千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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被疑者シド・カゲノー、クライ・アンドリヒ

 酒場での騒ぎの翌日、僕は安アパートの自室で持っている宝具を確認していた。今日は宝具の鑑定を依頼しようと思っている。アレクシアのワガママに付き合って金貨を拾い集めたのは、このためだ……!

 

 指輪、腕輪、ベルト、仮面、水筒、他にもいろいろ……最初にどれを鑑定しようかな? どんな鑑定結果が出るだろうか? 悩みに悩んでベルト型の宝具を手に取った僕は、ウキウキしながらアパートを出たんだけど……アパートの入り口になぜか騎士がいて、なぜか僕に近づいて来る。辺りの人が騒ぐ声が聞こえた。

 

「シド・カゲノーだな?」

「はい」

「君にはアレクシア・ミドガル失踪に関わった疑いがある。3日前、ミドガル邸を訪ねたのは貴様だな?」

「……はい」

「話を聞かせてもらえるかな」

 

 アレクシアが失踪? でも質問できそうな雰囲気じゃない。僕を取り囲む騎士団の目つきは剣呑だ。僕はおとなしく、跪いて両手を頭の後ろにつけた。

 

 これ、マズい奴だ。

 

 

***

 

 

 《始まりの足跡(ファーストステップ)》のクランハウス2階は、1階が見下ろせる吹き抜け構造のラウンジになっている。ひとつのパーティにひとつのテーブルが割り当てられ、出発前の準備や祝勝会をここで行うパーティも少なくない。

 そのテーブルの1つで、クライ・アンドリヒとティノ・シェイドが向かい合って座っていた。にこやかな笑みを浮かべるクライに対し、ティノは鎖で拘束され、絶望的な表情を浮かべている。クライが普段から持ち歩いている宝具『狗の鎖(ドッグズチェーン)』による拘束だ。

 そしてティノは、テーブルの上の依頼書を睨む。

 

「ますたぁ……それって罰ゲームですよね」

「うんうん、そうだよ。昨日の乱闘騒ぎのせいでガークさんに渡されたんだよね」

 

 罰ゲームと言うのは、誰も受けたがらない依頼を示すトレジャーハンター界隈の隠語である。問題行動を起こしたハンターは概ね、《探索者協会》からこういった依頼書を渡される。今ティノが睨んでいる依頼書も、かなりの難題だった。

 

「アークに任せようかと思ったけどいないし……ティノに任せるよ。一番ラクなのを選んだから」

「……無理です、ますたぁ。達成できるかどうかギリギリの試練なのはいつもの事ですが、今回はさすがに無理です」

 

 ティノは改めて依頼書の内容を確認する。内容はハンター5人の救助。場所は【白狼の巣】レベル3宝物殿だ。報酬がタダ働き同然なのは問題ではない。問題はレベル5ハンターが救助対象に入っているという事だ。ティノのレベルは4、ますたぁの力になりたいとは思うが力不足だ。

 

 しかしティノの拒否を聞いたクライは不思議そうに依頼書を眺めている。するとクライのそばに来た女性が、依頼書をクライの手から取り上げた。クレア・カゲノーだ。

 

「これが今回の千の試練?」

「僕のやる事、なんでもかんでも試練って言うのやめてよクレア」

「でも試練なんでしょ? それでティノに任せようとしたのね」

「だってティノが暇だって言うから」

 

 それはますたぁとデートができると思ったから――とは口が裂けても言えなかった。言わずともクレアの呆れた顔がティノを見下ろしている。

 

「……まあいいわ。ティノが受けないなら私が受けようかしら」

「え!?」

 

 クレアの言葉はティノを驚愕させた。クレアはティノのライバルだ。初めは師匠であるリィズ・スマートが勝手に言い出したのだが、ティノ自身もその認識が正しいと思っている。ますたぁ達の知り合いで強くなることに貪欲。千の試練にも果敢に挑み、ハンターとして先輩だったティノにすぐ追いついた。

 

「いいのクレア?」

「救助依頼って書いてあるけど、どうせもう死んでるでしょ。骨拾いなら一人でも十分よ」

「うんうん、そうだね」

「……そこは否定しなさいよ」

 

 2人の漫才めいたやり取りを聞きながら、ティノは対抗心を燃やす。このままクレアが依頼を受けたら……ますたぁの心象はよくなるだろう。

 

「受けるとしたら私とニーナと……あと2人か3人? それくらい必要ね」

「そんなにいる?」

「あのねぇ……5人を救助するんだから人数は必要でしょ」

「5人? 見せて……ホントだ。だからティノは無理って言ったのか」

 

 このままでは、ますたぁはクレアの事をますます気にいってしまう。点数を稼がれる――焦りがティノを立ち上がらせた。

 

「む、無理じゃありません! 私も、ますたぁが一緒なら――」

「クライ・アンドリヒを出せ! 我々は彼に用があるのだ!」

 

 ティノの決意を遮るように、1階の怒号が2階にも届いた。

 

「呼ばれてるわよクライ」

「やれやれ、こっちは罰ゲームで忙しいのに……仕方ない、あっちを先に片づけてくるよ」

 

 クライはため息を零し、依頼書を持ったまま1階に向かった。

 

「あの……ますたぁ、鎖を……」

 

 ティノの懇願はクライの耳には届かなかった。

 

***

 

「おまたせ~」

 

 1階ロビーにいた全員の視線が階段へと注がれる。怒鳴り散らされ怯えている受付職員、周囲のクラン所属ハンター達、大声でクライを呼んでいた3人の騎士達。

 そんな彼らの緊迫した空気を気にも留めず、クライは気の抜けた笑顔でひらひらと手を振った。

 

「僕がここのクランマスター、クライ・アンドリヒだ。昨日の件ならいくらでも謝るよ。土下座すればいいかな?」

 

 降りて来たクライの言葉で、騎士達は我に返った。隊長格の男が代表して口を開く。

 

「謝罪などいらん! 貴様を連行する。アレクシア・ミドガル失踪の重要参考人としてだ」

「アレクシア? 失踪? 何の事だかわからないな」

「とぼけるな。2日前、失踪の前日、貴様がミドガル邸を貴様が訪れたのは調べがついている」

「何の事だかわから……いや2日前……?」

「貴様……真面目に話を聞いてないのか!?」

 

 言葉の途中で考え始めるクライに、隊長は苛立ちを見せた。

 

「真面目に聞いてますよ。ただ……僕が忘れていた事もきちんと調べてるなんて、ずいぶん仕事熱心なんだな~……って思っただけです」

「ぐっ……ぬぅぅっ……!」

「落ち着け、我々を怒らせる作戦だろう」

 

 騎士の1人が怒りで拳を震わせた。考え込んでいるクライに手を出すのを必死に我慢している。その様子もクライは気に留めない。そしてわざとらしく呟いた。

 

「あ、そうだ」

「今度は何だ?」

 

 騎士からの視線を遮るように、クライはずっと握っていた依頼書を掲げた。そしてハードボイルドな口調で言葉を紡ぐ。

 

「僕は今《探索者協会》から重要依頼を受けている。ハンターの救助依頼だ。彼らを助けるまでここを離れるわけにはいかないんだ」

 

 人命がかかっている……クライの主張に騎士はたじろぐが、彼らにも任務がある。そう簡単に引き下がるわけにはいかない。

 

「救助依頼との事だが場所は? 救助対象は誰だ?」

「……それは言えないな。なんてったって重要依頼だからね。もし僕の言葉を疑うのなら、《探協》のガーク支部長に聞くといい」

「ムゥ……ならば確認しよう。だが! その依頼が終わった後、我々と来てもらうぞ」

「え、それは……構わない。ただし条件がある」

「条件?」

「『真実の涙(トゥルーティアーズ)』を用意してくれない? どうせならアレが見たいな」

「ッ!?」

 

 クライの発言に騎士達は絶句した。遠巻きに見ていたハンター達も騒然となる。

 

 『真実の涙』それは帝国が管理する国宝級の宝具の中でも、もっとも有名な物だ。あらゆる嘘を暴く――その単純ながら強力な能力から、使用が厳しく制限されている。たとえ貴族令嬢失踪事件でも、十中八九許可は出ないであろう宝具だ。

 

「ふ、ふざけるなよ。『真実の涙』は国宝だ! この程度の事件で許可がおりるわけが無い! 私だって一度も見たことが――」

「見たことないの? もったいないなぁ」

「ッ!?」

「あれはどこまでも透き通った宝玉で、凪の海のように、いやそれよりも美しい。もう何回も見たけど、何度見たって飽きる事は無いね」

 

 感慨深い表情を見せるクライを騎士達は恐れた。レベル8ハンターが『真実の涙』にかけられるという不名誉を進んで受けようとしている。嘘を暴かれることを全く恐れていない。その事実が、ただただ恐ろしかった。

 

「……こ、この場は引き上げよう。だが、次は貴様を連行する! 許可がおりなくともな!」

「うんうん、そうだね。許可がおりるわけ無いよね……」

「!? 貴様、さっきと言ってる事が違うぞ!」

「え? さっきのは冗談だけど……」

「~~ッ!!?」

 

 もはや何も言わず、逃げるようにクランハウスを去る騎士達。にこやかな笑顔で彼らを見送ったクライは……3人の姿が見えなくなると、大きなため息をついた。

 

「あー……疲れた」

 

 クランマスターのそんな呟きで、1階ホールにようやく平穏が戻った。

 

「さすがというかなんというか……」

「やっぱりますたぁはすごい……ますたぁは神」

「命知らずだな、騎士団相手でも容赦しないなんて」

「へぇ……あのお嬢様、失踪したの」

 

 皆が思い思いの言葉を呟く中、ただ1人クライだけは青ざめていた。

 

「アレクシアが失踪? なんで疑われてるの? お腹痛い……ゲロ吐きそう」

 

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