千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
朝から分厚い雲が日光を遮る雨の日。僕はヒョロとジャガと一緒に、とある酒場に来ていた。《
このメンバー募集は、ひとつのテーブルにひとつのパーティが座り、参加者が入りたいパーティのいるテーブルの前に並ぶ……そういうシステムのようだ。だけどやっぱり人気なのは、《足跡》創設メンバーでもある有名な高レベルパーティだ。
「あそこに《
創設パーティの内、いないのはメンバー全員が
そして一番奥のテーブル、《
「ウソ……さっき私の前に並んでたのがクランマスター……?」
「あ、あのままケンカを始めてたらヤバかったぜ……」
クランマスターが登場したせいか、会場はとても騒がしい。さっきまで参加者に紛れていたしね。そう、クライは店の外の行列に並んでいたんだ。僕達が並んでるその少し先で《足跡》の白い制服を着た姉さんに見つかってた。
『それじゃあシド、また後でね。……ん? あんた……クライ? なんで並んでいるのよ』
『いや、人違いです……』
『そんなわけないでしょ。いいから早くきなさい』
幸運なことに姉さんは外で係員をしている。僕にかまう暇はないはずだ。不安の種も無くなったし、今は目の前の光景に集中しよう。
「あれが噂の《千変万化》? 全然強そうに見えないな」
「僕でも勝てそうです」
「そだねー」
素直な感想を口にするヒョロとジャガに、僕もテキトーに相槌を打っておく。今回の僕の目的は有名パーティの顔と名前を一致させて覚えることだ。それなら遠目に眺めているだけでいい。
「悪いがうちは新人を入れたばかりなんだ。今すぐにってわけにはいかねえ。それでもどうしても入りたいなら、しっかりアピールしてくれよ?」
向こうのテーブルでは黒髪の男がニヒルに笑っている。《黒金十字》のリーダー、《嵐撃》のスヴェン・アンガーだ。《黒金十字》は全員が治癒技能を持つレベル6パーティ。スヴェンはハンターの中でも珍しい
アーク・ロダン率いるパーティ《精霊の御子》はかなり奥のテーブルだ。アーク以外のメンバーは美人ぞろい。アークはもしかしてハーレム系の主人公なんだろうか? そのアークは隣のテーブルでクライと談笑している。
「――ところでクライ、例の書類を見させてもらったよ。僕にどうしてほしいんだい?」
「いや? 別に何も。ただ意見を聞きたかっただけだよ」
一体何の話をしてるんだろ? 遠いし騒がしいしよく聞こえないな。
「そこのキミたち~ずっと壁際にいるけど、どしたの?」
……もしかして僕達の事? 声をかけて来たのは僕より一回り小さい女の子だ。ワインレッドのさらさらロングヘアーと、大胆に着崩した《足跡》の白い制服がコントラストを際立たせている。
「僕達は」「俺はヒョロ・ガリ! レベル1の
「ジャガ・イモで~す! 噂の高レベルハンターの姿を拝見しに来ました!」
「ははは、元気でよろしい。私はニーナ。見ての通り《足跡》所属のハンターだよ」
僕の言葉を遮るくらい元気がいい2人はさておき、やっぱりニーナは先輩ハンターだった。ちょうどいい所に来たし、彼女から話を聞く事にしよう。
「僕は……」
「シド・カゲノー……でしょ?」
僕が名乗る前にニーナ先輩は僕の名前を言い当てた。自信があるのか、得意気な顔をしている。僕の名前と顔を知ってて赤い髪、まさか《アカシャの塔》の……いや、僕が見たスカーレッドさんはもっと鮮やかな赤毛だったな。
「正解ですニーナ先輩」
「先輩……いいね。いい響きだ。そう呼ばれてみたかったんだよね」
「先輩はどうして僕の名前を?」
「君の事はクレアからよく聞いてたんだ。ついつい、いじめたくなるかわいい弟君だって」
姉さんの知り合いか……姉さんは僕の事どう説明してるんだ? うんざりしてるとヒョロとジャガが割り込んできた。
「そういやシド、美人の姉ちゃんがいるってなんで教えてくれなかったんだよ」
「そうですよ。ズルいですシド君」
「言いたくなかったんだよ。姉さん怖いから」
「今の言葉、クレアが聞いたら落ち込んじゃいそう」
「そうかな……それより、ニーナ先輩と姉さんはどんな関係なんですか?」
「私とクレアの? それはね、えーっと……」
僕が尋ねると、ニーナ先輩はうんうん悩んでから……自信なさげに答えた。
「…………親友?」
「いや僕に聞かれても」
「冗談だよ冗談。ボクとクレアはね、パーティ組んでるんだ。たった2人でだけどね」
「へー」
姉さんソロハンターじゃなかったのか。あれ? そういえばクランって……
「クランに参加するにはパーティ組んでないとダメなんですよね?」
「そだよー。総勢1名のソロパーティでクランに参加するハンターもいるけど。ほら、今クランマスターのそばにいるあの子とか」
ニーナ先輩が親指で最奥のクライのいるテーブルを指さした。クライのそばにいる女の子……ティノだ。《
まあそれはそれとして、ソロハンターでもクランに入れるみたいだ。なのに姉さんはニーナ先輩とパーティ組んでる。あながち親友というのも間違いでは無いのかも。もう少しニーナ先輩の事を聞いてみようかな。
「ところでニーナ先輩ってレベルいくつなんですか?」
「ボク? えっとね……レベル2
レベル2? 《足跡》所属にしては低い気はする。だからなのかニーナ先輩がわざわざ小声で言ったのに、ジャガは声を張り上げた。
「ええぇっ!? レベル2でも《足跡》にむぐぅ!?」
「しーっ! 声が大きいよ」
ジャガの口を塞ぐニーナ先輩。幸い誰にも聞かれなかったみたいだ。みんなクライの方に注目している。
「いいハンターがいたら、《精霊の御子》に推薦していい?」
「……いいよ、君を信じる」
なんだか騒がしくなる会場、こっちはこっちでヒョロも目の色を変えているぞ。
「その話本当ですか!? 俺でも《足跡》に入れますか!?」
「ん~……無理じゃないかな。ボクの場合はクレアのおまけみたいなもんだし」
「じゃあ俺をパーティに入れてください! きっと役立ってみせます!」
「あ! ズルいですヒョロ君! 僕も入れてください!」
「ははは、剣士はクレアだけで十分かな~」
2人を軽くあしらうニーナ先輩……でも今の話はなんだか妙だ。素直に答えてくれるとは思えないけど、一応聞いてみるか。
「あのニーナ先輩」
「なにかな弟君?」
「ホントはもっと高いレベルじゃないんですか? 4とか5とか」
「……そんなことないよ。クレアと比べたら全然さ」
「そうですか」
やっぱりはぐらかされた。ぱっと見だと、ニーナ先輩は姉さんと同じくらいの強さに見える。もしかしたらもっと強いかも。なのにレベル2。
少し気になるけど……別にいいのか。ハンターのレベルは認定制だ。レベルと実力はイコールじゃない。例えば……向こうの方で演説みたいな事してるクライとか。
「今この場にいる全員に宣言する。僕は彼を推薦するつもりだが、彼から指輪を奪い取った者がいたらその者を……《精霊の御子》に推薦しよう」
そう高らかに宣言したクライは、指輪の1つを外して高く掲げ……それを放り投げた。クライの前にいた赤髪の剣士がそれを慌ててキャッチする。
次の瞬間、ティノが赤髪の剣士を蹴り飛ばしていた。酒場の雰囲気が一瞬で危険な物に変わる。あの《精霊の御子》に入れるかもしれないチャンスを逃すまいとみんな必死だ。
「指輪は!?」
「指輪はどこだ!?」
床を転がる指輪が1人のハンターの足に当たる。そこに他のハンター達が殺到する。
「《精霊の御子》に入るのは俺……ぐふぇぇっ!?」
「ヒョロくぅぅん!? 代わりに僕がへぶらぁっ!?」
いつのまにかモブ友2人の姿は見えない。
「その指輪は宝具だから、それなりに価値はあるよ」
そんなクライの言葉が原因か、騒ぎは激しさを増し暴動と化した。目の前の惨状にニーナ先輩は苦笑いしてる。
「やっぱりうちのマスターはやること読めないな~。ところで弟君は行かなくていいの?」
「僕はしばらくソロハンターの予定ですから。今日ここに来たのはあの2人の付き添いです」
「その2人はどっか行ったけどね」
ニーナ先輩の言うとおり2人はもういない。こうなったら付き添う意味も無いだろう。この騒ぎに参加する方がモブっぽいけど……
「いったい何の騒ぎよ……ニーナ! どこ!?」
おっと入口の方から姉さんの声だ。見つかる前に退散するとしよう。
「帰るの? クレアに挨拶とか……」
「並んでる時に済ませました」
「なら良いけど……困った事あったらいつでも、先輩、のボクに相談してくれよ」
「気が向いたらしますね」
手を振りニーナ先輩に別れを告げ、僕は裏口から酒場を出た。
「そこにいるのはクライ?」
「ん? やあシド君。君も来てたんだ」
裏口を出るとすぐそこにクライがいた。この騒ぎを起こした張本人は、最後まで見届けず裏口から帰るつもりだったらしい。
「友達の付き添いで来たんだ。僕まだレベル1なのに」
「うんうん……友達の頼みを断れないの、わかるよ」
「ところでクライがさっき投げた指輪ってどんな宝具? まさか『
「いやいや、『結界指』をあんな風に扱う人はいないよ。投げたのはただの『
『結界指』と『指弾』、どっちもメジャーな指輪型宝具だ。どんな攻撃も一度だけ防ぐ『結界指』は、かなりの高額で取引されている。一方で、それなりの魔力弾を撃てる『弾指』は発見数も多く、安価で取引されている。今の僕じゃ『弾指』一つ買うのも難しいけど。
ん……んんっ!? そういえばクライの両手、指の殆どに指輪があるじゃないか!? いや、さっき投げた『弾指』も合わせれば全部の指にはまってた事になる。そうだ、【マギズテイル】の前で再会した時もそうだった。
その指輪と、首から下げているアクセに、ベルトからぶら下げている鎖、もしかして全部が宝具……? これがレベル8の財力……やっぱりクライは高レベルハンターだったんだ!
「どうしたのシド? じっとこっちを見て」
「いえ、なんでもありませんクライさん」
「え、なんで急に敬語?」
「それでは、私はこれで失礼します」
「え? え? シド君?」
クライと別れた僕は、さっき酒場の中で拾ったクライの『指弾』を眺める。足元に転がってきたから、スライムを伸ばして拾ったんだよね。見ても触っても普通の指輪と大差ない。少し
「そう言えば宝具の鑑定、まだ一つも依頼できてないな」
部屋の隅に積んだ宝具を思い浮かべながら、『指弾』を弄ぶ。人差し指にはめて、地面に試し撃ちをしてみたり。ニーナ先輩にも言ったけど、《精霊の御子》に入るつもりは無い。だからこの指輪を僕が持っててもしょうがないわけだ。
とりあえず今撃った分の魔力をいい感じに練り上げてチャージして……入口から中に投げ返しておいた。激しさを増す酒場の喧噪を背に、僕はそのまま帰る事にする。
「頑張って拾ってね」
***
「はぁ……はぁ……やっと抜け出せた」
「ね、ねぇ、《千変万化》は!?」
「会場にはもういなかった……逃げられた」
「ま、まさか私達の監視に気づいてあの騒ぎを……!?」
「私達では手に負えないのか……いちど報告に戻ろう」
「了解……」「りょ、了解!」
会場を出た精霊人と獣人の3人組が、どこかへと走り去っていく……