千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》とシド・カゲノー

 特訓の日々は何年も続き……僕が10歳、姉さんが12歳になった年。クライとルシア義兄妹、ルーク、アンセム リィズ シトリーの3兄妹、合わせて6人はトレジャーハンターになるため帝都へと旅立っていった。

 トレジャーハンターに年齢制限は無いけど、この世界の成人15歳を待っての出発だ(全員が成人したわけではないけど)。

 

「ついて行かなくてよかったの姉さん?」

「いいのよ、私はまだ成人には遠いし……私がいなくなったらあなた修行をサボるでしょ」

「サボったりしないよ。僕には夢があるんだ」

「夢? シドの夢……お姉ちゃんに聞かせてくれないかしら?」

「それは秘密。大事な事は誰にも言わない事にしてるんだ」

「アンタねえ……ホントは夢なんて考えてないんでしょ」

 

 姉さんには呆れられてしまったけど、実際のところは、トレジャーハンターになろうと考えてる。長期的に姿を見せなくても依頼で忙しいとか誤魔化せそうだし。表の顔がトレジャーハンターならハンターのための組織《探索者協会》の情報を使う事が出来る。魔獣の生息域や、宝物殿の位置、そして賞金首! 隣町の支部を見学した時は心躍ったよ。

 

 それになんと言っても……冴えないトレジャーハンター、その正体は陰の実力者――ってのは僕好みだ。

 

***

 

 この世界はマナ・マテリアルと呼ばれる根源元素で満ちてるらしい。大地を流れるマナ・マテリアルの地脈から宝物殿が生まれ、中の宝具や幻影(ファントム)もマナ・マテリアルによって生み出される。

 そして最も重要なのが、宝物殿の中で高濃度のマナ・マテリアルを吸収した人間が、大きくパワーアップするという事だ。宝物殿に潜れば潜る程、人は強くなる。それがこの世界の常識だ。ならば潜ろう。

 

 ……と言うわけで、僕は陰の実力者としての特訓を本格的に始めた。草木も眠る丑三つ時……こっそり家を抜け出しては、賊や魔獣を相手に腕試しだ。ホントは宝物殿に通いたいけど……位置が悪い。認定レベル1とか2の宝物殿は、日帰りには遠い距離にある。

 一方で、いちばん近い宝物殿は【岩窟迷宮】、レベル4認定されている危険地帯だ。でも行かないわけにもいかない。スライムの研究完成を目途に、そのタイミングで腕試ししよう。

 

 

 彼女と出会ったのは、そんな日々の中……スライム装備が9割がた完成した頃だった。

 

 

 

「うわ……魔法生物の失敗作かな?」

 

 その日はスライムソードとスライムボディスーツの実戦テストをやったんだ。……まあ、いつも通りの賊退治だけどね。魔力で自在に形を変えるソードと、魔力で銃弾を弾き返す強度になるスーツ。賊はあっという間に全滅、テストの結果は上々だ。

 その後、いつも通り戦利品を漁っていると……その中に腐りかけの肉塊を見つけた。檻の中で蠢いている肉塊。気持ち悪いし……一思いにトドメをさそうかな? そう考えた時に気づいたんだ。肉塊がとても大きな魔力を……いや、魔力と呼ぶには純度が高すぎる力を秘めている事に。

 

「もしかしてマナ・マテリアル……!?」

 

 この肉塊……使えるぞ! ――そう思ったのをはっきりと覚えている。

 

 

 

***

 

 

 

 【帝都ゼブルディア】で、目覚ましい活躍を見せる新人トレジャーハンターのパーティがあった。嗤う骸骨をシンボルに掲げ、わずか半年でレベル4にまで上り詰めたそのパーティの名は……《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》。

 

 今日もまた宝物殿を攻略した彼らは、酒場でテーブルを囲み祝勝会を開いていた。

 

「ふぅ……今日も大変でしたね。まさかあそこまで統率の取れた幻影(ファントム)が出るなんて……」

幻影(ファントム)のくせに頭良いとか生意気~……シトが爆発する(ポーション)持って来てなかったらヤバかったねぇ」

 

 ため息をつく魔導士(マギ)ルシア。頬杖をついて返事する盗賊(シーフ)リィズ。話題にあがるのはやはり、今日攻略したばかりの宝物殿の事だ。認定レベル4、最小の砦型宝物殿【幽霊の詰所】。戦争の記憶をマナ・マテリアルが再現したのか、現れる幽霊が兵士と指揮官を模している宝物殿だった。

 

「クライさんとお兄ちゃんが囮になってくれたおかげですよ。そうでなきゃこっちの作戦がバレてましたから」

「うむ……」

 

 謙遜する錬金術師(アルケミスト)シトリー。寡黙な聖騎士(パラディン)アンセム。2人の視線はリーダーのクライへと向けられた。

 

「ボスの剣士(ソードマン)をやったのは俺だけど、それもクライのおかげだ!」

「いや僕は転んだだけで……何もしてないよ」

 

 他のメンバーに同調する剣士(ソードマン)ルーク。皆の視線に落ち着かない様子を見せるリーダーのクライ。6人は最強のトレジャーハンターという夢を共に誓った幼馴染でもある。

 

 

 

「そういやシト、爆薬をスライムに運ばせてたけど……いつの間に手懐けたの?」

 

 和気藹々と祝勝会が続く中……リィズが妹のシトリーに問いかける。

 

「あれは手懐けたんじゃなくて作ったの。私、錬金術師(アルケミスト)だから」

「へぇー……でも何でスライム? もっと強いの作ればいいじゃん」

「ゴーレムやキメラはまだ無理。無茶言わないでよお姉ちゃん」

「てかよく考えたらシトが強いの連れてたら私の獲物が減るじゃん。じゃあスライムでいっか」

「もう……いつかすごいの作るんだから」

 

 姉の投げやりな態度に口を尖らせるシトリー。その様子を見ていたルシアは苦笑いし、フォローの言葉を口にする。

 

「でもカプセルに入れて持ち運びできるのは、他の魔法生物には無い利点よね。あの時はシトがスライムいきなり出して驚いちゃったけど」

「そこまで考えて作ったわけじゃないけど……ありがとうルシアちゃん」

「じゃあさシト。何でスライム作ったの?」

 

 口を挟んできた姉に困ったような表情を見せ、シトリーは少し照れながらその理由を口にした。

 

「……ポーション作ってたら急に昔のこと思い出してね。シド君がスライムで実験してたの思い出したの。それで私もやってみようかな……って、単なる思い付き」

「シドちゃんってそんな事してたんだ……シドちゃんもクレアちゃんも、元気にしてるかなぁ」

 

 故郷に置いて来た幼い幼馴染の名前を聞き、リィズは遠い目で故郷の事を思い出す。トレジャーハンターを目指すと誓ったのは6人だが、その特訓には年下の幼馴染……カゲノー姉弟も参加していた。

 負けず嫌いの姉……クレアとは気が合ったし、そこそこ仲が良かった――とリィズは思っている。一方、弟のシドとはあまり話す機会は無かったが……いいアドバイスをもらった事があった。

 

「私シドちゃんにおまじない教えてもらったんだよね。よく眠れるおまじない。今でも世話になってるんだ」

「そんな事があったの? それはシド君に感謝しないとですね」

「うむ……」

 

 リィズの言葉を聞いてシトリーとアンセムは微笑んだ。故郷での特訓の日々の中で、特にリィズは厳しい特訓を受けていた。そのせいでよくうなされていたのだが、2人は手助けする事が出来なかったのだ。(ちなみに、うなされる原因……リィズの最初の師匠は、リィズが自身の手で半殺しにした)

 2人が感慨深く頷いていると……突然ルークが身を乗り出し声を張り上げる。

 

「なんだシドの話か? アイツもクレアも絶対強い剣士(ソードマン)になる! そうなったら俺はアイツらと切り合いてえ!」

「うるさ……ルークちゃん声デカい」

 

 ルークの声にリィズが顔をしかめていると、ルシアが首をかしげて口を開いた。

 

「あれ? 私てっきりシド君は魔導士(マギ)になるのかと……彼の魔力(マナ)、先生が気にしてました」

「いやアイツは剣士(ソードマン)になるべきだ。アイツの剣は地味だけどヤバかった! 絶対強くなる!」

「えー? 私と一緒にスライムの研究をしてたのに……」

「うむ!」

 

 シドの話題で盛り上がる《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》……その一方で、クライは動揺を必死に隠していた。

 

「シド君もハンターの才能ある側だったんだ……全然気がつかなかった」

 

 クライは自分にトレジャーハンターの才能が無い事を悩んでいた。才能あふれる幼馴染達にどんどん差をつけられる彼にとって、そんな幼馴染がもう1人いるというのは……とてもショッキングな事実だ。

 

「どうして僕だけまったく才能が……このままハンター続けていいのかな……?」

 

 

***

 

 

「へっくしっ! ……誰か僕の噂してるのかな?」

 

 肉塊を拾ってから……3カ月くらい経ったのかな? 僕は忙しい日々を送っていた。昼は村で姉さんの特訓に付き合い、夜になると、今みたいに隠れ家の廃村に赴く。そんな毎日だ。

 でも大丈夫。「魔法」と前世で習得した「瞑想術」を組み合わせた、全く新しい睡眠方を編み出している。3時間睡眠でも問題ない。

 廃村には肉塊を隠して、自分の体で試せない実験をやりたい放題やりつくした。その結果、僕はマナ・マテリアルの操作技術を編み出した。その技術で、肉塊が秘めたマナ・マテリアルを弄りまわして……

 

「シド!」

 

 廃村の入り口で金髪碧眼の耳長エルフ――この世界だとエルフじゃなくて精霊人(ノーブル)か――の少女が手を振っている。彼女はアルファ。肉塊のなれの果てだ。

 

 この世界には「悪魔憑き」という奇病がある。全身に黒い痣が広がり、やがて肉体が腐り落ちる奇病……つまりあの肉塊は悪魔憑きの末期症状で、僕はその治し方を見つけてしまったんだ。

 悪魔憑きが完治した彼女を前にして……なんやかんやあって……僕は陰の実力者シャドウと名乗り、彼女にアルファというコードネームを与えた。たった2人の陰の組織……《シャドウガーデン》の誕生だ。

 

 手を振る彼女に、こっちも軽く手を挙げて返す。アルファと名付けておよそ1カ月……自分の鍛錬の合間に、彼女にスライム装備や剣術を教えたりしてるんだ。初めは片手間だったけど、呑み込みが早いから、最近は教えるのも楽しみになってる。

 

「入口で待ってるなんて珍しいねアルファ」

「シド……いえシャドウ。今日は貴方に頼みがあるの」

「ほう?」

 

 僕をシャドウって呼ぶ事態……って事は《ディアボロス教団》絡みか。陰の実力者として、彼女にシリアスな顔を向ける。

 

 《ディアボロス教団》……それは世界の裏で暗躍する影の組織の名だ。英雄の子孫の証である「悪魔憑き」の真実を捻じ曲げ、人々から蔑まれるように画策した黒幕。奴らはかつて地上に顕現した魔人ディアボロスの遺産……強力な宝具を使って世界を意のままに操ろうとしている。

 

 ――って設定の架空の存在だ。アルファはノリがいいのか、この設定にいい感じに付き合ってくれてる。さて今回は……どうやら賊の情報を掴んだらしい。退治に連れて行ってほしいと、彼女は言っている。

 

 

「シャドウ、その盗賊団は悪魔憑きを移送しているの。おそらく教団が雇ったのでしょう。私の時と同じように」

「ふむ」

 

 ただの人さらいも「悪魔憑き」が関われば《ディアボロス教団》扱いだ。とは言えいつの間に情報を……そういう面でもアルファは優秀だね。こっちもそれに応えて、陰の実力者ムーブを見せるとしよう。目を細めて、彼女に問いかける。

 

「教団から悪魔憑きを救う……その覚悟が貴様にあるのか?」

「貴方に救われた日から覚悟はできている。今の私じゃ露払いにしかならないでしょうけど……貴方にだけ手を汚させはしないわ」

 

 アルファは真剣な眼差しだ。その覚悟は本物なんだろうけど……僕が聞きたいのは、助けた後の面倒を見る覚悟なんだよな。前世で犬を飼う時、そんな感じの事を母さんに言われたのを覚えてる。最終的に母さんの方が犬の世話することにハマってたけど。

 

「シャドウ……?」

 

 黙っているとアルファの顔が不安げな物に変わっていた。……助けた後に改めて聞くとしよう。

 

「いや、先の事を考えていた。それで、手筈は整っているのか?」

「ええ。舞台は既に整えてあるわ。あとはあなた次第」

「いいだろう……案内は任せる」

「仰せのままに」

 

 僕とアルファはスライムスーツを身に着け、夜の闇の中を走った。

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