千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
《探索者協会》のロビーで雑談していた僕は、ガーク支部長に呼び出されて応接室に来ていた。テーブルを挟んで向かいにはガーク支部長と、そのそばに立つ黒髪で落ち着いた印象の女性……副支部長のカイナさんがいる。《探索者協会》帝都ゼブルディア支部のトップ二人といきなり対面したわけだけど……とりあえず僕は、落ち着いてふかふかのソファを堪能しておこう。
「楽にしてくれ……って言おうと思ってたんだが、随分くつろいでるなシド」
「え? 何か変ですか?」
「そういうわけじゃねえんだが……」
ガーク支部長はなんだか困った顔をして僕を見ている……リラックスしすぎたかな? 少しは真面目な態度を見せよう。
「それで話と言うのは?」
「ああ……アレクシア・ミドガル、あのお嬢ちゃんがハンターになって何をしたいのか。それを俺達は知りたいんだ」
「貴族の方がハンター登録すると、概ね誰かが連れ戻しに来たり連絡が来たりするの。でも彼女の家からは何も来てない。念のためこちらから手紙は送ったけど、返事はまだ来ていなくて……」
「なるほど」
どうやら同じパーティの僕に、アレクシアの事を聞きたいようだ。それにしても……カイナさんの話が本当なら、アレクシアの親は放任主義みたいだね。そうでなきゃ貴族がハンターを続けられるはずもないか。……お茶請けのクッキー美味しい。
「アイリスの方にも伝えたんだが……どうも歯切れが悪かった。返事は期待できねえ」
「アイリスって……確か第3騎士団の団長ですよね」
「ほう……それを知ってるとは、なかなか勉強してるみたいだな」
支部長が名前を出したのはやっぱり、アレクシアの姉、アイリス・ミドガルの事みたいだ。貴族でありながら達人級の剣の腕前を持っていて、この世界で有数の武術大会……《武帝祭》で優勝。その実力で帝都の治安維持を担う第3騎士団の団長になった、ちょっとした有名人だ。クライは知らなかったみたいだけど。
僕は帝都に来たばかりの頃、いろんな施設や組織の重要人物を探っていた事がある。陰の実力者としてふるまうための情報収集だ。その中でも、アイリス・ミドガルの名前は結構気になっていたんだ。高貴な立場なのに強い……ってのはメインキャラの王道だからね。
僕がアイリス・ミドガルの事を口にすると、ガーク支部長の表情が和らいだ。
「ハンターになったばかりだって言うのに、ずいぶん上を見ているじゃねえか。お前みたいなヤツ、俺は嫌いじゃないぞ」
「支部長、感心してないで続きを」
「おっとそうだったな」
カイナさんに注意され、ガーク支部長は再び真面目な顔を僕に向ける。
「シド、あの嬢ちゃんについて話せることは無いか? ハンターってのは基本的に自己責任だが……貴族の娘となると相応の対応をしなくちゃならん」
「なぜ帝都に来たのか、なぜハンターになったのか、なぜあなたをパーティに誘ったのか……なんでも構いませんよ」
「うーん……」
僕は悩んだ。あらいざいらい全部話してもいいんだけど……アレクシアに、貴族に逆らったりしたら何が起きるかわかったもんじゃない。貰っている金貨も口止め料込みだと思うし。
「申し訳ないですけど、話せることはありません」
「そりゃどうしてだ? もしかして『話せない』の間違いじゃないのか?」
「そうとも言いますね」
「そ、そうか……」
素直に認めたら支部長たちは困った顔をしている。素直すぎたかな?
「まさかとは思うが、犯罪行為はしてないだろうな?」
「そんなことは……あ」
そう言えば《アカシャの塔》とかいう怪しげな組織と接触したけど……僕達が悪いことしたわけじゃない。それに勝手に喋ったらアレクシアに怒られそうだし、黙ってよう。
「……やましいことはしてないです」
「おい、なんだ今の間は」
しまった、ガーク支部長が怖い目でこっちを見てる。怒った姉さんとどっちが怖いだろうか。
「いや深い意味は無いですよ。誰にも迷惑はかけてないですし」
「……本当だろうな?」
今度は疑いの眼差しだ。ボロが出る前に話を終わらせた方がよさそうだ。
「あの、もういいですか? 話せる事はありませんし……」
「何も聞かずに帰したくはないんだが……何か外せない用事でもあるのか?」
「えーっと……そうだ、最近アレクシアの姿を見てないんで、様子を確かめたいなと」
口から出まかせだけど、自分で言っててしっくりくる。そうだ、彼女に会わなきゃならない。今後の活動予定とか、そもそもパーティを続けるかどうか、一度確認したい。時間が出来たら訪ねてみよう。
「彼女に何かあったのか?」
「そんな事は無いですけど……彼女、顔を見せないと不機嫌になるんです。人前では猫被ってますけど、実はワガママで性格悪いから」
「……わかったわかった、もう行っていいぞ」
よし、何とか戻れそうだ。支部長の深いため息が聞こえたけど気にしないでおこう。
***
「シドくん……なんだか変わった子でしたね」
「ったく、なんだあの余裕の態度は?」
シドが去った後、ガークは渋い顔で自分の禿頭を撫でた。新人ハンターが支部長に呼び出された、と言う状況で緊張も慢心も見せず、あまつさえ貴族のアレクシアに対する陰口を言ったシドに戸惑っている。
やがて、小さなため息でガークは気を取り直し、そばのカイナへと顔を向ける。ガークには確認しておきたい事が1つあった。
「そういやアイツ、カゲノーって事は……まさかクレアの弟か?」
「はい。クロエが本人から姉弟だと聞いたそうです。つまりクライくん達の幼馴染ですね」
「……そうか、あいつもか」
カイナの返答を聞き、ガークの表情がますます険しくなる。
クライがリーダーを務める帝都随一の曲者パーティ《
そんな彼らの幼馴染であるクレアもまた、問題児だった。彼女の口からクライの幼馴染だと聞いた時、ガークは開いた口が塞がらなかった。
「話は変わるが次のレベル審査……クレアはレベル5になれると思うか?」
「積極的な宝物殿攻略、依頼の遂行、実績は申し分ありませんが……素行が少し」
「あの性格じゃ厳しいか」
クレアは腕は確かだがプライドが高く、それが原因で度々トラブルを起こしていた。何度注意しても治らず、レベル審査に悪影響が出ている。《嘆きの亡霊》と行動を共にすることも少なくなく《蛇》の幹部に切りかかったと言う話もあった。
追いつきたいのはわかるが、そういう所まで幼馴染を真似しなくてもいい――それがクレアに対するガークの印象だった。
「支部長、なぜクレアちゃんの話を?」
「ちょっとな……シド・カゲノー、どうにも嫌な予感がする。アイツもクライ達の幼馴染なら厄介な事件を引き起こすんじゃないかって」
「気にしすぎですよ。彼は問題を起こすようなハンターには見えませんでした」
「だといいんだが……アイツがまともな事を祈るぜ」