ってきたのは副マスターのエヴァだ。入ってきた彼女はシトリーを一瞥し、ためらいがちに話を切り出す。
「失礼します。クライさん、ご報告したい事があるのですが……」
「ああ、ゼノン侯爵の件なら今シトリーに話したとこだよ」
「話したんですか? まあクライさんがいいならいいですが……調査の結果をまとめたのでご確認ください」
何も言わず微笑むシトリーを訝しみながら、エヴァは報告書をクライへ渡した。受け取った報告書をサッと眺めたクライは……そっと愛想笑いを浮かべる。
「うん。これならアレクシアも満足するんじゃないかな」
「……それはこれで調査を終える、という事でしょうか?」
「え? ……シトリーはどう思う?」
「拝見しますね。ふむふむなるほど……」
報告書にまとめられていたのは、グリフィ侯爵家の金の流れ。他の貴族や、さまざまな商会との取引の記録が纏められていた。エヴァがクラン拡大のために築き上げた多方面とのコネクションが無ければ、ここまでの情報は得られなかっただろう。
そして
無名の商会なのか、それとも違法な取引のカモフラージュか……様々な憶測をシトリーは思い浮かべる。
「ここまで調べていると向こうも気づいてるかもしれませんね……ここで退かないと怒らせることになりかねません」
「へーそりゃ大変だ。やっぱり調査はここまでにしよう」
「それでこの情報をアレクシアさんに渡して、後は彼女がどう動くか見守る……正解ですか?」
「うんうん、そうだね」
クライは改めて報告書を眺め始めた。そして首をかしげていると……不意にシトリーがクライに対して問いかける。
「ちなみにクライさんはどの商会が怪しいと思いますか?」
「そう言われてもなぁ……うーん……じゃあこの商会」
クライが指さした名前を見て、シトリーの表情が剣呑な物に変わる。彼が指さしたのはリストに1回しか登場していない《ミツゴシ商会》。数年前、突如として帝都に店舗を出すと瞬く間に業績を伸ばし、今や帝都に知らぬ者のいない大商会だ。
『ほんの数週間でミツゴシデパートを建築した』『妨害工作を仕掛けた商会が事故に遭った』
怪しい噂があるにはあるが、裏社会と繋がるような黒い噂をシトリーは聞いた事が無い。もし裏社会と繋がりがあるとしたら……それはとてつもない大組織という事になる。
「クライさん……本気ですか?」
「え? ……あっ!? じょ、冗談だよ冗談」
どうやらクライは当てずっぽうに指をさしたようだ。何を指さしたのかようやく気づき、慌てて撤回している。
「ミツゴシデパートのパフェは絶品だよ。あんなおいしいパフェを作る商会が怪しいわけないじゃないか。この件とは無関係だよ」
「なるほど……『この件』とは無関係と」
「そう、ミツゴシ商会は無関係だ」
何度も頷くクライに対し、シトリーの表情は険しいままだった。そんな悩むシトリーに気づいていないのか、クライはエヴァへと向き直る。
「とにかくこれを渡すことにするよ。ありがとうエヴァ……あ、そうだ」
何を閃いたのか、クライの言葉にエヴァは眉をひそめる。彼の思い付きにはこれまで何度も振り回されてきたのだ。今回は……?
「この情報アークにも見せたらどうかな? 僕より有意義な意見が貰えると思うよ」
「アークさんに……ですか? 【
まともな提案にエヴァは安堵する……が、その隣でシトリーが表情をさらに険しくしている。
「アークさんも巻き込む……だからクライさんは私にあんな形でメッセージを……」
小声で呟き考え込むシトリー。それに気づいたクライは腕を組み、掛ける言葉を悩んだ。
「ん~……とりあえずシトリーは【城】に挑むことに集中したら? あとはこの情報を渡すだけだし、悩む必要は無いよ」
「……それはつまり、私達が行ってる間に解決するという事ですね?」
「いやいや何も起きないよ。ゼノン侯爵はきっと潔白、アレクシアは何か勘違いしてるんだ。何か起きたとしても僕は何もしないから」
「なるほど、すでに手は打ってあると。さすがはクライさんです」
「……うんうん、そうだね」
クライは生返事を返し、報告書を机の隅に放り投げた。そして再び宝具を磨き始める。
「……なんだか、おふたりの会話がかみ合ってないような気がするのですが」
「そんなことはありませんよ。ねえクライさん」
「うんうん、そうだね」
得意気なシトリーと投げやりなクライの態度に、エヴァは怪訝そうに眉をひそめた。