千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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即席パーティの挑戦

 マナ・マテリアルが生み出す宝物殿の中には、その土地に刻まれた記憶や伝説を再現する物がある。【白狼の巣】もその類の宝物殿だ。かつてその洞窟を縄張りとしていたシルバーウルフを再現し、白狼型の幻影(ファントム)が徘徊する宝物殿だった、平時は。

 

 しかし今は白狼よりもずっと強力な幻影が、血のように赤い毛並みの人狼が洞窟内を我が物顔で歩いている。鎧と武器を装備したその姿は、かつてシルバーウルフを絶滅させた人間達への意趣返しなのだろうか。

 

 ハッキリしているのは、そんな感傷がハンターとは無縁だと言う事だ。

 

「ほらほら、こっちだよ~」

 

ニーナが囮となって誘導し、

 

「うおぉぉぉっ!」

 

ギルベルトの『煉獄剣』が叩き潰す。

 

「遅い!」

 

ティノが攻撃をかいくぐり、

 

「所詮、人真似ね!」

 

クレアが剣技で圧倒する。

 

 初めはぎこちなかった即席パーティ、しかし1体、また1体と幻影を倒すたびに連携に磨きがかかる。1体1体が強力な敵を前に、いつしか連帯感が生まれ始めていた。

 

 

 

「みんな、ケガはない?」

「……すまねえ、ポーションを頼む」

「はいは~い」

 

 何度目かわからない遭遇戦の後。ニーナが背負った鞄からポーション瓶を取り出し、ギルベルトに渡した。彼女は大きな鞄を背負い、大量のポーションを持ち込んでいる。まるで錬金術師(アルケミスト)のような振る舞いをするニーナに、ギルベルトは眉をひそめた。

 

「今さらだけどアンタ……盗賊(シーフ)じゃなくて錬金術師なのか?」

「ああこれ? 作ったのは同じクランの錬金術師、私は買っただけだよ」

「え!? シトリーお姉さまの……?」

 

 驚いたのはティノだ。リィズの弟子である彼女は、当然他の《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》メンバーとも面識があった。シトリー・スマートのポーションなら並外れた物ではないのか? ティノは効果と高価を恐れた。

 そんなティノの不安な視線を、ニーナは笑い飛ばす。

 

「あはは、気にしなくてもいいよ。こういうヤバい時のためにコツコツ集めて来たんだから」

「……ますたぁからの試練に備えて?」

「そういう言い方もできるね」

 

 レベル2とは思えない身のこなしに、この用意周到な性格。クレアがニーナを信頼する理由を、ティノは少しわかった気がした。

 

 

 

 そして4人は宝物殿の最奥にある広間……通称『ボス部屋』のすぐ手前までたどり着いた。救助対象の手掛かりはまだ見つかっていない。

 

「盗賊ふたりで手がかり見つからないなら……ボス部屋の奥で遭難したのかしら」

「……冗談キツイぜ」

 

 そう言いながらギルベルトは笑みを浮かべていた。互角以上の実力者との共闘、今まで感じた事のない経験が彼の闘志を燃やしている。

 

「……行く。私達にはもう進むしか道はない」

 

 ティノが先頭、ニーナが最後尾で4人はボス部屋に侵入する。高い天井、開けた空間、今通って来た入口の他に、出口が左右にひとつずつ。だが何よりも、中央で待ち構える幻影に視線が吸い寄せられる。

 

 そこにいたのは身長4~5メートルはありそうな白銀の人狼だった。黒い鎧を纏い、その手には背丈と同じ長さの戦斧が握られている。その赤い目で侵入者を見つけると、白狼の騎士……ウルフナイトは残虐の笑みを浮かべて吠える。それだけでティノは身がすくむ思いだった

 

「ほらほら! ボーっとしないで動く動く!」

 

 ニーナの掛け声が他の3人を我に返らせた。ティノはウルフナイトに向かって走る。その手には道中で入手した赤い刃の短剣が握られていた。ティノに向かって振り下ろされるウルフナイトの戦斧。直撃を躱したティノだったが、飛び散る石礫が彼女を後退させる。

 

「うおぉぉっ!」

 

 気迫と共に粉塵を突き抜けて走るギルベルト。煉獄剣をウルフナイトの足に向かって叩きつけるが、鎧に僅かな傷をつけるだけだった。

 

「くそっ、固え!」

「鎧狙ってどうすんのよ!」

 

 クレアはウルフナイトの背後に回り込んだ。彼女の剣は白銀の毛皮を切り裂き、脚の付け根に僅かな傷を刻む。するとウルフナイトの顔が苛立ちで歪んだ。戦斧から左手を離し、クレアに向けて振るう。しかしギルベルトがその腕を煉獄剣で受け止めた。

 

 ティノとクレアが囮と攻撃を交代しながら行い、ギルベルトがそのサポート。ニーナはポーション瓶を片手に、戦いを見守っていた。戦いは続き、少しずつ傷を増やすウルフナイト。しかし戦斧の一撃はハンターを一撃で潰しかねない威力がある。ハンター達の優勢は薄氷の上の優勢だった。

 

 しびれを切らしたウルフナイトは咆哮。周囲の空気を震わせる叫びと共に、戦斧をティノに向かって振り下ろした。直撃は避けたティノだが、それまでと違う全力の一撃は激しい衝撃を生む。爆発的な衝撃が小柄な彼女を吹き飛ばす。

 

「きゃっ……!?」

「ティノ!?」

「ボクが行く!」

 

 ニーナの行動は速かった。手ごろな石をホワイトウルフに投擲し、ティノに向かって走る。ニーナの放った石は寸分違わずホワイトウルフの目を襲った。反射的に目を瞑るホワイトウルフ。再び開いた眼に映ったのは、戦斧を踏み台に跳ぶクレアの姿だった。

 

「ルークみたいに……!」

 

 クレアは剣を握る手に力を込めた。幼馴染にして目標、《嘆きの亡霊》の剣士(ソードマン)《千剣》ルーク・サイコルの言葉を胸に。

 

『どうやってって……斬れるようになるまで振ったんだよ。マナ・マテリアルってのは、いい感じにやってくれるみたいだぜ?』

 

 木剣で敵を斬る方法を尋ねて返ってきた、全く具体性のない答え。だがクレアはそのアドバイスに愚直に従ってきた。彼と同じ境地に至るために。

 未だ木剣で幻影を斬る事は出来ないが……クレアの剣に対し、ウルフナイトは恐怖で顔を歪ませた。その顔に向かってクレアは、ためらいなく剣を振り下ろす。

 

「はぁぁっ!」

 

 クレア気迫の一撃が、ウルフナイトの頭部を両断した。着地し残心するクレアの後ろで、膝をついたウルフナイトの体が霧散し、マナ・マテリアルへと還っていく。地面に突き刺さる戦斧も跡形もなく消えて行った。

 

「すげえなクレア! まさかその剣は宝具なのか?」

「ちょっと高いだけで普通の剣よ。真の剣士は武器を選ばないって、ルークが言って……いやクライがそうルークに言ったらしいの」

「ルークって……あの《千剣》か!?」

 

 和気藹々と話すクレアとギルベルト。勝利を称える2人を、ティノもニーナに支えられながら眺めていた。

 

「さすがクレア、なんて褒めませんよ。あれくらい私だってやれました」

「そうだねー……」

 

 しかしニーナだけはまだ気を抜いていなかった。彼女はボス部屋を注意深く観察している。その様子にティノが気づいた。

 

「どうしたんですニーナさん?」

「いや、ロドルフはどこで遭難してるのかなって。レベル5なら……救助の目印ちゃんと残すと思うんだけど」

 

 ハッと息を呑むティノ、そうだ目的は救助だ。今のボスにやられて救助を待っているとしたら――そこまで考えてティノは違和感を抱く。

 

「ニーナさん……今の幻影、レベル5ハンターが負けるような相手に見えましたか?」

「レベル2のボクにそれ聞く?」

 

 ニーナは冗談めかした言い方をしたが、目は笑っていなかった。

 ハンターのレベルは《探索者協会》の各支部による認定制で、実力とイコールではない。しかし支部の所属人数が多ければ多いほどレベル審査は厳しくなる。そして帝都はトレジャーハンターの聖地だ。レベル4と5には大きな差があるはずだ。

 ティノのハンターとしての勘が警鐘を鳴らす。考えるより早く口が動いていた。

 

「ここから離れましょう早く!」

 

 走り出そうとするティノ。その眼前を巨大な矢が通り過ぎた。鈍い音を立てて黒い矢は岩壁に突き刺さる。矢が飛んできたのは……ティノ達が入ってきた入り口からだった。今倒したはずのウルフナイトが、弓を持ってボス部屋の中に入って来る。

 

「ウソだろ……何でもう一体いるんだ」

「どうやらボスじゃなかったみたいだね」

 

 だが入ってきたのは1体だけではなかった。大剣を持った人狼が、棍棒を持った人狼が、そして『高度物理文明』の重火器を持った人狼が続けて姿を現す。4体のウルフナイトがハンター達を取り囲もうとしていた。

 

「これは……無理です、ますたぁ」

「上等よ。シドのためにも、こんなところで死んでたまるもんですか」

 

 即席パーティは決死の覚悟で、絶望的な戦いに挑む。

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