千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
「もう2人に任せるよ。メンバーは適当に誘って。僕は少し休むからさ……」
騎士達が去った後、2階ラウンジに戻ったクライ・アンドリヒは、罰ゲームの救助依頼をティノとクレアに丸投げした。
「私はますたぁと一緒がよかったのに……」
ティノは名残惜しそうに呟く。が、クレアはそれに対して一瞬だけ顔をしかめた。
「一緒だともっとキツ……それより、誰を誘うか考えましょ」
「そ、そうですね。この依頼なら生半可なハンターは誘えません」
そう言ってティノが立ち上がった瞬間、ラウンジにいた他のハンター達も慌てて立ち上がる。
「きゅ、急にお腹が……いたたた……」
「《探協》に報告に行かないとね~」
「さっきケガしたから、今日はもう休むことにするぜ……」
2人を残し、逃げ去るハンター達。しかし無理もない。《
逃げ去る背を見送りながら、クレアはため息をついた。
「どいつもこいつも……話にならないわね」
「……そんなこと言ってる場合ですか? 2人じゃ無理ですよ!」
「そうね……とりあえず、ニーナに声をかけましょう」
ニーナ。レベル2
「やっほークレア、今日はどうしたの?」
「これ、手伝って」
クレアが突き出した依頼書を受け取って眺め……ニーナは眉根を寄せる。
「もしかしてこれ、マスターのお願い?」
「そうよ。千の試練」
「つまり命がけって事だよね? 行きたくないなぁ……」
「じゃあ来ないの?」
「行くよ。断ってクレアに何かあったら、ボクがここにいる意味ないし」
「本気でそう思ってるなら、もっと宝物殿攻略につきあいなさいよ」
ため息交じりの渋々ながらの承諾で、ニーナも罰ゲームのメンバーに加わった。
(行くって……ニーナってレベル2、だったような)
一方ティノは、ニーナの言葉に驚きを禁じ得なかった。
***
「今3人で、クランメンバーには逃げられた……じゃあ探協で誰か誘うしかないね」
ティノとクレアはニーナの提案で、3人で《探索者協会》を訪れた。ニーナが《足跡》の白い制服を着ているからか他のハンター達から注目を集めている。すると、黒髪の受付嬢クロエが3人に対して手を振った。
「こんにちはクレア。ニーナさんと……ティノさん? 珍しい組み合わせですね」
「やあクロエ。2人じゃ難しい依頼を受けちゃってね。助っ人探してんの」
「もしかして今朝クライさんが持っていったのですか? 大変ですね」
「そうなの。クランの連中ったらクライの頼みって聞いた途端に、怖気づいちゃって……」
受付嬢のクロエに友人のクレアが対応すると、その横でニーナは周囲のハンターの物色を始めた。ティノはそんな彼女に疑いの眼差しを向けている。
(ニーナ、彼女がクレアと組んでるって知ってはいたけど……クレアがハンター活動に彼女を連れてくの、あんまり見た事がない。……だからレベル2?)
ティノはニーナについて詳しい事を知らなかった。レベル通りの実力なら足手まといになる。しかしクレアは彼女を誘い、ニーナはクレアに何かあると困ると言った。それが何を意味するのか……ティノにはわからなかった。
(わからないのは……私がソロハンターだから? だからますたぁは、私にクレアと組めと……)
そんな風にティノが考えていると、ニーナは1人の剣士に近づいて行った。背中に宝具の大剣を背負う、赤髪の少年に。
「ねえそこの君。ちょーっとだけ、話いいかな?」
「何だよ……って足跡かアンタ?」
振り向いた少年の顔にティノは見覚えがあった。昨日のメンバー募集でますたぁを侮り、その後ティノが蹴り飛ばした顔……その顔と目があった。
「あっ、あぁー!? あの時の女
レベル4
***
ギルベルトを誘い、テーブルを囲んで話をすることになった一同。だが……
「煉獄剣? 宝具持ってるなら頼りになりそうね」
「いえ私よりずっと弱いです。彼を入れるのに反対です」
「まあまあ、確かに昨日はティノに負けてたのボクも見たけど」
「今日でも勝てます」
「だからって戦力にならないわけじゃないでしょ? レベルも2人と同じだし」
「……だいぶ厳しいわね。まあ足手まといじゃなきゃ誰でもいいけど」
黙っていたギルベルトは勢いよく机を叩いた。怒りで肩を震わせている。
「お前ら……俺をバカにしてんのか!?」
「え~? ボクにそんなつもり無いよ。2人もそうだよね?」
ニーナに問われ、クレアはその鋭い目をギルベルトへ向けた。
「そうね。バカにはしてないわ。誰でもいいって言ったのは言葉のあやよ」
一方でティノは半目でギルベルトを睨みつける。
「バカにしてます。ますたぁを侮辱する奴なんかと一緒はイヤです」
「な、なんだよそれ!? どうしても手伝ってほしいってお前らが言うから、こっちは仕方なく話を聞いてやってんだ! それが人にものを頼む態度かよ!」
メンバー募集の場でギルベルトが見せた生意気な態度。それが原因の浅い因縁がティノとギルベルトを睨み合わせている。呆れたクレアは小声でニーナと相談を始めた。
「……ねえニーナ、どっちか外さない?」
「う~ん……いい
「でもあの調子よ? やっぱり足手まといに……」
「聞こえてますよ!」「聞こえてんぞ!」
ティノとギルベルト、2人は同時に声を荒げた。睨まれたニーナは苦笑いし、クレアは睨み返し鼻をならす。
「そんなにケンカしたいなら……どっちが上か白黒はっきりつけなさいよ」
***
《足跡》のクランハウス地下は、メンバーが使える訓練場となっている。そこに案内されたギルベルトは……地面に伏していた。言い訳の効かない正々堂々の勝負で、ティノに完敗したのだ。
「ちく……しょう……」
地元では天才と呼ばれ、帝都でハンターになって、運よく『煉獄剣』を手に入れて、すぐにレベル4になって……ギルベルトが積み上げてきた自信は完全に打ち砕かれた。
(同じレベル4なのに……これが足跡所属のハンターってことなのか……)
打ちひしがれるギルベルトは立ち上がる事さえ忘れていた。そこに勝負を見守っていたクレアが近づく。
「さっきは『俺が負けたら手伝ってやる』とか言ってたけど、どうするのかしら?」
「っ……」
何も答えないギルベルトに、彼を冷たく見下ろしながらティノが口を開く。
「私が強いのはますたぁのおかげ、ますたぁが厳しい試練を何度も与えてくれたから。アナタは私じゃなくてますたぁに負けたの。理解したならますたぁを敬いなさい」
「マス……ター……?」
クランマスター《始まりの足跡》で一番強いパーティ《嘆きの亡霊》のリーダー。メンバー募集の場では、全く強そうに見えなかったあの男に負けた? ティノの言葉はギルベルトに強いショックを与えた。
「あれ? もう終わってるんだ。さすがティノだね~」
「ニーナさん、どこに行ってたんですか?」
「ちょっとね」
席を外していたニーナがギルベルトのそばで足を止めた。そのまま手にした書類を読み上げる。
「え~と……『ギルベルト・ブッシュ。他メンバーとの実力差が原因でパーティを脱退した』か。道理で自信満々なわけだよ」
「っ!? どうして……それを……」
「昨日のメンバー募集で気になったハンターの事、マスターに調べてもらってたんだよね~。私もあの酒場にいたんだよ?」
ギルベルトの目が驚愕で見開かれる。あのクランマスターは俺の事をこうも簡単に調べ上げた。あの男は……実力を誇示する他のハンターとは違う。
「調べたのはマスターじゃなくて、副マスターでしょ」
クレアの呟くようなツッコミは、ギルベルトの耳には入らなかった。
「なあ……あの男は、《千変万化》は強いのか?」
「ますたぁは強い。ますたぁは帝都にいるハンターも、宝物殿の事も知り尽くしている。その神算鬼謀で私達が貴方を選ぶ事も見通していた。つまりますたぁは神」
ギルベルトの口から漏れた問いかけに、ティノは即答した。
「それ、答えになって無くない?」
「別にいいんじゃない? そう言うクレアはマスターの事どう思ってるの?」
「そうね……クランマスターになるべくしてなった男、かしら。ついていけば絶対に強くなれる。そこにクライの強さは関係ないわ」
ギルベルトはティノの答えに恐ろしさを覚え、クレアの答えに心惹かれた。
(まさか、メンバー募集で会ったばかりの俺に、強くなるチャンスをくれたって言うのか?)
あの日パーティを抜けてから、自分の在り方に悩んでいたギルベルトにとって、それは願っても無い好機だった。この依頼で何かが変わる――ギルベルトは自分の直感を信じた。
「……頼む、俺も連れて行ってくれ!」