千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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とっておきの切り札

 【白狼の巣】のボス部屋で、4人のハンターからなる即席パーティの死闘は続く。

 

 現れた幻影(ファントム)、4体のウルフナイトの内、遠距離武器を持っている2体は壁際でハンター達を見ていた。奴らは冷静に戦いを観察しているようで、同士討ちは期待できない。

 

 ティノとニーナが大剣のウルフナイトの注意を引き、クレアとギルベルトが右出口を塞ぐ棍棒のウルフナイトに立ち向かっていた。

 

「ゴメン、今の状況で使えそうなの持って来てないや」

「なら私が行きます、援護してください!」

 

 ウルフナイトはティノを標的に大剣を軽々と振るい、ティノはそれを何とか躱し続ける。ニーナはベルトのポーション瓶に触れながら、それを投げる事が出来ずにいた。下手に投げれば、仲間や自分を巻き込みかねないからだ。

 

「うぐっ……!? こんなの、何度も受けられねえぞ」

 

 一方、『煉獄剣』で棍棒を受け、弾き飛ばされたギルベルトの顔が焦りで歪む。ウルフナイトの棍棒は戦斧よりもずっと重く、威力も段違いだった。

 

 ティノは考える、4人が生きて脱出する道を。

 

(どうにか逃げ道を作らないと、それなら戦力は集中させなきゃ)

「ニーナさん、こっちは大丈夫だからクレアの方を!」

「りょーかーい! 目くらましに、エクスプロージョン投げちゃうよ!」

「えっ!?」

 

 ティノの指示を受けて、ニーナはポーション瓶を大きく振りかぶった。狙うは壁際のウルフナイト、重火器を持った方に向かって投げつける。

 迫るポーション瓶をウルフナイトは訝しんだ。反射的に重火器を乱射、瓶を撃ち落とす。瞬間、爆発。エクスプロージョンポーションが閃光と黒煙を生み出し、ウルフナイトの視界を塞いだ。天井が広いボス部屋の中央でなければ、崩落が起きていただろう。

 

 皆が驚く中、途切れた射線の中をニーナは突っ切って走る。次にティノとクレアが動いた。

 

「そこっ……!」

 

 ティノは大剣を持ったウルフナイトの足元に跳びこみ、鎧の隙間に赤刃の短剣を突き立て捻った。並の生物ならまともに歩けなくなる傷だ。たたらを踏みウルフナイトはうずくまる。

 

「こっちよ幻影!」

 

 クレアは注意を引くため正面から切りかかった。ウルフナイトの鎧に傷が走る。それで我に返ったウルフナイトが、棍棒を薙ぎ払って反撃。クレアは何とか回避するが……

 

「うわっあっ……!?」

 

 ギルベルトがバランスを崩した。ウルフナイトが嗤う。たたらを踏むギルベルトに狙いを定め、棍棒を振りおろす。

 

「ぐっ!? うぅぅぅぅっ!!」

 

 『煉獄剣』を盾に致命の一撃を何とか受け止めたギルベルト。だが衝撃で足が地面にめり込む。このまま押しつぶされるのは時間の問題だ。

 

(負けられるか……! 俺は、仲間のために!)

 

 ギルベルトの気迫に応えるように、『煉獄剣』の刃から僅かな火が溢れた。それは完全発動には程遠く、しかしギルベルトにとっては過去一番の発動だった。

 

「ちょっと! こっち見なさいよ!」

 

 ギルベルトを助けようと、注意を引こうとするクレア。だがウルフナイトは気にも留めない。

 

「まいったね、壁際じゃエクプロは使えないし……」

 

 ベルトのポーション瓶に触れながら逡巡するニーナ。

 

「ニーナさん、隙を作って!」

 

 ティノは走った。射線が通っているにも関わらず走る。なりふり構わない全力疾走。銃弾の嵐に襲われながら走る。その姿にはニーナならできるという信頼があった。

 

「オッケー……任せて!」

 

 ティノの声に応え、ニーナはまず棍棒のウルフナイトに石を投げた。ウルフナイトの視線が一瞬だけニーナに向けられる。するとニーナは笑いながら、わざとらしくポーション瓶を見せつけた。そして投げる。ウルフナイトの注意が、ギルベルトから空中のポーション瓶に移った。先のエクスプロージョンポーションを見て警戒したのだろう。

 咄嗟にウルフナイトは左手で顔を守った。しかし瓶の中身は空、割れただけで何も起こらない。騙された怒りで顔を歪ませ、ウルフナイトは手をどける。それをティノは待っていた。

 

「ますたぁの『弾指(ショットリング)』、ますたぁから教わった使い方。全部、今この瞬間のため」

 

 ウルフナイトの正面、ティノは指鉄砲の形にした右手を標的の顔に向けた。人差し指にはまった宝具『弾指』を起動する。それは先日のメンバー募集でクライが投げた宝具。多くのハンターを蹴散らし手に入れた宝具。そしてティノは知る由もないが……陰の実力者が戯れに拾い、練り上げた魔力(マナ)をチャージした宝具。

 

 放たれた魔力弾はとても小さい物だった。小さく、凝縮された魔力が、ウルフナイトの目に穴を穿つ。棍棒を取り落とし、片目を押さえて叫ぶウルフナイト。その光景に他のウルフナイトは驚愕し、そしてティノもその威力に驚いていた。

 

(『弾指』にこんな威力はないはず……魔力弾の質が違う。まさかこれは、私のためにますたぁが見つけた特別な弾指!?)

 

「みんな! 今のうちに逃げるよ!」

「走るわよギルベルト!」

「お、おう!」

 

 隙をついて離れていたクレアとギルベルトが、ニーナの号令で走り出す。ティノも我に返り駆け出そうとするが……足に痛みが走る。ロングブーツに石礫が突き刺さり、血がにじんでいた。

 

「くっ……さっきの銃撃で……!?」

「どうしたんだよティノ!? 早く走れ!」

「バカ、ティノはケガしてんのよ!」

 

 ティノの元に駆け寄るか、見捨てて逃げるか……通路の入り口でギルベルトとクレアは脚を止めてしまう。見かねたニーナが我先にと跳び出した。

 

「2人はティノをお願い、ボクが時間を稼ぐ!」

「ニーナ!? でも……」

「大丈夫! ボクが逃げるの得意だって、クレアは知ってるでしょ?」

 

 体勢を立て直しつつあるウルフナイトは、みな怒りの形相を浮かべていた。それを真正面からニーナは受け止める。しかしニーナの顔には絶対の自信があった。

 

「久々に本気を出しちゃおうかな」

 

 ニーナは左手にポイズンポーションを、そして右手に「何か」を構えようとする。しかしその時、色付きの風がボス部屋の中を通り抜けた。入り口から猛スピードで謎の黒い影が突っ込んできたのだ。

 その黒い影は、立ち上がろうとしていた大剣のウルフナイトの背中に直撃し、またしても転倒させた。粉塵舞う中、その影はゆらりと立ち上がる。

 

「いてて……ここどこ? ティノ達は?」

 

 その場にいる全員がその男を見ていた。黒い外套を纏った、ぼんやりした顔の男を。その顔を見たティノは、思わず叫んでいた。

 

「ま……ますたぁ!!」

「ん? ティノとクレア見っけ」

 

 即席パーティの面々に向かって、クライ・アンドリヒはハードボイルドな笑みを見せた。

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