千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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夜天の暗翼(ナイトハイカー)

「え? レベル5?」

 

 クライ・アンドリヒが依頼の危険度を詳しく知るのは、ティノ達が出発して数時間後……日が傾き始めた時だった。

 

「ほら、このロドルフ・ダヴーってレベル5ハンターですよ。探協でもよく見かける……」

「マスターなら知らないわけないですよね? ティノがよく言ってますよ、帝都のハンターと付近の宝物殿を全て把握してるって」

 

 クランハウス2階のラウンジ、ティノに使った『狗の鎖(ドッグズチェーン)』のマナチャージを適当なメンバーに頼むため降りてきたクライ。そこで彼は様々な話を耳にした。

 曰く――【白狼の巣】すぐそばの街道で隊商がはぐれ幻影(ファントム)に襲われた。【白狼の巣】は幻影が強い。そして、救助対象はレベル5ハンター。

 

 ――おもむろにクライは立ち上がった。

 

「悪いけど、野暮用を思い出したから行かなきゃ。チャージありがとう」

「え、ええ……役に立ったなら何よりです」

 

 クライは『狗の鎖』をベルトの定位置につけると、足早に5階クランマスター室を目指した。

 

「いや大丈夫……大丈夫? ホントに大丈夫? 不安だどうしよう誰か行かせる? 今から間に合う? 無理だ」

 

 口早に不安を吐露しながらマスター室に入り、そのまま本棚に取り付けられた仕掛けを起動する。音ひとつ無く本棚が動き、隠し階段が姿を現した。

 その奥にはクライの私室がある。クランマスター室より広いそこには、本棚、家具、ベッド、シャワールーム、金庫、そして所狭しと様々な種類の宝具が並べられていた。《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》5年間の活動の成果であり、クライが個人的に集めてきた宝具コレクションだ。クライは唸りながらぐるぐると自室を歩き回る。

 

「ティノはともかく、クレアはパーティ組んでるしちゃんとしたハンター誘うはず……でももう依頼なんていいからとっとと帰ってこないかな? 依頼なんかより命が大事だよ」

 

 不安に駆られたクライは室内の宝具を見て回り、今の状況で使えそうな物をかき集めた。指輪、剣、ボウガン、外套……そして、金庫の前で足を止める。

 

 『隔絶する壁砦(フォートスペース)』金庫型の宝具。その中には、錬金術師(アルケミスト)で幼馴染のシトリー・スマート、彼女の実験成果が詰まった金属製のカプセルがある。シトリー曰く「迂闊に開けると帝都が滅ぶ」代物だ。

 クライは生唾を飲み込み、意を決して金庫を開く。必要だと判断したからだ。そのまま『08』と書かれたカプセルに手を伸ばした。

 

 

***

 

 

「騎士団に向かって『真実の涙(トゥルーティアーズ)』を用意しろ……ですか。笑えない冗談ですね。本当に《千変万化》はそんな事を?」

「はい、間違いありません。この耳で聞きました」

 

 すっかり日も落ちた夜。帝都第3騎士団の団長室では、赤髪の女騎士アイリス・ミドガルが報告を受けていた。就任したばかりの彼女は、まだクライと対面した事が無く、知っているのはいくつかの実績と噂だけだった。

 

「それで彼が受けたという依頼の詳細は? 場所はどこです?」

「そこまでは……《探索者協会》でガーク支部長に尋ねたところ、『アイツは一番ヤバい依頼を持っていった』との事です」

 

 部下から具体性の無い情報を聞き、アイリスは思案。次の方針を明示する。

 

「……わかりました。私がガーク殿に問いましょう。明日一番に《探索者協会》に向かいます。それまでは彼に手を出さないように」

「しかし『真実の涙』はそう簡単に許可が降りません、彼もそれはわかっているはず……アイリス団長、やはり彼が犯人なのではないでしょうか? 依頼の詳細を漏らさなかったのも時間稼ぎが理由なのでは?」

 

 推察を口にした部下にアイリスは厳しい視線を向ける。

 

「まだ事件と決まったわけではありません。なぜ逮捕を急ぐのです?」

「それは……」

「短慮は慎みなさい。彼はあくまで重要参考人です」

「ハッ! 失礼しました」

 

 部下の敬礼をうけ、アイリスは報告の続きを促す。

 

「それで、もう1人の方はどうです? アレクシアとパーティを組んでいたという少年は」

「シド・カゲノーですね。取り調べても『知らない』『わからない』と喚くばかりでした。拘留しているので明日も取り調べる予定です」

「そうですか……あまり手荒な真似はしないように」

「了解しました」

 

 報告を終えた部下が退室すると、アイリスは毅然とした態度を崩した。背もたれに体重を預け、今回の事件について思案する。

 

「冗談とは言えなぜ千変万化は『真実の涙』と……騎士団が信頼できないと言っているようなものではないですか」

 

 『真実の涙』の使用には厳重な手続きが必要だ。ただ疑わしいと言うだけで使えるものではない。帝都で最も重い罪である帝都十罪レベルの事件で、ようやくなのだ。

 

「神算鬼謀と噂されるほどのハンターなら何か意図があるはず……いったい何なの?」

 

 思案を続けるアイリス。だが次第に不安が顔に現れる。妹を心配する気持ちが口に出てしまう。

 

「アレクシア……最後にちゃんと話せたのはいつでしたか……」

 

 あの日、アレクシアの剣を好きだと言ったあの日から、アイリスを見るアレクシアの視線には、嫌悪が滲んでいた。彼女が帝都に来たと知ったのも、《探協》のガーク支部長から教えられてだった。トレジャーハンターのライセンスを取ったと聞く。

 

(使用人に任せず、ちゃんと帰っていれば……いや、だとしてもアレクシアは私と話そうとしないでしょうね)

 

 アイリスが自嘲気味に笑みを浮かべた時、彼女は部屋の外が騒がしくなるのを聞いた。その音に反射的に立ち上がると、間もなく息を切らした部下が部屋に飛び込んでくる。

 

「団長! 大変です!」

「何事です?」

「《千変万化》が……《千変万化》がどこかへ飛びました!」

 

 アイリスは部下の報告を訝しんだ。

 

「飛んだ? それはどういうことです。報告は明確にしなさい」

「し、失礼しました! 足跡のクランハウスを見張っていた所、屋上から飛び立つ影が見えたのです。おそらく何かしらの宝具、宝具コレクターの《千変万化》の仕業ではないかと」

「……にわかには信じがたいですね」

 

 アイリスの目には部下が嘘を言っているようには見えなかった。だとしても突飛な報告だ。困惑を落ち着けようと、ゆっくりと腰を下ろし静かに考え込む。不明瞭な報告から唯一推測できそうな飛行手段について。

 

 ――そして彼女は、遠く故郷まで噂が届いたある事件を思い出した。

 

「飛ぶ、飛行、そのような事が出来る宝具は貴重なはず……まさか『夜天の暗翼(ナイトハイカー)』? もしそうなら彼は……命知らずですね」

 

 

***

 

 

 『夜天の暗翼』身に着けた物を飛行させる外套型の宝具だ。室内で使用したハンターが天井に激突死した「人間ロケット事件」がこの宝具の特性を物語っているだろう。この宝具は高速飛行しかできない。曰くつきの宝具ゆえ飛行能力があるにも関わらず、比較的安価でクライは入手することができた。

 

「んんんんんんんっ!!??!?」

 

 クライは今、森の上を高速で飛んでいた。空気抵抗で顔が歪む。行き先は帝都北の宝物殿【白狼の巣】だ。高度を下げ森の木々にぶつかる。しかし止まらない。岩肌の洞窟、【白狼の巣】の入り口に跳びこむ。しかし止まらない。『夜天の暗翼』にブレーキは無い。

 クライは洞窟の岩壁に何度も激突しながら奥へ奥へと進んでいく……

 

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